D×D magico   作:鎌鼬

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フリード・セルゼン

 

 

「“牙”、ねぇ……」

 

 

はぐれ悪魔の討伐から時間が経って翌日の夜、一誠は歩きながら昨日であった“牙”という部隊を名乗った鬼面の事を思い返していた。一目見ただけで分かる、あれは自分とは違うベクトルの強者だと。一般的な強者が戦う者として強いのに対し、あれは殺す者として強い強者。過程などに一切目もくれず、殺したという結果だけを追い求める求道者。

 

 

「ドーナシークとどっちが強いのやら……」

 

 

比較対象となるのはドーナシーク。彼はまごう事なく戦う者としての強者。どちらが優れているのかなど鉛筆と消しゴムを比べる程に意味が無い。用途が違うと言うのに比べるなど意味が無い事だから。それでも比べてしまうのは一誠の戦う者としての性だろう。一誠もまた求道者なのだ。

 

 

本能的に強者を求める。それは一誠の意思では止められない。生きる為に呼吸をして、食事をして、睡眠と取るように当たり前の事として刻み込まれているから。今の自分では勝てないと分かっていながらも戦ってみたいと望むのだった。

 

 

「兄貴ィ!!ストップ!!スタァァァァァップ!!!!止まって!!追いつけないから止まって!!」

 

「ああん?だらしねぇな」

 

 

後ろで全速で走っている誠二に叫ばれて一誠は足を止めた。実は歩いていると言っていたが縮地と呼ばれる足法を使っていたので誠二の全速力よりも速く進んでいたのだった。本来なら縮地は仙術の一種で距離に限度の無い瞬間移動の類らしいのだが一誠の習得している縮地はただ距離を詰めるだけの足法で詰められる距離も数十メートル程度、それを訓練として連続して使っていたので誠二との距離が開いたのだった。

 

 

二人がこうして夜の街を歩いている理由は悪魔の仕事をこなす為。とは言っても昨日のようなはぐれ悪魔退治では無く、一般的とされている依頼人の願いを叶えるというもの。本当なら魔法陣で呼び出している依頼人の元に向かうのだが一誠と誠二の魔力が少なすぎて魔法陣が反応しなかったのでこうして歩いて向かっているのだった。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…兄貴速スギィ!!なんだよあれ!!なんか兄貴が瞬間移動してるみたいにどんどん離れてくし怖かったわ!!」

 

「縮地だよ、良かったら教えてやろうか?出来るかどうかは誠二次第だけど」

 

「是非ともお願いします……!!」

 

 

出来るかどうか誠二の才能次第だとは言え縮地を教えておいて損は無いと考える。一誠はこうして移動用か、敵との距離を詰める時に使うのだが撤退する時にも使う事が出来る。神器に目覚めたとは言え一般人だった誠二に教える事で生存率を高めようという狙いがあった。

 

 

そして数分歩いた先にあったのは古めかしい豪邸とも言える住居。駒王町の町境にあるこの建物は昔住人が自殺したという曰く付きで、誰も近寄らない建物だったが一昨年辺りから人が出入りしていると噂されてる。噂の真偽は分からないがここに呼び出されたことは間違いない。

 

 

錆び付いた門を押して入るーーー敷地内に一歩踏み込んだ瞬間に、一誠の鼻に鉄の匂いが届いた。誠二も匂いに気付いたのか顔を強張らせている。

 

 

「誠二」

 

「おう」

 

 

一誠は布都御魂を、誠二は龍の手を展開する。この場所で何が行われているのかは分からないが普通の場では無いと感じ取ったからだ。

 

 

豪邸に近づくにつれて強くなっていく鉄の匂い、それは豪邸のドアを開けて中に入った瞬間に最高潮になった。強過ぎる鉄の匂いーーー血の匂いに誠二は顔を青くして吐き出した。こういった事に耐性のある一誠は吐き続けている誠二の背中をさすりながら周囲を警戒していた。そして、豪邸の何処かから水の音が聞こえているのに気がつく。音の具合からその音はシャワーの音だと分かった。

 

 

「……誠二、誰かがいる。そいつにここで何が起きたか聞くぞ」

 

「……俺としては帰りたいんだけど」

 

「流石に見て見ぬふりは出来ないだろ、それに何としても契約を取って来いとかグレモリーに言われてるし」

 

「ちくしょお……」

 

 

悪態をついていたものの、誠二は何とか立ち上がる事ができた。一誠が先頭に立ってゆっくりとシャワーの音がする方へと進んでいく。1分が数十分にも感じられる程の緊張感の中、ようやく二人はシャワーの音がする部屋ーーー浴室に辿り着いた。

 

 

適当なハンドサインで静かにして待っている様に指示すると誠二は頷いた。そして浴室のドアにゆっくりと手を伸ばしーーードアノブを握る直前で、ドアから光が生えてきた。

 

 

「っ!?」

 

「うぉう!?」

 

 

一誠は飛び退き、誠二は尻餅をつく。幸いな事にドアの前に立たなかったから光に当たることは無かったが光の高さから予測出来る狙いは胸部、つまり殺すつもりでやったのだと分かった。

 

 

「ふぃぃ……一仕事終わってリフレッシュしてるところを覗こうだなんていけない子達ですね〜」

 

 

ドアを蹴破りながら現れたのは黒い神父服を着た中性的な顔付きの白髪の若者。全身がずぶ濡れで鬱陶しそうに髪を掻き上げながら空いた手で刀身が光で出来た剣を持っている。

 

 

誠二は怯えていたが一誠は布都御魂を握り直して白髪の若者と対峙する。見た目は自分とほとんど変わり無いが全身に染みついている血の匂いを嗅ぎ取って警戒を引き上げる。そして何よりーーー光で出来た武器は一誠にある人物を思い出させた。

 

 

「ーーー俺たちはリアス・グレモリーの眷属だ。幾つか聞きたい事がある」

 

「リアス・グレモリー?……あぁ、ここの管理者の?オッケーオッケー、答えれるならボクチン何でも答えちゃうよ〜」

 

「一つ、血の匂いが強いがお前がやったのか?」

 

「YESYESYES!!ここにいた人間はボクチンことフリード・セルゼン様がバラバラにしてやりましたとも!!」

 

 

ニタニタと苛つかせる様な笑みを浮かべながら白髪の若者ーーーフリードは肯定してみせた。

 

 

「二つ、その光の武器……ドーナシークたち堕天使と何か繋がりがあるのか?」

 

 

一誠にとって本命とも言える質問はこちらだ。正直なところ、ここの人間が死んだところで影響さえなければ一誠は気にしない。流石に目の前で起きたともなれば関与はするが。

 

 

光で出来た武器を見せられて思いつくのはドーナシークが使っていたあの大剣や公園で襲ってきた堕天使の光の槍。そしてフリードも光の剣を持っている、無関係だとは思えなかった。

 

 

「ドーナシーク……リアス・グレモリーの眷属……あぁ、もしかしてお宅ら兵藤一誠と兵藤誠二?いんやはんや!!まさか君たちと出会うことになるだなんて運命感じちゃうな〜でもゴメンね!!ボクチンには運命の人がもう居るから!!」

 

「……質問に答えろよ」

 

 

一誠からにじみ出る剣気と殺気が鋭くなる。ドーナシークと無関係であるかどうか、一誠が知りたいのはそれだけで他の戯言など聞く気にならなかった。

 

 

「ヘイヘイ落ち着こうぜボーイ。その質問の答えはーーーYESだよん!!」

 

 

そう言い終わるや否や、フリードは光の剣を振りかぶって斬りかかってきた。型も何も感じられない、ただ振っている様にしか見えない動きだ。

 

 

布都御魂を振り抜く。ドーナシークとあの堕天使との2度の戦いで光の武器の硬度は大凡判断出来る。例え予想よりも硬かったとしても両断してやる勢いで降った一斬は鍔迫り合いになるという予想外の結末を迎えた。一合武器を合わせて気がつく。フリードは剣がぶつかる瞬間に巧みに勢いを逃し、刃を通さぬ様に腹の部分にぶつけたのだと。ふざけた口調とは裏腹に、フリードは経験を積み重ねた戦士であった。

 

 

「お前たちがあのビッチが言っていた二人だろ?逆恨みだって分かってるけど憂さ晴らしさせてもらうよ〜ん!!」

 

 

そう言ってフリードは後ろに飛び退きながら神父服に手を入れ、リボルバー式の銃を向けて引き金を引いた。銃にあるはずの発砲音は聞こえなかったが何かが向かっていると察知し、一誠は銃口と自分との間を斬り払う。手応えは、あった。

 

 

「……マジ?対悪魔用の不可視の銃を見切るとか……本当に君最近まで人間だったの?NINGENだったとかいうオチなの?」

 

 

一誠が見えないはずの銃弾を斬り払ったという事実に驚きながらもフリードは止まらなかった。床、壁、天井を蹴りながら平面では無く立体的な動きで一誠に肉迫する。

 

 

フリードの剣は軽かった。受けるのには問題は無い。問題があるとすれば、その一斬一斬がすべて急所狙いだという事。眉間、首、心臓、肺臓、膵臓などの人体の急所を最短距離で狙ってくる。剣が軽く、速さもそこまででは無かった為に防ぐ事は出来たが一誠は不満そうな顔になっていく。

 

 

そしてフリードが距離を開けた時に口を開いた。

 

 

「ーーー手を抜くなんてふざけてるのか?」

 

 

数度目の武器のぶつかり合いで一誠はフリードが手を抜いている事に気がついた。様子見かと思い警戒していたがまったく変わる気配が見られなかった。そして何よりーーーフリードから殺気が感じられないのだ。

 

 

「ふざけてなんてないよん?……こっちにも色々と事情があるから察してくれるとありがたいんですよ」

 

「ーーー首飛ばしの颶風ーーー蝿声(さばえ)ェェェェェェェェ!!!!」

 

 

フリードの言葉が終わる前に一誠は蠅声の斬撃を放った。いつもならば剣気のみで構成されている蠅声は今宵に限っては剣気と殺気が入り混じっている。フリードがドーナシークと関係があると言われて殺気立っていたからだろう。

 

 

剣を振り抜けるとは言えど、限られた空間内。さらにフリードの近くには窓が無く、外に逃げる事すら出来ない。フリードは蠅声の斬撃に切り裂かれながら廊下の奥の壁をぶち抜いて姿を消した。

 

 

「ーーー」

 

「ちょっ!?兄貴!!」

 

 

一誠はフリードの後を追って廊下の壁に飛び込んだが誠二は残念な事に腰が抜けた状態、一誠の後を追う事ができなかった。何とか足に力を入れて立ち上がろうと奮起する。そしてその時ーーー

 

 

「誠二、さん?」

 

「……アーシア?」

 

 

誠二は先日に出会ったアーシアと再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーここ、は」

 

 

廊下の奥の壁をぶち抜いて入った部屋の中の光景に一誠は言葉を失う。部屋自体はおかしなものでは無い。洋式の家にありそうな広い空間、おそらく食堂として使用されていたのだろうがテーブルや椅子は見られず、止まっている古めかしい柱時計があった。

 

 

そしてーーーテーブルなどの家具の代わりにあったのは、数十の死体。そのどれもが服を着ておらず、精臭を放っていることからここで何があったのかを強制的に理解させる。だが異質なのは奥にあった死体。手前にある死体はフリードが殺したらしく何かで斬られていたのだが奥にあった死体は何か獣の様なものに食い千切られた状態で台座の様なものに置かれていた。まるで、何かに捧げる供物の様に。

 

 

「一体何が……」

 

「ーーーここではとあるカルト集団が夜な夜な集まっていたんだよ」

 

 

ふざけた口調では無いフリードが現れた事で一誠の意識が現実に引き寄せられる。蠅声の斬撃を受けたはずのフリードは神父服を斬られているものの肌には傷一つ付いていなかった。そしてそれよりも、衝撃的な事実に気づく。

 

 

「お前……女だったのか」

 

 

切り裂かれた服から覗く肌を隠す様にフリードは胸の辺りに手を置いていたが男にはなおはずの膨らみがある事に気付いてフリードが女だったと知らされる。口調や中性的な顔付きで誤魔化されいたらしい。

 

 

「気づかなかったのか?……まぁ良い。ここに集まったカルト集団は他所から攫ってきた奴らを神に捧げる供物と称して()()()()()()()()()()。多分オレが殺してなかったらお前たちが供物になる予定だっただろうよ」

 

 

フリードは忌々しそうな顔になりながら斬られた死体に向かって唾を吐き捨てる。神に捧げる供物など昔は普通に生け贄としてあっただろうが今の世の中では異常だった。そして何よりも食い殺していたという事がこの集団の異常性を際立たせる。

 

 

もしもフリードがこいつらを殺していなかったら自分たちが食い殺されていたかもしれないと考えてしまい一誠は震える。

 

 

「色々と思うところがあるかもしれないが時間が無い、一つだけ言わせてもらうーーーこの騒ぎには黒幕がいる。レイナーレやドーナシークたちを使って喜んでいる黒幕がな」

 

「っ!?それはどういうーーー」

 

 

一誠が問い質そうとした時、まるでタイミングを見計らっていたかの様に魔法陣が現れた。フリードは舌打ちをして壁の穴から飛び出す。そして魔法陣から現れたのはリアスたちオカルト部のメンバーだった。

 

 

「一誠君!!大丈夫!?」

 

 

慌てた様子のリアスの話を聞けばどうやらここに堕天使の気配が集まっていることに気がついて一誠と誠二を回収するためにやって来た様だった。

 

 

そしてフリードにやられたらしく、気絶していた誠二を回収して彼らはこの豪邸から魔法陣で脱出した。だが一誠の頭の中にはフリードの“黒幕がいる”という言葉が残っていた。

 

 

 





〜悪魔のお仕事
依頼人の願いを叶えて対価を貰うという悪魔にとっては普通の仕事。ビラ配りのくだりはカットで。

〜フリード登場
少しずつとはいえどやっとヒサメサイドの人物を登場させられた……後、フリードの言葉遣いが思う様にいかない。

〜一誠VSフリード
一誠が圧倒……している様に見えて実はフリードが手を抜いていたという事実。フリード曰く事情があるらしいが……?

〜カルト集団
とある神を奉っていた宗教団体。夜な夜なこの建物に集まって所謂サバトを行っていた。他の町から誘拐してきた人を食い殺す事で神に供物を捧げるというキチっぷり。一誠たちを呼んだのも供物にする為。それに気づいたフリードが壊滅させていなかったら近い内にクトゥルフ系の神話生物が召喚されていた。

〜フリードちゃん
格好や口調からは判断しづらいがこの小説のフリードはフリードちゃんです。男装をしているというわけではなく、ただ動きやすい格好を選んでいたら男装になっていたとのこと。なお胸のサイズは平均以上。




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