僕は成績のことが親にバレて今にもパソコンを破壊されそうです。
流石に絶対に歌いたくはないし、まさみちゃんみたいに音楽が大好物というわけではないのでパス。
歌は自分の気分が乗ったときだけで良いのです。
そんな言い争いから数日後、俺は校長室に呼び出されていた。
「――オペレーショントルネード?」
「そうよ。それが今回ガルデモに行ってもらうオペレーション。内容は簡単よ。ライブをして見に来たNPCから食券を巻き上げる。勿論暴力ではないわ」
要は路上ライブをしているバンドに対してお金を払う様なものなんだろう。
それが食券だと言うことなのかな?
「おけおけ。で、俺何すればいいの?」
「貴方には――プロデューサーになってもらうわ!」
崖の上で雷が落ちた光景がゆりちゃんの背後に見えた。
あまりの衝撃に世界が揺れ動く! ザー・ワールド! 時は止まる!
的なことが起きたらセクハラし放題なのに。
「てかプロデューサーとは? 俺アイドルマスターやってないです」
「そのプロデューサーに近いわね。貴方にはマネージャー兼プロデューサーになってもらうわ」
なんというかその仕事の多そうな名前は拒否したいです。
ドラッカーの【マネジメント】も読んでないです。
アイマスもやってないです。
デレマスもやってないです。
「トーシローに何を求めてるんですかねぇ」
「貴方なら出来ると私が判断したわ。貴方の音楽性はかなりのものだと岩沢さんから聞いたから」
おのれ音楽キチめ。
ここに来ても俺を苦しめるのか奴は。
「今度ヴォルザックの中に睡眠薬入れてやる」
「言いつけるわよ」
取り敢えず土下座をしてから、俺は正座をしてゆりちゃんを下から見る。
パンツ見えます。役得です。
そんなことを思っていたら俺の真横に銃弾が放たれたので、目を下に向けて黙ることにしました。
「今回のミッションは失敗できないわ。したら殺すわ」
「すみません。下ろさせてください」
失敗したら死亡とか罰が重すぎるんですがそれは。
「ただし成功したら、これから先ずっと貴方にガルデモのマネージャー兼プロデューサーになってもらうわ」
「おっと。まさか成功しても失敗しても結局のところは俺にダメージが入る素敵仕様ですか。さいですか」
そして拒否権は無いと。
こんなブラック企業辞めてやる!
「ちなみにやめるならそこに両腕と両足を切り落として置いていきなさい」
「やらせていただきます」
拒否権どころか発言権すらなかったの巻。
こんなの人間扱いじゃねぇ! 家畜だ!
「駆逐してやる……! 一匹残らず駆逐してやる! 待ってろNPC!」
こうなったら一人残らず食券巻き上げて全部食い尽くしてやる!
「取り敢えず最近クラスで付き合い始めたNPCがいるから金玉潰すか」
「NPCに手を出すのは禁止よ」
畜生! 俺は奴らに敵対することすら許されないって言うのか……。
わかってたんだ。こんなデカイ……でかくねぇや。
「普通のおっぱいだったわ」
俺の顔面にゆりちゃんのあんよが直撃した。
あんよって言うと幼女っぽいけど、実際ガチの足だし靴も履いてるからモロ痛い。
「取り敢えず、どういうことすればいいのか教えてもらえるかな?」
「貴方はセクハラを入れないと会話が出来ないのね。することは主に二つ。ライブの流れの作成。ライブの場所の決定よ」
つまり食堂で食券を買ってくる様な場所かつ、食券を持ってでも来ようとする場所。難しいなぁ。
でもこの辺りの地形は漸く確認できたから、大体ならそれで行けるかな。
「おっけー。頑張ってみるわ」
「あら。意外ね。そんなにすんなりやってくれるとは思わなかったわ」
「まぁ女の子からの頼みだしね。それにやるなら中途半端じゃなくて、完璧にこなした方がカッコイイでしょ?」
「……そこがウチの男子とは違うところよね」
「あははは。女の子との会話はガルデモと一緒にいるおかげで慣れてるからね」
昨日もパジャマパーティしてきました。
お菓子を食べながら皆で恋バナとか色々して楽しかったです。
また行きたいと思います。
「そうじゃないんだけど、まぁいいわ。こちらでも協力出来ることは協力するつもり」
「おけ把握。じゃ、俺はちょっとガルデモのとこ行ってくるね」
愛しのしおりんちゃんの元へ!
とは言うけれど別にみゆきちちゃんから寝取るつもりは無いし、今の状況でも割と満足っぽい。
俺なんかと付き合わせちゃっても可哀想だしなぁ。
「うっし。やってみるか」
取り敢えず必要なのは色々あるけれど、俺が初めてプロデュースする。
そんなことはどうでもよくて、しおりんちゃん達が楽しいと思えるステージを作ってあげたい。
気分はPだ。
俺は軽快なステップでガルデモの待つ部屋へと向かった。
「どうも。多々Pです」
「は?」
まさみちゃんに素で返されて軽く泣きたい気分になりました。
多々です。まさみちゃんに嫌われたとです。
「アイマス? もしかしてあたし達アイドルデビュー!?」
「そんなもん。俺がこの次のトルネードのライブをプロデュースすることになりますた」
驚きの表情をしているみんなを見て俺は嬉しいです。
取り敢えずだけれど、まさみちゃんは現在楽譜通りではない曲作りに勤しんでおります。
しおりんちゃんが得意そうだと思うかもしれないけれど、彼女は暴走しているだけなのです。
だからきちんと楽譜通りだけじゃなくて、色々とアクションを入れつつ練習をしています。
「ここで観客に言葉を求めるのはどうだろうか?」
「それいいんじゃね? こう、食券を上に向ける感じにすれば巻き取りやすいだろ」
色々と頑張っているらしい。気分は売れっ子アイドルのプロデューサーです。
ちなみにやってはいけないけど凛ちゃん派。
「掛け声はこう――」
俺としおりんちゃんは目を合わせると二人で野球のナイバッティみたいな感じで指を突き出した。
「「Fカップ!」」
「お前ら殺すわ」
拳を構えたひさ子ちゃんからしおりんちゃんと一緒に逃走する。
と言うかひさ子ちゃん速すぎやしませんかね!?
「逃げろッ!」
俺はしおりんちゃんを逃すと、ひさ子ちゃんと対峙する――つもりだったけれど走りながら放たれたアイアンクローに掴まれて、そのまま教室の壁に叩きつけられました。
ひさ子ちゃん超怖い。
「タッ君!」
戻ってきたしおりんちゃんはアイアンクローに掴まれてミシミシと音を立てていた。
「何で、戻ってきた……」
「タッ君一人置いていけないよ……」
そして俺達はひさ子ちゃんの拳骨を喰らい頭にたんこぶを作り涙目になった。
ひさ子ちゃん超怖い。マジホラー。
「と言う訳で俺がマネージャー兼プロデューサー。今度ドラッカーの【マネジメント】読んどく」
「もしもガールズバンドの男子マネージャー兼プロデューサーがドラッカーの【マネジメント】を読んだらが発売されるね」
「きっと大好評」
しかし! だがしかし!
俺の作品を売ったところでゆりちゃんに全て吸収されるだけなので発売はしない。
非売品としてプレミア価格をつけてやろう。
「んなわけねーだろ。誰も買わねぇよ」
「ひさ子ちゃん酷ーい」
「ひさ子さん酷―い」
また殴られた。最近ひさ子ちゃんの手を出すタイミングが非常に早い気がする。
これもまた諸行無常と言うものか。
「最近お前ら二人の息が合ってきて非常に面倒になってきた」
ふっふっふっ。俺としおりんちゃんの息はピッタリ! まさに相思相愛!
だけれども俺は普通にスルーされているので、恐らく恋愛に発展することはないでしょう。
「じゃあ簡単に説明。今回ライブを行うのは食堂の中!」
ういと普通の返しが帰ってきた。
ふむ。俺の大袈裟な言葉には既に発言しなくなってきてしまったか。
「ライブは水着……って言いたかったけど、俺以外の男子にガルデモの柔肌を見せるのは嫌だから却下」
「いや、あたし達お前のもんじゃないから?」
「え? 俺のハーレムのメンバーでしょ?」
まさかのみゆきちちゃんを含めた全員に殴られた。
俺としてはみゆきちちゃんの拳が意外にも強くてちょっと泣きそうです。
「はぁ。まぁ水着にしなかった点は認めてやる」
「ありがとひさ子ちゃん。デレ可愛い」
再び腹にパンチが直撃する。
腹が、腹がぁ……!
俺はどこぞのゲームに出てくる妖怪猫吊るしじゃねぇんだぞ……!
「と、とりま曲の順番は出てる曲を聞きながら決めようと思うから安心して。それと今日もパジャマパーティしようぜぇー!」
「どうせ言うと思ったよ。昨日の続きか?」
「YES!」
ひさ子ちゃんは何だかんだ言ってノってくれる。
だから俺はそのまま話を進めつつも、今日は早く上がって一応曲の順番を考えようと思う。
まさみちゃんに楽譜を見せてもらって曲を聞きながら、アレンジを加えた方がいいと思う部分に修正を入れていく。
今までのガルデモのバンドは、模範的なバンドだった。
でも――ガルデモは世界に抗う死んだ世界戦線のバンドだ。
そのバンドが模範的では、死んだ世界戦線と言う俺達の名前がもたない。
だからこそそれを変えるように、ゆりちゃんに言われたのだ。
陽動の為の、民衆を惹きつけるバンドへと変える。
それが俺への指令。
「じゃあここまでにするか」
曲を一通り聴き終えた俺はそれをすぐに持ってきたルーズリーフに書きなぐると、それから少しして再び思い出してまた書く。
俺に才能なんてない。
マネージャーなんてしたことないし、勿論プロデュースだってしたことはない。
「もう飯行くけどどうすんだ?」
「ん? もうちょっとしてから行くよ」
カリカリと文字を書きつなれていく。
これじゃあダメだ。
確かに熱い曲と冷たい曲を交互にすれば観客に熱い曲の時の盛り上がりを出すことは出来るけれど、それじゃあイマイチノリに欠ける。
もっと自分を客観的に考えろ。
自分の思いを度外視しろ。
必要なのは最大級の盛り上がりを見せる、その瞬間だ。
それが出せる実力が、彼女達にはある。
それを引き出せる思いが、彼女達にはある。
今日もライブ大変だったけど、凄く盛り上がったねと言える構成に変えなければならない。
最も人気のある曲を、最も観客が盛り上がる時に入れるのが必要だ。
「難しいなぁ……」
人に隠れてコソコソするのは慣れている。
ただ一点――誰かの為にと言うだけに動く。
「こんなところで何をしているのかしら?」
唐突に声をかけられて振り向くと、そこには銀髪の美少女が立っていた。
でもその制服は普通の学生のもので、NPCだと思う。
「ちょっとね。勉強みたいなものだよ」
「そう。でももう下校時間はとっくに過ぎているわ」
チラリと時計を見ると、食事の時間も過ぎてしまっている。
今日はお菓子で済ませようかなと思いつつ、俺は書き終えた30枚以上のルーズリーフを持って歩き始める。
「貴方も彼女達と一緒に抗うのね」
その一言で止まった。
俺の頭の中には一人の言っていた言葉が蘇る。
「――天使」
彼女がそうなのだろうと言うのは、大体わかっていた。
個性豊かなな髪の色をしている戦線のメンバーと比べ、NPCの髪の色はそこまで目立たない。
なのに彼女の髪の色は銀色だ。
「違うわ。皆そう言うけれど」
俺に美少女の言葉を否定する思いはない。
彼女が天使じゃないというのなら、彼女は天使ではないのだろう。
でも――。
「悪いな、俺には関係無いんだわ。俺の好きな人が君を天使と呼んでいた。それだけで、俺は君を天使だと決め付けることができる」
俺と言う存在は酷く歪んでいる。
だからこそ君が何と思おうとも、何を告げようとも俺の意思は変わらない。
彼女達の思いに答え続ける。
「好きな人……貴方はそこに居ながら消えることを選ぶの?」
「生憎だけど、俺はそんなことで消えられる程やわな奴じゃないんだ。俺の心にコベリついているのはどす黒い感情」
目を細める。
怒りが、憎しみが、恨みが、俺の瞳を支配する。
「ただ奴らを殺す。その為だけの為に生きている」
復讐の相手がいないこの世界で――復讐を遂げることができなければ完全に満足できない俺は永遠に囚われ続けるしかないのだから。
プロデューサー
アイドルをプロデュースする。ちなみに顔はPの形に変化する。
もしドラ
あの頃は流行っていた。
天使襲来
彼女は敵か味方か。
多々君の過去
復讐の為に生きると決めた彼。復讐相手がいなかったら未練タラタラに決まっとる。
次回予告
「ヤローぶっ殺してやらー!」
「タッ君大丈夫? 凄い顔してるよ?」
「ごめんねしおりんちゃん。今度埋め合わせするよ」
「照明おっけー、マイクおっけー、スピーカーおっけー」
「本当にしょうがないなぁ、もう」
「そんなにしてたの!? 全く手加減ができない人なのね」
「優秀だよ。まぁ最後にやらかしたみたいだけどなぁ」
「ありがとう。お休みタッ君」
第6話《Tornado》