D×D magico   作:鎌鼬

21 / 44
閑話

 

 

 

そこは特異点、次元の狭間などという知覚できる存在などよりももっと高次元にある空間。そこには八の影があった。人種性別年齢ーーーさらに種族に至るまでバラバラで、共通する点など見受けられない。だが、彼らには確かに共通出来る物があった。

 

 

「ーーー私は、間違ってない」

 

 

始めに口を開いたのは金髪の男性。純白の法衣に背中からは六対十二羽の純白の翼を生やしている。彼は悲痛そうな声で語る。

 

 

「私が討ち滅ぼしてきたのは悪なのです、滅ぼされて然るべき邪なる者ーーー故に、私は正義。間違っていない」

 

 

彼の口から出る言葉は自己暗示の様に自分に言い聞かせている様に聞こえる。事実、それは間違いではない。

 

 

彼は聖なる者の配下であり、その者が死した為にその組織を率いる事になった。聖なる者の教えを守る為に彼は多くの命を奪ってきた。築き上げられる屍山血河に圧殺される恐怖と罪悪感から逃れる為に己が殺した者は滅ぼされるべき悪であり、故に己は善である、正義である自身の行いに罪の意識など持っておらぬし持ってはならぬ、でなければ許容出来るはずが無いと、そう願った。

 

 

そんな愚かな独善性、すべてを善と悪の対極に分ける理。

 

 

天使長ミカエルが抱きしその覇道に咒を与えるとするならーーー二元論。

 

 

それを嘲笑う者がいた。

 

 

「俺たちを善と悪とでしか判断出来ないなどとは嘆かわしい。俺たちは善でもあり、悪でもあるのだ。故に悪であれ、悪を滅ぼす悪であれ。善であるならば縛る枷が多すぎるから。獣を宿して悪を滅せ」

 

 

黒と毛先が青い男はミカエルの言葉を嘲笑う。善と悪でしか判断出来ない理など意味がないと。善であるなら縛る枷が多いから悪であれと囁く。

 

 

彼は善を否定している訳ではないし、悪を認めている訳でもない。だが、これまでの歴史において善が悪に圧されていることなど明らかだ。それは善には犯してはならない倫理的な行いがあり、悪はそれを犯すことが出来るから。

 

 

故に、悪を滅ぼす為に悪であれと彼は囁く。毒を持って毒を制す様に悪を持って悪を制す。でなければ護りたい存在を守ることが出来ぬから。

 

 

ごく当たり前で、自然で自由で本能を重んじる畜生の混沌の理。

 

 

龍と堕天使と人間の血を宿すヒサメが抱きしその覇道に咒を与えるとするならーーー堕天奈落。

 

 

それを蔑む者がいた。

 

 

「否、悪で満たされた世界など認められるものか」

 

 

炎の翼を広げた美丈夫がヒサメの覇道に非を唱えた。

 

 

「我らは等しく罪深い悪である。我らの様な者を創りし存在は、なんと底知れぬ痴愚なのか。故に、原罪を浄化せねばならない。宿りし悪をすべてを浄化せねばならない」

 

 

美丈夫がヒサメの言葉を否定する。畜生の混沌の理などあってはならないと。

 

 

その男はどこまでも高潔だった。他者はもとより、己に宿りし原罪の罪深さを許しことが出来なかった。堕天奈落の理では文明の爛熟共に腐り始める。それはごく当たり前で自然な事なのだが、彼はそれを許すことは出来なかった。彼は聡く、そうなった未来を予期して限界を超えて嘆き悲しんだ。我はなんと罪深い悪なのか。我のような者を生んだ存在は、なんと底知れぬ痴愚なのか。

 

 

故に一切の悪性を排除しよう、罪深き世を救済しようと彼は誓った。

 

 

罪を拭わんとするその祈り、救済の嘆きから流れ出した理。

 

 

純血の悪魔にして傲慢の原罪を宿りし悪魔ライザー・フェニックスが抱きしその覇道に咒を与えるとするならーーー天道悲想天。

 

 

それを下らんと言った者がいた。

 

 

「その様な理知ったことか」

 

 

ライザーの理を一蹴したのは黒髪に極悪な顔付きの男。ミカエルと同じ様な誂えの法衣を纏っているが背中から生えるのは六対十二羽の漆黒の翼。

 

 

「俺は奪われた、あの戦乱の結末を。三勢力が泥沼の戦いを繰り広げたあの時、結末は停戦などという下らん幕引きで終わりを迎えた。あぁ嫌だ認めない、その様な結末など許せるものか!!」

 

 

この様な結末など認めないと叫ぶ。彼は戦乱の世に生きていた。悪魔天使堕天使が己の種族の誇りを賭けて殺しあっていたあの時代、彼は一人の戦士として戦場を駆けていた。もとより永き時を生きていた彼には生きる目的など無く、ただこの結末を見てみたいという好奇心からの参戦。途中で二天龍の乱入があったり、戦争が泥沼化していたが刻一刻と終わりは近づいていた。どの種族が覇権を握るのか、どの種族が滅びるのかなどという悪趣味としか言えないものだが、確かにそれが彼を支えていた物でもあったのだ。

 

 

そしてその結末はーーー各勢力の疲弊を理由にした停戦などという彼が望まぬ終わりだった。

 

 

それを知った時には呆然とし、そして激怒した。

 

 

何故、何故なのだ。何故このような結末になってしまったのだ。こんな終わりなど認められるか、納得できる結末を寄越せ、あぁ嫌だ認めない、このような終わりなど許せない。やり直せ、納得できる結末を迎えるまでやり直せ。

 

 

求めていた結末を奪われた彼は停戦などという下らぬ結末を否定し、やり直しを求めていた。

 

 

納得のゆく結末を求め、その果てに回帰という答えを得た理。

 

 

神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部コカビエルが抱きしその覇道に咒を与えるとするならーーー永劫回帰。

 

 

「フフフッ……存外に可愛らしいところがあるのだな、コカビエル」

 

 

コカビエルの理を可愛らしいと言ったのは学生服の上から漢服を羽織った青年。その手には弱き者が直視したならば魂ごと蒸発してしまいそうな程の神威を帯びた槍が握られている。

 

 

「私は総てを愛している。人間悪魔堕天使天使、吸血鬼に妖怪……それこそ吐き気を催すほどに特大の外道ですらだ。だが、この世は繊細にして儚い。私が愛でようと触れただけで壊れてしまう」

 

 

彼は人間として産まれながら、人の理から外れた存在だった。存在する総てを愛しているのだが、彼が愛した総てが彼が触れてしまうと壊れてしまう。故に彼は自らの愛とその渇望を封じて生きていた。

 

 

しかしある日、彼が神器を覚醒させた時に神器が彼に語りかけてきたのだ。破壊することを恐れて愛さないのは、愛し子らをないがしろにしていることではないかと。そう言われ、深く考えた彼は考えを改めた。例え壊れようとも全力で愛そうと誓った。

 

 

だが愛したものが壊れるという事は愛したものを亡くすという事。彼の中で無意識ではあるが愛したものを亡くしたく無いという矛盾した渇望が生まれるのは当たり前の事だった。

 

 

そして願ったのは永遠の闘争によって総てを破壊しつつ、破壊した死者を蘇生させる世界。北欧神話に語られるヴァルハラのごとく、彼の世界において総ての生命は戦い殺し合い、死してもなお蘇りまた永劫の闘争を繰り返す。 あるいは死者を裁く地獄のごとく、死者をつなぎとめて再度の死という名の破壊の愛を何度も与える世界を求めた。

 

 

彼の背後には彼に付き従いし戦友の姿がある。救済の聖処女、十二の子孫を乗り越えし武人、悪魔と契約せし魔導師、黙示録の獣(アンチキリスト)を従えし少年。彼らは彼が愛し破壊した者ら。だがその目には怨みなど欠片もなく、彼に対する忠義のみを燃やしている。

 

 

三国志演義において魏国を建国し納めし覇王の子孫、現代に有りし英雄曹操の覇道に咒を与えるとするならーーー至高天修羅道。

 

 

「五月蝿い、塵風情が喚くな」

 

 

感情の無い声で五月蝿いと切り捨てたのは漆黒のゴスロリ衣装を着た幼い少女。愛らしい姿ではあるがその祈りは唯我にして醜悪。

 

 

「ある時気がついた時から不快だった。何かが我に触れている、常に離れる事なくへばり付いていて無くならない。なんだこれは、身体が重い。動き難い消えてなくなれ」

 

 

彼女はまるで薬物中毒者が身体から虫でも湧く幻覚を見ているかの如く肌に爪を立ててガリガリと掻き毟る。一見すれば自傷行為にしか見えないが、それだけで彼女から放たれる威圧は増していく。

 

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いーーー我はただ一人になりたい。我は我で満ちているから、我以外は要らない」

 

 

それはこれまで語られた覇道とは対を成す求道の願い。覇道が外に向けられている祈りとするなら、求道は内に向けられている願い。彼女の祈りは外界からの影響など受けず自己完結している。

 

 

彼女が望むのは無謬の平穏。永劫に、無限に広がりながら続いていく凪。起伏など無用。色は一つ、混ざるもの無し。己が己を何よりも尊び、優先し、己という世界を統べる王であること。己の大事さに比べれば、他など目に入らない。

 

 

己だけがあれば良いと他者を否定する。他者は異物で、異端で、ただの化外で、己の純正を損なう穢れでしか無いと切り捨てる。

 

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスの求道に咒を与えるとするならーーー大欲界天狗道。

 

 

「ーーーオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 

怒りを表すかのように轟叫ぶのは深紅の巨体を持った龍。目の前にいる存在に対する怒りを隠そうともしない。

 

 

その龍は生物では無かった。人々の普遍的無意識の集合体、それこそがその龍の正体。なら何故龍の姿を取っているのか?それは普遍的無意識において人々の思い描いた最強の姿が龍であったから。故にそれは最強の龍としてある。

 

 

その龍の役割は世界の、そこに住まう人々の守護。それを滅ぼそうとする脅威を夢幻の地獄に堕とす守護の龍。人々の普遍的無意識から生まれた影響からなのか、龍は人々を愛していた。人々の行いが、善であれ悪であれ何もかもが愛おしかった。

 

 

故に龍は猛り狂う。この世界を、人々の脅威となるというのなら、夢幻の地獄に沈め。夢幻の地獄にて、紅蓮に染まれ。

 

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドの覇道に咒を与えるとするならーーー夢幻大紅蓮地獄。

 

 

「ーーー皆さん……」

 

 

その総てを見て、嘆いているのは金髪のシスター。これまでの者らに比べれば弱者としか見えない姿ではある。が、その身に秘めし覇道はその総てに引けを取らない。

 

 

「私が、総てを抱き締めます。だから、どうか泣かないで……!!」

 

 

彼女の祈りは慈しみ。総てを抱き締めたいという慈愛に満ちた願い。人の世に悲劇や争いは無くならない。しかし、かといって異なるものを排斥すれば、必ず歪みが生じてしまう。故に善人も悪人も誰も彼も差別無く抱きしめ、どのような人間、どのような人生でも諦めないで幸せになって欲しいと人の自由さを尊重した上で語りかける。今が辛くても、いつかきっと幸せな明日が来ると。誰もがいつか幸福になれると。

 

 

具体的には人が自由に、そして幸せに生きるための後押しをするもの。今生で幸せになることができなくても、次の生こそは幸せになって欲しいと来世に約束される優しき世界を求めてたのだ。

 

 

それは一介の生物には行き過ぎた、正しく神の所業に他ならない。

 

 

だとしても、聖書の神に膝を着き祈る神の子だとしても、彼女の願いは変わらない。神が幸福を与えないというのなら、私が幸福を与えようという覚悟があった。

 

 

転生悪魔アーシア・アルジェントの覇道に咒を与えるとするならーーー輪廻転生。

 

 

 

今ここに、神座に至る超越の物語が始まる。

 

 





一発ネタ。ニコ動でパラロス、dies、KKKを見ていたら思い付いた。

悲想天と永劫回帰あたりが無理やり感がある気がする……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。