「おいそこのバカップル」
「酷い言われようを見た」
ゆりちゃんが来て唐突にバカップルと呼ばれてしまった。
しかしバカップルと言うのはバカみたいにイチャイチャしているカップルが元だった気がするから、俺達にとっては非常にあっている名前の気がする。
「俺が――」
「あたし達が――」
「「バカップルだ!」」
「本当に色々な意味でバカップルね」
酷い言われようを見た。
これは聖戦を行うことも辞さない。
「取り敢えずバカップル二人はイチャイチャして過ごしたいだろうけれど、今回のミッションについて話すから作戦本部に来なさい」
「作戦本部と呼ぶとカッコいいけれど実際は校長室な件について」
「ギルティ」
「判決早すぎわろた」
そんなことを言っているとさっさとしないと殺すぞオーラが出てきたので、アラホラサッサと動き出した。
また後ろを向いてミニスカサンタ衣装を脱ぐしおりの音を楽しみつつ、着替えたしおりと一緒に歩き始める。
勿論また一緒のマフラーを付けるけどね。
外は寒くて辛いです。
ゆりちゃんは先に行ったらしいので、俺達は二人で再び手を繋いで歩き出す。
途中の教室で授業をしているNPCが俺達を見て恨めしそうな顔をしていたが、気にすることはないだろう。
はっはっはっ。そんなにモテたかったらそのNPCみたいな行動をやめるといいよ。
NPCには無理だろうけどなぁ!
「タッ君はテンションが高そうだね」
「今日も今日とて平常運転でございまする」
最近の悩みはテンションの上げ下げが凄まじいと言うことです。
昔は上げ下げと聞けばエ○動画かと叫んだものです。
「取り敢えずエロいことを考えているのはわかった」
「セクハラですか?」
「いいえ。通報しますた」
まさかの御用だった。
まぁこの世界に警察なんているはずがないので絶対にありえないと言うことはわかるけれど、それでも唐突に彼女に警察に突き出される様な彼氏にはなりたくないのです。
もう遅いって? 知ってる。
「もう! エロいことは考えちゃダメ!」
「しおりにえっちぃことをしたくなっちゃうよ?」
「……それなら別にいいよ」
まさかのオーケーが出たのでルパンダイブをしようとしたら、ただしと言う声で止められた。
「タッ君が消えることが出来るようになったらね」
「それって永遠にこないってことじゃないですかヤダー」
つまり俺は永遠童貞らしい。
ぐすん。結局俺は夢を叶えられないのかなぁ。
「でももしタッ君が凄い頑張ってくれたら、あたしも頑張る」
「よーし。トルネードでも来ないかなー」
「タッ君が大量に食券を集めてくれたことで、後二三ヶ月は余裕だね」
あの時の俺ェ……!
なんて余計なことをしてくれたんだ!
もしそれが無ければ俺はしおりと一緒にベッドの上にゴーアウェイしてたのに。
「また餓死したら怒るよ」
「ははっ。そうしないように見張っててください」
最近ではしおりの部屋で寝ていても何も言われません。
みゆきちちゃんは俺がしおり以外に手を出すことが無いってわかっているし、しおりはしおりで告白する勇気はあっても寝込みを襲う勇気なんてないことをわかっているので何も言ってきません。
なんだろう? 一緒に寝ることを許されたのに激しく複雑な心境なんですがそれは。
「いつもずっと見張ってるよ」
「しおり……」
『先生ブラックコーヒー買ってきてもいいですか?』
「先生の分も買ってきなさい」
何故か授業中にNPCが揃いも揃ってコーヒーを買いに行くと言う奇行が発生したけれど、俺達はそれを疑問に思うだけだった。
彼らはNPCの中でも奇行種かなにかだったのだろうか?
それなら兵長でも呼んで駆逐してもらわければなるまい。
「じゃあ入ろっか」
合言葉を言って校長室の中に入ると、うんざりとしたような顔で見られた。
なにその表情。別に興奮しないけれどちょっと心に来る。
「貴方達、その格好は何?」
「「デフォルト」」
そういうと飽きられてしまったので、マフラーを外して手袋も取った。
二人で一緒に壁に寄りかかりつつ、談笑しているとまさみちゃんが入ってきた。
よっとてを挙げると、よっと返してきてくれたので俺は少し嬉しくなる。
「しおりしおり」
「どうかしたの?」
「まさみちゃんと音楽以外の意思疎通出来るかもしれない」
「それはきっと、ペンギンが逆立ちしてサーカスの玉を転がす位難しいことだよ?」
「ごめん意味わかんない」
振ったのは俺だったけれど、最近しおりのネタに癖がつきすぎてわからないです。
「あの頃のしおりは円環の理に導かれて消えてしまったのね」
「あたしはもう一人じゃない!」
「死亡フラグ乙」
まぁ実際一人じゃなくて二人になったんだけどねと思うと、心がぽかぽかと熱くなる。
そんな俺達を見ながら今いる藤巻君と日向君はゲンナリとしながらブラックコーヒーを飲んでいた。
「なぁ藤巻。甘いんだが」
「あぁ甘いな。ブラックコーヒーじゃダメだったか」
さっきの方が甘い雰囲気だった気もするけどなぁと思いつつ、イチャイチャをやめてゆりちゃんの方に集中することにした。
「今回のオペレーションは少数で行うわ」
「と言うと、ここにいる俺にしおりにまさみちゃんに日向君に藤巻君に遊佐ちゃん?」
「えぇそうよ。遊佐さんにはオペレーターを任せるから、実質それとあたしを除いた五人ね」
何故だろう? 嫌な予感がしてきた。
「オペレーション名、サンタクロースデッドエンドを発動するわ」
サンタクロースなのにデッドでエンドとか誰得ですか?
と言うかむしろ恐怖の匂いしか感じないんですが。
恐怖の匂いがプンプンするぜぇ!
「このオペレーションを単純に説明すると――戦線のメンバーにプレゼントを配るわ」
『は?』
今ここにいる全員の思考が一つになった。
それに何の意味があるのと。
「この世界にサンタクロースと言う存在はないわ。勿論私達のいたあの世界でもサンタクロースの正体は実は両親と言う素晴らしいネタばらしがあったけれど、この世界にはまずサンタクロースがいると言う事態が起きるはずがないの。まぁサンタクロースが良い子の所にプレゼントを置いていく程度の知識はあるけど」
「そりゃまあ、この世界の生徒には親がそもそもいないからな」
「そこでこの作戦よ」
だから一体何の意味があるのかと聞きたいんだけれど。
プレゼントを配ると神様が出てくるの?
「もし本来ありえないはずのプレゼントが戦線メンバーにだけあったらどういう行動に出ると思う?」
「そりゃまぁ、誰かが置いたと思うわけだな」
「なら誰が置いたと思う?」
それを考えると、確かに出てこない。
「生徒達にとっての親――そう。神よ」
いやないだろと思ったけれど、ここでそれを言ったら殺される確率120%オーバーなので言わないことにした。
触らぬ神に祟りなしって奴だ。
「まさかゆりっぺ!」
「えぇ。そしてNPCが何故貰えないのか文句を言う為に神の元へ向かうところをついていき、神を見つけ出すのよ!」
いやだからないってと言おうとしたけれど、皆乗り気なので言うのをやめた。
テンションとノリで生きている俺にとって、周りのテンションが低いのは辛いのです。
「だがゆりっぺ。プレゼントはどうするんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。私物から出すのよ」
え、そんなの無いんですけど。
いやあるといえばあるけれど。
「と言うのは冗談で、実は前々から色々な部活に声をかけて用意していたわ」
「流石はゆりちゃん」
「えぇ。園芸部に釣り部にラジコン部に手芸部に野球部にラグビー部に水泳部。ありとあらゆる部活から色々なものを回収してきたわ」
「それはもらって喜べるのかわからない」
ちなみに水泳部から貰ったのがスク水ならばすぐにでもしおりに着せて眺めます。
異論は一切認めないし妥協もしない。
上方修正は認めよう。
「特にオススメはギルドの作った音楽プレーヤーね。中にはガルデモの曲が入ってるわ」
それを上げるのは恐らくゆいにゃんでいいだろう。
いつか戦力になるかもしれないし、いいと思うのですが。
「オペレーションサンタクロースデッドエンドはもう一度夜中に集まって再び会議を開くわ。あたしの部屋に来て頂戴」
「でもゆりっぺ。天使はどうするつもりなんだ?」
「決まってるでしょ? 天使のところにも置いて、もし生徒達が乗り込まないにしても天使がお礼を言いに行く程度のことはするわ」
保険よ保険と言っているけれど、実際は普通に貰って普通に喜ぶと思うのは俺だけでしょうか?
と言うかギルドと言う名前を俺は初耳の気がするんですがそれは。
「まぁいっか。じゃあまた遊びに行こっか」
「そうだね」
取り敢えず暇になったのでまた遊びに行こうとすると、日向君と藤巻君に止められた。
「ちょっと待ってくれ多々。たしかに何もないかもしれないが、このままだと成功する確率はかなり低い。俺達でもなにかしようぜ?」
要するに他にも遊びたいってことでおけ?
おけおけ。俺に任せんしゃい。
「ならゲーム? 人生ゲームスーパーハードバッドエンドとかあるけど?」
「何だよその激しく不安になるゲーム」
この世界にある人生ゲームがまともであるはずがないじゃないか。
「でも面白そうじゃないか」
「まさみちゃんが音楽以外のことに参加してきただと……!?」
これは天変地異が起こる前触れかもしれない。
スレを立てるしかないだろうスレを!
ごめんなさい。スレを立てれるパソコンがなかったわ。
「じょあやろう。俺の部屋にあるから」
これから全員で俺の部屋に行くことになった。
「さぁ、ゲームを始めよう」
「空白乙。ゲームそこまで強くないくせに」
「日向君嫁が俺に辛く当たってきて辛いです」
「俺は普通に嫁と読んだお前がすげーと思うよ」
しおりは俺の嫁。異論は認めないからなー。
「てかお前達また二人で協力して来るんじゃねぇのか?」
「悲しいけどこれ、戦争なのよね」
「殺らなきゃ殺られる。それだけだろうが!」
クロト乙。わかってくれる人はいるのだろうか?
「まぁ二人が協力するつもりがないことはわかった」
日向君も納得してくれたので、全員の駒を置いてからジャンケンをした。
順番は日向君→まさみちゃん→しおり→藤巻君→俺だ。
「よーし!」
日向君が元気よくルーレットを回した。
出た数字は6。
「なになに? 交通事故で死亡。一回休み……」
「死んだら一回休みとか斬新すぐる」
まさにこの世界の人生ゲームだった。
「俺……交通事故で死んだんだ」
まさかの生前の死因と同じだったことに脱帽です。
もしかしてこの人生ゲーム、俺達の心を抉りに来てるんじゃないだろうか?
「どれどれ」
次はまさみちゃんがルーレットを回した。8だ。
「宝くじが当たる。しかし父親に奪われて+1000円」
なんというか、人生そのものだな。
なんかまさみちゃんの瞳が遠い目をしている。
と言うか宝くじ取ったくせに1000円残す位の理性はあるんだな。
「よし。あたしの、力を見よ!」
しおりが出したのは――1だった。
「流石はしおり! 俺達の期待を裏切らない!」
「黙れタッ君!」
涙目のしおりカワユス。
とりあえず進んだマスを見て、止まった。
「えっと……生まれつきの事故で次から出た目半分。小数点以下切り上げ」
何と言うか、酷い扱いだった。
初めっから積みゲーだと!?
「じゃあ次は俺か!」
藤巻君が畏怖累々でルーレットを回した。
出た数字は4。
「友人からお金を借りる。前の人から1000円借りる」
しおりは何もしていないのに搾取されますた。
取り敢えずこの人生ゲームえぐ過ぎやしませんかねぇ?
「次は俺」
ルーレットを回して出た目は7。
進んだ俺はちょっぴり驚いた。
「ラッキーセブン。セブンイレブンでバイトをして10000円を手に入れる」
普通だった。普通のマスがあるなんて、俺には信じられなかった。
周りも唖然としている。
まさかこんなマスがあるなんてと呟いている。
「取り敢えず、次行こうか」
「まだまだ人生ゲームは終わらない」
「地獄に落ちる。全ての財産を失い、一回休み」
「取り敢えず……さ。あたし達は選択を間違えたんだよ……」
「取り敢えず飯に行こうぜ」
「男子2人には麻婆豆腐を贈呈しよう」
「流石外道。容赦ないぜ」
「――ふっ。腹の貯蔵は充分かい?」
「まるで吸引力の変わらないただ一つの掃除機みたいだ」
「次こそは必ず勝つよ。あんたの名前、それを告げればその量を出してあげる」
第16話《Eater》