D×D magico   作:鎌鼬

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甘粕

 

 

「た〜だいま〜っと」

 

「あ、おかえりなさい」

 

 

武道場で甘粕とバトっていたら剣道部の顧問が「俺も混ぜろォォォォ!!!!」などと叫んで六爪流で乱入し、心行くまで存分にバトルを満喫した一誠はボロボロになりながらも清々しい顔で自宅に帰った。そこで出迎えてくれたのはジャージ姿の茶髪の少女。

 

 

彼女は兵藤誠(ひょうどうまこと)、一誠と誠二の妹で駒王学園の一年生である。小柄で可愛らしい顔付きをしているのだが残念なことに引き篭もり気質で、良く学校を休んで為替市場を荒らすという趣味に勤しんでいる。

 

 

「また甘粕先輩とバトって来たの?」

 

「おう、しかも今日はそこに伊達先生も混じってきた」

 

「うわぁ……エライことになってるね」

 

「すっごく楽しかった」

 

「一兄の幸せそうな顔が何とも腹立たしい……!!誠二は?」

 

「覗きしたか知らんけど匙君にドナドナされて行った。だからもう少し遅くなるんじゃ無いかな?」

 

「ま た か」

 

 

一つ上の兄の変態っぷりに誠は顔を顰める。昔は誠二のことにセージ兄と呼んで慕っていたのだが、ある日に誠のパンツを片手に鼻血を流している誠二の姿を目撃してしまいそれ以降呼び捨てになっている。考えてみれば引き篭もり気質になったのはそれからじゃないかと一誠は思い出した。

 

 

「飯作るけど材料ある?」

 

「今日の分はあるけどそれで無くなる感じ。明日買って来て」

 

「へいへいっと……」

 

 

掛けてあったエプロンを手に取り、一誠は夕飯の支度を始める。兵藤家に両親はいない。一誠が中学校に上がった辺りで交通事故にあって亡くなってしまったのだ。そこから一誠が家事をしている。金の問題に関しては保険金や遺産に誠が為替市場荒らしたついでに幾らかの収入を得ているので問題は無い。

 

 

そして冷蔵庫にあった材料を使って夕飯を作り、食べ始めようとしたところで誠二が帰ってきた。だがいつも言っていたただいまの一言も無しに誠二は足音荒くしてリビングにへと現れる。

 

 

「兄貴!!誠!!ーーー俺、彼女出来た!!」

 

「誠」

 

「うんーーーもしもし、救急車一台お願いします」

 

「ヒデェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘粕正彦は転生者である。そして彼は二度の死を経験している。

 

 

彼はとある世界で魔王として君臨し、人々の輝きを見守ろうとしていたが、最後は怒りに飲まれた彼の遺伝子によって作られた息子との戦いで命を落とした。それが一度目の死。

 

 

そして彼は『 』という源を目指そうとしていた魔術師に呼び出されてサーヴァントとして現界した。その時に戦った相手は前と同じ甘粕の息子。だが彼はその世界で大切な者たちと出会い、それらを守るために戦った。そして死闘の果てに甘粕は討たれた。

 

 

その最後には悔いなど微塵も無い。何故なら、感情が存在しないで人間になりたがっていた息子が人間として有った瞬間に立ち会って、その姿を見届けることが出来たから。人々の輝きを見たいと願って魔王としてあった甘粕からすれば、それは至高の死であったからだ。

 

 

そうして甘粕は二度の死を迎え、息子がこの世界に生きる人間としてあったことに満足して魂のままに漂っていた。転生するか、そのまま消えるのかは分からなかったがどのような結末になっても甘粕は受け入れようと思っていた。

 

 

そんな時に、甘粕の目の前に息子であり、彼が愛した人間である『時雨』が現れる。

 

 

ー甘粕、お前はもう少し人間を信用してみろ。確かに人間は弱くて脆くてすぐに堕落してしまうかもしれないが、それでも強いんだ。お前が魔王として存在しなくてもきっとしっかりと立って歩いてくれるさ。だから……次は、お前の愛する人間を信じて生きてみろよ。

 

 

その言葉と共に、甘粕はこの世界に転生させられ、前世と同じ甘粕の姓と正彦の名前を与えられた。

 

 

しかもこの世界には甘粕と同姓同名の人間が大正時代に存在して、全人類を邯鄲と呼ばれる夢の世界に叩き込む事で人々が立ち向かうべき試練と立ち向かうための力を与え、人の勇気を絶やさない世界を築き上げようとした甘粕事件の主犯である『甘粕正彦』の子孫でもあるそうだ。そして甘粕にはなんの因果かは知らないがその『甘粕正彦』の記憶も存在していた。

 

 

自身が脅威として君臨し、生きることが難しい世界の中で人々が抗う姿を見ることを望んだ『甘粕正彦』はどうしようも無く甘粕と類似していた。『甘粕正彦』の気持ちを甘粕は理解していた。

 

 

腐って欲しく無い、立ち上がって欲しい。どんな困難を目の前にしても折れることなく歩んでいって欲しい。それが二人の甘粕の願い。

 

 

だからなのだろう。甘粕は『甘粕正彦』の望みに共感しーーーそして『甘粕正彦』の取った手段にどうしようも無く失望した。

 

 

願ったことは良い、それを叶えようと努力したのも認めよう……だが、それなら何故邯鄲という夢などに頼る?それは己の力で成し遂げなければならない事なのに何故他の力を頼ったのだ。

 

 

そう考える故に甘粕は記憶の中にある『甘粕正彦』の事を認めない。甘粕も今は使えないが『意志の力』という異能を持っていた。だがそれは甘粕が本来持っていた能力であり、甘粕とは切っても切り離せない物。『甘粕正彦』を前にしてそう言えばお前も同じだろうと殴られるかもしれないがそれでも甘粕は『甘粕正彦』の事を認めるつもりは無かった。

 

 

そして甘粕は三度目ーーー正確には二度目なのだがーーーの人生を歩む。時雨に言われた通りにこの人生では人を信じて生きてみる事にした。前世に比べれば物足りないところはあるのだがそれでも悪く無い生を送れていると自負している。確かに堕落する人間は多い、だがそれでも立ち上がって前に向かっている人間の姿を何度も見る事ができた。時雨が言っていた通りに甘粕が魔王として君臨していなくても、しっかりと甘粕の愛した人間の姿があったのだ。

 

 

それを見ながら満足しつつ生を送っていると、この世界には人の形をした人外が存在する事が分かった。

 

 

「ーーーふぅ」

 

 

武道場での兵藤一誠と顧問の伊達との試合を終えて家に帰り、甘粕は簡単な夕食を済ませて湯呑みを片手に一服着いていた。親は家には居ない。仕事の関係で海外に出ており、日本にいる事が少ないのだ。

 

 

そうして三十分、腹も落ち着いて来たところで甘粕は閉まっていたチェス盤と将棋盤を取り出してテーブルの上に置き、ポケットの中から几帳面に折り畳まれたチラシを取り出した。

 

 

そこに書かれていたのは『貴方の願い叶えます』という一文と怪しげな魔法陣。チラシを床に置くと魔法陣が光って二人の少女の姿が現れた。

 

 

「ーーーこんばんわ、甘粕さん」

 

「こんばんわです、甘粕先輩!!」

 

「あぁこんばんわ。済まないな、忙しいだろうに呼んでしまって」

 

 

現れたのは甘粕と同じ三年生の支取蒼那と後輩にあたる一年生の仁村留流子。どこからどう見ても人間にしか見えないのだが彼女たちは人間では無かった。

 

 

「いえいえ、これが私たち『悪魔』の仕事ですから」

 

「そうですよ先輩、チェスとか将棋とかじゃなくてもっとこう……エチィお願いしても良いんですよ?」

 

「何ィッ!?」

 

「ーーー甘粕さん?留流子?」

 

「ーーー先輩!!トランプしましょうトランプ!!」

 

「待っていろ!!すぐに取ってくる!!」

 

 

仁村の言葉に甘粕が食いつくものの、蒼那の睨め付けるによって無かった事にされる。流石の甘粕でも怖かったらしい。

 

 

こうして、甘粕は人外である悪魔の友人たちと夜を明かす。

 

 

 





〜兵藤誠
兵藤家の長女で駒王学園一年生、とある女子生徒と同じで『駒王学園のマスコット』として知られている。だが引き篭もり気質で進学できるギリギリの出席しか取ろうとしない。なので彼女を学園で見ると良い事があると噂されている。実は転生者。趣味は為替市場を荒らす事。

〜兵藤家のお家事情
両親は事故に遭って死去、現在三人は遺産と慰謝料、誠の収入によって生活している。カースト的に言えば力関係は一誠≧誠〉〉〉〉〉超えられない壁〉〉〉誠二である。

〜伊達先生
剣道部顧問。時々木刀を六本使った六爪流を使って一誠と甘粕とpartyしている姿が目撃される。

〜甘粕正彦
戦真館の方ではなく作者オリジナルの元超魔王系勇者。彼の遺伝子を使って作られた息子との死闘に破れ、人形のようだった息子が人間としてあっているのに満足して万歳三唱しながら逝ったーーーが、その後にその息子によって転生させられる。甘粕事件の主犯である『甘粕正彦』の記憶を持っている物の、夢に頼っていたので認めるつもりは全く無い。普通の人間として割と満喫している。趣味は人の頑張る姿を見る事。ただしそれは頑張らせるのでは無く、自ら頑張っている姿を見る事に限定される。

〜甘粕と悪魔との関係
悪魔であるソーナ・シトリーとは友人の関係。人外ではあるものの、その営みは人と似通っているので甘粕は受け入れている。よくチラシを使ってソーナを呼び、チェスや将棋を楽しんでいる。

〜悪魔のチラシ
願いを叶えると書かれたチラシ、これで悪魔を呼ぶ事ができる。始めこのチラシを見た時甘粕は「侑子さんが来るのか!?」と戦々恐々していたらしい。


現段階では甘粕は無害。近代兵器をブッパする事は無いです。尻を叩いて立ち上がらせるのでは無く、頑張っている人間にエールを送る炎の妖精をイメージしてください。


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