更に言ってしまえば、変態祭りでございます。
♤魔王♤さん、評価ありがとうございます。
「天乃夕緒……。あたし達が知っている多々君とはまた違った口調なのね」
「ん? あぁ、雨野多々か。そりゃそうだ。別人だからな。まぁ別人の定義がどうかで変わるかもしれないけどな」
雨野多々を知っている?
そこから考えられる予測は数通りあるけれど、それが事実かはわからない。
「連絡をしてきたってことは、何かあったのかしら?」
「あぁあったな。松下、大山、TK、野田は全滅だ。皆死んだ」
淡々とそう告げてきた天乃夕緒に、あたしは拳を握り締める。
「俺が殺した」
わかっていた。トラップがないこの状況でそれが出来るのは、一人しかいない。
連絡をしてきているこの人物しか。
「まぁ戦力としては強い方なんじゃないか? 強いって聞かれたら分かんねぇけどな」
「貴方は誰? 何故こんなことをするの?」
これ以上彼の言葉を聞いていれば、恐らく私は本気で怒りでどうにかなりそうだ。
「そうだなぁ――」
次の瞬間トランシーバの向こう側から誰だと言う声と、銃声が聞こえてきた。
誰かが彼にあったのかと思い安心した次の瞬間、聞こえてきたのは先程の誰だと言う声と同じ声の絶叫だった。
――嘘。チーム行動なのよ? 四人いたのよ?
「何故こんなことをするかと聞かれれば、俺のダチが神様になろうとしてるからかな?」
「神様に、なる?」
何だそれは。そんな方法がこの世界にあるなんて、一切聞いたことがない。
「本当になれるかどうかは知らねぇよ。ただ、
次の瞬間あたしの予測は確信へと変わった。
「貴方多々君ね!?」
「よくわかったじゃん。俺は雨野多々に宿っていたNPC、天乃夕緒だよ。よろしくネ」
人を小馬鹿にした様な態度の夕緒君に、あたしは苛立ちすら起こる。
「元々一人の人間として生きてた俺が、この雨野多々に宿らされたことをよく思わない奴がいたってことよ。例えば、俺がNPC時代に親友だった生きていた奴とかな?」
その発想は無かった。
だけれどもありえる話だ。
彼には彼の人生があったのだから、それを破壊されれば怒る人物がいてもおかしくない。
例えそれが多々君にも夕緒にも悪気が無かったとしても。
「つーわけで、俺達は雨野多々を俺達の方法で昇天させてやる為に行動してんだよ。ついでに、これから先こう言う奴が現れた時、救えるようにもな」
「そんな理由であたしの部下を……!」
「怒んなさんな。どーせ生き返るんだから問題ねーよ」
チャキッと音がしたということは、恐らく使っているのは刀。
多々君が使っているものとしては紫流が挙げられるけれど、それは遊佐さんに取られている。
でもそれすら嘘だとすれば? 情報操作だとしたら?
本当は何があっていて何が間違っているのすらわからなくなる。
「どの道、ギルドから出る為には遊佐ちゃんを助けないとならねーぜ。ま、俺の彼女が遊佐ちゃんの方に向かってるからそこで蹴りがつくだろうよ」
「そこまで分かっているのなら、あたし達を出さない為に何かするのが普通じゃないのかしら?」
「何で? 外に出りゃいいじゃん。戦えよ」
彼の目的はあたし達をここに繋いでおくことじゃない?
ならば何故襲う必要があった?
「そろそろヒントを出し過ぎか。俺はもう帰らせてもらうぜ。戦って帰ることにならなくてよかったな」
何処までも先を読んだことを言ってくれる。
切られたトランシーバを見て、あたしは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
SIDE:高松
彼女はそこにいた。
刀を握り、胎児の様に体を丸めてそこにいた。
「遊――」
「来るな」
何時もとは違う冷え冷えとした声に、戦慄する。
本当に彼女が遊佐さんなのかと思う程、その表情は感情的だった。
その瞳に映っているのは憎悪、憎しみ、苦しみ、悪意。
ありとあらゆる負の感情が詰め込まれた様なその瞳の色に、私は息を飲んだ。
息を飲んで、一歩踏み出した。
――変わらなければならない。
人は何時までも変わらずにいることはできない。
「遊佐さん」
次の瞬間体を起こした遊佐さんが私に向かってくる。
あまりにも速く、反応が出来なかった。
切られる。そう確信した瞬間、その刀は止められる。
間に入っていたのは天使だった。
「貴方はその心を沈めたはず。何故今になって起き上がってきたの?」
「うるさい!」
消えた。
叫び声と同時に、遊佐さんの姿が消えた。
消えたからと言って、わからないわけではない。
私は両腕をクロスさせると、右斜め後ろに突き出した。
そこに現れていた遊佐さんの刀が、私の腕を切り裂こうとして骨で止まる。
「ッ!?」
「多々さんなら切れたかもしれませんが、毎日振るい続けているわけでもない遊佐さんに切られる程私の筋肉はヤワではありませんよ」
まぁ実際は筋肉は切られているんですけれどね。
「ちっ!」
「――分かりました。天使は下がってください」
一度離れて距離を取った遊佐さんを見て、私はそう天使に告げた。
彼女が先程から狙っているのは私だ。
邪魔をしている天使とぶつかった時でさえ、遊佐さんは私から目を離さなかった。
私は上の制服を脱ぐと、血が垂れている両腕にかかっている力を抜く。
これはある意味、私と遊佐さんの戦いだ。
「わかったわ」
下がった天使を見て、私は覚悟を決めた。
止めなければならない。
彼女は苦しんでいる。
私のせいで苦しんでいる。
私が彼女を愛したから、彼女の苦しみを知らず彼女に愛を与えたから。
彼女が愛を与えられず、男に苦しみを与えられたと知らず。
男は愛を与える存在ではなく、彼女にとっては苦しみを与えてくる存在だったのだろう。
その相手が父親だったのか、寄ってくる男子全てだったのかはわからない。
苦しみを与えてくる相手を殺そうとするのは、ある意味で当然のことなのかもしれない。
彼女は男性から与えられる愛を知らないから。
「ふぅ……」
息を吐き出した私を見て、遊佐さんは少し不思議そうに首を傾げた。
だけど――私に遊佐さんを諦めると言う選択肢は無い。
遊佐さんを愛すことをやめると言う選択肢も無い。
あるのは単純に、愛した女性を救いたいと言う願いだけだ。
矛盾と言われるかもしれない。
横暴と言われるかもしれない。
自分の責任の癖にと、何も知らない癖にと、言われるかもしれない。
それでもいい。
彼女を知っているのは彼女しかいない。
そしてその彼女が知ることを拒んでいるのならば、私からそれを伝える。
「来てください遊佐さん。例え貴方が何をしようとも、私は貴方を愛する気持ちを変えません」
はっきりと、堂々と、私はそう告げた。
それに対して遊佐さんは泣き叫ぶ様な悲鳴をあげ、刀を構えて突っ込んできた。
避けることも無く刀に腹を突き刺される。
激痛に一瞬顔を歪めながらも、それでも気丈に笑いかける。
そんなことがどうしたと。
この痛みが貴方の痛みの全てなのかと。
ならばとその刀を握る手を掴むと、瞬時に遊佐さんは姿を消した。
刀を持ったまま、私の頭上に移動している。
そのまま振り下ろされた刀を、私は右腕の肉を削ぎ落とす痛みに耐えながら右腕で逸らした。
ピシャリと飛んだ血に、関根さんが顔色を悪くしていますがすみません。構っている余裕がないんです。
動かなくなってしまった右腕を見ながら、私はそれでも笑みを浮かべた。
「何でだ! 何で痛がらない! 何で笑って私を見てくる!」
「貴方を愛しているからです。苦しみなんて与えたくない。だから――私は嘘を吐かずに言ってあげましょう」
大きく息を吸い込む。
こんなことを言ったと知られたら、多々さんにそんなことだから付き合えないんだと言われてしまうかもしれないですね。
「私は貴方の黒パンストを脱がして私が被ってその状態でエッチしたいと思える程貴方のことが大好きなんですよ!」
自分でもその表現はどうなんだろうと思う程だけれども、隠していられるか。
「そんなに男が嫌いなら何でそんなに可愛いんですか! 何でそんなに男の心をくすぐるような表情をしてくれるんですか! 私は貴方のことが大好きなんですよ! 大大大大大好きなんですよ!」
偽っていた心を、遊佐さんの為にならばと覆っていたカバーを取っていく。
「貴方が男が嫌いとか、そんなこと知ったこっちゃない! 私は貴方が好きだからここにいる! えぇ気持ち悪いですとも。自分で言ってて何ってるんだこいつと思う程の変態発言をしましたよ。それでも貴方の黒パンストに欲情してしまったのは事実ですし、貴方と一緒にいたいと思ったのは事実ですよ!」
ドン引きしている関根さんと天使と音無さんを放っておいて、私は左手で遊佐さんを指さした。
「自分の意見ばっかり通ると思わないでください。貴方が男が嫌いだって言うなら、私が貴方が好きだって意見も通してもらいますよ。貴方の境遇に同情なんてしない。男なんだから可愛い子に手を出したいって気持ちが一切わからないわけじゃない。でも、それが人間なんですよ。それが男なんですよ! それと向き合って他の女性だって生きている」
多々さんが言っていた関根さんへの愛を、そして同じように思っていると言うことに気がついたことを。
それも含めて全部吐き出す。
「多々さんだってそうです。あの人はもっと謙虚に言いまくっていますけれど、私はそれを言うことをしてこなかった。敢えて言います。男なんて全員変態なんです!」
「俺を巻き込むな!」
何か聞こえてきた気がしますけれど、そんなものはスルーします。
「変態なんです! それに向き合ってるんです! 不幸な体験をしてしまったのは事実です。遊佐さんはそう言う、無理矢理したいとか、身内でしたいとかそう言う変態に出会ってしまっただけなんです」
「け、結局変態って叫んでるだけだろうが! そんな言葉に何の意味がある!」
遊佐さんの言葉も最もだ。
と言うよりも真っ赤になっている遊佐さん可愛い。ハスハス。
「ここに貴方に愛を与えたいって変態が居る!」
そう叫んだ瞬間、遊佐さんは驚いたように俺の方を見てきた。
「貴方に愛を与えたいと、その黒パンストを脱がしたいと、黒パンストを被りたいと、貴方とエッチをしたいと、そう思っている変態がここに居る。貴方が会ってきた変態とは違う変態が、ここにいるんです」
今思うと何故私は変態で話をしているんでしょう?
普通に全ての男が同じようなことを考えても、別のことをする人も居ると言うことを伝えればよかったんじゃなかったんでしょうか?
まぁいいです。言ってしまったことは言ってしまったこと。
「加えて言うならば、貴方に愛してほしいと言う変態でもあるんです。幸せにしたい変態でもあるんです」
ゆっくりと、私は遊佐さんへと歩いていく。
傍から見れば、変態が美少女に近寄っていく光景だ。
上半身裸で血だらけの変態。実に危ない絵と言えるだろう。
だけれども下を俯いたまま動かない遊佐さんは、下がることもしなかった。
「罵っていただいても構いません。ただ私の思いだけは受け取っていただきます。そして、どうして苦しいのか教えてあげましょう」
私はうつむいている遊佐さんを、左手だけで引き寄せて抱きしめた。
「ようこそ変態の世界へ。その胸の痛みが、私の愛を認めてくれている何よりの証拠なんですよ」
ゆっくりとそう告げると、遊佐さんはポロポロと涙をながしていた。
きっと周りに見えない様に泣いているのだろう。
だからそっと他の人に見えないようにしながらも、私は強く、強く遊佐さんを抱きしめた。
「死んだ世界戦線にお帰りなさい。遊佐さん」
「わた、しは。戻ってもいいんですか……? こんな、反乱を起こした私を……」
「勿論です」
愛が芽生えたわけでも無い。
私が彼女に愛されたわけでもない。
ただ私が変態発言をして暴走して、彼女が私の愛を認めただけだ。
そして――彼女が人間に戻っただけだ。
「タッ君……じゃないよね。勿論」
「うわ怖。メンヘラっぽい」
「……関根。馬と鹿な?」
「それにしても、すげー演説だったわ。感動したね」
「やっぱりタッ君と同じ美的センスを持っているようだね」
「やはりお尻ですかね」
「改めて皆さん。NPCこと天乃夕緒だ。驚いたか?」
第46話《Panty&Stockings With kneesocks》