俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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遅れて申し訳ありません。
今回で第6章は終了です。
第7章は来月から投稿し始めたいと思います。
シリアスです。
さーせん。


049 《Naoi Shout》

 ドン――その大きな音が開戦の合図だった。

 片や死んだ世界戦線。

 片やある種もう一つの死んだ世界戦線。

 神を恨み、殺そうとするもの。

 神となり、救おうとするもの。

 結論的に言えば救われたいと言う願いのはずなのに、二つは互いに傷つけあう道を選んだのだ。

「これが人の摂理って奴かもしれねぇな」

 それを眺めながら俺は関根しおりに呟いた。

「大人は結果だけを求める癖に、仮定の違いで争う。結果が全てだったら、仮定の違いなんて関係無いだろうに」

 関係無い所で争い始めてしまうと言うこのジレンマを、きっと誰かは無くしたいと思っているのだろう。

 しかしそれは不可能なのだ。

 全員が無くしたいけれど、言葉と暴力と言う二つに分かれてしまった世界では。

「言葉で傷つけられれば暴力で返したくなる。当然だ。暴力が実際の所一番強いんだから」

 本当に聖人の様な人物の言葉で暴力を捨てたものなんて、恐らく最初の一人だけだろう。

 もしかするとその一人すら違うかも知れない。

 可能性。

 暴力を一度捨ててみれば、見える世界は変わるのではないかと言う期待。

 それを見た者達が、そうした方がいいと考えて広まっていく。

 周りに合わせる方へと広がっていく。

「例えば革命を起こした奴がいて、そいつが勝利すればその態勢は間違っていたんだと民衆は流れていく。ただし敗北すれば、そいつが間違っていたんだと批判される。これってどうなんだろうな」

 結局は革命も戦争も、暴力を持って言葉を作っている。

 だとすれば、その程度の人間が神になるなんてことはサラサラ無理なのだろう。

 そこで出てくるのが、可能性。

「例え1%でも可能性があるならば、それを主張し続ければいいのにな」

「それは無理だよ」

 ここに来て初めて、関根しおりが声を発した。

「可能性も結局の所、人間が考えたものだから。希望的観測って奴だと思う。何もないのに、あるように感じるってことが」

 バカは死んでも治らない。

 結局の所本当に世界を平和にしたいならば、自分以外の全ての生物を殺戮すれば平和になる。

 何かに頼るってことは、本当はいいことのはずなのに。

「他人と関係を持った時点で、平和なんて訪れない。それでも平和を求める人って言うのは、根本的から違ってるんだよ」

 そう言ったところで、関根しおりはワルサーP99を取り出した。

 やっぱり持っていたのかと言う思いと、気がつかない()()をしていた自分の甘さに苦笑いをする。

「本当に求めるのは平和じゃなくて、戦いなんだよ」

 そこで俺の意識は無くなった。

 

 

 

 SIDE:直井

 僕は目の前の光景に、やはりと言う納得感を得ていた。

 死んだ世界戦線。かつての僕に神になると言う道を示してくれた者達。

 例えこの身を削ってでも、倒す覚悟で望んでいた。

 だというのに死んだ世界戦線と来たら、ここに来てまでルールを守っているのだ。

 NPCを傷つけないと言うルールを守り撃たれる者達に、僕は尊敬の念を抱く。

 ルールを守る。それはつまり自らを貫いていると言うことにほかならないのだから。

「全員、攻撃を止めろ」

 僕の一言で銃撃が止まる。

 唐突の終わりに驚きを隠せない死んだ世界戦線に対して、僕は拍手を送った。

「流石は死んだ世界戦線の実働部隊の皆さんだ。僕程度では相手にならなかったようですね」

「なら降伏しなさい。直井文人」

 副会長とまで呼ばれなくなってしまったかと思いつつも、僕はその言葉を噛み締めてから銃を抜いた。

「ここで諦めるなら、僕は神になりたいなんて思わない」

 それは憎悪であり、嫌悪であり、勇気だった。

 一歩踏み出した瞬間、こちらに銃弾が向かってきた。

 発泡したのは仲村ゆり。流石はこの戦線のリーダーと言ったところか。

 冷静に判断できているのが奇跡に近い僕の状況だけれども、それでも僕は余裕を醸し出す。

「僕達にまず必要なのは、例え催眠術であろうとも、その時幸せだなぁと思えることがいけないのかと言う論点だ」

「いきなり論点と言われてもね」

「だが事実だ。そもそも貴様達のあり方は矛盾している。幸せになる為にここにきて、必死に幸せを求めないようにしている。手が届くところに欲しいモノがあるのに、それに手を出さずにいる」

 仲村ゆりの言葉を無視して、僕はそう告げた。

 僕は既に敗北しているが、諦めたわけではない。

 敗北とは決して諦めには繋がらないのだから。

「それは何故か。簡単なことだ。幸せが何かわからないからだ」

 だからこそ僕は、事実を全て突きつけることにした。

 呆気ない敗北とでも、往生際が悪いとでも何とでも言うといい。

 実際問題、呆気なく敗北する奴はいるし、往生際が悪い奴だっている。

 それが個性と言うものなのだから。

「何も雨野多々に限った話ではない。元々人間と言う生き物は幸せが何なのかわからない生物だ。いや、元々は分かっていたのだろう。それをわからなくしたのが、社会であり文明だ」

「社会であり、文明……」

「そう。社会の構図として一つのものが上げられる。例えば成績の良い者。頭が非常に優秀な人物を見て、あぁ恵まれているな、頭がいいなんて幸せそうだなと思う者も居るだろう。だが本当に成績の良い者が幸せなのか」

 他人の食べている料理が美味しそうに見える様に、例え本当がどうか知らなくてもそれに対して一定の評価が先にされてしまう現象。

「成績の良い者にも苦労はあるし、幸せかどうかわからないだろう。もしかすると成績が良い故に、周りからのプレッシャーから戦っているかもしれない。毎日必死に努力して、それこそ幸せなんて感じられない程に努力しているかもしれない」

 それが他人の力を見て幸せを感じる人間だ。

 だからこそ本当の幸せなんて、無いかもしれない。

「成績優秀容姿端麗スポーツ万能お金持ち。そんな人物が実在するとして、本当にそいつは幸せを感じているのか」

「詭弁ね。結局のところ、幸せと言うのは自分で見つけなければならないものなのよ」

「そう。つまりお前達の行動すらそれは、幸せに繋がっているのかもしれない」

 指が反応した。

 銃を撃つためにかけている指が、少しだけ震えていた。

「もしかするとお前達は既に、幸せというものを感じているかも――」

「――黙れ」

 静かに、ゆっくりと吐き出した仲村ゆりの言葉に、僕は言葉を止めた。

「アンタに言われなくたって、理解している。理解している上で戦ってるのよ。貴方のその先に続く言葉はあたし達に対する冒涜よ」

 僕はその言葉を聞くことにした。

「幸せは確かに誰かから見たらわからなくて、自分で見つけなきゃならないものよ。それは神に言われるべきものでもなければ、アンタに言われることでもない。自分で気がつかなきゃならないものなのよ」

「気がついた上で、それを無視すると」

「生憎、あたし達は桁違いに重い過去を背負っているの。高々神如きに、あたし達の幸せを決めさせてたまるか」

 それは、悪意なのかもしれない。

 善意なのかもしれないし、嘘なのかもしれない。

 それでも僕は死んだ世界戦線と言う大きな組織のリーダーとして、この死んだ世界の生徒会副会長と言う組織の副リーダーとして、そのリーダーの器に敬意を払えた。

 だが諦めない。

「僕の幸せは神になることじゃない。でも僕は、誰かの為に神になれる」

 一歩ずつ、戦線に向けて踏み出していく。

 その足に迷いはない。迷う必要などない。

「親友が奪われたあの日、僕は激しく憎悪した。何故、どうして! あいつは別になにかした訳でもない! 僕と一緒にただ日常を謳歌していただけのはずなのに!」

 たった一人、この世界にきて良かったと思える人物に出会えたのに。

「神はそれを奪った。この世界に来てからも奪われた!」

 それが許せなかった。

 この世界は神が作った、日常を失っていた者達が、幸せを失っていた者達が満足するべき場所だったと言うのに。

 満足するどころか奪われてしまったと言うことが、絶望的なまでに僕の心を変えた。

「だから僕は復讐すると決めたんだ。仲間は要らない。僕だけが神になるという道を!」

 それはある意味で恐怖だった。

 仲間を作れば奪われてしまうかもしれないと言う恐怖。

 本来奪われるはずのなかった世界ですら、僕は天乃夕緒と言う親友を奪われた。

 だから他人を頼れなかった。

 唯一頼れたのは夕緒のみだった。

 だから僕は――。

「神になる。このクソッタレた世界を破壊し、新たな本当に奪われない世界を作り出す」

 次の瞬間、仲村ゆりは銃を下ろしていた。

 戦線メンバーは唖然とした顔でそれを見ていたが、仲村ゆりは構え直さない。

「そう。ならそれは彼と戦ってからにしなさい」

 彼。そう呼ばれる人物に、一人だけ僕は該当者がいた。

「……そうだな。それもまた、必要なことだろう」

 僕の後ろ、つまり校舎棟の玄関から現れたのは――雨野多々だった。

「やっほー。元気ー? 俺は今起きたところかな」

「気分は最悪よ。それで、出てきた以上やることは分かっているんでしょうね?」

 勿論サーと答えた雨野多々を見て、自然と笑みが溢れてきた。

 流れが自然だ。

 そして勿論雨野多々が来た以上、天乃夕緒は居なくなったと言う事になる。

 結局最後まで一緒に話せなかったなと惜しみつつも、僕は拳銃を捨てた。

 もう要らない。奴との対決に必要なのは、近距離のみ。

 ナイフを取り出すと、僕は死んだ世界戦線に堂々と後ろを向けて構えた。

 後ろから撃たれるかも知れないと、考慮しなかったわけではない。

 ただ純粋に、殺すと一点に集中していたが故に、その思考を排除しただけだ。

「――ふぅ……。元気がいいねぇ厨二会長。何かいいことでもあったのかい?」

「あぁ。最高にいいことがあった。それと――」

 踏み込む。

 多々の様な身体能力は無くても、この距離ならば速度はあまり関係ない。

 たった5mの距離。

 だから――。

「僕は直井文人だ!」

 二つの影が交差した。

 

 

 

SIDE:多々

 後語り。結論から言えば俺が勝った。

「っつー」

 腹に突き刺さったナイフを抜いてから、地面に倒れ伏せている直井にナイフを投げる。

 勿論キャッチすることなんて出来ずに、モロに体に突き刺さっていた。

「死に体に、ナイフを刺すなんて、ドSだな」

「それはもーしわけございません。ま、しおりを誘拐しようとした罰ってことで」

 ケラケラと笑いながらそう言うと、フッと直井が笑った。

「僕は馬鹿な男だ。こんなこと、成功しないって、わかってたのに」

「馬鹿じゃねぇよ。勇者だ。知ってるか? 革命に失敗した者達は大凡批判を浴びるんだけど、革命に失敗しても褒められる奴らって居るんだぜ」

 それは誰なのか、今は言わなくてもいいだろう。

 今回のこともある意味で言えば、現状の死んだ世界戦線対する革命だ。

「好きに言え。どうせ僕は敗者だ」

「厨二、ダークエンペラー、黒龍の支配者、炎天の理に導かれし者」

「待て。好きに言えとは言ったがそっちの方向じゃない」

 そして二人して笑ってから、ゆりっぺちゃん達がこちらに向かってくるのを見てもうこれまでかと悟った。

 きっと直井はゆりっぺちゃんにそれはそれは酷いことをされてしまうのだろう。エロ同人みたいに!

 ま、そんなわけないだろうけど。

「まぁ、相棒。また今度な」

 その言葉に一瞬天乃夕緒を感じたのか、直井は驚きながらも俺を見て少し涙を流しながら笑みを浮かべた。

「じゃあまたな、相棒」

 直井はそう言って、ゆりっぺちゃん達に連れて行かれた。

「おいおい大丈夫だったのか?」

 すぐさま駆けつけてきた日向君を見て、切り替える。

「勿論大丈夫だったよー」

「お前さっきはかっこよかったのに、軽いなー」

「まぁさっきのは直井君特別版みたいなものだよ。知ってるかい? 全員に優しくする人なんて世の中にはいないんだよ」

「俺それ知ってるぜ。全員に同じ様に接する奴なんていないって奴だろ?」

「だいせいかーい。日向君にしてはやるね」

 俺にしてはって何だよと叫んでいる日向君はレッツスルー。

 久々のシャバの空気を楽しんでいると、降りてきたしおりがふと疑問を投げかけた。

「天乃夕緒の時の記憶ってタッ君には無かったんじゃないの?」

「一応あるよ。今回だけからかもしれないけれど、ある意味で俺だしね」

 二重人格だけど脳は一つデースとか言ったら笑われた。解せぬ。

「まぁ何しろ元に戻って良かったぜ」

 背中をバンバンと叩かれ、俺は少し日向君にイラっとしながらも笑みを浮かべた。

 あぁ日常に戻ってこれたんだなぁと、再認識する。

「おかえりタッ君」

 そんな俺を理解しているかの様に、しおりが声をかけてきた。

 俺が返す言葉なんて一つしかない。

「ただいましおり」

 漸く俺は、暖かい場所に触れられたんだから。

 


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