D×D magico   作:鎌鼬

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開死

 

 

「ーーーんじゃ、行ってきます!!」

 

 

その一言と共に誠二は意気揚々と家から出て行く。それを誠は気だるそうに手を振りながら見送っていた。嫌っているとはいえ見送りくらいはするらしい。

 

 

誠二の彼女が出来たという発言から数日経って週末、誠二は彼女ーーー『天野夕麻』とのデートに行くと行って家を出て行った。そして誠は天野夕麻という名前を誠二が口にする前から知っていた。

 

 

兵藤誠は転生者である。前世では発明家として財を築き上げる程の才能を持っていたがあまりにも発明に熱中し過ぎた為に過労が原因で若くして死亡、そして神様を名乗る存在によってこの世界に転生させられた。転生させられた事に対する不満は無い、与えられた特典に関しても彼女の才能を生かすような物だったので不満は無い、だが転生させられた世界については文句を言ってやりたかった。

 

 

誠が転生した世界は『ハイスクールD×D』、悪魔や天使や堕天使というファンタジー要素があるのだがそれ以上にパワーのインフレが激しい世界でもあった。その最たる例を挙げるとするなら主人公のパワーアップについてだろう。数週間前まで普通の人間だったはずの主人公が悪魔に転生し、神器の力ありとはいえ山一つを吹き飛ばす程の成長をするのだ。他にも使い方では国を滅せると言われている神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる上位神器、ブレス一発が隕石並みの威力だというドラゴン……正直言って生きていられる気がしない。

 

 

確かに誠の才能は一般的に言えば天才と言われる部類に入るのだろう、だがそれでも悪魔たち人外と戦えるかと聞かれるとノーとしか言えない。神様から与えられた特典を使えば対抗出来なくは無いだろうが確証が持てない。

 

 

そこで誠が選んだ道はーーー傍観する事。そう言った存在を知りながらも一切関わらずに人間として一生を終える事を目標とした。主人公と家族である兵藤の家に生まれた時点で困難と思えるのだがそれでも死にたくは無かったので頑張る事にした。

 

 

だがこの世界は誠の知っていた『ハイスクールD×D』の世界とは異なっていた。

 

 

まず主人公である兵藤一誠、本来なら彼は二年生で人並み外れた性欲の持ち主だったはずなのに三年生で、剣術バカになっていた。なんでも子供の頃に綺麗に剣を振るう人を見てそれに憧れたのが原因らしい。

 

 

そして本来の一誠のポジションに誠二という知らない人間が入っていた。これに関しては名前が違うだけで本来の主人公である兵藤一誠と同じなのだが異なっている事は確かだ。

 

 

さらに兵藤家には親がいない。誠が小学生の頃に交通事故で亡くなってしまい、その遺体を誠も確認している。前世からの記憶を持っていたせいで周囲から弾かれがちだった自分を優しく包み込んでくれた人たちなので、その事を知った時に人目も憚らずに泣き喚いた事は今でも覚えている。

 

 

探せば他にも異なる点があるのだろうが、そうすることで原作の流れに組み込まれることを恐れた誠は調べることをしなかった。その事を今更ながらに後悔しているが悔いてもしょうがない。

 

 

「これで原作の始まりか……助かると分かってても身内が死ぬとなると結構来るな……」

 

 

変態行為をしてて嫌っていて、助かると分かってるとはいえど身内が死ぬと分かっていて何もしないことに精神的な負担を感じる。それでも自らの命と天秤に掛けて傾かなかったのでこれまでと同じ様に傍観する事にする。

 

 

誠は自分の部屋に戻り、あらかじめ作っておいた睡眠薬を飲んで直ぐに眠りに着いた。原作が始まる事に対する恐怖と、知っていながらも身内を見殺しにすることに対する自己嫌悪を振り払うために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーありがとう誠二君、今日は楽しかったわ」

 

 

夕暮れ時の公園、近くにある噴水の音に掻き消されそうだがしっかりとした声で天野夕麻は誠二にそう言った。

 

 

今日のデートは誠二が知恵熱が出そうになる位に真剣に考えた物だった。性欲に回していた知能をすべて彼女が楽しめる様なデートプランを考える為に使った。誠二の友人である女子生徒に相談してみても学生なら悪く無いだろうというお墨付きのものーーーだというのに、夕麻の表情は笑顔ながらも終始どこか悲嘆を感じさせた。

 

 

「……夕麻ちゃん、本当に楽しかったの?今日はずっと悲しそうだったけど……」

 

「っ!!……ダメ、ね、私は……覚悟をしていたはずなのに……」

 

 

その事を指摘すると夕麻は顔を俯かせ、そして挙げた時には決意に満ちた物になっていた。その瞬間から、この場所が世界から隔離された様な錯覚に陥る。いたはずの人の声も聞こえない、吹いていた風も無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーごめん、なさい……!!」

 

「ーーーえ?」

 

 

誠二の左胸……大凡心臓のある辺りから何かが生えた。痛みは無いが身体から生えているのに何も感じないという事実に怖気がはしる。夕麻は何もしていない。何故なら、彼女は今でも誠二の目の前に立っている。

 

 

「ーーー許しを乞うつもりは無い。怨みたいなら怨め、蔑みたいなら蔑め、憎みたいなら憎め、それだけの事をしているという自覚はある。だが、それでも、我らはこうしなければならないのだ」

 

「ごめんなさい……!!ごめんなさい……!!」

 

 

心臓を貫かれた誠二が最後に認識したのは謝罪を繰り返しながら泣き崩れる夕麻の姿、背後から聞こえる低い男性の声、そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

怒り狂った一誠(あに)の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出歯亀などするつもりは欠片も無かった。ただ、誠二に見せられた天野夕麻という少女の目が気になったから着けていた。目に余る行動をするとはいえ二人しかいない肉親、何かあってからでは遅いと考えての判断だった。

 

 

ーーーそしてそれは、目の前で心臓を貫かれた誠二の姿を見て正しかったことを知る。

 

 

怒りに身を任せながらも教わり、繰り返してきた身体に染み付いた一撃を誠二の心臓を貫いた紺色のコートを着た男性の頭部に目掛けてもしもの時の為に持って来ていた木刀を振るう。不意打ち、しかも過去最速を自負するその一撃はーーー

 

 

「ーーー悪くは無い、だが遅い」

 

 

振り向きざまに放たれた一撃で容易く粉砕された。木刀は砕け散り、有り余る勢いで一誠は公園に生えていた木にぶつかって止まる。

 

 

「ガバァ……ッ!!」

 

「レイナーレ、退がれ。次期にここの管理者が来る、そうなっては不味い」

 

「……分かったわ」

 

 

コートの男性の指示に従い、レイナーレと呼ばれた夕麻は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。明らかに常識を逸脱している。だが、一誠の関心はそんなことよりも誠二を殺した男性に向けられていた。

 

 

砕けて残っていた木刀の柄を捨てて予備として持って来ていた木刀を握る。一誠の構えを見てコートの男性は感心した様に一誠の一撃を砕いた()()()()を肩に担ぎ上げながら呟いた。

 

 

「中々様に成っているな、剣道……いや剣術か。我流と言うには整っているし、習ったにしては崩れている。誰かから習って、それを自己流にアレンジしたのか?」

 

「何をごちゃごちゃとーーー」

 

 

コートの男性との距離は20メートル余り、それをわずか四歩で詰め、

 

 

「言ってるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

再び斬りかかる。コートの男性の武器は大剣、材質は不明。膂力、技術共に始めの一合で自分よりも高みにいることは思い知らされた。だが、だからと言って剣を収める理由にはならない。

 

 

「馬鹿にするつもりなど無い、素直に感心しているんだ。その齢でそれだけの武を誇る事にな」

 

 

放つ一撃一撃が渾身、普段相手にしている甘粕や伊達先生だとしてもまともに打ち合うことを避けて回避するか距離を取るかを選ぶ一誠の猛攻を、コートの男性は容易く弾く。

 

 

どういう訳か、コートの男性からはこちらに害を成そうという気概は見受けられない。捌いている大剣は一誠を傷付けるのではなく武器を壊すことを目的に振るわれていた。

 

 

初撃により下手をすれば木刀を壊されることは学習している。故に一誠は同じ轍を踏まない。木刀と大剣がぶつかろうとした瞬間に、全力で振るっていたそれを()()()()。要はまともにぶつかり合うから壊れるのだ、だから当たる直前に引いてやる。すると弾かれはするものの木刀は壊れなかった。だが浅くは無い切り込みが入って長くは持たないだろう。

 

 

コートの男性はそう考えていた……だが、長くは持たないと判断してから実に十数度互いの剣をぶつけ合っているというのに木刀は壊れそうな状態のままで未だ健在だった。

 

 

「ーーー素晴らしい、故に惜しい」

 

 

その一言を切っ掛けにコートの男性のギアが上がった。目では追えているものの、身体が間に合うかどうか瀬戸際の速度での大剣の振り下ろしが迫る。

 

 

「貴様の様な武士(もののふ)を、ここで散らせてしまうことが」

 

 

結果から言えば、防御は間に合った。だがそれは意味を成さなかった。大剣の軌道上に運ぶ事に成功した木刀の防御ごと、一誠は斬られたからだ。

 

 

「あーーー」

 

 

左の肩から入ってきた大剣が腰の辺りまで肉を切り裂く。どうすらばそうなるのか分からないが不思議な事に痛みは感じなかった。

 

 

「中々の才能だ。後二十……いや、十年もすれば人として最高位の剣士に至れただろう。()()()()()()()()()()()()()()。だが、運が良ければまた剣を交えることが出来るだろう。気にくわんが()()はこれから先の事を識っている様だったからな」

 

 

身体から力が抜け、崩れ落ちる一誠にコートの男性は大剣を消しながらそう告げた。何を言っているのか分からないが、この男は再び自分と戦える事と思っている様だった。死に体の身体で、剣士としてどころか人として生きれない程の重傷だというのに。

 

 

「我が名はドーナシーク。貴様を殺し、貴様の弟を殺した我が名を忘れるな」

 

 

そしてコートの男性ーーードーナシークは夕麻と同じ様に烏のような翼を生やして空へと飛んだ。その光景を最後に、一誠の意識は無くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕麻とドーナシークがいなくなってから数十秒後、誠二のポケットから一枚のチラシが転がり出る。そのチラシには『貴方の願い叶えます』という一文と魔法陣が描かれていた。

 

 

そしてそのチラシに描かれていた魔法陣が光り輝き、そこから駒王学園の制服を着た赤髪の女子生徒が現れる。

 

 

彼女の目の前には心臓を貫かれた誠二の死体と肩から腰まで切り裂かれた一誠の死体がある。常人ならば悲鳴をあげるであろうそれらを前にして赤髪の女子生徒は口角を持ち上げた。

 

 

 





〜兵藤誠の心境
ハイスクールD×Dのことを知っていて、この世界に転生した事に絶望。色々と考えた挙句、物語には関わらない事を決めた。その為に誠二が死ぬと分かっていながらも干渉をしない。なお、一誠が死んだことは予想外だった模様。

〜デートの結末
レイナーレの謝罪と共にドーナシークに後ろからズボリ♂とヤられた。

〜一誠
誠二から見せられた天野夕麻の写真で彼女の目が気になったから跡を付けていた。出歯亀では無い。そしてその予想は当たる事になる。

〜一誠VSドーナシーク
武闘派一誠と強化ドーナシークの一戦。剣士としての才は有るものの殺し合いの経験に欠ける一誠では様々なバタフライエフェクトによって強化されたドーナシークには勝てなかった。そもそも人間と堕天使という種族の違いで差が出来ているので仮に原作ドーナシークだったとしても惜敗する事になる。


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