俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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 取り敢えず、ここから伏線回収と共に色々と解決編へと移っていきます。
 第六章は要するに、色んな問題を纏めて解決してしまうということです。


047 《Remember》

一息吐いてから、声音を変えた。

「よぉ。生き返ったのかい? 奴らは」

 タッ君もどきのその言葉から察するに恐らく――既にあたし達戦線に対して壊滅的な被害を出しているのだろう。

 あの一連の変態性の高い会話から察するに、タッ君もどきも結局の所根本的な所でタッ君なんだろう。

 だから言える。地上は既に全滅している。

 タッ君はやると決めたら徹底的にやるタイプだし、その目的に至るまで妥協をしない人だ。

 地上だけじゃない。多分ギルド内部の人達も大勢やられているんだろう。

「関根さん。彼は多々君に憑依しているNPCで、その多々君とは別人と捉えていいのかしら?」

「別人じゃないと思います。彼も多々君で、そして多々君も多々君なんです」

 あたしがそう言うとタッ君もどきは驚いたような顔をしてから、にへらと笑みを浮かべた。

「へぇ。流石は多々の彼女ってところか。オツムが悪くても精神的にも感覚的にもそこに気が付けるってのは凄いねぇ」

「あたしの彼氏はサイキョーだからね」

 そう言うと大声で笑いだしたタッ君もどきを見て、天使が走り出した。

 流石は天使と言いたいけれど、それに対してタッ君は刀一本でそれを防ぐ。

 そして現在のタッ君は、二刀流なのだ。

「あめぇ」

 あまりにもあっさりと、そして簡単に断ち切られ舞う天使の右腕にあたし達は目を疑う。

 何をしたのかと。

 一体何が起こったのかと。

「――剣道部主将【天乃夕緒】、推して参る」

 次の瞬間天使に二本の切り傷が入る。

 それを見ていた音無君が激高してタッ君もどきに殴りかかるけれど、上半身と下半身が泣き分かれる形となってしまった。

 あまりの出来事に再度あたし達は目を疑った。

 雨野多々は完璧超人候補である。

 それがあたし達の理解できる見解。

 だけれども、これはなんだというのだろうか?

 少なくとも精神が、肉体が、それを覚えていたとしてもここまでの実力を発揮できるのだろうか?

 他人の体をまるで自分の体の様に操ることがこんなにも簡単に可能なのだろうか?

「そっか。他人の体じゃなかったね」

 タッ君もどきもまたタッ君。

 タッ君がこの世界に二人いると考えた方がいいんだ。

 高い戦闘能力を発揮する肉体に、高い戦闘能力を有する精神が宿ればそれは最強を欲しいままにする。

 それが雨野多々と言う存在なのだから。

 そして銃撃戦が始まる。

 何発もの銃弾が放たれ、遊佐ちゃんが背後から強襲をするも誰一人としてタッ君もどきの殺陣に入れない。

 入った瞬間切り裂かれるとわかっている以上、一定の距離を保つしかなかった。

 次の瞬間、椎名さんがタッ君もどきの右腕を切り裂ける位置に潜り込む。

 取った。そう確信したのも束の間、タッ君もどきはその椎名さんの小太刀を持つ腕を掴むとそのまま反対の腕で椎名さんの胸を揉む。

 唐突の出来事に驚き一瞬の思考を停止した瞬間、タッ君もどきは椎名さんの左脚を刺突して貫いた。

 羞恥と苦痛に歪む顔を他所に椎名さんの右脚を掴むとそのままゆりっぺさん達の方向へと投げ飛ばす。

 唯一の突破口とも思われていた椎名さんがあまりにも簡単に敗北してしまったことに、ゆりっぺさんですら戸惑いを隠すことができなかった。

「と言うよりもあたしの彼氏の体使って他の女の子の胸揉むとかいい度胸だね」

「俺にも余裕がねぇんだよ!」

 と言いつつも刀を握るその腕がわきわきしているので、故意なのだろう。

「あー、もう洒落せぇ!」

 そう叫んだタッ君もどきの雰囲気が変化する。

 剣道部主将と言った時とは別の雰囲気に、漸くその鱗片を理解した気がした。

「剣舞部主将【天乃夕緒】、推して参る!」

 彼はこの世界で何度も何度も生きている。

「ストーップ!」

 あたしの大声と同時に戦闘が止み、視線が注目される。

 うん。これでいいんだ。タッ君もどきには絶対に勝てない。

「タッ君もどき。ううん。夕緒。目的は何? 少なくともここで足止めや殺害をすることが目的じゃないよね?」

「これも気づかれちまうのか。勘良すぎやしませんかねぇ?」

「乙女パワーを侮るな」

 あたしはそう言うと、ゆりっぺさん達の前に立った。

 これでゆりっぺさん達は夕緒に攻撃することが出来ない。

「はいはい。確かに俺の目的はこの戦闘に一切関係ねぇ。ただの趣味だ」

「それで本当の目的は?」

 本当の目的。聞く前からわかっていたこの真の目的に、あたしは理解しゆりっぺさん達の前に立った。

「全部言ってやるよ。遊佐及び高松の問題を集結させること。そして――関根しおりを拉致もしくは誘拐することだ」

 わかっていたよ。

 タッ君は本当に……。いや、夕緒は本当に凄いなぁってつくづく思う。

「なら行くよ。だからこれ以上の戦闘をしないで」

「なんだかなぁ……。本当はここで戦闘をしてこれ以上仲間を傷つけて欲しくなければ付いてこいって言うつもりだったんだけどなぁ……」

 その言葉にゆりっぺさんが飛び出そうとするけれど、あたしはそれを手で静止を促した。

 勝てないのは理解している。

 努力すればとか、数の暴力とか、そんなことは一切関係ない。

 勝てない。何故なら全てが夕緒の考えたシナリオをなぞっているだけなのだから。

 いや、予言した通りと言うべきなのかもしれない。

「大体最初からおかしかったんだよね。遊佐ちゃんのことも夕緒のことも。筋が通っていそうで通っていない。まるで何か別のものに弄ばれているみたいだった」

 運命とはそう言ったものなのだから。

「誰も悪くない。ただ何時か起こるであろうことを予言していただけ。遊佐ちゃんの過去を聞いた時に、タッ君も夕緒もそれを理解してしまった。高松君の話を聞いた時に理解してしまった」

 高松君に最初に相談された時に断ったのは、一概に高松君の意見が悪かったからと言うだけじゃない。

 何故ならばそれは自分で変えられるものだし、途中から気が付くべきものなのだ。

 だけれども結果的に起こってしまうことを察したのだ。

「そして避けられないことも理解したタッ君と夕緒は、一番被害が少ない道を選ぶことにした。それがこの遊佐ちゃんの暴走。結果的に誰もが現状の【停滞】と言う難しさを再認識させられ、悪いことをしなくても何か起こると言うことを理解させるだけでなく、仲直りが出来るレベルの傷の浅さを保った」

 これが一番あたしが理解できた点だった。

 要するに傷つけられな過ぎていると思った。

 高松君はフラれると思いきや、答えないと言うことにより仲の良さは一定となる。

 遊佐ちゃんは暴走したものの、愛されると言うことを理解した。

 天使と合同になったことにより、今まで少しずつ改善されていた天使と戦線の仲も一定以上上昇した。

 そして傷ついたのは結局、最初に攻撃されたタッ君だけだった。

 いや、タッ君が最初に攻撃されたと思い込んでしまっていた。

「タッ君は傷なんて負っていなかった。すぐに目覚め、そしてそこで何かが起こった。それこそ肉体的にでは無く精神的に追い詰められる何かが」

 この世界では肉体的な損傷は回復するが、精神的な損傷はそこまで回復しない。

 そこで起きた現実を認めたくないと言う思いが反映され、タッ君は眠ったままと言う状況に陥ってしまった。

「遊佐ちゃんは攻撃した後、自分が攻撃されることを恐れて刀を奪った。多分タッ君は転がり落ちたりしたんじゃないかな? そして、見つからない様な所に落ちた。途中にあった刀を拾ったって言うのが多分遊佐ちゃんの本当のところなんじゃないかな?」

 遊佐ちゃんの方を振り向くと、頷いていたのでやっぱりと思った。

「ここまでがあたしの多分でわかったこと。あってる?」

 夕緒の方を見ると、驚いたようにあたしの方を見ながらそして笑みを零した。

「すげぇ。すげーよ。正解正解大正解。むしろよく正解したなと思うくらい完璧な正答だね。だったら、俺が言うことも分かってんだろ?」

 拉致誘拐すると言うことは、それがこの事件に関わりがあると言うことにほかならないということだろう。

 当然だ。そうだと思っていた。

「ゆりっぺさん。あたしはちょっと戦いに行ってきます。それにゆりっぺさん達も戦うことになると思いますけれど、安心してください。きっと全部ハッピーエンドになりますから」

 ハッピーエンドになる。そうあたしは自分の心に刻み付ける。

 バッドエンドになんてしてなるものか。

 

 

 

SIDE:?

 暗い、暗い、海の底。

 そう表現するのが妥当かも知れない。

 愛した女性の声は聞こえず、ただただ暗い中にただ一人。

 永遠にも感じられる時の流れに身を任せ、ただ漂うことしかできない。

 一体自分が誰だったのかも忘れそうになるけれど、愛した女性のことだけは忘れられない。

「もう。たー君は相変わらずだなぁ」

 クスクスと言う笑い声が聞こえて、俺はそちらを見た。

 たー君。そう呼ぶ人物は一人しかいない。

「――蓮花」

 そう、その名を告げた。

 俺が愛した女性の一人であり、元カノとも言うべき存在。

 彼女からどれだけの罵詈雑言を言われようとも、謝る覚悟は既に出来ていた。

「忘れてなかったんだね。良かった」

 そんな、かつて俺に向けていた笑顔を向けてそう言ってくれた蓮花に対し、俺は口を開く。

 言わなければと。好きな人がいるんだと。

 例え周りから彼女を捨てた男と言われようとも、すぐに女を乗り換える最低な男と蔑まれようとも。

 伝えなければならない。

 伝えないことこそが、死んでいるからと伝えないことが最も彼女の気持ちを踏みにじっているのだから。

「知ってるよたー君。たー君に好きな人がいることくらい」

 普通に、まるで当たり前のように蓮花はそう告げた。

「たー君は何時も一人で抱え込んでいたよね。それに、あたしも一度この世界に来たんだ」

 男に陵辱されて殺された。そんな壮絶な死を迎えたというのに、蓮花は笑っている。

 かつての俺の様な偽物の笑みじゃなくて、本物の笑みを浮かべている。

 それが堪らなく――嬉しかった。

「たー君も途中で気がついていたんじゃないかな? 私が本当の意味でたー君のことが好きだったのかどうかって言うことを」

 蓮花の言葉に俺は大きく息を吸ってから、頷いた。

 気が付いていたさ。蓮花の笑みが偽物だったことも。

「私の家も結構酷くてね。DVって言うの? それが日常茶飯事で、実はお金を盗んでたのは結構前からだったんだ。要するに私はお金を盗む理由として、自分に理由が欲しくてたー君に近づいた」

 それは謝罪だった。

「最初はアルバイトの面接にも通りやすいとか、カッコいい彼氏が居るとか、母親と父親からお小遣いを貰える理由になるとかそう言う思いだった。だけど、私がり窃盗犯として捕まった時のたー君を見て思ったの。【あぁ、実は本当にたー君のことが好きになってたんだな】って」

 その時からだったらしい。本当の意味で俺と姉さんの為に働いたりしだしたのは。

「たー君だけじゃなくて、(はるか)さんもそう。私は二人共大好きになってたの。だから、探しに出かけちゃった」

 そして死んだ。

 数々の陵辱の跡がその壮絶さを語っていた。

 あんな思いをしていたなんて思い返すだけで、悔やまれる。

「たー君。私はたー君の選択が間違っていないと思う」

 ゆっくりと、諭すような台詞に俺は息を呑む。

「たー君は少し考えすぎちゃうんだよ。癖かな?」

 心が溶けていく感覚に、身を委ねる。

「人は前に進まないといけないの」

 まるで羊水に包まれている胎児の様に。

「だからたー君も、何時までも私に構ってないで前に進んで」

 この優しさに包まれたいと、心から思う。

「最初にたー君って呼んでねって言った時、嬉しかったっよ」

 名前の呼び方にこだわってたもんな。

「ねぇたー君、何時かきっとまた会おうね」

 会いたいな。そしたらきちっと、しおりを紹介するよ。

「たー君、愛して()よ。ありがとう」

「俺も愛して()よ、蓮花」

 


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