D×D magico 作:鎌鼬
「「ーーーはぁぁぁぁぁぁぁぁ……」」
夜の公園でベンチに腰掛けて深々と溜息を吐いているのは制服からラフな格好になった一誠と誠二。結局一日かけて考えたのだが何もわからず、いつも通りに過ごしていた二人なのだがどういった訳か夜が深くなるにつれて身体に力が漲ってきたのだ。
妙な高揚感を感じ、二人はコンビニに行くと言って出掛けて軽く身体を動かしてみた。すると昨日までよりも身体能力が向上していた。試しに100メートルのタイムを計ってみれば誠二は9秒台、一誠に至っては5秒台という世界新記録を大幅に塗り替えるタイムを叩き出したのだ。
「……なぁ兄貴、あそこの看板の文字見えるか?」
「……不審者出没注意、見かけたら警察へ」
「不審者の特徴まで見える……おかしいよな……あんなに離れてるのに……」
誠二の言った看板とは公園の入り口から直線で
「夜になったら昂ぶるとか……吸血鬼にでもなったのか?」
「吸血鬼だったら太陽に当たったら灰になるだろ……」
「真祖だったら……って、あれは人間からはなれないか……ホントどうしちゃったんだよ俺ら……」
誠二は目に見えて不安がっている。一誠も顔には出していない物の、内心では不安でいっぱいになっている。今自分の中で何が起こっているのか分からないというのは中々に怖いものがある。これがもし一人でだったなら最悪発狂していたかもしれない程だ。
「……取り敢えず帰ろう。このまま悩んでも進展しないし、明日も学校あるし」
「そうだな……」
ベンチから立ち上がり、家に帰ろうとしたその時、
「ーーーふむ、気紛れに出掛けてみればこんな所に悪魔がいるじゃないか」
それに気がつく事ができたのは気配に敏感だった一誠。反射的に誠二を蹴り飛ばし、自分もその場から飛び退くと数秒遅れで二人のいた所に光の槍が落ちてきた。
「うぉっ!?」
「この攻撃の仕方は……!?」
誠二は光の槍を見て驚き、光で出来た武器に見覚えのあった一誠は怒りと殺意の籠った目で上を睨んだ。そこにいたのは一誠や誠と同じくらいの年頃の少年。二人を蔑む様な目で
「はぐれか?はぐれなんだろ?あぁ、返事しなくて良いよ、悪魔なんぞの声を聞いたら耳が腐る」
話を聞かずに言いたいことだけを言って少年は光で槍を作り出し、触れもせずに投げる動作をして槍を投擲した。狙いは誠二、だが身体能力は低くはなく、少年から目を離さなかった事もあり誠二は転がりながらではあるものの槍をかわすことに成功する。
「何何何!?本当に何なの!?俺泣くよ!?みっともなく0歳児くらいに泣き喚くよ!?」
「泣いてる暇があったら避けろよ!!」
そう言いながら一誠は最初に投げられた槍に手を伸ばした。一誠も誠二も無手。誠二は特に武術などを習った経験は無いので避ける事だけに集中させる。となると、この場で戦えるのは一誠だけ。幸いというのか幼少期は木の棒を剣に見立てて振っていたので棒状の物があれば闘えるのだ。だから目の前にあった棒状の物、光の槍に手を伸ばしーーー
「ギィーーー!?」
触れた瞬間、まるで熱せられた鉄の棒を当てられたかの様な痛みを感じた。鼻につく焼けたタンパク質の臭いから、本当に焼けているのだろう。それでも、一誠は槍を握った。感じる痛みは歯を食い縛って堪える。
戦わなければまた殺される、それを一誠は望んでいなかったから。
「悪魔がぁ……!!俺の槍に触ってんじゃねぇよォォォォォォォォ!!!!」
「兄貴ぃ!!」
それを見て激昂した少年が再び槍を投擲する。速度だけなら誠二に放った物よりも速い。誠二が叫んだのも理解出来るーーーが、二人とも一誠の事を甘く見すぎていた。
「ーーー
それは言霊などという神秘的な物では無い唯の言葉。だが一誠に取っては名乗りに等しい。その言葉が紡がれた瞬間に一誠の精神は戦闘用のものに変わりーーー投擲された槍を一振りで
「なーーー」
驚愕の声を出したのは少年だがそれは当たり前の事だろう。槍とは本来刺すために使われるもの。どの様に使ったとしても切る事など出来ないはず。
事実、一誠は槍で斬ったのでは無い。幼少期に剣に魅せられる様になってから一誠はある事に気が付いた。刃が付いていないはずの木の棒、だがそれを一誠が本気で振るうと切る事ができた。どういった原理なのかは分からない。甘粕はこれを初めて見た時に目を輝かせながら一誠の事を剣鬼と称していた。
剣の鬼、切る事を特化させ、至高の剣士になることを望んだ求道者。それが一誠という男だった。
「石上神道流甲の一、首飛ばしの颶風ーーー
振るった槍から剣気が放たれる。蠅声とはいわゆる悪意の総称でありすなわち凶気。それをぶつける事で相手の気勢を削ぎ落とす技で殺傷能力を持たない技であった。だが一誠が過去に見た蠅声は離れた場所にあった木を切り倒していて、それが本来の蠅声だと勘違いしたために殺傷能力を持った技に昇華された。
蠅声が空間を切り裂きながら進む。速度としては少年がやった槍の投擲と同等程度なのだが予想外だったのか少年は直前になるまで固まり、寸のところでかわしたものの腕を片方切り落とされた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!腕!!腕れ!俺の腕ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
腕を切り落とされた事で少年は地面にへと落ち、二の腕から下が無くなった腕を残っていた手で押さえていた。その隙を逃す一誠では無い。直ぐに脚に力を込め、転がっている少年の首を斬ろうとするーーーその直前に、一誠の目の前に魔法陣が現れた。
それを警戒し、前に出るはずだった力を全て後退に使い誠二の側まで下がる。魔法陣から現れたのは金髪の駒王学園の制服を着た女子生徒と赤髪の女子生徒ーーーリリィ・アイゼンとリアス・グレモリーの二人だった。
「そこまでよ、兵藤一誠君に誠二君」
「……なんだあんたら?そこの奴と同類か?同類なら……斬る」
剣に見立てた槍をリアスに向ける。魔法陣から登場という摩訶不思議な方法で現れた二人は間違いなくドーナシークやあの光の槍を使って攻撃してきた少年のような非常識側の存在なのだろう。一誠は不審な動きをすれば迷わずに斬ると考えているし、誠二も頼りないながらにボクサーの様な構えを取っていた。
「……ここは私の顔を立てると思って手を引いてくれないかしら?」
「なんで俺らのことを殺そうとしたやつを見逃さなくちゃならない?あんたらは部外者で、俺たちが当事者だ。部外者は黙ってろよ」
「ーーークソッ!!」
「あっ!!」
一誠の注意がリアスに向いた瞬間に、少年は翼を羽ばたかせて空に逃げた。
「赤髪……リアス・グレモリーか!?」
「そうよ、堕ちた天使さん。私の領地で好き勝手やってくれたみたいね?」
「ーーー殺す、そこの悪魔絶対に殺す!!」
憎悪の籠った目で一誠を睨み付けた少年はそのまま飛び去っていった。すでに終える距離では無いし、目の前にいる二人が敵か否かの判断も付かないので一誠はそれを見逃す事にする。そして目の前にいるリアスとリリィを警戒しーーー
「兵藤君、手は大丈夫ですか?」
「ーーーな」
その警戒を潜り抜けて近づいてきたリリィに驚愕する。甘粕でさえ警戒を潜り抜けるのは難しいと言っていたのにこの少女は自然な動作でそれをやってのけたのだから。持っていた槍を奪われ、リリィが手を翳すと暖かさを感じるのと同時に痛みが和らいでいった。
「まったく……光は私たちに取って毒になるというのにそれを掴むだなんて呆れるしか無いわね」
「リアス……何も教えてないのにそんな事を知っているわけ無いじゃないですか。貴女はもう少し気配りをするべきです」
「分かっているわよ、そんな事は」
呆れた様子のリリィ、手をどけると一誠の手は完治していた。
「……一まずは敵じゃないって事でいいのか?」
「えぇ、私たちは貴方達の味方よ。詳しい話は明日で良いかしら?紹介したい子たちもいるし、落ち着ける時間も必要でしょうし」
「分かった。誠二もそれで良いよな?」
「あ、あぁ!!」
それだけいうとリアスは現れた時と同じ様に魔法陣で消えてしまった。残ったのは一誠と誠二、そしてリリィの三人。
「はぁ……まったくあの子は……これで傷は治りましたが光が残っているかもしれないので安静にしていて下さいね。もし明日になっても痛む様なら私に教えて下さい」
「あぁ……
手を治してくれたことに礼を言うとリリィは花の様な笑顔を浮かべて一礼し、リアスと同じ様に魔法陣で消えていった。
わからない事は増えたのだがそれを分かるかもしれないと言う希望も持つ事ができた。それに一応の納得をして一誠はまだ惚けている誠二の頭を叩き、家に帰ることにした。
〜堕天使との邂逅
原作ならドーナシークとの再会だがここでは別の堕天使との邂逅。正直言って下級でヤラレ役なので弱い。
〜堕天使VS一誠&誠二
誠二は現段階では戦闘手段の無い非戦闘員なので実質堕天使VS一誠。ドーナシークにはスペックや経験の差などで通用しなかったものの、今の一誠は下級程度なら倒せる強さ。
〜石上神道流甲の一 首飛ばしの颶風ーーー
本来の蠅声は本編になった通りなのだが一誠に剣を教えた人物の蠅声が物理攻撃だったのを見てそういう技なのだと勘違い、結果蠅声=飛ぶ斬撃として使われる様になった。壬生宗次郎は剣気+殺気で使っているが一誠はそれを剣気だけで再現、使用している。人間の時から結構人間離れしている。
〜リアスの登場
原作でも思ったのだが登場のタイミングがおかしいと思う。普通なら出会って直ぐに登場するのに原作は殺られそうになる直前で……遅い。この小説では一誠が堕天使の首をはねる直前での登場。
感想、評価をお待ちしています。