俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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 間違えて一度これを投稿してしまいました。
 い、一瞬だし皆見てないよね……?
 この作品が投稿される頃、私はネズミの国に行っているでしょう。
 悔しむが良い!
 嘘ですすみません。
 取り敢えず今回も頑張りますので、ぬるーりと行ってみましょう!



027 《I Like Song》

「今回のオペレーション、人が注目することが目的なんだよね?」

 今回のオペレーションは天使エリア侵入。

 つまり女子寮の天使ちゃんの部屋に入ろうって言う空き巣的な行動なんだけれど、相手が天使ちゃんだから許されるであろう。

 因みにしおりの部屋に突入できるのは俺だけで、他の男子が入ってきたらその首貰い受ける。

「そうよ。それで――多々君の頬についている紅葉は何かしら?」

「お察しの通りでございます」

「セクハラをしたの。最低ね」

 どうやらみんなの中ではセクハラをした扱いになったらしい。

 新曲は俺達が秘密で運ぶことにした。

 その方が盛り上がるだろうし、俺がその方がいいと思ったからだ。

「何か考えがあると見ていいわね?」

「女子寮から見れないギリギリの所でライブを行う。今回のライブのメンバーは、しおり、みゆきちちゃん、ひさ子ちゃん、まさみちゃん、そして――俺だ」

「貴方も歌うの? 確か学園祭で歌ったのよね?」

 その言葉に頷くと、繋げる様に日向君が口を出してきた。

「因みに多々の人気は凄いんだぜ? その時はバスケの試合でバスケ部に大差をつけて勝った英雄なだけじゃなく、その後出店で美味しいと評判になりガッポガッポ。更にはその後バンドまで披露って言う無茶苦茶ぶりだ」

「なんつーか、やっぱ多々ってすげーのな」

 音無君が尊敬の目で見てくれていたけれど、今回はあくまでも俺とまさみちゃんの夢を叶える為の土台になってもらうからね。

「集客数ならその方が上か……。いいわ多々君。貴方にまたプロデュースをさせる。ただし前回の様に今詰めすぎて餓死しないように!」

「りょーかい。今回はしおりとまさみちゃんが見張るらしいから大丈夫さ」

 解散と言われてから、俺は手に持ったマイクをクルクルと回しながら移動する。

 軽音部の部室で現在活動を行っているメンバーに対し、まだ俺が参加することは伝えていない。

「やーやー皆、ただいま」

「出た最低男」

 ひさ子ちゃんの言葉に胸を打たれた俺はその場に凍りつき、それからガクンとうな垂れた。

 そのまま窓の方に向かうと、足をかける。

「ちょっと……死んでくる」

「待て待て待て待て! お前が悪いわけじゃないのは岩沢から聞いてわかってるから! 関根だって怒ってないし、からかっただけだから!」

 しおりの方を見ると、頷いていた。

 どうやら本当に全てを理解した上で怒っていないらしい。

「タッ君の顔を見れば、タッ君が今まで悩んでいたことを打ち明けて気分が良くなったことくらいわかるよ。だってあたしはタッ君の彼女だから」

「……ごめんしおり。一番に話せなくて」

「距離が近ければ近いほど、話せないことはあるもんね」

 認めてくれたしおりに謝ってから、俺は自分の全てを話した。

 自分がNPCかもしれないこと。

 自分が自分であることを認めさせようとして必死に生きて、結果的に周りが見えなくなってしまったこと。

 そのせいでまさみちゃんを泣かせてしまい、最終的にキスをされて仲直りしたこと。

 まぁ実際に会ったことだけれど書いてみると割と重かったりありえなかったりするよね。

「そう……か。お前はそんな大きなことを抱え込んでたんだな。同じガルデモのメンバーなのに見抜けなかった。わりぃ」

「ごめんね多々君。ずっとただ下ネタとネタが好きなだけな男の子だと思ってた」

 やっぱりみゆきちちゃんは天使なのに俺に冷たいよぅ!

 こらしおり! 可愛い奴めと言いながら抱きつかない! そこ変われ!

「正直に言ってあたしは気がついてたよ? でもタッ君が言うまで待ってたんだ」

「えぇ……。流石俺の嫁!」

「「イエスフォーリンラブ!」」

「うわっ。結局またお熱いカップルに逆戻りかよ。いいのかよ岩沢」

「いいさ。私達にはこの日常があって、多々がその方法を見つけられるまでこれが続けば」

 うっわー。まさみちゃんが達観してこっちを見てて少し心苦しいよ。

 何? もしかしてまさみちゃんって俺を困らせる為にキスしたの?

 ――それはないか。まさみちゃんにはまさみちゃんの思いがあって、俺にはそれに応えることができなかったと言う現実があるんだから。

「じゃあ今回の作戦……の前に一つだけ聞きたいことがあるんだ。いいかな?」

「あぁいいぜ」

「まさみちゃん。――好きな歌を歌う覚悟はあるかい?」

 唐突に告げた俺の言葉に、まさみちゃんは止まってしまっていた。

 好きな歌を歌うって言うのは、言葉にする程簡単なことじゃないんだ。

 勿論好きな歌の中には、バンドではできない歌もあるんだから。

「おい多々それは――」

「歌う覚悟はある。私は自分の歌が通用することを学んで、今回覚悟を決めることができた。だから、覚悟はある。出来ている」

 まさみちゃんの視線を真っ直ぐに受けて、俺はその瞳に嘘偽りが無いことを確認する。

 答えは勿論、嘘は無いだ。

「なら決まりだ。今回のライブをもって、まさみちゃんをガルデモのリーダー及びメインボーカルから外し、別の人物をガルデモのメインボーカルとして受け入れる。ガルデモのリーダーはひさ子ちゃんにして、副リーダーをみゆきちちゃんとする」

「ちょっと待てよ多々! お前今自分がなんて言ったのかわかってるのか!?」

 ひさ子ちゃんが俺の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。

 背中はかなりヒリヒリするし、凄い痛いけれどここだけは譲れない。

「あぁ分かってる。でもこれは必要なことで、いつかはそうしなければならなかったことだ」

「こいつがッ! どんな思いでガルデモをしてたのかわかってるのか!?」

「分かってる。だからこそ、ひさ子ちゃんもわかるだろ? ここで歌い続けたって、まさみちゃんが感じるのは歌えたと言う思いじゃない」

 俺はひさ子ちゃんの方を真っ直ぐに見て、告げた。

「次回を引退ライブとして、ガルデモからまさみちゃんを脱退させる」

「てめぇ……!」

「待ってくれひさ子! 多々。それは本気で言ってるんだな?」

 まさみちゃんが俺の方を見てきて、俺はゆっくりと頷いた。

 まさみちゃんの思いは、過去は、既に俺の心の中で理解できていた。

 好きな歌を歌いたいと言う願いに対して、バンドでしか歌えないのであってはまさみちゃんは永遠に歌を歌うことが出来ない。

「まさみちゃん。好きな歌を歌う覚悟って言うのはこういうことだよ」

「あぁわかってたさ。多々が私のことを思って言ってくれてたこともさ。あんたはそういう奴だ。自分が全てを背負って、何とかしようとする」

 ふっと笑ったまさみちゃんは、真摯な目でひさ子ちゃんを見た。

 決意を秘めた瞳を見て、ひさ子ちゃんは手を離してから苦々しそうに俺を見る。

「代わりのメンバーは目星もついてる。それと今回のライブ、俺も参加するつもりでいる」

「お前、歌ったら強制的に自分の感情を変えられるんじゃ――」

「構わない。門出は盛り上げないと、可哀想だろ? 幾ら自分が好きな歌を歌いたいからと言っても、彼女がこのガルデモで活躍してくれていたことは周知の事実だ。なら俺達は最大限に盛り上げる様にするまでだ」

 もう全てを自分で背負うような真似はしない。

 と言うかしたら今度からしおりだけじゃなくてまさみちゃんからも拳が飛んできそうだし、変なことはもうできないなぁと苦笑しつつもひさ子ちゃんの肩を叩いた。

「無茶を言ってるのは分かってる。でもまさみちゃんの為なんだ。協力して欲しい」

「……ったく。お前はいつもそんなんだから、周りから馬鹿って言われるんだよ。最初から言えばいいんだ言えば。岩沢の為に岩沢をバンドから抜けさせて欲しいって。そう言えば誰も反対なんかしないよ」

「でもまさみちゃんだってバンドを抜けたくて抜けるわけじゃないからさ。それに――高々一定時間だけ抜けるんだから、そこまで憎む憎まずの関係にしなくてもいいでしょ?」

 部屋の空気が止まった。あれ? 俺なんか変なこと言った?

「待て多々。お前つまり、一時的に岩沢をバンドから放すつもりだったんだよな?」

「そうだよ。だからNPCには無期限の活動停止ってことでラストライブって――」

「ややこしい言い方するんじゃねぇ! そんな言い方したらもう二度とガルデモに戻ってこないみたいな言い方になるだろうが!」

「えぇ!? だってまさみちゃんの歌いたい曲の中にも、バンドで歌わなきゃいけない様な曲もあるだろうけど、結局バラードとかはバンドとは合わないからその歌を歌うだけの時間を貰おうかと――」

「お前は伝え方が下手すぎる!」

 ひさ子ちゃんにすごい怒られたけれど、まさみちゃんはクスクスと笑い始めていた。

 その笑顔を見てひさ子ちゃんも怒るのをやめ、ちょっと照れている。

「ありがとな、ひさ子、多々。やっぱり私はこのバンドが大好きだ。勿論関根と入江もな」

 そう言ったまさみちゃんの表情は凄く嬉しそうで、この考えを出してよかったなと思えた。

 でも俺が勝手に話を進めたのは事実なので、後でしっかりと謝ろう。

「多々はAlchemyは歌えるな?」

「勿論だよ。全部の曲を歌えるからバッチリ。楽しみにしててよ、まさみちゃん。と言うか久しぶりにしおりとみゆきちちゃんと合わせるから頑張らないとね!」

「あたしに任せなさい! 全部完璧に再現してやるぜぃ!」

「わ、私も頑張る! 岩沢さんの最後のライブなんだから!」

 いや別にこの世界の最後のライブと言う意味ではないんだけどねと思いつつも、俺達は決めたんだ。

 必ずこのライブを成功させるって。

 

 

 

「――で、こういうことなのね」

「ふぁい」

 思い切りゆりちゃんにボコボコにされた俺は、正座をしていた。

 ゆりちゃんに全く話さずにまさみちゃんの無期限活動停止を言ってしまったので、非常に怒られたのだ。

「彼女はそれをすると消えるのかしら?」

「普通……ならね。ただ一つだけ約束をしてるから、多分消えないと思うよ」

「約束ね。貴方が消えるまで消えないと言う願いだったかしら? 本当にそれだけで何とかなるのかしら? もしも岩沢さんが消えてしまえば、陽動部隊は大打撃を受けることになるわ」

 陽動部隊が活動できなくなれば、勿論オペレーショントルネードを行うことも出来なくなる。

 ある種の賭けとも言えるこれだけれど、戦線の皆に言わないならば消えてしまってもいいと思ってる。

 この世界で消えると言うことは報われると言うことだから、それはある意味この世界に満足できたってことになる。

 そうなれば皆も踏ん切りがつくだろう。

「そうなったら俺が責任を取るよ」

「そう。なら安心ね。それと、多々君。貴方に一つだけ言っておくことがあるの」

「何?」

 正座をやめてから、俺は立ち上がってゆりちゃんの方を見た。

「この世界に、銀髪の美女を見たと言う者達が何人もいるわ」

「それって俺が女装した時の奴!?」

「いいえ違うわ。一般生徒と同じ格好をした、長い銀髪の美女を見たと言うの」

 その言葉に――俺の思考は停止した。

 頭をフル回転させろ。

 覚えているはずだその存在を。

 そしてその存在が、この世界にいることがあると言う可能性を。

「貴方じゃないことはわかっているわ。心あたりは――ありそうね」

 冷や汗が止まらなかった。

 この世界に、()()()がいるかもしれない。

 だがどうして現れない?

 姉さんがこの世界にいるならば、俺のラジオを聞いてすぐにでも俺の所に来るはずだ。

 なのになんで、この世界で俺は会っていないんだ?

「この件については戦線メンバーで情報収集をしながら調べるつもりよ」

「なんでそんな……」

「その噂にはね、続きがあるの。その美女は微笑みながら言ったらしいわ。【貴方は人間かしら?】って」

 ゾクリと泡立つように俺の体を鳥肌が包み込む。

 聞いたことがあるセリフだ。最初のラジオの時にも聞いたことがあるはずだ。

「なんで、噂なんだ?」

「そりゃいないからよ。この世界に長い銀髪の美女なんて。天使の可能性も考えたけれど、それは無い。何故なら彼女は生徒会長で、この世界のNPCは生徒会長を見たと言うはずだもの」

 この世界には姉さんがいるかもしれない。

 そして姉さんは俺が考えている通りなら、俺と同じ存在か俺以上の存在だ。

「何かが起こり始めている。多々君もそれだけは頭に入れておいて」

「わかった」

 俺は天使対策本部を出てから、自分の体を抱えた。

 ありえない話かもしれないし、もしかすると本当に単なる噂なのかもしれない。

 銀髪の美女と言うセリフも、姉さんとは違う人なのかも知れない。

 でもなんだこの違和感は。

 何かを忘れている様な違和感は。

 一体何を、俺は覚えていないんだ?

 一体俺の体に何が起きたんだ?

 異変を感じる。どうしようも無いほど大きな異変を。

 それが酷く恐ろしく醜いものだというのにも、俺の心は気づいている。

「――俺は、これをなんとかしなきゃならない」

 そう確信めいたことを思いながら、歩き出した。

 




次回予告
「どうかしたんですか? 関根先輩に飽きてあたしを誘いに来たんですか?」
「違う違う! はいこのハンカチで目元とか拭きな。女の子が簡単に泣くもんじゃないよ」
「い、いわしゃわしゃんがあしゃしのりゃいぶを!?」
「落ち着けゆいにゃん。ここは現実で、天国なのはお前の頭の中だけだ」
「英語が……上手いのか? 30点」
「タッ君は勿論100点。パーフェクト!」
「貴方達もう消灯の時間よ。早く部屋に戻りなさい」

「タッ君を、あたしのベッドで寝かす」
第28話《All Night》

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