取り敢えず予約している奴に評価とお気に入りのお知らせが間に合わなくて困っている位、多くの方に評価とお気に入りをしていただき感謝感激雨霰です。霞の改二待ってます。
お気に入りも350を超え、UAは10000の大台を突破いたしました。
連続投稿は次は10時30分ですので、どうかそちらの方もよろしくお願いします。
良いクリスマスを。
――それは突然のことだった。
俺達は忘れていたんだ。あの恐怖を。
「唐突だけど、親睦を深める為に王様ゲームを行うわ」
あの不条理を。
「勿論王様の命令には絶対服従よ」
ゆりちゃんと言う――暴君よ。
「命令に逆らったら、首掻っ切るから」
『了解しました! 全力でやらせていただきます』
拒否権なんて、最初から無かったのだ。
「と言うわけで王様ゲームをすることになったんだ」
「……あたし達ガルデモメンバーもか?」
「勿論」
俺はガルデモのメンバーを説得し、一つの空いている教室を丸ごと使っているゆりちゃんの所に向かった。
「全員揃ったわね。これよりオペレーション、キングゲームを行うわ」
「そのままだな」
「いいのよ。これより王様となったものの命令は必ず一つ聞かなければならない。また王様が選択できるのは数字であり、人そのものを選択することは出来ない。命令を聞かなかった場合、地獄を見ることになるわ」
全員が箱の中に入れられた紙を取って席に着くと、瞑想した。
『王様だーれだ!』
紙を開いた瞬間目に映ったのは――5の文字だった。
「やったぁ! 僕が王様だ!」
王様になったのはNPCこと大山君だった。
と言うか個性が無いはずの大山君が最初に当たるなんてかなり珍しい。
「じゃあ命令しないとね。9番の人は――2番の人に本気で殴られて」
全員が静まり返った。
理解はしていたんだ。この状況で普通な奴が普通なことを言うことくらい。
だけどだ。
「9番は……俺だ」
「2番はあたしだな」
野田君と対峙するひさ子ちゃんを見てそれはないだろうと叫びたくなった。
死ぬ。ガチで野田君が殺されてしまう。
何故ならばいつも拳を受けている俺が言うんだから違いない。
「本気で殴ればいいのか?」
「う、うん」
「ふんっ。貴様如きの拳に――」
言葉は最後まで続かなかった。
顔面を思い切り捻りを加えたストレートで殴られた野田君はそのまま飛ばされ――たまたま空いていた窓から落ちていった。
野田君リタイア。
「あたし如きの拳が何だって?」
理解はしていたんだ。このゲームが普通じゃないことぐらい。
「この王様ゲームの最後のルールを説明するわ。生き残った者が勝者よ」
そりゃねぇぜゆりちゃんよ。
どう考えても殺す気満々の人達がいるんですから。
「でも直接的に殺す方法は無しで、全員が殺される方法も無し。一人ずつ殺していきなさい」
一人ずつ消えていくのに何が親睦を深めるだ。
どう考えたってただの殺し合いだろう。
「あぁ音無君、彼が野田君よ。いつも大体最初に死ぬの」
「あ、あぁ」
音無君がちょっと混乱してるから黙ってあげてゆりちゃん!
と言うかよくここまで出来るな。逆にすごいと思うわ。
「じゃあ次に行きましょう」
「……わかったね音無君。これがゆりちゃんだよ。この王様ゲーム――当たればまず死ぬと考えていい」
「そんな王様ゲーム嫌なんだが」
「嫌でもなんでもしょうがないよ。考えるんじゃない感じろ。そうすれば全てが見えてくる」
悟った俺に対し、音無君も悟ったような顔をした。
全員が既に覚悟を決めている。
そして――しおりは必ず俺が守る。
俺達はゆっくりと紙を戻してからシャッフルすると、紙を引いた。
『王様だーれだ!』
「――よっしゃぁ! 俺が王様だぜ!」
引いたのは日向君だった。
その目は既に獲物を取る目になっているから、確実に一人を殺す方法を選ぶだろう。
「俺には見える、見えるぞ! 6番が5番の胸を揉め!」
空気が、止まった。
「最低ね」
「最低だな」
「本当の意味で最低だ」
「まさかこんな低脳なことをするとは思わなかったよ」
「最低」
「最低だ」
「なんでそんなに言われなきゃならないんだよ!」
だっていきなり6番が5番の胸を揉めなんて、ねぇ。
ん? 俺の番号? 5番。
「6番は誰だい?」
「ん。私だな」
まさみちゃんだった。
――ステイステイ。
これが反対ならば一番嬉しいんだけれど、まさみちゃんが俺の胸を揉むの?
俺がまさみちゃんの胸を揉むんじゃなくて?
「6番と5番を何故反対にしなかったんだ日向君!」
「え、いや。まさかこうなるとは……」
「さっさと終わらせよう多々」
いやなんでそんなにウキウキしながら近づいて来るんですかまさみちゃん。
そしてまさみちゃんは――普通に俺の胸を鷲掴みにした。
いやそんなに無いんだけどね。
「や、やめようよまさみちゃん! 不毛な争いだよ!」
「いいじゃないか。男なんだし」
「傍から見ればどう考えても女の子同士の絡み合いだよ!?」
クソッ! どうして俺は女顔なんだ!
これじゃあどう考えたってボケのはずの俺がボケきれていない!
「……ふぅ。満足した」
「オイコラ満足ってなんだオイ」
幾らまさみちゃんでも許せることと許せないことがあるんだぞコラー!
「それじゃあ多々君が社会的に死んだところで次にしましょう」
「社会的に死んでないから。俺普通に生きてますから。今日は俺がアウェーなの? 俺がアウェーなんですか?」
しかし俺の思いは無視されてそのまま次のゲームが始まる。
『王様だーれだ!』
「わ、私です」
手を挙げたのは、みゆきちちゃんだった。
みゆきちちゃん。君が優しい子だということは知っているけれど、毎回毎回俺の心を的確に抉りに来るから危険だってことはわかってるかい?
だから俺は危険信号を受け取って構えているんだ。
「1番の人と4番の人で服を変えてください!」
「ほらー。そうやってまた俺を狙い撃ちする」
皆俺の事大好きなの? ほら1番。もうわかってやってるでしょこれ。
「4番あたしー」
「――ねぇみゆきちちゃん。怒っていい?」
「ふぇ!?」
俺としおりで服装を入れ替えるって、男装と女装が出来るだろうが!
なんでしかもよりにもよってしおりなんだよ!
「ほらさっさと着替える!」
「隣の部屋で着替えてきますねー」
しおりに連れて行かれた俺は、溜息を吐いた。
「もう俺のハートはブレイク寸前。ヤブからスティックに色々なことが起きすぎて頭がバーニングだよ」
「あはは。でもあたしは嬉しいよ? ずっとタッ君の匂いに包まれるなんて」
「しおり……」
嬉しいことを言ってくれるなと思いつつもブレザーを脱ぐと、しおりに渡す。
そしてしおりも赤くなりながらも自分の着ていた服を差し出してきた。
……お互い下着姿なんだよなぁ。
「変な過ち犯すなよー」
廊下からゆりちゃんの声が聞こえてきて、俺のバーニング寸前だった息子がフリーズしていく。
何故ルー語になりかけてるかって? そりゃ俺の頭がバーニングだからだったよ。
「着替えちゃったね」
「そうだね」
女装してしまったけど……傍から見れば別に女の子だしいいかな。
むしろこういう趣味に目覚めてしまいそうになるけれど、俺的にはそういうのはしおりがやってくれればいいから問題ない。
可愛いしおりを見ていれば、俺的には問題ない。
「なんて言うか……銀髪美女?」
「美少女では無いんだね。しおりも髪を纏めてるからイケメンに見えるよ。元々可愛いしね」
二人でほんのり顔を赤めながら、呼吸をして互いの香りを楽しむ。
まるでしおりに抱きしめられているみたいだ。
「じゃあ行こっか」
「そだね」
扉から出てくると――ゆりちゃんが驚愕の表情を浮かべていた。
「驚きだわ。驚きすぎて言葉が出ないわ。なんで貴方そんなに美人なの?」
「いいじゃないですか。私は元々女顔ですし」
「言葉遣いまで変えてキモイはずなのにキモくないわ。元々声が高いから少し声が低い美女にしか見えないわ」
「それは嬉しいことですね」
取り敢えず一発殴られることも無く、俺は席についた。
こういうのはキャラ作りが大切だからね!
「と言うことで女装した多々です。よろしくお願いいたしますね」
『言葉遣いが変わってキャラまで変わってるのに、全くキモくない』
「声援ありがとうございます」
どうやらこのキャラでは違和感が無くなるらしい。
しおりも隣で胸を張っているけど、制服伸びちゃうからやめて。
「……なんか普通に女として負けた気がする」
「そう落ち込むなよひさ子。女としてのここの部分は明らかに勝ってるだろ?」
「どこ触ってんだ岩沢!」
胸を揉まれたひさ子ちゃんが真っ赤になって怒っていた。
「――でもさ。いつも美容に気を遣ってて、料理も完璧にできて、運動もできて、勉強もできるんだろ? ここにいる誰も叶わなくなるさ。この中でもダントツに最下位だった性格も何故か女性モードだと普通になってるし」
「おい日向。それ言うとお前どう考えてもホモに思われるからな」
藤巻君の言葉にハッとした日向君からとてつもなく距離を取ると、俺は座った。
これからは日向君じゃなくてホモた君と呼ぼう。
「ホモた君は窓から飛び降りて死ねばいいのです。と言うか何故生きているのですか? このような命令を出しておいて自分は何もせずにいることを烏滸がましいとは思わなかったのですか? 死になさい。今すぐここの窓から飛び降りて、生きていてすみませんでしたと叫びながら死になさい。ほら早く行動しなさい。さっさと、ハリーハリーハリーハリー……」
「うぉぉぉおおおおおお! 生きていてすみませんでしたぁぁぁああああああ!」
飛び降りていったホモた君を一瞥しながら、俺はゆりちゃんに向けてにっこりと笑みを浮かべた。
「さぁ続けましょうか?」
「え、えぇそうね」
ちょっとテンパってるゆりちゃんの持っている箱に全ての紙を戻すと、再び紙を取る。
『王様だーれだ!』
「俺か」
取ったのは音無君だった。
「そうだなぁ……。じゃあ3番は女装している奴に喧嘩を売れ」
――え。
「人は対象に選べないんだろ? 俺は別に女装していると言うことしか選択してないぞ?」
「……そうね音無君。この世界に女装している人が不特定多数いる可能性がある以上、それは個人を選択しているのではなくてグループを選択しているわ」
そして3番は――藤巻君だったらしい。
ガクガクと震えながら俺の方を見ていた。
「因みに、時間がかかるならこの中で対処できるものは対処するわ」
「ま、待ってくれゆりっぺ。考える時間を――」
「ない」
バッサリと切られた藤巻君は意を決したように俺の方を見たので、俺はにっこりと微笑みながら藤巻君に近づいた。
「なんでしょうか?」
ドドドドドと効果音が出そうな程威圧感たっぷりでそう言うと、藤巻君の掻いている汗の量が尋常ではなくなっていた。
「新入り……後で絶対殺す」
「何か御用でも?」
更に威圧感を酷すると、最早汗と言うより滝になっていた。
「リア充の癖に女装してんじゃね――」
「最後の言葉はそれでいいかな?」
「――すみませんでした許してください」
「無☆理」
俺は藤巻君頭をガッシリと掴むと、そのまま窓の外へシュートした。
今日は雨じゃなくて人が降る日です。皆さん気をつけましょうってね。
「……名前は知らんがすまん」
「えぇ音無君。酷いわ。恐らく今までで一番酷いお題だったわ。と言うか確実に殺させに行ったわよね?」
「ルールの穴をついたんだが」
取り敢えず席に戻ると、再び紙を戻してシャッフルしてからまた引く。
『王様だーれだ!』
「――あーっはっはっはっはっ! 私が王様だ!」
全員が高笑いをするゆりちゃんを見て思った。死んだと。
哀れな子羊を決める為に俺達はゴクリと喉を鳴らし――。
「3番、4番、5番は6番の蹴りを受けなさい」
3番は――大山君。
4番は――高松君。
5番は――しおり。
そして6番は――俺だった。
「こ、これは!?」
「彼女を彼氏に蹴らせると言う最悪の諸行!?」
「まさかゆりっぺはこれを狙って……!?」
全員がゆりちゃんの方を見ると、やっべと呟いているゆりちゃんがいた。
どうやら俺になることもしおりが選ばれることも考えていなかったらしい。
まぁしおりの為に戦線のルールを破ってでも戦った俺だし?
「じゃあ大山君行きますよ」
「え? ちょっとま――」
「黄金の右足!」
走り出して放った蹴りは大山君の首に直撃し、ボキリと言う嫌な感触を足に残しつつもそのまま大山君の体を床へと叩きつけた。
「大山君死亡」
「い、いいでしょう。私も男。その挑戦受けます」
高松君が服を脱いで俺と対峙していた。
「Be careful!」
Tkが声を発していたが、もう遅い。
確かにその鍛えられた筋肉は俺の蹴りじゃ突破できないかもしれない。
だけど――!
「はっ! まさか――!」
「男には、守れないものがある! その金玉――潰される覚悟は出来てんだろうなぁ!」
俺の蹴りは――高松君の筋肉の鎧には当たらず的確にその急所だけを撃ち抜いた。
「が、はっ」
内股になり股間を抑えつつ倒れていく高松君は、俺に手を伸ばしながらバタンと倒れた。
それを見ていた音無君とTKと松下君は股間を手で押さえる。
「最後は――しおり」
しおりを見ると、ビクンと震えてから俺と目を合わせて――少し笑みを浮かべた。
「来てよタッ君。あたしの力を見せてあげる!」
「行くぞしおり! 武器の貯蔵は充分か!」
駆け足で走り出すと――しおりの体に足をちょこんと触れてから俺は足を離してそのまま後ろの棚に激突した。
しおりを全力で蹴ったようにみせる演技をしつつ、俺は笑顔でしおりを見る。
「俺には……お前を傷つけられねぇよ」
「男だ! ここに男がいるぞ!」
「愛する女の為にルールを破るとは、まさに男の中の男よ」
「師匠!」
なんかTKが師匠とか叫んでいた気がするけれど気のせいだよね?
俺は立ち上がると、紙を入れた。
「……一応命令無視よ。わかってるかしら?」
「地獄を見たって構わない。しおりが傷ついている姿は、地獄よりも辛いから」
「そう。流石は多々君ね」
そして全員で再び引く――!
『王様だーれだ!』
次回予告
『松下五段!』
「前が見えません」
「凄く……ユニバースでした……」
「はっ。そんなもので。そんなもので――ッ!」
「そう……。ここでリーダーを決める戦いを望むというのね……」
「ふふふ。面白いよね、多々」
「まぁ、今はしおりと一緒にいてしおりと一緒に暮らすことが出来ればそれでいいか」
「王様は――俺だ」
第22話《Crossing Cerebration》