D×D magico 作:鎌鼬
誠二からの電話があったものの何が起きているのか理解しきれなかった一誠と甘粕は誠二の気配を探して合流し、何が起きたのかを聞き出した。
誠二はアーシアと出会った後にゲームセンターに行ったりハンバーガーショップに行ったりと普通の学生の様な事をしていた。なんでもアーシアはこれまでは教会に聖女として祭り上げられていて、俗世とは隔離された状態で過ごしていたのでこういう事に憧れていたからだそうだ。
そして一頻り楽しんだ後で、二人は公園に戻った。そこでーーードーナシークと天野夕麻に出会った。彼らはアーシアを連れ戻そうとやって来たらしく、ドーナシークが誠二を片手で無力化させ、天野夕麻が手を翳しただけでアーシアを気絶させた。そして天野夕麻がアーシアを連れて飛び立った時に、ドーナシークが地面に倒れている誠二に向けて告げた。
『ーーー今夜、我らはアーシア・アルジェントから神器を抜き出す儀式を行う。神器を抜き出された人間は死ぬ、アーシア・アルジェントも例外無くな。助けたければ廃墟となった教会に来い』
そう言ってドーナシークも去って行った。そしてどうにか身体を動かせる様になった誠二は自分だけではどうする事も出来ないと判断して泣きながら一誠に電話をしたのだった。
誠二はアーシアの事を助けに行くと決めた。出逢ってから間も無いとはいえ、誠二はアーシアの事を友達だと思っている。友達を見捨てるという選択肢なんて彼の中には無かったのだ。
一誠はそれを聞いてどうするかを決めていたがリアスの指示を仰ぐ事にした。信用も信頼もしていないとは言えどリアスはこの町の管理者の地位にあり、二人の上司にあたる。故に、このような事態に関してどの様な采配を取るのかを知りたかったからだ。
そして、リアスの答えとはーーー
「ダメよ、そのシスターを助けに行くことは許さないわ」
否定だった。誠二が叫ぶ様に懇願してもリアスは手元にある資料に目を落としているだけで誠二の方に目を向けない。
これは一誠からすれば予想通りの反応だった。三大勢力の関係から鑑みればわざわざ敵であるシスターを助ける理由は無い。堕天使が領地に侵入されているものの、表立った被害はまったく報告されていない。下手に手を出して戦争を再開させる理由を与えない為に見逃しているのだろう。
「ーーー部長!!」
「話はここまでよ。朱乃、リリィ、着いてきなさい。少し出掛けるわ」
これ以上話す事は無いとリアスは姫島とリリィを連れて部室から出て行った。残ったのは一誠と誠二、それに木場と塔城だけ。甘粕は誠二の話を聞いた後でソーナに報告してくると別れたっきりである。
「ーーーよし、行くか」
「えっ!?」
一誠の言葉に誠二は驚く。先程リアスからアーシアを助けに行く事を禁じられたというのに嬉々として布都御魂の手入れをしている一誠がいたから。
「何驚いてるんだ?どうせお前も行くつもりだったんだろ?」
「いや、そうだけど……良いのかよ?部長はダメって言ってたのに」
断られても誠二はアーシアの事を助けに行くつもりだった。そして一誠は誠二に着いて行くつもりだった。理由としては二つ、一つは弱いと自覚していながらもアーシアを助けたいと思っている誠二の手助けをするため。もう一つはーーー
「ドーナシークが教会にいるって言ったんだろ?だったら俺も行く、あの時の借りを返してやらないとなぁ……」
ドーナシークとの再戦。確かに初戦では何も出来ずに圧倒的な実力差で負けてしまった。だが生きている、故に戦いを挑み今度こそ勝つと一誠は誓ったのだ。
「それにさー堕天使風情に暴れられたら我らの主であるリアス様の顔に泥を塗る事になるじゃないかーだったら下僕たる俺たちが排除してやらないとー」
「棒読み過ぎる……!!」
棒読みで語られたのは建前としての理由だろう。そもそもこの町がリアスの管理している土地であるという事は三大勢力に知れ渡っているはずだ。それなのに堕天使が侵入したということは侵入した時点で殺されても文句は言えないはずである。本来ならそんな単純な話では無くてもっと複雑な話になるのだろうが子供の言い訳で押し切ろうとしている一誠に誠二は戦慄していた。
「何してるのさ二人とも、早く準備して」
「そうですよ、今からカチコミ行くんですよね?」
そして当たり前の様に教会に向かう準備をしている木場と塔城の姿を見て一誠と誠二は目を丸くした。二人の行動は正直言って反逆していると捉えられかねない、だというのに彼らはさも当たり前といった様子でついて行こうとしているのだから。
「えっと……木場さん?小猫さん?」
「あ〜……俺らが言うのはおかしいかも知れないけど良いのか?これ命令無視だぞ?最悪はぐれ認定さかねん」
「あぁご心配無く。僕が悪魔になったのは成り行き上仕方無くですし、目的が果たせそうだったから部長の眷属になったってだけですから。これも嫌がらせの意味合い含めてますし」
「私も木場先輩と同じです」
「部長ぇ……」
さらりととんでもないことを笑顔で告げる木場と塔城。部下からの忠誠心が無さすぎるリアスに思わず誠二は同情してしまう。
時刻は遡り、夕刻の教会。管理する者が居なくなって朽ちかけている教会の礼拝堂に備え付けられているベンチに腰掛けいるのは天野夕麻ーーーレイナーレだった。
礼拝堂にいるものの信仰など持ち合わせておらず、神に祈ろうと思ってここにいるわけでは無い。ここにいるのは、呼び出されたからだ。
「ーーーレイナーレ」
「ッ!!……お待ちしていました、ヘスティーナ様」
三対六羽の翼を見せつける様に現れた上級堕天使のヘスティーナの登場に顔を顰めるものの、すぐにレイナーレは頭を下げた。極力顔には出さない様に勤めているがそれでも隠しきることは出来ない。何故なら、目の前にいるこのヘスティーナこそが、この茶番劇の元凶だから。
「アーシア・アルジェントはどうしたのかしら?」
「眠らせています。そして儀式の準備は滞り無く、予定通りに今日の深夜に行える手筈になっています」
「そう……うふふふ」
レイナーレからの報告を聞いて嬉しいのか微笑むヘスティーナ。その笑みは性別問わずに魅了する程に美しいものだがレイナーレからすれば吐き気を催す以外の何でも無かった。
「……なによ、その目は」
レイナーレの目が気に入らなかったのか、ヘスティーナは微笑む事を止めてレイナーレに近づく。そして髪を掴みーーー近くにあった長椅子の背もたれに叩きつけた。レイナーレの額が切れて顔が血で汚れる。だがヘスティーナは叩きつける手を止めない。
「ッ……!!」
「あら怖い怖い、そんな目で睨んじゃって……ミッテルトがどうなっても良いのかしら?」
「ミッテルトには手を出さないで!!」
ヘスティーナにレイナーレは従っているがそれは彼女の意思では無い。ミッテルトという人質を取られているからだ。妹の様に可愛がっていたミッテルトを助けないという選択肢はレイナーレの中には存在しないーーー例え、どんな辱めを受けたとしても。
「あら、だったらどうしたら良いのか……分かるわよねぇ?」
レイナーレの神から手を離し、ヘスティーナは壊れていない長椅子の背もたれに腰を下ろして徐ろに足を差し出した。レイナーレは屈辱にまみれた表情になりながら四つん這いでヘスティーナの元まで向かいーーーヘスティーナの足を舐めた。
「ふふふっ……あっはっはっは!!!!」
ーーーふふふっ……あっはっはっは!!!!
「…耳障りな音を出してくれる」
「静かに……あれに聞こえるから」
教会の二階の物陰に隠れてヘスティーナとレイナーレのやりとりを見ていたのはドーナシークとカラワーナ。ドーナシークはヘスティーナの行いに悪態を付き、カラワーナがそれがヘスティーナに聞こえる事を危惧している。
彼らもレイナーレと同様に、ミッテルトを人質に取られて嫌々ながら従っているのだ。二人の実力からすればヘスティーナなど殺すのは容易い、だがミッテルトの場所が分からない以上従うしか無いのだ。
「それにしても……奴は一体何を企んでいる?」
ヘスティーナの指示は正直言って訳が分からない。神器を持っている少年を殺せと言うのは分からないでも無いが、その兄と同じ学校に通っている生徒を殺せと言う指示は理解不能だった。片方は弱いながらにも神器を宿していた様だが片方は完全にただの人間だった。殺す理由など無いはずなのに。
「ーーーうっわぁ……またやってるよ……フリードキュンドン引きですわ……」
「帰ったか」
音も気配も無く始めからそこにいたかのように現れたのはフリード。レイナーレに足を舐めさせているヘスティーナを見てドン引きしている。
「首尾は?」
「ご心配無く、キチンとやらしてもらいましたわん。これでボスが動くはずだぜ」
フリードの手の中には携帯電話があり、青髪で毛先が黒い男性の写真が待受画面になっている。
ヘスティーナはミッテルトを人質に取っただけではレイナーレたちを完全には縛れないと踏んだのか監視を付けている。どうにかその隙を着いて助けになってくれそうな人物に連絡をすることに成功したのだ。
だが出来たのはメール一通のみ、内容は『助けて』としか書けなかったが、現状ではこれに賭けるしか無い。
レイナーレに足を舐めさせて気分が良いヘスティーナは、迫っている破滅の足音に気づかなかった。
〜アーシア救出隊
純粋に助けたいのは誠二一人だけ。一誠はドーナシークの打倒、木場と小猫はリアスへの嫌がらせという不純すぎる動機にまみれている。だとしても助けになってくれるのはありがたいのだが。
〜木場と小猫
悪魔になった経緯に関しては原作通り、だが眷属になった理由に関してはある目的があったから眷属になっただけ。リアスに対する忠誠心はほとんど無い。
〜ヘスティーナ
上級堕天使で今回の黒幕。ミッテルトを人質にとってレイナーレ、ドーナシーク、カラワーナ、フリードを操っている。
〜メールの真相
なんとか出来た救援。助けての一言だけだったのはそう書く程しか隙がなかったから。だけどキチンと届いている。