俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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022 《Crossing Cerebration》

「王様は――俺だ」

 引いたのは松下君だった。

「では1番は2番に膝枕をしてもらうといい」

『松下五段!』

 あんたって人は……男の中の男だよ。

「因みに私は1番。さぁ2番は誰だ!?」

「……あたしだ」

 言ったのはひさ子ちゃんだった。

 俺がひさ子ちゃんに膝枕をしてもらえばいいのかな?

「はぁ。命令なら仕方ない。おい多々、変な事するなよ」

「勿論だよ。変なことしたら――私の後ろの修羅が何かしてきそうだから」

 俺の後ろで憤怒の表情で見ているしおりを一瞥しつつ、俺はひさ子ちゃんの膝に頭を乗っけた。

 ――前が見えない。

「感想を聞いてみよう。多々、どうだ?」

「前が見えません」

 でっかい山が――あるんじゃよ。

 まるで富士山の様なでっかい山が、俺の前にそびえ立っているんじゃよ。

「まぁFカップですからね」

「Fカップだからな」

「Fカップなんですか?」

「Fカップじゃねぇよ!」

 ひさ子ちゃんは否定しているけれどこれはF(ふじさん)カップだよ。

「なぁ多々から聞いたんだけど、FカップのFは富士山のFらしいんだ。そうなのか?」

「多々、てめぇ岩沢に何を吹き込んでやがる!」

「え? FカップのFは富士山のFに決まってるじゃないか。それかひさ子ちゃんのF」

「くっ。殴りたいけどここで殴ったらあたしにもダメージが来る」

 ひさ子ちゃんのそんな行為を笑いつつ、そろそろ膝枕をやめようかなと思う。

 だって殺気を感じるから。

「そろそろいいや」

「ん? なんか少な――オーケー。そういうことか。ならあたしが殴るまでも無い」

 俺は立ち上がると、しおりが近づいてきた。

「――タッ君絶景だった?」

「絶景かな絶景かな!」

「ならばよし! 流石はひさ子先輩だぜぃ!」

「畜生あいつもそっち側だった!」

 甘いな。しおりが殺気を向けていたのは俺に対してだ。

 つまりしおりも膝枕させてほしかったと言うだけの話!

 俺が他の女の人に膝枕されるから怒るほど、しおりは器の小さい女じゃない!

「タッ君とあたしは別にそんなことしなくても愛は変わらないから問題はない。それよりもひさ子先輩の胸が下から見たらどうなのかをあたしは知りたい!」

「凄く……ユニバースでした……」

「アーッ!」

 二人して燥いでいると、がっちりと頭を掴まれた。

「お前ら――黙れ」

「「イエスマム」」

 死ぬのは勘弁と俺達は両手を挙げて降伏した。

 最強に立ち向かうのは最弱って決まってるから、平凡である俺達は何も致しません。

「浅はかなり」

「と言うか椎名ちゃんと遊佐ちゃん全然当たらないね。多分皆いたことすら気がつかないレベルで当たらないね」

「当たらなければどうということない精神です」

 遊佐ちゃんって何気ネタ知ってるよね。

「ところで雨野さんはいつまでその格好をするのでしょうか?」

「うーん、やっぱり今日中はやらされそうだね」

「なる程。では今のうちに写真を撮っておきましょう」

 唐突に滅茶苦茶写真を撮られた。

「何するのさ!」

「良いではないか。良いではないか」

「無表情で言うセリフじゃない!」

 きっと遊佐ちゃんは俺の天敵である。異論は認めない。

 だってネタを尽く使ってくるだけではなく、こちらのネタを封じ込めてくるなんて並大抵の相手じゃできないもん。

「ガンプラ、しませんか?」

「声優ネタ乙。君はオレンジの機体でも使っているがいい」

「貴方は何を使うのですか?」

「黒く塗装されたダブルオーライザー」

「はっ。そんなもので。そんなもので――ッ!」

「俺を舐めるなよ――」

 二人で言い合ったあと、がっちりと握手をした。

「貴方とは良好な関係が掴めそうです」

「こちらこそ」

 この子もまた、こちら側の人間だったか。

「じゃあ次やるわよ。王様だーれだ!」

「あ」

 引いたのを見て、俺は確信した。

「俺が王様」

 もうキャラなんて作ってられるか。

 俺は自分の頭の中の知識を総動員して考える。

 あるはずだ。俺がやるべき任務が、俺がなさねばならないことが――ッ!

 俺の中のラクス様が言っている。貴方は貴方のなすべきことをする為にここにいるのですとッ!

 残っているのは音無君、松下君、TK、椎名ちゃん、遊佐ちゃん、ゆりちゃん、しおり、ゆみきちちゃん、ひさ子ちゃん、まさみちゃん。

 7/10の確率で女子に当たるこの状況で、俺達は生き残らなければならない。

「10番が――3番へと決闘を申し込む!」

 10番は――音無君。

 そして3番は――ゆりちゃんだった。

「そう……。ここでリーダーを決める戦いを望むというのね……」

 立ち上がったゆりちゃんはそう言うと、音無君を睨みつけた。

「いいわ。やってやろうじゃないの。この闘争心を、この思いを――ッ!」

「いや。俺はお前と戦いたくないからパス」

「なんてことしてくれんのよー! 私がバカみたいに調子乗ってたみたいじゃない!」

「いや、そんなこと言われても……」

「貴方私のやる気がわからなかったの!? 馬鹿なの死ぬの!? 窓の無いビルの中に閉じ込めてやろうかしら!?」

「窓の無いビルってどこだよ!」

「私も知らないわ!」

 電波を受信したらしいゆりちゃんの暴走を見つつ、ゆりちゃんは溜息を吐いた。

「別にルール違反でもいいから、俺は決闘なんてしたくない。それでいいだろ?」

「まぁいいと思うよ。俺的には」

「ならいい」

 そうするとゆりちゃんは再び大きな溜息を吐いた。

「なら今度から音無君と多々君でラジオを行いなさい。放送室の占拠は私達戦線が行うから」

「「えー」」

「言うこと聞く人もいなくなってきたし、そろそろやめにしましょう。ここにいる全員が勝者よ。死んだ奴らから食券を奪う権利を与えるわ。あ、音無君と多々君は食券を奪う権利も奪われる権利も無いから」

 そういうことならいいか。

 ラジオを行わなきゃいけないのはだるいけれど、これはこれでまたいいだろう。

 やっぱり楽しんでいかなきゃね。

 

 

 

SIDE:???

 ――楽しそう。

 私は第二コンピューター室で笑っていた。

 ANGEL PLAYERは既に掌握しているから、影が現れることは無い。

 無理矢理卒業したくない人達を卒業させて、本当に全員が最高の気分になれると思っていたんだろうか?

 恐らくここに来た記憶を持たない開発者は、そこまで能がない人物だったんでしょう。

 愛が芽生え、それが成就すればこの世界が永遠の楽園に変わる?

 そんなはずがないでしょう? 永遠の愛なんて存在しないのだから。

 ――嬉しそう。

 私はモニターを眺めて笑みを浮かべる。

 そこに映っているのは人間。

 今日は王様ゲームをしていたらしい。

 今度ラジオをするようだから、放送室の音源を拾える様に調整しておきたい。

 久しぶりにここに来て面白いと言う感情を抱いた気がするわ。

 ここに来たのが同じ年代の人とは限らないし、時間が同じ時間を生きているとは限らない。

 例えばあそこで最古参として戦線を作り上げた日向君も、もしかすると音無君の未来から来たかもしれないし、逆に音無君が実は戦国時代に死んだ人物と言うことだってありえる。

 そういう時間という概念から切り離された世界だから、当然なんだろうけれど。

 ――私は神になった。

 理不尽な神に復讐したいと言うゆりちゃんの願いを、私は肯定的に捉えている。

 抗えない人生。

 理不尽な人生。

 そこに対抗できるのは、この世界だけだものね。

 現実なんて結局、苦しい思いをしていたという事実だけしか残らないもの。

 有能過ぎれば叩かれ、無能過ぎれば叩かれるそんな世界。

 かつて何かの漫画か小説で天才な妹と最低の兄がゲームの世界を攻略するのを見た時に、そんなことを話していたのをよく覚えている。

 ――方やバスケ部のエースかつ成績学年一位かつ容姿端麗な男性。

 ――方や普通の部員で成績一般。容姿も普通で好きな人が別の人を好いていた男性。

 下が上に理不尽な怒りを浮かべるのは当たり前だもの。

 分かり合えると信じていても、分かり合えない生物だもの。

「ふふふ。面白いよね、多々」

 私は笑う。慈しむように笑う。

 そこで笑っている多々が、好きな人の為に一生懸命な多々が可愛くて愛しくて。

「さぁいつになったら、貴方は気が付くのかしら?」

 この世界の現実に。

 私はそれを考えながら――再び思考の海に沈んでいった。

 

 

 

SIDE:多々

「はぁ。色々と面倒だったなぁ」

 女子寮のしおりの部屋にいる俺はそう言って寝っ転がった。

 ――俺は何か違和感を感じている。

 自分でも違和感ってわかるんだから、それはかなり大きなものなんだろう。

 戦闘を行う時の、あの冷静で的確な判断を行う頭。

 日常的で下ネタばかりブチ込む普通の俺の頭。

 まるで別の人が俺の体を動かしている様な、そんな感覚に陥ってしまっている。

「――そもそも、俺は死んだのか?」

 音無君が最初に自分が死んだことを認めなかったと聞いて、俺は一度疑問に思ったことがあった。

 それは俺の持っているこの記憶が、本当に俺のものかと言う疑問だ。

 いつも感じている、動かされている様な違和感。

 そして俺自身、本当にナニをしてテクノでブレイクな死に方をしたのかと言う疑問。

 もしも記憶通りだとすれば、頭がそれだけ良かったはずの俺がそんなこともわからなかったのかと言うこと自体が疑問に思っている。

 こんなことを考え始めればキリがないかもしれないけれど、それでも俺は必要なことだとわかっていた。

 これが俺にとっての、最善だとわかっていた。

「もし、俺が俺じゃなかったら――」

 このしおりが好きと言う気持ちは、一体誰のものなんだろうか?

 一体誰がしおりを好きだと思っているんだろうか?

「やめよう」

 ずっと考えていたらきっと俺は行き詰ってしまう。

 思考放棄とも言えるかもしれないけれど、俺という個人で考えられるのはここまでのはずだ。

 何よりも――心がこれ以上詮索してはいけないと拒絶反応を示している。

 この心が本当に自分のものなのかはわからないけれど、本当に自分のものなら確実にこれ以上考えれば俺という人格が崩壊するに匹敵することだと言うのは理解できた。

 俺には俺自身の謎が多すぎる。

「まぁ、今はしおりと一緒にいてしおりと一緒に暮らすことが出来ればそれでいいか」

 それが今の幸せで、俺が復讐を忘れない為に必要なことなんだから。

 




次回予告
「なる程。つまりオナ禁的な?」
「お前はツッコミのことしか考えてねぇのかよ! もっと音無単体で評価してやれよ!」
「おっきくて長いなぁ……」
「天使ちゃんがこの中に現れたって考えてオッケー?」
「右足以外はオールオーケー! 右足はデッドエンドですね」
『悪魔か!』
「じゃあ進軍しましょう。天使が来る前に、ギルドに行く必要があるわ」

「誰も死なせたくないんだ」
第23話《Guild》

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