俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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056 《Encounter》

 おっぱいの乱の翌日、無駄に男子の好感度を下げるだけに終わったこの反乱は、結果的に男子の結束力を強めると言う結末を迎えた。

 まぁいつもよりもはっちゃけたおかげで、色々と考えるのは楽になったと思う。

 俺も楽しかったし。

「とかいいつつ自分だけ離脱して私達の部屋でお喋りしてたよね」

「そりゃ負ける方に付いていたくないし」

 最後にはゆりちゃんとタッチーの共同戦線が見れました。

 これは少年漫画的展開で胸熱でした。熱盛!

「結果的に女子の中には男子キモイと言う風潮が生まれたわけで」

「それはちょっとやりすぎた感あるよね。反省反省」

 絶対に反省してないでしょ、としおりに言われて照れ笑い。

 やりすぎたことに関する自重すべきだったかなと言う考えはあります。

 あるだけ。

「まぁ一過性のものだろうし、元々持っていたものだろうからね。高松君と遊佐ちゃんみたいに、あからさまに怒られるのも珍しいだろうけど」

 近寄らないでください。貴方のことが嫌いですとは、また酷なことを。

 本気の蔑みの視線をしていた遊佐ちゃんは、マジで怖かったです。

「と言うか日向君をゆいとくっつけるつもりじゃなかったっけ? なんか仲悪くなってそう」

「それが日向君が俺は小さくたって構わねぇって叫んだのが、ちょっとキュンと来たらしいですよ」

「ゆいちょろい」

 まぁ実際ゆいにゃんってちょろいよね。

 なんか優しくされたらホイホイついていきそうな気がする。

「でもなんだかんだ言って、男子みんな楽しそうだったもんね」

「最低限のマナーは守ってたし。正面玄関にしか向かってかなかったしね」

 やろうと思えば裏からも入れたのに、それをしなかったのは意味が無いと本気で思っていたからだろう。

 真正面から向かっていかなければ意味がないと。

「悪い意味で一歩進んだんだし、これで戦線の仲が色々と変わると面白いんだけど」

 意識している人達がいないわけでもないけど、ぶっちゃけこれ以上の進行は無いんじゃないかな。

 高松君と遊佐ちゃん、日向君とゆいにゃん、音無君とタッチー、俺としおりくらいだし。

 野田君とゆりちゃんは無理だろうし、藤巻君とひさ子ちゃんもありえないだろうし。

「結局、あんま変わってないかも」

「高松君と遊佐ちゃん辺りが怪しくない?」

「正直戦線の仲を引っ掻き回しすぎた気がする」

 体を求めちゃいけないよとか言いながらこの扱いである。ウケる。

 まぁ既に高松君はスタートラインに立ってるし、いいんじゃないかな。

「ねぇしおり。この世界には学校しか無いんだよね?」

「そうだよ。なんか行けるところがあったらいいのにねー」

 折角付き合っているんだからデートくらい行きたいものである。

 実際イチャイチャしているからそんなものはいらないんだろうけれど、それでも欲しいものはちょっとある。

 みんなでゲームとかしたいし、なんというか娯楽が少ないのだこの世界は。

 ガルデモみたいに趣味がある人はいい。音楽が好きでやってるとか。

 でもそれ以外の、趣味が無い人にとっては実はこの世界は苦痛なのではないだろうか?

「じゃあパソコン室でも行く? パソコンで時間潰すのとか面白そう」

「だね」

 パソコン室に行ってみよう! という訳で歩き出すのはいいものの、パソコン室なんて初めて聞いた。

 と言うかそもそも、パソコンってどういう扱いなんだろう?

 外部と情報が取れるコミュニケーションツールじゃないのだろうか?

 それとも完全に遮断された、内部のみのツールなのだろうか?

「パソコンって不思議かも」

「実は世界の秘密に関わってたりして」

 それもあるかもねと言いながら、俺達は歩き続ける。

 手を取り合って、互いの体温を感じて歩き続ける。

 なんだか今日は、いつもより汗が出る気がした。

 

 

 

 パソコンを使える様になった時、みんなは何をしただろうか?

 エロ画像を調べたり、エロ動画を調べたりしたんじゃないだろうか?

 あぁ別に今調べたりはしないよ? しおりの目の前でそんなの調べたら殺されるし。

 でも最近オナ禁気味なんだよなぁ。

「タッ君、パソコン室のパソコンってさ有線で繋がってるんだよね」

「そうだよ」

「ないよ、ここ」

 有線が無い。

 なら無線じゃないかと思ったけれど、無線の機械も無い。

 おかしい。

 何かがおかしい。

 いや、ここに入ってから何かが崩れだした気がする。

 俺は、ここを知っている?

「ッア――」

 突如走った頭痛に、頭を押さえる。

 今までに感じたことが無い激痛だ。

 まるで体の内側からヤスリで擦られているような、そんな尋常ではない痛み。

 俺の異変に気がついたのか、座っていたしおりが立ち上がる。

「タッ君!?」

 記憶の片隅。

 決して語られることがない、記憶の一つ。

『パソコン室に行かない方がいい。そこはパソコン室じゃない』

「第一、情報統一室……?」

 その記憶が出た瞬間、尋常じゃない悪寒に襲われた。

 まるで自分が自分じゃなくなってしまうかのような恐怖。

 あまりにも理解ができない程の、恐怖。

 心と体の摩擦が、恐ろしい速さで進んでいくのが分かる。

「は、早くここから……!」

「その必要はない」

 不意に、声がかけられた。

 俺の視界にはノイズがかかっている。

 でもそれが誰なのかは、言わなくてもわかっていた。

「多々を置いて立ち去りなさい。貴方には何も出来ないわ」

 悠姉さん。

「貴方は誰?」

「私? 私はね、神様なの。でもそうね、貴方はいい子だから教えてあげましょう」

 きっといつもの、にっこりとした笑みを浮かべているであろう姉さんを、俺も見たかったなぁ……。

「私の名前は雨野悠。親しみと敬愛を込めて悠おねーさんと呼びなさい」

 俺の意識はここで途絶えた。

 

 

 

SIDE:しおり

 あまりにもあっさりと出てきたこの世界の黒幕に、私は絶句した。

 ニッコリとした笑みを浮かべ、そこに敵意も何もないこともわかっている。

 だけどこのタイミングで、タッ君のお姉さんが出てくる理由がわからなかった。

「あらら。全く多々は無茶するなぁ。私が生きていた頃からそうだよ」

「え、えっと……」

「もう大丈夫だよ。多々はここで何とかすることに決めた。全くお姉さんの忠告を聞かないなんて、困った弟だ。でもまぁその記憶消しちゃってたんだけどね」

 やっちゃったぜと笑う悠おねーさんに、タッ君の面影を感じる。

 と言うよりもやっぱり彼女は、タッ君のお姉さんなのだ。

「色々聞きたいことはあるんですけど、取り敢えずタッ君をください」

「えぇ……。いきなりそれを突っ込んでくるところにお姉さん脱帽だよ。あげるかあげないかは私が決めることじゃなくて多々が決めることだし、君を選んだとしても私も蓮花ちゃんも何も恨まない。むしろ君を喜んで歓迎するよ。多々を人にしてくれてありがとうって」

 やっぱりタッ君のお姉さんはずるい人だった。

 そんなこと言われたら、私だって困る。

「まぁ君が聞きたいことは大方検討がついているよ。何故この世界を作ったのか、どうやってこの世界を作ったのかだね」

 ネタバレの権化とも言えるこの悠おねーさんを前にして、私は息を呑む。

 彼女の匙加減一つで、私は消されてしまうかもしれない。

「世界を作った理由は秘密。それはこれから先の物語のお楽しみだからね。ラスボスが最初から理由を言うゲームが面白いかい?」

 悠おねーさんが話のわかる人でよかったと思いつつ、真剣におねーさんの言葉を聞く。

「世界の作り方なんて簡単さ。思いがあればそれでいい。思いが多ければ多いほどいい。この世界はね、私と蓮花ちゃんを中心に作られているのさ。多々を救いたいと言う願いで創られたこの世界は、悲しい思いをした人達を救いたいと言う願いで更に強固にされた。巨大な水の塊を落とすと、周りにも雫が落ちるだろ? それと同じさ」

 つまるところ、土から思いでものが作れるこの世界と同じように世界を思いで作り上げた。

 なんてデタラメな。

「私は周りを利用する。私と蓮花ちゃんの多々を救いたいと言う願いを基準としたこの世界は、それを軸に回っているからね」

「あれ? それって世界を作った理由じゃないんですか?」

「違うの。ならどれが理由なの? 何が理由なのって思うでしょ? それが楽しいんじゃないか」

 あぁわかった。この人ユリッペさんと同じタイプの人間だ。

 引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、自分で回収しないタイプの人間。

 だけどそれでいて頼りになったり説得力があったりするから、タチが悪い。

「まぁでも君にだけ答えを教えると言うのもツマラナイ。自力でたどり着いてくれた方が、主催者としても楽しいしね」

 一人いなくなっちゃったけどねと、寂しそうに呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

 きっともう一人の主催者は、夢を叶えたのだろう。

 タッ君に託した夢を、叶えたのだろう。

「じゃあそろそろ行くね。私はまだ出てくるべきではない立場の人間だ。今回は多々と言うイレギュラーがあったけれども、無ければ出て行く。それが私なのさ」

「会わなくていいんですか? 話さなくていいんですか?」

 私の言葉に、悠おねーさんは笑う。

 さっきと同じニッコリとした笑みなのに、その微笑みは何処か儚くて寂しそうだった。

「色々あるのさ。色々ね」

 そう言って悠おねーさんは音もなく消えた。

 残ったのは安心しきった表情で寝ているタッ君と、何が起きたのか未だに理解できない私だけ。

 タッ君の問題は全て消えたと思っていた。

 でもそんなはずはなかった。

「ねぇタッ君。どうしてそんなにタッ君は、試練を与えられなきゃいけないの?」

 私の呟きは、誰にも聞かれることなくパソコン室に消えた。

 

 

 

SIDE:多々

「そっか……。姉さんがいたんだ」

 俺はしおりから何があったのか全て聞いた。

 きっと姉さんがしたのは、俺の心と体の摩擦の緩和だ。

 その全てを無くすなんてことをする性格じゃないし。

「姉さんのこと、見れなかったな」

 見えなかった。

 正確には視界を奪われていた。

 姉さんが現れた時に発生したあれはやっぱり、姉さんが受けているペナルティなのだろう。

 世界の作られ方も聞いた。

 若干だけど理由も聞いた。

 蓮花がそれほどまでに俺のことを思っていてくれたことには驚いたし、その優しさに心が温かくなったのも事実だ。

 だけれども、蓮花と違い姉さんだけは見ることができなかった。

 それはつまり、そう言うことなのだろう。

「タッ君は、いいの?」

「何が?」

 しおりは歯切れが悪そうに、俺に言う。

「お姉さんに、会えないの」

「会えなくてもいい。なんて言うつもりはないよ。会いたいし、会って話したい。でもそれ以上に、居てくれたことに感謝しているんだ」

 会えなくてもそこにいる。

 いつだって俺のことを考えてくれていた姉さんが、今もまた俺のことを見ている。

 シスコンって言われるかもしれないけれど、それが俺にとっては一番嬉しいことだった。

「本来会えなかった人が居たんだ。夢も希望もあるんだよ、この世界には」

 嬉しそうに笑ったつもりだけど、何処か寂しさが漏れてしまう。

 こういうところでやっぱり俺は昔から変わっていない。

 大切な人には表情を隠せない。

 でも、それでも。

 俺の気持ちに偽りは無かった。

「いつかきっと会えるまで、俺は待つよ。しおりを紹介しなきゃ。俺の口から」

 大切な人ですって。

 




金曜日がテスト直前のため、土曜日に投稿します。
申し訳ありません。

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