俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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 遅くなって申し訳ありません。
 多くの読者の方や、友達に支えられて再び戻ってくることができました。
 約8ヶ月の月日が経ってしまい、多くの方に忘れられてしまったかもしれません。
 それでも待ってくださった方々の為に、完成まで全力で執筆したいと思っています。
 今まで何度も週更新出来る様にと言いながら失踪してしまい、読者の方々はまた同じではないかと思われているかもしれません。
 ですが今回は本気で完成までこぎつけます。
 拙い小説ではございますが、これからも読んでいただけたらと思います。



053 《Sunset》

 起きた俺は、目をこすりながらもゆっくりと体を起こす。

 今の俺は雨野多々なのか、それとも天野夕緒なのか。

 そんなことを思いながら目覚めたせいか、いつもよりも寝起きがあまり良くなかった。

 だけどそんなこと、時間は待ってくれないだろう。

 恋を自覚させなければならない。

 愛を自覚させなければならない。

 日向君とゆいにゃんの恋を成就させなければならない。

 だから――。

「まずはゆいにゃんの胸を大きくするところから始めないと」

 どこからか大きめの石が飛来した。

 

 

 

「いやー、まさかタッ君を起こそうと石を投げたら、窓があいててぶつかるとは思わなかったよ」

「故意だろ絶対」

 あのタイミングで飛来する石が偶然だなんて信じない。

 そうなったら絶対に俺は、ネタの神様に愛されてるぜ……。

「にしても綺麗に当たったな。気持ちのいいたんこぶが出てきるぞ」

「うるさいひさ子ちゃん。おっぱい揉むぞ」

 暴力はダメだと思うの。

 お願いやめて!

「問答無用」

「うぐっ」

 潰れたカエルみたいな声が出るほど良い拳が、俺の腹へと突き刺さる。

 一体彼女はどこを目指しているのだろうか?

 魔王か、魔王なんだな。

 きっと拳だけで戦う魔王とか名乗り始めるつもりなんだな!

「次はどこを殴られたい?」

「お願いです許してください」

 マッハで土下座した。

 プライドとか生きてるときに投げ捨ててきたし。

「そうか。踏み潰されたいか」

 許してもらえなかった。

 思い切り踏みつけられた。

「まぁ落ち着けよひさ子。いつものことだろ」

「それがいつもだったら許されることじゃないだろ!? 岩沢はこいつに甘すぎるんだよ」

「いや、それはないと思う」

 しおりが真顔で否定するくらいにはいつも拳決めてるからね。

 一体どこにそんな力があるんだよってくらいの威力決めてるからね。

「まぁいいか。んで、ユイはどうした」

「まだ来てないから遅刻かなー」

 みゆきちちゃんによる癒しボイスを堪能したところで、俺は立ち上がると頭を抑えながらふと廊下を見る。

 そこにはタッチーと話している音無君の姿があった。

「んー、何かあったかな?」

「っぽいね。タッ君行ってきたら?」

「あいあいさー」

 しおりの許可も頂いて、俺は音無君の方へと歩き出す。

「音無君どーしたの?」

「いや、日向をどうしようか昨日松下五段達と話してたんだけどさ」

「なんと」

 男子グループの話し合いで俺だけのけ者とは酷い。

「お前も誘おうと思ったんだけど、昨日お前いなかっただろ? なら女子寮だろうなって思ってやめた」

「なんだかんだ言って俺がいないと女子寮に行ってるって考えるの、結構すごいことだよね」

「そりゃお前だからな」

 会話が成り立っていないようで成り立ってる。

 全く、これだから俺は……。

「罪深い男だぜ……」

「この場で捕まえてもいいのよ」

 タッチーのジト目が辛い!

 でも感じちゃう! ビクンビクンみたなことはない。

 そんなのはきっと夕緒だけだ。

 そんなことがある訳無いだろと言う天のツッコミが聞こえてきた気がしたけれど、ここが天だからきっと空耳だろう。

 空の上なのに空耳とはこれ如何に。

「天使ちゃん天使ちゃん」

「マジカル可愛い天使ちゃん参☆上」

「うわぁイタイ」

 ステイ。その腕に取り付けた凶器を消滅させるんだ。

「でもひさ子ちゃんは胸に凶器が付いてるけど、他でついてる人いたっけ?」

 全方向から何かモノが飛んできた。

 あぁきっと死ぬなと思いながら、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

「ってことがあってさ」

「バカじゃないですか先輩」

 取り敢えず起きたらさっさとゆいにゃんを呼んで来いとのことで、タッチーの許可を貰って女子寮に侵入。

 タッチーの許可をもらったのは実はこれが初めてだったりする。

「いやー、許可貰うってなんか新鮮だった」

「許可貰うことが新鮮とか本当に今日はトチ狂ってますね先輩」

 ゆいにゃんからの毒舌が辛い。

 本当に機嫌が悪そうだなと思いつつも、そんなことは俺達に関係無いと言わんばかりの会話をする。

「どったの? 生理?」

「女子にそれ聞くって最低ですね」

「それしおりにも言われた」

 右ストレート付きだったから、今後二度としおりに同じネタをふらないように決心した。

 俺はまだ死にたくないし。

「今日はちょっと気分がのらないので休ませてくださいとひさ子さんに言っておいてください」

「ゆいにゃんゆいにゃん」

「なんですか」

「俺の後ろに修羅がいる」

 立っていたのはひさ子ちゃんでした。

 全てを破壊する修羅となったひさ子ちゃんに強制連行されていくゆいにゃんをハンカチ片手に見送ると、連れて行かれたゆいにゃんと反対方向に行こうとしてタッチーに捕まった。

「どこに行こうとしていたのかしら?」

「いやだってさ、許可もらったなら堂々と歩きたくなるじゃん?」

「じゃんじゃないわよ。仕事は終わったんだから戻りなさい」

「えー。いいじゃんよー。俺だってたまには堂々と女子寮歩きたいよー」

「堂々と女子寮を歩く意味がわからないわ」

 タッチーにゆいにゃんと同じく強制連行されていく。

 全く。何故女子は片手で人を引きずれる程の力を持っているのか。

 恐らく男を強制連行する為なのだろう。

 あ、ゆいにゃん女の子だった。

「それで、貴方はどうするつもりなの?」

「どうするかねー。まだ決まってないから困ってるのよ」

 タッチーもなんだかんだ音無君の味方なので、俺の味方とも言える。

 いざとなったら直井に言って日向君をカフェインハイテンションにすることも辞さない。

 あいつ難民だし。

「タッチーはどうするつもり?」

「私達は元々、願いを叶える為に動いてるの。彼女の願いを叶えられるなら、それでいいと思ってるわ」

 それは残酷なことだ。

 だけれども最もタッチーがしていて、的確と言えることかもしれない。

 戦線と敵対しているだけでは、何も始まらないから。

「色々大変だね」

「直井君のことで思い出したのだけれど、音無君に記憶を取り戻してもらうのはどうかしら?」

「うん。それは俺も思ったんだけどね。でも記憶って言うのは無理矢理蘇らせるものでもないし、失っているのなら失っている理由があるはずだからね。それに――」

 言葉を区切ると、俺は一拍置いて告げた。

「タッチーはそれでいいの?」

 足が止まった。

 まぁなんとなく、そういうことだろうなとは思っていた。

 タッチーと音無君は生前何かしらの関係があったのだろう。

 だからこそあそこまで対立していたはずのタッチーが、音無君と言う新入りと共に何か行動をし始めたんだ。

「記憶を思い出したところで、彼は私を知らないもの」

「でもその記憶は大切なものなんでしょ? タッチーにとって」

 えぇと軽く答えてから、タッチーは再び歩き始めた。

 

 

 

 直井に頼んで、結局音無君の記憶は思い出させることになった。

「邪気眼(笑)」

「お前本当に殺す。マジで殺す」

 殴りかかろうとしているけれど、ゆりちゃんに押さえつけられてる。

 女子に負けるとかざまぁと笑っていると、後ろからしおりに飛び蹴りをくらった。

 それを見て直井が笑っていたので、顔面に蹴りを入れておく。

「貴方達仲がいいのはわかったから、さっさと音無君の治療に取り掛かりなさい」

「だってよルシファー様。早くこの病人を治してやってくださいよ。まぁお前も病人だけどな」

「本当にこれ終わったら覚悟しとけよお前」

 直井の瞳が赤く染まる。

 写輪眼とか言って煽っていると、静かにしなさいとゆりちゃんに首絞められた。

 死ぬ。死ぬから勘弁。

 音無君は真っ直ぐに直井の瞳を見つめていたけれど、次第に俯き、涙を流し始めた。

 まぁ過去を思い出せばこうなることは大体察しが付いてたし、こうなった以上もう後戻りが出来ないこともわかっていた。

「初音……」

 ミク? と言う言葉を出さなかったのは、きっと本気で音無君が悲しんでいたからだろう。

 勿論直井も反応していたけれど、空気を読んで黙っていた。

「全員外で待ってるわ」

 ゆりちゃんはそう告げると、俺達も強制的に外に出された。

 そして廊下に出ると、ため息を吐く。

「あぁなったわね」

「まぁ察してた」

「初音……ミク……?」

「しばらくは音無君を一人にしてあげよう」

 一人だけ違うことを考えていたバカを殴ると、鬼ごっこが始まった。

 捕まれば確実に殺りに来ることは目に見えていたので、こっそり途中で柱の影に隠れて、通り過ぎた直井の背後から忍び寄って首を折っといた。

 忍びごっこたのしー。

 物置の中に直井を押し込んで、再び戻るとしおりだけが残っていた。

「あれ? ゆりちゃんは?」

「落ち着いた音無君と一緒に屋上」

 なら仕方ないかーと言いつつ、しおりと一緒に夕暮れの廊下を歩き始める。

「ここに来て結構経つけど、やっぱりここの夕日は綺麗だね」

「だね」

 廊下から夕日を少し見る。

 作られたものだと理解しながらも、美しいと感じるのはきっとまだ俺達が人間だからだ。

 無限の生に慣れてこの景色を美しいと思えなくなった時、きっと俺達は人間じゃなくなる。

 なんとなくそんな気がしていた。

「願わくば、何時までもこの夕日を美しいものだと思いたい」

「そう、だね」

 そんな当たり前の、当たり前であってほしいことを話す。

 たわいのない会話だ。

 だからこそ、俺にとってとても優しい会話だった気がする。

「タッ君は、もしこの世界から出ることができたら何をしたい?」

「うーん。当たり前の生活、かな。学校でみんなと楽しくお喋りして、笑って、泣いて、感情を共感しあえる親友を作りたい」

 今でも戦線にそんな人達がいるけどねと言いつつも、きっと全員と出会うことができないことは理解していた。

 例え生き返れたとしても、そこに記憶があるかなんてわからないんだから。

「私はね、タッ君に会いたい」

 その返しに、俺は少し返答に詰まる。

「別にタッ君がそれを言ってくれなかったからとか、そう言う意味じゃないの。ただここじゃ私達は何時までたっても結ばれない。だってここは死後の世界で、停滞した世界だから」

 俺達は進めない。

 勿論処女ビッチやヘタレ童貞を卒業することはできるだろうけれど、それまでだ。

 恥ずかしいけど、言ってしまえば子供はできない。

 子供は生まれない。

 ここは死んだ世界だから。

「だからタッ君と会いたい」

 そのしおりの言葉に、俺は微笑んだ。

「例えしおりが小学校に入って、中学校に入って、高校に入って、大学に行ったり就職したり、大人になったとしても、俺はしおりのことを待つよ。ずっと待つ。しおりが来てくれるまで、俺はずっと待ってるから」

「待ってるだけ?」

「勿論探す。待ってるだけなんて俺らしくないからね」

 しおりは俺が愛した人だ。

 それだけはどれだけ世界が変わろうとも、どれだけ世界が滅びようとも変わらないたった一つの事実。

 だからこそ、それだけは諦めきれないのだ。

「春はどこに行こうか。夏はどこに行こうか。秋はどこに行こうか。冬はどこに行こうか」

「花見に行きたい。海に行きたい。紅葉狩りに行きたい。雪を見に行きたい」

 そう。俺達の思いはきっと変わらないはずだから。

「「夕日を見よう」」

 それが俺達二人の、永遠の約束。




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