D×D magico 作:鎌鼬
一誠がドーナシークと対峙しているのと同時刻、教会を挟んだ先にある造林地にて一つの戦いが行われていた。
袖の無い和服を着た堕天使カラワーナ。造林地の陰で見えづらいという事を踏まえてなお彼女の存在は儚かった。目の前に立っているのに認識できない程の希薄さ、その立ち振る舞いは陰としか言えない。ダラリと両腕を下げた構えとも見えない構えがそれを増長させている。
その陰をしかと捉えて斬りかかるのは軍服を身に纏った甘粕。手にしている軍刀をカラワーナに振るう。その軌道上には木々が立っているが甘粕にはそんな物は関係無い、木々を斬り払いながらカラワーナを斬る。
そして軍刀がカラワーナの首に届く。だが軍刀には何の感触も伝わって来ない。結果からすればカラワーナは甘粕の斬撃を避けた。だが甘粕も馬鹿ではあるが愚かでは無い、カラワーナが避ける事を考えながら斬っているのだ。それでも避けられた。戦いの場を狭いという理由から造林地に移してからこのやり取りはもう十度は行っている。
「ーーー成る程、足か」
それだけ繰り返せば候補は絞られ、答えは出てくる。甘粕はカラワーナの下半身ーーー正確には袖の長い袴で隠された足元を見た。袖の長い服というのは武術においてメリットが大きい。例えば袖の長い上着を着ていれば手元が隠れて暗器の使用が容易になる。例えば袖の長い袴を着ていれば足を隠せて下半身の挙動を隠せる。カラワーナの場合は後者だった。
「当たりよ」
呟きにしか聞こえない返事をしながらカラワーナは動いた。袴で挙動を隠しながら踏み込みと同時に下突きを放つ。その突き自体はかわせこそしたが甘粕の代わりに突きに当たった木が粉砕されて折れる。好機と甘粕は斬りかかる物の、突きを放ったのとは逆の拳が顔面に迫っているのを見て咄嗟に拳へと目標を変更させる。
軍刀と拳、普通なら前者が勝つであろうぶつかり合いはーーー甘粕が吹き飛ばされる結果となった。軍刀は拳が当たった部分から折れており、カラワーナの拳は薄皮一枚の傷が付いている程度で済んでいた。
「内気功……なるほど、堕天使といえど人間の技術を学んでいるという訳だな?」
「……使える物を使って悪い?」
「良いや、悪く無いさ。それがお前が強くなろうとして選んだのなら賛辞こそ送るが罵倒する権利など俺には無い」
カラワーナが強くなろうとして人間の格闘技に手を出した、それを甘粕は悪い事だとは考えていない。寧ろ褒め称えて然るべきだと思っている。どんな目標があろうとも努力し、見事に成果を出している。そんな素晴らしいことを侮辱するなどあり得ないと。
それを聞いてカラワーナは僅かに目を見開き、そして頬を緩めた。
「……変な人」
「よく言われる」
そう返しながら甘粕は折れた軍刀を投げ捨てーーー虚空に現れた新たな軍刀を握っていた。それを見てカラワーナは内心で驚く。魔力を使ったようには見えなかった。なら神器かと考えるがそれは無いと否定する。何故なら、
「それは……」
「俺自身の異能だと思ってくれれば良い。だが俺からすれば不満しかない物だがな。何せ全盛期に比べれば弱々しすぎる」
甘粕はそう言って肩を竦めた。これは甘粕が魔王としてあった頃から使っていた甘粕自身の異能、この世界に転生してから使えなかったのだが悪魔に転生してから何故か再び使えるようになっていたのだ。甘粕はこれのことを『意思の力』と呼んでいたがネーミングセンスが無いとソーナに言われて形を成すという意味で『形成』と改名した。
だが甘粕からすれば不満でしか無い。全盛期だったら標的に向かって追尾する透過機能つきの砲台を持つ戦艦や原爆水爆衛星兵器などを当たり前のように作れていたのだが今では軍刀を作るのがやっと。それでも戦える手段を得られたと考えれば文句は言えないのだが。
兎に角、甘粕が形成を使える限り武器が無くなるという事態にはならない。甘粕の心が折れれば作れなくなるだろうがそんな事は天地がひっくり返ってもあり得ない。
「いくぞーーー」
甘粕が斬りかかる。甘粕が転生した時に与えられた
当然の事だがそんなことをされれば迎撃される。事実カラワーナも迫る甘粕に対して殴打を連続で繰り出した。
唸りを上げながら迫るカラワーナの拳を甘粕は軍刀で斬り払う。逸らすことは出来た、がその代償として軍刀は砕け散る。全盛期の甘粕だったらこの程度では砕け散ぬ軍刀を作れていたであろうが今の甘粕ではこれが限界だーーーだが、新たに軍刀を作り出して臆する事なくカラワーナに迫る。
そこから先は繰り返しだ。攻撃する間を与えぬと殴打の嵐を繰り出すカラワーナとその拳を斬り払いながら新たな軍刀を作り出して前進する甘粕。千日手の未来しか見えないのだが徐々にカラワーナの顔に焦りの色が浮かぶ。
「(剣がーーー硬くーーー)」
拳を斬り払って砕ける軍刀、だが砕くごとに軍刀の硬度が増していくのを感じ取った。戦闘が始まった時点での甘粕の軍刀の最高硬度はあれが限界だった。そして限界を知り、妥協するなど甘粕が許すはずが無い。限界まで高めた硬度の軍刀ではカラワーナの拳に負けてしまうーーー
普通なら何を馬鹿な事をと言われるのが関の山だろうが甘粕はそれをやってのける。限界とは己で定め、そして超える物だと甘粕は人に説いている。甘粕が、自分で出来ないことを人に押し付けるはずが無い。俺が出来たのだからお前もきっと出来るはずだと背中を押すのだから。
徐々に軍刀の硬度が増していく。一打で砕けたはずの軍刀が二打で砕け、二打で砕けたはずの軍刀が三打で砕け、三打で砕けたはずの軍刀が四打で砕ける。予想を遥かに超える速度で成長するのを見て動揺しないはずが無い。
そしてカラワーナの拳が弾かれる。薄皮一枚を斬る程度なのは変わらないが、十打を受けて弾いてなお軍刀はその姿を保っていて。
「オォォォォォーーー」
成長する甘粕の姿に得体の知れない何かを感じ取ったカラワーナは後退を決意する。カラワーナの動きの謎はにじりと呼ばれる技術。足の指で前進したり後退をするという技術。にじりを使って足の指で地面を弾き、後ろに進みーーー足元にあった物に躓いて体制を崩した。
「なっーーー」
視界に入ったのは地面に倒れていた木、それは甘粕が斬り倒した物だった。偶然なのか狙っていたのかは分からない。だがこの一瞬がカラワーナの隙となり、甘粕の好機と成るのは明白だった。
横薙ぎの一閃が迫る。ここから体制を立て直して受ける事や回避するのは不可能。故に、カラワーナはさらに体制を崩した。後ろに仰け反るような姿勢になる事で一閃を回避、そして通り過ぎた瞬間に甘粕の頭部目掛けて蹴りを放った。
甘粕の頭部はガラ空き、さらに振り切った体制になっている為に回避もガードも不可能。奇しくも先程の焼き直しの様な光景になる。それに対してカラワーナは体制を崩すことで回避を成功させたがーーー甘粕は自分から、
ぶつかる甘粕の頭とカラワーナの足。嫌な音が造林地に響く。その結果ーーーカラワーナは顔を顰めながら飛びのいて甘粕から距離をとった。
「なんて人なの……
顔を顰めて足を引きずるカラワーナとは対照的に甘粕は額から血を流しながら笑っていた。甘粕がしたのは玉砕覚悟の迎撃。避けられないと悟るや否や自分から突っ込む事でダメージを軽減させてカラワーナの足を頭突きで砕いたのだ。当然甘粕も無傷では無い、頭蓋骨にヒビが入ったであろう痛みを感じる。だが、カラワーナの足を奪う事が出来た。
「どうした?まだ足が砕けた程度なのだろう?折れてくれるなよカラワーナ!!まだ戦えるのだろう!?なら、手足をもがれようとも戦おうでは無いか!!」
甘粕の言葉は狂っている様にしか聞こえない。足が砕ければ普通なら諦めるしか無いだろうが甘粕は
「ーーー当然よ」
そしてカラワーナもそれに是と返した。足が砕けた程度で諦めるわけにはいかなかった。ここで諦めたらレイナーレが妹の様に思っているミットルテがどうなるか分からないから、折れるわけにはいかないのだ。
故にーーー
「ーーー我ら役者は、影法師」
ーーー使うつもりの無かった切り札を使うことを決めた。
甘粕VSカラワーナ
一誠とは違い、対人外との戦闘経験を積んだ甘粕はある程度カラワーナに着いていけてます。まぁカラワーナが本気じゃないってのもあるけど。
そして登場、私の作品の甘粕のバグスキル『意思の力』。意思の力で物理法則すら捩じ曲げるというぶっ飛びスキルを取り戻しました!!弱体化しているけどなぁ!!現段階では軍刀を作るのが関の山です。戦闘に急成長してますけど。
あとソーナからの指示でネーミングセンスが無いという理由で改名を命令、『形成』になりました。言っておきますが
そしてカラワーナはまだ切り札を持っていた様ですが……