紅葉秋さん評価ありがとうございます。
最近だと殆どランキングに入っていて、非常に嬉しい限りです。
体調が悪くなる季節で自分も風邪を引いてしまってるので、皆さんも体調にはお気を付けください。
俺はとある人物を訪ねていた。
「やっほーゆいにゃんお久しぶり!」
「これはこれは多々先輩じゃないですかー!」
それはゆいにゃんだ。以前一緒にライブをしてからかなり長い間出番の無かったゆいにゃんだけど、ここで漸くゆいにゃんの出番が来たのである。
「どうかしたんですか? 関根先輩に飽きてあたしを誘いに来たんですか?」
「俺をそんな貧相な体で何とか出来ると思うなよ。それにしおりのことを諦めるはずがないだろ」
「誰が貧相な体だコラァ!」
と言う風に常に喧嘩腰になってくるゆいにゃんにため息を吐いてから、俺はその振り回す腕を右手を前に出すことで止めた。
「今回ここに来たのはきちんとした用があるからだ。まずはこれ、ポスター」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
取り敢えず宣伝用のポスターを見たゆいにゃんは止まっていた。
まぁそうだろう。そこには岩沢ラストライブとデカく書かれているのだから。
「え、えっと先輩これ――」
「そこに書いてある通りだ。まさみちゃんは自分の音楽を追い求める為に一時的にガルデモを抜ける。そのポスターを貼るのが一つ目の……ってなんで泣き出してるの!?」
「い、岩沢さんはもう歌ってくれないんですか……?」
「違う違う! はいこのハンカチで目元とか拭きな。女の子が簡単に泣くもんじゃないよ」
ハンカチを渡してから、俺は再びため息を吐いた。
この子が本当に――ガルデモのメインボーカルとして相応しいかを見に来た。
「そこでだ。次期ガルデモのメインボーカルに相応しい人物がいないか話してた時に、二人の名前が上がったんだ」
「二人、ですか?」
「一人は俺。まぁこれでも軽音部でボーカルしてたし、ギターも弾こうと思えば弾けるからな」
それに対してゆいにゃんは納得していた。
以前一緒に歌ったこともあるし、先輩ならと言っているゆいにゃんに認められる気がして少し嬉しい。
「そしてもう一人が、ゆいにゃんだ」
「あ、あたしですか!?」
「そう。因みに推薦したのは俺とまさみちゃん。ひさ子ちゃん達は知らなかったみたいだけれど、君が一人でライブしてたのをまさみちゃんは良く見てたらしいよ」
「い、いわしゃわしゃんがあしゃしのりゃいぶを!?」
「ごめん翻訳してくれると助かる」
驚きすぎて何語喋ってるかわけわからなくなっていたゆいにゃんを落ち着かせてから、本題を話す。
「ゆいにゃん。俺は俺よりも君をボーカルにしたいと思ってるんだ。だから、引き受けてくれないか?」
真っ直ぐにゆいにゃんの瞳を見て言う。
ゆいにゃんの瞳にあるのは喜びと、困惑。
本当に自分でいいのだろうかと言う葛藤が、彼女の中で起こっているんだろう。
「まぁそんなにすぐには決められないから、今日の夜しおりの部屋に来てくれる?」
「関根先輩の部屋にですか?」
「そう。知ってると思うけれど俺達はいつもパジャマパーティをしてるからね。ちょっと見に来てご覧?」
「はい!」
嬉しそうに応えるゆいにゃんを見て、前途多難だなぁと思った。
俺の予想は当たった。
「……」
ゆいにゃんにとって憧れの人物四人がゆいにゃんを取り囲むように座っているのだから、ゆいにゃんが黙ってしまうのもしょうがないだろう。
つまり言えば、SMAP好きの周りをSMAPが囲む様なものなのだ。
いつもテンションマックスのゆいにゃんでも黙ってしまうのは仕方がない。
「ってわけで、この子が俺とまさみちゃんが推薦したゆいにゃんです。しおりとみゆきちちゃんは知ってるよね?」
「あの時一緒にバンドした子だぜぃ!」
「覚えてるよ」
「ってわけでゆいにゃんのことを知らないのはひさ子ちゃんだけです」
そうなのかと呟いたひさ子ちゃん。軽く疎外感を受けている様ですが、そんなことは無いから大丈夫。
だってひさ子ちゃんは元々胸の大きさで疎外感を受けてるから。
「えっと、その……ここは天国ですか?」
「落ち着けゆいにゃん。ここは現実で、天国なのはお前の頭の中だけだ」
「誰の頭がヘブン状態だこのやろう!」
「と言うわけでノリもいいです」
自分がどういう状況にいるのか思い出したゆいにゃんが再び黙る。
もしかしてこの子割とめんどくさい子?
だとしたらもうごめん無理だわ状態に変わるだけなんですけどね。
「取り敢えずだ。ここはそういうことを話す場所じゃないだろう? パジャマパーティしようぜパジャマパーティ」
「おぅ……。いつになくまさみちゃんがノリノリだ」
「たまにはいいじゃんか。取り敢えず、戦線のメンバーで誰が一番カッコイイか、加点方式で考える方でやろうぜ」
因みに前回は減点方式でやった結果、最初100点だったはずの持ち点が-1000点までなってしまい無難な音無君が優勝しました。
「今回は誰をエントリーさせる?」
「前回は音無、松下五段、藤巻だったから今回は、日向、多々、TKでどうだ?」
なんというか無難な様で難しいメンバーを選んだなひさ子ちゃん。
「最初の持ち点は0点で。まずはTKから行こうか。じゃあ順番は、ひさ子ちゃん→まさみちゃん→ゆいにゃん→みゆきちちゃん→しおり→俺の順番で行こう」
「オッケー。なら最初はあたしか。TKは……ダンスが上手い。70点」
「最初から高評価だな。次は私か。TKは……TKは……」
まさみちゃんが悩み始めた。
おいまだ二人目だぜ? もっとあるだろTKは!
「英語が……上手いのか? 30点」
「TKぇぇぇええええええ!」
最初から酷すぎるよ! 普通最初の方は沢山あるから点数高いんじゃないの!?
「あたしですか!? TK先輩……アホですね! 10点!」
「それは長所じゃないだろ!」
だがそれで通ってしまうのがパジャマパーティクオリティ。
「次は私? でもTKのこと私全然知らないし……。言ってることがカッコイイから50点で」
知らないと言っているのに高評価を付けてあげるみゆきちちゃんマジ天使。
だがここに、もっと酷い奴がいるのを俺は知っている。
「タッ君には負けてるから10点」
「お前それやめてやれよ。前回それで-100点つけただろ?」
「えー。じゃあ11点」
ごめん。俺には君を救うことが出来なそうだよ。
因みに内心喜んでるから別に悪いとかそういう気分では一切ない。バカップルの名は伊達ではない。
「最後に俺か。TKは優しいし、いつも何かと気を使ってくれるから85点」
最終的な点数は256点でしたと。
TKの点数256と付けてから、次の人物に移る。
「次は日向君で。はいひさ子ちゃん」
「日向か。あいつは最古参のメンバーだし、あたし達のことを色々しってるから何かと気を許せるんだよな。80点」
「確かにそうだな……。以外と気も使えるしな。75点」
お、流石日向君かなりのいい点数だ。
「ひなっち先輩はアホですね! 1点!」
ここに酷い後輩がいた。
やめてやれ。ひさ子ちゃんが吹き出しそうになってるから。
「日向君かぁ……。ちょっとあぁいうチャラい感じ苦手かも。30点」
それでも1点とか10点とか言わないだけマシだと思った俺は問題ないはず。
「タッ君のケツを狙ってるから1点」
酷いと思うかもしれないけれど、実際ホモホモしいのは俺も音無君も感じてるから文句は言わない。
そして誰も否定しないところが妙に現実感を見せていた。
「……一応優しいし60点」
日向君の点数は……247点。
最初の頃はいい点数だったはずなのになぁ。
「次は多々だけど……どうすっか? お前の分なしにして、それを1.25倍して換算するでいいか?」
「それでいいよー」
「じゃああたしからか。……加点だとなぁ。頭がいい。60点」
「次は私か。いつも私達ガルデモのことを思ってくれてて、自分の命を削ってまで作業をしてくれていたから95点」
おぉ……とどよめきが発生した。
ひさ子ちゃんに至ってはもしかして多々のことを狙ってるのかとか言い出してる。
因みにしおりが俺じゃなくて遂にまさみちゃんのことを睨みつけたと言うことは、本気で危機感を覚えているのだろう。
どこで俺フラグ立てたっけ?
「多々先輩は……アホですけど推薦してくれたので50点」
「多々君は運動もできるし頭もいいけど変態なのが玉に瑕かなぁ? 50点」
ゆいにゃんとみゆきちちゃんは辛口だね。と言うかみゆきちちゃん実はTKに気があるんじゃないの?
「タッ君は勿論100点。パーフェクト!」
「っていうと思ったよ」
ひさ子ちゃんが呆れていた。
一応計算してみるとなんと444点だった。
これは死ねと言われているのか? 喜んでいいのかわからない点数だぞ?
一応四捨五入したからそうなったんだけどさ。
「取り敢えず優勝は多々か。まぁわかってたとは言えここまで圧倒的になるとはな。これは岩沢と関根のおかげっていうこともあるんじゃないか?」
ひさ子ちゃんがニヤニヤしながら俺の方を見てきた。
ははっ。でもここにいるのはある意味俺の身内だから、俺が一番高いのは当然的な?
むしろ一番高くなかったらどうしよう的な?
「岩沢さんにタッ君はあげません!」
「いや、要らないから大丈夫。私は多々と親友なだけで充分だからさ」
ニッコリと微笑みながら言ったまさみちゃんに、俺としおりは抱きついた。
「「師匠!」」
「お、おいおい二人共抱きつくなよ。照れるだろ?」
「照れた岩沢さんも素敵です!」
「まさみちゃん超可愛い! イタタタタ!」
しおりに思いっきりつねられたせいで体がよじれ、二人してまさみちゃんを押し倒す形になってしまった。
しかもこの最悪のタイミングで扉が開かれる。
「貴方達もう消灯の時間よ。早く部屋に――」
天使ちゃんに見つかりました。
どう考えても俺としおりでまさみちゃんを押し倒しているこの状況。
傍から見れば3Pの準備ですねわかります。
天使ちゃんも逆にどうやって注意をすればいいのかわからないのか、俺の方を見て停止したままです。
「……テイク2を所望します」
「わかったわ」
どうやら頭の中が荒々しくなっていた天使ちゃんは一度戻ると、再び扉を開いた。
その間にしおりによって布団の中に体を入れさせられてその中にしおりも入ってきたので、布団の中で俺がしおりに抱きつく形になってしまった。
これがラッキースケベってものですか!
「貴方達もう消灯の時間よ。早く部屋に戻りなさい」
「あ、あぁ」
「ところでさっき男の声が聞こえたのだけれど、誰かいたの?」
「いやいやいないって。ここは女子寮だぜ?」
「ところでさっき雨野君の姿が見えたのだけれど、雨野君はいたの?」
「いやいやいないって。多々は今頃自室でぐっすり眠ってるからさ」
どうも。しおりちゃんのベッドの中でその柔らかい体の感触を満喫している多々君です。
「そう。ならいいわ。そう言えば今日は教師の先生達が寮の周りを囲んで、雨野君を確保する為に寝ずに待っているそうだから本当に雨野君がいなくてよかったわね」
「……しおり、麻婆豆腐の食券あげるから今日は少しだけ勘弁してくれって言って。青春のタメだって……」
「そ、そうだ。あたし麻婆豆腐の食券が余ってるんですよ。ところで生徒会長さん。青春を謳歌したいあたし達に時間をくれやせんかねぇ?」
モロ麻婆豆腐の言葉に反応している生徒会長に気がついた全員が動き出す!
「そ、そうなんです。実は私も余ってて……」
「あたしもだ。なんなら数枚余ってるぜ? 誰かもらってくれる人いないかなぁ?」
「私もだ。うどんにかけたんだが合わなくてな」
「あ、あたしも持ってまーす!」
「……青春の為なら仕方ないわね。ここはそう言う場所だもの」
そう。仕方ないのと自己完結しながらところでと言った。
「余っているなら麻婆豆腐の食券を貰えるかしら? 勿論別の食券と交換するわ」
「当たり前ですよ!」
しおりの引き出しから麻婆豆腐を引き出したみゆきちちゃんは自分の分も合わせてそのまま渡した。
因みにしおりは動くことが出来ないので我慢している。
「……明日の授業に遅れないようにね」
『はい!』
俺以外の全員が答えたことを確認してから、天使ちゃんは去っていった。
ふぅとため息を吐くと、しおりがひゃんと声を上げた。
「く、くすぐったいよぅタッ君」
「――で、どうするんだ多々。お前今日は部屋に戻れそうに無いぞ」
ひさ子ちゃんが下を見ながら言った。
どうやら本当に教師達が俺を捕まえる為に躍起になっているらしい。
因みに女子寮に入り込んでこないのは、前回入り込んでいたことがバレて女子から非常に多くの苦情が来たからである。
俺は別にいいらしい。何故?
「最終手段を取るしかないね」
「関根まさか――」
「タッ君を、あたしのベッドで寝かす」
衝撃発言に――俺どころか全員の思考が止まってしまった。
つまり俺としおり、初めてのベッドイン!?
「ちょ、ちょっと待てよ。それは流石にマズイだろ。ヘタレとは言え男子を自分のベッドで寝かすのは!」
「大丈夫。あたしも一緒に寝るから」
「いや全然大丈夫じゃないから!?」
「ひさ子ちゃん声大きい。バレちゃう」
その言葉で声を小さくしたひさ子ちゃんだけれど、今俺ですらテンパっていることに対応出来るはずもない。
「そもそもそれでバレないわけがないだろ?」
「大丈夫。一日中出てこなければ教師達も授業があるから向かう」
「――俺の鋼の理性に賭けるしかないのか」
「いやお前の理性は豆腐レベルだからアウトな」
綺麗に却下されてしまった。
「でも結局の所寝る場所はここしかないから、ここで寝るしかないんだよ?」
その言葉に俺は何も言い返せない。
ならば、ならば――ッ!
「今すぐ寝ればいいのか。おやすみ」
そして俺は現実逃避する為に――眠りに就いた。
次回予告
「おはようしおり。いい朝だね」
「ねぇタッ君。あたしに隠し事してるでしょ?」
「うん。ごめんねしおり。いつも迷惑ばっかりかけてるよね」
「タッ君ダイジョーブ?」
「――二人ともそう言う話は別の部屋でしてくれないかなぁ?」
「あ、雨野!? こんな時間に帰ってくるなんて珍しくないか!?」
「反省室に行きたい奴はどいつだー?」
「ねぇタッ君……したい?」
第29話《Virgin Night》