本物のぼっち   作:orphan

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第18話

 明くる日の学校も、いつもと変わりなく時間が過ぎていった。

 

 誰とも言葉を交わさず、誰とも視線を交わさず、誰とも交わらない。こんなざまで友達が出来る日など来るのだろうかと甚だ疑問だったが、それもしかたない。俺はまだその前段階にすら立てていないのだから。

 

 教室内で交わされる話に耳を傾けてみると話題は先日発表された職場見学についてのものが主だった。

 

 既にそれぞれの生徒から希望の見学先についてのアンケートが提出され、直に学校側からアポイントの取れた企業の名前が知らされるだろう。そうなったら目前に迫った本番までに行きたい職場と一緒に見学に行く生徒2名を決めなければならない。話題の中心はその3人組を誰と組むのかという話だった。

 

 この話が出た時からやれ一緒にやろうぜや、やれ何処そこに行きたいんだけどといつものメンツが固まって話し合いが始まっていたが、いつものメンツが3人以上のグループは中々悲惨な模様を繰り広げていた。

 

 1クラス30人強の人数構成で、男女比を5:5だと想定すると男女それぞれ15、6人。それに対してクラス最大派閥である男子のグループは7人を要するゲーム系男子である。このクラスの男子が15人ぴったりでなかった場合、当然余った1人か2人が組み込まれるグループは4人組になるだろう。そうなればこのグループも3人と4人にグループを割ることで何事も無く過ごせるわけだ。しかし、もしも15人ぴったりだったならば7人の中から1人を選んで島流しにしなければならない。

 

 こういったグループでの行事というのは地味にそれぞれのグループの連帯感に影響を与えるため、その後の学校生活にも尾を引くことだろう。そうなるとグループの所属員達は当然自分だけは弾かれまいと気張って3人組を構築する事になる。最悪なのはそのグループ内での明確なパワーバランスが決定されていないパターンだろう。

 

 決まってさえいれば自然とそいつが島流しになるだけですむ。本人として自覚さえ有ればほんの僅かの期間孤独に耐えさえすれば良い。しかし、もしもそれが決まっていなければどうなるだろう? 答えは疑心暗鬼だ。

 

 誰と誰がグループ内でも仲がよく、初動において2人組をあるいは3人組を作るのか。もしも2人組が出来た場合に3人目である自分の加入が許可されるか否か。自分の知らぬ所で既に結託が始まっており、自分だけが阻害される結果が為す術もなく出てしまっているのではないか。そして誰を島流しにすれば最も波風を立てずにいられるか。あるいはもっと別の可能性、そもそも別のグループにも所属していてそちらの方が仲が良かったりとか。そういった疑いを持ったまま彼らは3人組の構築という難行に立ち向かわされる訳だ。

 

 そう考えるとぼっちというのはこういう時に楽だ。最初から所属すべきグループが無く誰とも仲が良くないなら、誰と組んだって同じな訳で最後の最後枠の余った所に組み込まれるまでいつも通りの日常を遅れるのだから。

 

 と、実在するクラスの住人達を使って勝手な妄想を楽しむのもここまでにしておこう。血で血を洗う政争まで妄想が発展してしまったら現実の平穏さに耐え切れなくなるかもしれないから。

 

 しかし現実問題教室を見渡してみても、それぞれのグループが完璧な3の倍数を構成していない訳だが彼等彼女達は職場見学までに、俺が妄想したようなドラマを繰り広げたりしてしまうのだろうか。

 

 もしも自分が同じような立場になったら、真っ先に切り捨てられ絶望に打ちひしがれるのが想像出来る。マジでボッチでよかった。腹いせに教室で大暴れしかねん。

 

 孤立を恐れる自らの精神に、その健全性を見出しながらもぞもぞと動き出す。今日も奉仕部の活動のお時間です。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら教科書で一杯になった机から、読書用の小説を取り出して鞄に詰める。これで俺の帰りの準備は完了だ。教科書の殆どは置き勉するし、英語と数学は参考書が家に置いてある。

 

 そんな訳で殆ど空っぽのスクールバッグを方に掛けて教室を出ようとした時だった。

 

「比企谷君、ちょっと待って」

 

 教室内で話しかけられる可能性など全く考慮していなかった俺は、名前を呼ばれているのにも関わらず教室出口に向かって3歩程歩き、それから自分が呼ばれていることに気がついた。

 

 いや、まだ自分の苗字を空耳しただけという可能性も残っていた俺は、振り返った先でその実誰にも呼ばれていなかった場合を考えて肩口に頭だけを後ろに向けた。

 

「戸塚か、どうしたんだ?」

 

 不安は見事に裏切られた。他人が俺に話しかけるなどという奇妙奇天烈摩訶不思議な現象は実在し、そしてその相手は戸塚彩加だったのだ。

 

 これで油断した所を懐から取り出したナイフでグサーっとやられ、これは顔見知りの犯行ですねと言われる事の無いように、近づいてきた戸塚から半歩距離を取った。

 

「比企谷君、大丈夫?」

 

 駄目です。寝起きなせいか完全に頭がおかしい。とはいえ、寝惚けた頭にこいつの0距離笑顔など食らったら男相手にうっかり頬を染めかねない事を考慮すると、やはり俺の対処は間違っているとは言えない筈だ。

 

「ああ、何の問題もない。それより何かようか?」

 

「比企谷君は職場見学の場所、もう決めちゃった?」

 

 両手を後ろで組みながら、何処か心配そうな不安そうな雰囲気を醸し出しながら上目遣いに尋ねられた。

 

 身長差の関係上何もしなくとも戸塚と話す時は大抵上目遣いをされる訳だが、もじもじされたりなんかしちゃったりすると途端にその上目遣いが威力を増したりする。

 

 その度俺は心の中で戸塚が男だという事を再確認しようと念仏のように唱えるのだ。戸塚は男、戸塚は男、戸塚は男。

 

 その甲斐あってか最近じゃ戸塚が男だと分かっているのにドキがムネムネしたりするようになった。あれ? これって駄目な変化じゃね? 徐々に耐性が低くなってね?

 

 変わらない部分とか格好つけている場合ではなかった。変わっては行けない部分まで変質してしまいそうな事態だった。

 

「いや、決まってない。一緒に組む奴が居ないから、余り物同士組まされた連中の決めた所になるとは思うが」

 

 一刻も早くこの危険な状況から脱しよう。具体的には会話を早く切り上げる。

 

「そうなんだ。良かったあ」

 

 胸を撫で下ろす戸塚。その言葉の真意は兎も角として、俺が1人ぼっち決定している様を嘲笑っている訳ではないと思いたい。

 

 だが、そもそもこいつがこんな事を言い出すのは何故なのか。戸塚の交友関係は把握していないが、この顔にこの性格、とっくのとうに3人組が決まっていてもおかしくはないと思うのだが。

 

「お前は? 誰と一緒か決まったのか?」

 

「ぼ、僕? 僕も、まだなんだ、けど」

 

 意外なことも有ったのものである。俺がまともなら真っ先にこいつを誘っている自信が有るのに、まだ誰からも声を掛けられていないとは。このクラスの男子が何を考えているのか分からなくなった。

 

 戸塚はテニス部員だし、このクラスにも1人か2人テニス部の奴がいるだろう。そうでなくとも普段から仲良くしてる奴もいるだろう。こいつなら女子と組んでたっておかしくはなさそうだし。

 

 これだけ近距離で見ても可愛いという感想しか持てない状態だと特にだ。

 

 何かを言いにくそうにしている割に、それを俺に伝えようという意思は有るのかチラチラと視線がこっちを向くのが煩わ可愛い。

 

「なんだ? どっか入りたいグループがあんのに言い出せないとかか?」

 

 それを俺を通じて伝えたいというのなら、確かにその女々しさに恥ずかしさを覚えもするだろう。だが、こいつがその程度の事も言い出せない性格だったら奉仕部の扉もまた叩かれなかっただろう。

 

 得体の知れない奉仕部などという集団と例えば葉山達のグループ。どちらが話しかけやすいかなど聞くまでもない。

 

「あの! ……比企谷君、僕と一緒に行かない?」

 

「良いぞ。俺なんかで良かったら」

 

 戸塚の提案は意外なものだった。何で俺なんかと、と思わなくも無かったが俺も全く知らない奴に比べれば戸塚の方が良いに決まっている。考えるまでもなく即答した。

 

「やった。それじゃ比企谷君、よろしくお願いします」

 

 胸元で小さくガッツポーズをする戸塚。そこまでして喜んでもらえると俺もクラスメイト冥利に尽きるというか。

 

 あまりの喜びように違うものをよろしくされている気さえしたが、こいつによろしくされたら何であれ断れる気がしない。

 

 かと言って疑問が無くなった訳でもない。

 

「でもこのクラスのテニス部の奴とか良いのか?」

 

「それが、このクラス僕含めてテニス部の男子4人居て」

 

 なるほど、こいつの性格だから人数の事を聞くなり辞退でもしたのかもしれない。見上げた善人である。とても俺には真似できないね。

 

「あ、でも、比企谷君と組みたいからっていうのが一番なんだけど。……駄目かな?」

 

 俺の事まで気遣ってこういう台詞を言う辺り、こいつのお人好しさ加減は底なしだ。勿論俺としては否やはない。

 

「そんなん気にしねえって。こちらこそよろしく頼む」

 

 もとより俺と戸塚とは友人ですらないのだから。

 

 

 そんな事が有ってからの奉仕部でも、職場見学の話題は持ち上がった。

 

 議題の提出者は勿論由比ヶ浜だ。

 

「職場見学、ヒッキーは何処行くの?」

 

 流石リア充。流行の話題を持ち出すのも自然だ。昨日の憂鬱な表情は何処へやら、いつもと変わらぬ挙動不審ぶりというか妙に力んだ顔をしていた。

 

 今になって気付いたんだけど、こいつは俺相手に話す時、戸塚や雪ノ下、その他葉山やらを相手にそうしている時とは違う表情をしている。緊張しているというか、こちらの様子を探るような視線をしている風に見える。

 

 同性である雪ノ下や同性っぽい戸塚相手なら兎も角、葉山や戸部と会話している時とすら違うのは不可解だ。嫌々話しかけているというのなら納得もできるが、俺に話しかける罰ゲームなど面白くもないだろう。

 

 その理由を解明しようと由比ヶ浜をジーっと見つめる。

 

「まだ決まってないな。戸塚と組むことになったんで、もう一人と戸塚の意向に従うつもりだけど」

 

「う、うわー、人任せだ」

 

「正直職場見学なんて何処言ったって良いからな」

 

「やる気全然ないね、ヒッキーは。でも、何処行くか決まってないんだ」

 

 由比ヶ浜が最後まで言い終わってからちらっとこちらを見た。すると由比ヶ浜の顔をマジマジと見つめる俺と目が合う。がっちりと磁石同士がくっついたかのように、由比ヶ浜の視線がこちらに釘付けになった。

 

 いつも俺が気がつかない時にこうして横目に見ていたのだろうか。少なくとも妹から直視できない顔面をしていると言われた事はないのだが、それは身内贔屓というやつで実は3秒以上見ていると目が腐るとか言われているんじゃ。

 

 試しに目が有った状態のまま、暫く視線を交錯させてみる。

 

 1秒、2秒、3秒。3秒目を数え終わる前に由比ヶ浜が俺との間に携帯電話のバリケードを作った。

 

「ひ、ヒッキー、こっち見過ぎだし!? な、な、なにしてんの!?」

 

 顔は見えないが慌てている様子は伝わってくる。つまり、俺に見られているというのは慌てて顔を隠したくなる程不愉快という事か。

 

 ターゲットを由比ヶ浜から雪ノ下に切り替えて同様の実験を試みる。チャンスはそう待たずに訪れた。由比ヶ浜の狼狽に反応したのだろう。文庫本から一瞬だけ持ち上げられた視線を捕まえる。

 

「比企谷君、貴方の視線は既に猥褻物の領域に踏み込んでいるのだけど。それを他人に向けるという事について、……ちょっとこっちを見ないで貰えるかしら」

 

 由比ヶ浜程の拒絶反応ではないが、言葉通りあまり愉快そうには見えない。最初から笑顔を向けられたりは期待していなかったが、女子2人の反応が揃ってこうだと落ち込みたくもなる。

 

 俺は昨日の由比ヶ浜と同じように溜め息をついて読書に戻ったが、誰も構ってはくれなかった。くすん。

 

 そのまま読書を続けること暫く。由比ヶ浜が雪ノ下にも職場見学の話題を振ったり、それに煩わしげに雪ノ下が答えて時間が過ぎていった。

 

 何やら途中雪ノ下がシンクタンクという場所を希望しているという話を小耳に挟んだが、話に参加していたら雪ノ下に由比ヶ浜同様馬鹿にされている所だった。やはりぼっち最高。沈黙は金である。

 

 そうして読書に没頭していると、時間はあっという間に過ぎてしまう。過ごしやすい季節のここがちょっとした難点だ。

 

 丁度今のように天敵の接近に気が付かなかったりするからだ。

 

「御機嫌よう、雪乃ちゃん、比企谷君、由比ヶ浜ちゃん。元気してるかね?」

 

 ガラガラと音を立てて扉が開かれると、その向こうには雪ノ下さんの姿が。スリッパを履いてるくせに足音一つ立てないとか暗殺者かよ。

 

 その脳内ツッコミが終わるよりも先に雪ノ下さんは教室の中に進入すると、部長である雪ノ下に断りも入れず俺の隣に椅子を用意して着席した。

 

 いやいや、近いよアンタ。びっくりする。由比ヶ浜よりも戸塚よりも距離感近いとかどうなってんの?

 

 肘が触れ合うような距離に接近されたことに驚きつつも、椅子を引いて冷静に距離を取る。

 

「どうして姉さんがここにいるのかしら?」

 

 雪ノ下が氷のように冷たい声で問うと、雪ノ下さんはそれと拮抗する冷たい声を出して応酬した。

 

「雪乃ちゃんの監視と、比企谷君へのお詫びを兼ねてかな。昨日お母さんに言われたの。暫く放課後は一緒にいるようにって」

 

 カウンターは深々と雪ノ下の体に突き刺さる。たった一言で雪ノ下は意気消沈してしまった。

 

 昨日は余程酷い目に有ったらしい。

 

「比企谷君のお陰で謹慎は解かれたんだけど、やっぱり責任が無いわけじゃないってさ。それに去年の事故の事も有るしね」

 

 そうは言うが、年頃の男女を近い距離で置いておく理由としては不十分だ。如何にも胡散臭い雪ノ下さんの口から告げられた事も有るし、前者は本当の事だろうが、後者はそうは思えなかった。

 

 本当だったとしたら、多分俺と雪ノ下の接触を減らさせる目的も有るのだろう。あそこのお宅の子と仲良くしちゃいけません的なあれである。その為の防波堤として雪ノ下さんを派遣した。

 

 引き起こされた事件と、昨日の俺の挑発で俺と雪ノ下の間柄でも勘ぐられたのだろう。

 

「いやー、お姉さんも結構大学大変なんだけど、そうも言ってられないよ。という訳で暫くの間よろしくね」

 

 とはいえ、ここまで突っ走る雪ノ下さんを止める動機もない。暗黒微笑を浮かべる雪ノ下さんには逆らえないし。

 

「あ……、う……」

 

 有無を言わせない電光石火の電撃強襲作戦によって、トップである雪ノ下を抑えられてしまった以上、構内立ち入りの許可が下りてんのかとか、部活に参加するってそんなの出来んのかといった文句も意味を成さないだろう。その気になったらこの人本気で許可を取ってきかねないしな。

 

 こうして再び奉仕部は雪ノ下姉妹の抗争の舞台になった訳だが、やはり美女には運命力とでも言うものが有るのか。気まずい雰囲気を割ってドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 この段階でまず平塚先生という可能性は潰えた。あの人はノックをしない。雪ノ下が口喧しい母親のように口を酸っぱくしても無駄だったのだ。良い人なのに、いい大人になりきらない辺り親しみを覚えればいいのか、残念な人だと憐れめばいいのか。

 

 見ず知らずの人間がこの場に加わることで、この居た堪れない空気の被害者になってしまう事は本来憂慮すべき事態だが、この際そんな理想論を唱えている場合ではない。悪いが犠牲になってもらうぞ!

 

「どうぞ」

 

 来客の際は今まで雪ノ下が入室の許可を出すのが常なのだが、勝手に返事をしてしまう。

 

 入室してきたのはイケメンだった。葉山という名のイケメンだった。やったぜ、葉山今日からお前の事はクソイケメンと呼んでやってもいい。

 

 由比ヶ浜などというキョロ充的なリア充などではなく、真のリア充、リア充オブリア充葉山隼人。こいつならば前後の文脈も無視していい感じの雰囲気を構築してくれるに違いない。

 

 何だったらイケメン特有の運命力を駆使して、俺以外のメンツが抱える問題を根こそぎ解決してくれたっていい。

 

 そんなクソイケメン葉山隼人は、運動部員なら誰しもが持っているような無個性なエナメルバッグを肩に担ぎ、ガムのCMに出てくる俳優の様に爽やかな笑顔で。

 

「やあ」

 

 などと挨拶をした所で驚きに声を上げた。

 

「陽乃!? どうしてここに?」

 

 葉山のイケメンは伊達じゃないらしい。まさか俺の願望以上の強い因縁が雪ノ下さんと葉山の間には有るようだ。ということはそう低くない可能性で。

 

「……、やっぱり雪乃ちゃん……」

 

 誰に聞かせるつもりもない独白のような音量だったが、確かに雪ノ下の名前を呟くのが聞こえた。そう喜ぶと同時に、この場面の危険性が俺の予想以上だという事にも気付かされる。何せあの無茶苦茶な三浦とつるんでいて葉山が動揺したという場面など見たことも聞いたこともないからだ。

 

「どうしたの? 隼人。用があるんだったら私の事は気にしないで話をしたら?」

 

 驚きの余りエナメルバッグの肩紐を二の腕に引っ掛けたまま停止した葉山に声を掛けたのは雪ノ下さんだった。

 

「あ、ああそうだな。そうさせてもらうよ」

 

 葉山はぎこちなく頷くと、何処か固さのある笑顔を作った。つまり全然いつも通りを装えていないという事だ。

 

 葉山はそのまま教室内を歩くと依頼者の為に置いてあった椅子に腰掛けた。視線は雪ノ下さんでも、由比ヶ浜でも、ましてや俺でもない。雪ノ下に心配そうに注がれている。そしてついと雪ノ下さんの方を見た時には一瞬、ほんの僅かに眉を顰めてみせた。

 

 あれは怒りの反応という事で正直に受け止めていいものだろうか? 少なくとも葉山の態度からしても雪ノ下と初対面などということはあるまい。

 

 葉山は雪ノ下さんとは敵対関係に有るという事か? いや、流石にそこまでの明確な対立は有るまい。でなければ雪ノ下さんの言う事に大人しく頷くわけがない。

 

 だが、あの雪ノ下さんに向けられた視線。とても親愛が込められた物とは思えない形相をしていた葉山。そして、雪ノ下を見てからの反応というタイミング。

 

 あの理解不能なモンスター三浦を手懐ける葉山ですらここまでの動揺を見せるなんてな。

 

 俺は意味もなく手に汗を握りながらこの場の行末を見届けることにした。

 

「えっと、ここは奉仕部で有ってるんだよな? 平塚先生に悩み事を相談するならここだって紹介されたんだけど」

 

 その言葉に反応すべき雪ノ下は顔をあげようとすらしない。てか何なの? 昨日までの雪ノ下とは別人の様な覇気の無さ。たった一晩で尊厳を粉々にされたとしか思えない有様なんですが。テニスコートで挑発した時のそれよりも更に無残な状態だ。

 

 昨日の雪ノ下母の口振りが、先日の病院での雪ノ下の吐露が脳内にリフレインする。両親は姉さんには期待しているとか言ってたけど、こいつ自身が同じように期待されたいと思っていた存在に、あんな風に言われたとしたら。

 

 頭を抱えたくなるというのは正にこの事だろう。俺の軽率な言動のお陰でどんどんと雪ノ下が追いつめられてしまっている。誰にも迷惑を掛けず社会の隅っこでひっそりと消滅したいという俺の願いに反してである。

 

 

 

 全くそんな積りもないのに次々と積み上がっていく借り程気分の悪いものもない。

 

「ああ、それで合ってるよ。それで悩み事ってのはなんなんだ?」

 

 葉山がどうにかしてくれる。とは思いたくない。俺が作った借りは俺が返さなければ気が済まないからだ。その為にもこいつの依頼は速攻で終わらせる。

 

 決意を新たにして、雪ノ下の代わりに話を進めていく。

 

 俺が口を開いたことに葉山は最初、面白くなさそうな顔をした。大方気になっている女子が落ち込んでいるんで、自分の話をしつつ力になってやりたい所に普段から反抗的な態度を取っている男に邪魔をされるのが面白くないのだろう。だが誠に申し訳ないが、そんな事は俺の知ったことではない。

 

「これなんだけど」

 

 葉山もムッとした顔を見せはしたものの気を取り直して、ポケットから取り出した携帯を差し出してきた。俺と由比ヶ浜が画面を覗き見ると、そこには名指しで人の中傷を行う文章が書かれていた。

 

「あっ」

 

 由比ヶ浜が小さく漏らした声。

 

 話を聞くと由比ヶ浜の携帯にも同様のメールが来ているらしい。

 

 しかも、由比ヶ浜の携帯にはそれ一つきりでなくいくつもいくつも似たような内容のメールが届いていた。

 

 差出人を見ると殆どは捨てアドだが、中には名前が表示されているものも有り、由比ヶ浜の友人が転送しているものも含んでいた。詰まる所所謂1つのチェーンメールという奴である。

 

 いや、こんなんが未だに世の中の人間によって行われているとは。まだ小学校に上る前にワイドショーでネタになってたような行為だぞ。

 

 そう俺なんかは思ってしまうのだが、これはあくまで傍観者の感想だ。当事者にほど近い人物である葉山や由比ヶ浜の表情は悪意に対する疲労を示していた。

 

 見えない第3者に誹謗中傷される行為というのは、はっきりと行為者の分かるそれとは違うらしい。

 

 俺なんか教室でしょっちゅう陰口を叩かれているが全く気にかからないのだから間違いない。

 

「こいつのせいでクラスの雰囲気も悪くなってるし、友達の事を悪く言われて俺も腹が立ってる。止めたいんだよね」

 

 流石イケメン。友人の為に義憤しているらしい。だが、こいつのイケメン具合が半端ではない証左に、こんな事まで言い始める。

 

「犯人探しがしたい訳じゃないんだ。丸く収める方法を知りたい」

 

 俺はもう葉山は実は宇宙人なんじゃないかと思ったね。こんな不愉快極まる状況に置かれて、それでも悪意ある第3者を気遣うなんて誰にでも出来ることじゃあない。

 

 これも葉山隼人という人間が俺なんかとは比べ物にならない器のデカい人物という事なのだろう。

 

 俺はすっかり葉山に感服してしまっていた。

 

「じゃあ、犯人を突き止めるしかねえな」

 

 七面倒臭いやりとりなど御免被りたい。この件について反論をしようとする葉山を黙らせるために話を進める。

 

「時間が掛かるし他人の協力もいるが確実に犯人を特定する方法と、動機から犯人を推定して犯行の事実で脅して止めさせる方法の2つが有るな」

 

 どちらも同時に実行できる手段だが、それならば時間のかからない方から試みるか。

 

 一緒にいるとは言ったものの加わる気のなさそうな雪ノ下さんと、雪ノ下の2人を蚊帳の外に置いたまま、俺はこちらを見る由比ヶ浜と葉山に語りかけた。

 

「前者はこのメールが来たやつ全員を見つけて、メールを着信した時系列や人物から辿る方法だ。3人しか被害に遭ってないところを見ると多分メールの拡散した範囲もクラスに留まってる筈だ。転送されたメールなんかを省いていって確実に犯人から送信されたメールの受取人全員のアドレスを知ってる奴が犯人だ。後者は動機や目的から推測する方法。このメールで3人を中傷することにどんな意味が有るのか。その目的、発生した時期なんかから絞り込む。こっちは早けりゃ今日中に犯人を特定できる」

 

 俺に話を聞くつもりがない事を理解すると、葉山もしつこく食い下がりはしなかった。

 

 あっさりと話に乗ってくる。

 

「メールが送られ始めたのは先週末からだった。だよな結衣?」

 

「うん、私の所に来たのもその位だったかな」

 

 葉山の口振りじゃ先週の間にその話題が話題に上ったみたいだが、それなら少なくとも金曜の放課後までには第1弾が送信されているという事だ。

 

「このメール自体の目的は論じるまでもない。3人の体面を傷付けることだな。この3人てどんな奴なんだ?」

 

 戸部は分かるが、大岡と大和はうちのクラスの人間って事しか俺は知らない。戸部と仲の良い2人と言えば葉山のグループのあいつらなんだろうが。

 

「全員同じ部活か? それとも同じ趣味とか? 友達でもいい共通点は有るか?」

 

 男の事なので葉山の方が詳しいだろうと葉山に尋ねると困惑した様子が見て取れた。

 

「3人共いつも俺と一緒にいるんだけど」

 

「じゃあ最終目標はお前だな」

 

「ええ!? どういう事だよそれ?」

 

「他に共通点の無い3人の男子がこうしてチェーンメールの標的にされて、それが全員お前の友人だなんて偶然だと思うか?」

 

 由比ヶ浜の携帯に届いていたメールは1通や2通じゃない。全てが3人を標的としていて、これをまだ確認を取っていないが10数人にバラ撒いたとしよう。無差別に選ばれた標的がここまで明示的な繋がりを示すことが有るだろうか?

 

「この3人の部活は?」

 

「戸部は同じサッカー部、大和はラグビー部で大岡は野球部だ」

 

「放課後とかお前がいない時でも3人は一緒か?」

 

「分からない」

 

 同じグループの由比ヶ浜ならどうだろう。

 

「えっと、どうだろう? 優美子とかと一緒にいる時は大体隼人君も一緒にいるし。……でも、考えてみるとあんまり3人で遊んでるとかって聞いたことないかも」

 

「つまり3人が、この3人だけで恨みを買う機会もないって事だ。そんでもってチェーンメールの標的がどうなるかっていうと」

 

 雪ノ下みたいに孤立した人間を発生させる訳だ。

 

「こういうのも離反工作っていうのかね。このメールはお前と3人を引き離す目的で送られたんだろう。つまり犯人はお前らと3人がそんなに仲良くないって事まで知ってる、あるいはそう思ってると考えられる」

 

 新学級がスタートしてから1ヶ月経って、グループの形成は完全に終わっている。今は成熟期間と言った所だが、リア充連中の仲良くなる速度ってのは信じられない物が有るからな。傍目にしか知らない俺は兎も角、一緒のグループに所属していて、今の今までメンバー間の結束の弱さに気が付かなかった由比ヶ浜が存在することを考えると犯人はかなり絞られる。

 

「葉山、この何日かでお前に近寄ってきた人間は?」

 

「は?」

 

「お前と仲良くなりたそうにしてた奴は居るかって意味だ」

 

 葉山と3人を引き離して、この犯人は何をするつもりなのか。恨みという線がないのなら、その目的は葉山に取り入るというのが最も有力な候補だろう。

 

 だが、葉山にそう聞いてみても反応は良くなかった。

 

「いや、そういう人はいなかったと思う」

 

 つまりまだそのタイミングにないと思ったのだろうか? しかし、こいつが今日ここに相談に来たように、葉山と3人の間に有る隔たりは大きくはなっていない。手をこまねいていれば却ってグループの結束は強くなると思うのだが、果たして犯人がそこまでの予想も出来ない馬鹿かどうか。そもそもこんな事を考えつく段階で大概馬鹿なのだが。

 

 他に犯人を推測できるような材料がないか考えていると由比ヶ浜がこんな事を言い出した。

 

「戸部っち達も隼人君と仲良くしてただけなのにどうしてこんな事する人がいるんだろう」

 

 優しい由比ヶ浜らしい感想だ。しかし、こんな事はそう珍しい事でもない。好きな人が自分以外と仲良くしていればそれを妬まずには居られないのが人間だ。雪ノ下しかり、この犯人しかり。そしてきっと由比ヶ浜や葉山ですら例外ではない。雪ノ下さんなんかはそれはもうこの犯人が真っ青になりそうなえげつない手で嫉妬を表現しそうですら有る。

 

 そして嫉妬といえば、雪ノ下には似たような過去が有ったはずだ。

 

 確か友達が好きな人が雪ノ下に告白したのだとかそんな話をしたような気がするが。

 

 俺から言わせればそんなもの友達ではないような気がするが、友達同士ですら嫉妬の対象となるものなのだ。勿論俺も単に嫉妬する事までは有ると思うが、それを実行に移すとなると余程希薄な友情を結んでいたとしか。

 

 ああ、なるほど。

 

「お前と仲良くなりたがっていて、グループ全体がそれほど仲良くないことを知っていて、3人をお前から引き剥がしたがっている奴か」

 

 しかし、最後の1つはまだ材料が弱い。どうして4人ではいけないのか。どうして3人じゃなくてはいけないのか。

 

「3人か。2人でも4人でもなく3人。何か3人組って数字で思いつくもん有るか?」

 

 4人組ではいけないし、折角他人を出し抜くつもりが有るならいっそ葉山と一番仲良くなれた方が良いに決まっている。だったら犯人があいつらの中に居ても葉山に取り入ろうとはするだろう。しかし、犯人はその素振りを見せず、誰か1人が省かれればそれで良いと思っているかのようだ。

 

 だったら確実に3人という数字に意味が有る筈だ。それも学外での3人を葉山がよく知らないというので有れば、確実に学内でのイベントだ。

 

「3人ていうと職場見学が3人1組だけど」

 

「それだ。あー、グループ分けのせいだ」

 

 ぼやっとした由比ヶ浜も正解に辿り着いたようだ。本人も何かグループ分けに苦い思い出が有るのか、由比ヶ浜は少し陰鬱な表情をする。

 

「そんなことでか?」

 

 いまいちピンと来ない表情の葉山。由比ヶ浜より鈍いとは思えないが、友人への信頼が盲目にさせているのかもしれない。

 

 そのお陰で偶然だが、葉山の要望に(一見)適う展開になりそうだ。解説しようとする由比ヶ浜の方を叩いて制する。

 

「葉山、3人についてお前の口から少し聞かせてくれ。それぞれどんな奴なんだ?」

 

 釈然としない顔の葉山だったが、悪いようにはしないと誓うとそれで納得してもらえたが。流石度量が広い方は違う。

 

 そんな葉山の口から語られる3人の人物像も葉山という人物の主観が、いかに善人かを知らしめるような内容だった。

 

 友人の性格を彼処までポジティブに捉えられるなんてな。俺なら例え友人でも良くないところしか口に出来そうにない。つくづく人間としての格の違いを感じさせる野郎である。

 

 だが、これで推理の材料は出揃った。面倒なんでいっそ3人共脅迫して犯人を燻り出そうかとも思ったが、そんな手間をかけずに済む。

 

「比企谷君は凄いねー。もう解決策思いついちゃった?」

 

 漸く口を開いたかと思えばこんな事を言い出す雪ノ下さん。その賞賛には他意が有り過ぎて喜ぶ気にもならない。

 

「こんなのはただの偏見と妄想ですよ。実際に当たるまではね。それに当たった所でどうということもないでしょ」

 

 それに真面目に犯人を探したいというのなら迷うこと無くメールアドレスからの捜査をすべきだ。主観に主観を重ねた捜査なんてのは嫌いな奴を吊るしあげるための手段でしかないのだから。

 

「言うねえ、比企谷君。確かに今回のはそういう所が強いみたいだけど」

 

 犯人の特定だって科学的プロファイリングが行われているわけではない。勘という名の当てずっぽうと言っても良い。

 

 だが、そんなものは些末事だろう。

 

「それに、俺が何やった所で結局の所は犯人の人間性に掛かってます」

 

「犯人のこと信じてるんだ。比企谷君ってばやっさしいー」

 

「何でそうなるんです? 犯人が犯行を止めなかったら止めるとこまで追い込めばいい。そもそも犯行のスタイルから言っても自分の犯行がバレるのは避けようとしているみたいですし」

 

 直近に迫った職場見学のメンバー決めという問題に対して、チェーンメールという時間の掛かり過ぎる解決策を選ぼうとする辺り、この犯人も必死さが足りていない。

 

 同じチェーンメールを回すにしても葉山の性格を知っていたら、俺なら全く関係ない生徒数人と自分を標的にして葉山の同情を買う作戦を立てるね。そんでもって葉山の前でこう言えばいい。

 

『職場見学のメンバーの中にこれの差出人がいたらどうしよう』

 

 とかな。もしくは『間違ってもそうはなりたくないから自分と組んで欲しい』でもいい。事情が有れば極自然に他2人より優勢に立てるという訳だ。

 

 これでも確実性が低いのでもっと別の策を用意した方がいいとは思うが。

 

「うんうん。比企谷君らしくて安心する一言だね。私は止めないけど2人はそれでいいの?」

 

 俺らしさという物がどういう認識をされているのか、雪ノ下さんに聞いてみたくなったが止めておいた。俺だって雪ノ下さんらしさを聞かれても困る。主に口に出来ない単語のオンパレードが原因で。

 

「俺は比企谷君を信じるよ」

 

 葉山は雪ノ下さんの問いにあっさりと同意した。いやいや、俺のことなんか信頼されても。とは言い返さなかった。今まで殆ど会話らしい会話など無かった俺と葉山の間で信頼という言葉が用いられたならば、それが嘘だという事が明らかだからだ。言ってみればジョークのようなものだ。その面白さが分からなくても決して聞き出そうとしてはいけない。

 

「私は、……ゆきのんはどう思う? ……ゆきのん?」

 

 由比ヶ浜は、嫌そうな表情をしていた。友人を真っ向から疑って掛かるのだから、まあ良い気はしないというのは俺にだって理解できる。それにこいつはこういう行為の対象として自分が選ばれたとして、その犯人までが明らかでも糾弾にまでは及ばない臆病さみたいな物を感じさせる奴だ。自分を押し殺してでも笑っている。そういうスタンスの優しさだ。

 

 そんな由比ヶ浜とは対称的な性格の雪ノ下は、水を向けられて迷いなく頷いた。

 

「そうね、それで構わないと思うわ」

 

「本当に?」

 

「ええ、私でも同じように推理したと思うわ」

 

 何処か雪ノ下らしさを感じさせない機械的な同意に、由比ヶ浜が食って掛かってもその態度は変わらなかった。

 

 葉山が来てから初めて言葉を発したというのに、雪ノ下はそんな自分がいつもと変わりないと主張しているのだ。如何にも無理がある話だったが、雪ノ下は頑なだった。

 

「そういう事じゃないのに」

 

 ぼそっと呟く由比ヶ浜。拗ねた響きは間違いなく取り合おうとしなかった雪ノ下に対するものだろう。いつもなら、こんな風に言われると雪ノ下はおろおろと取り乱したように振る舞うのだが。 

 

「それじゃ、作戦決行は明日の昼休みで」

 

 時間を確認すると葉山の来訪から既に1時間近くが経過していた。日が長くなってきていると言っても既にとっぷりと日が暮れて辺りも暗くなっている。これ以上の進展も仕掛けも今日は出来ない以上解散の流れで問題無いだろう。

 

「比企谷君は本当に優秀だね」

 

「心にもないこと言ってないで、雪ノ下さんはもう帰って下さい。雪ノ下とちょっと話したい事が有るんで」

 

 俺に対する皮肉であり、雪ノ下への嘲り。葉山の退出後、鞄を肩に掛けた俺に、にやっと笑いながら見え見えな当てこすりをしてくる雪ノ下さんには冷たい対応をしておく。

 

「私、一応雪乃ちゃんの監視を頼まれてるんだけど」

 

 一ミリも母親からの命令に対する忠誠心を感じさせない雪ノ下さん。俺の勝手、というか俺と雪ノ下の接触を見逃す見返りでも要求されているのだろうか。不穏なワードに雪ノ下の方が震えた。

 

「俺が出来る範囲で何かやらせてもらいます。それじゃ納得頂けません?」

 

「いいよー。でも雪乃ちゃんの為に比企谷君がそこまでのするなんて、ちょっとジェラシー感じちゃうかな」

 

 試しにてきとうな提案をしてみたが、対価はそんなもんでも構わないらしい。それよりも顔を近づけて聞かされた発言の後半部分が引っ掛かる。

 

 言ってみれば俺自身の戦後処理みたいなものだというのに、一体何処に羨むような所が有ったのだろうか。大方また出鱈目な事を言っているのだろうが、文脈的な妥当性から導かれただろう言葉には納得しかねるところがあった。

 

 まあそれは置いておこう。雪ノ下さんの許可が得られた。それでよしとするのだ。

 

 しかし、雪ノ下さんがこういうという事は、命令違反がバレるリスクが低いという事だろうか。雪ノ下へのお説教は昨日ので一段落したと考えても良いのだろうか。

 

 だとしたら、そう確信できるだけの干渉を受けた雪ノ下に、いつかのような闘争心を取り戻させてやることが俺に出来るのだろうか。

 

「それじゃ、またね」

 

「ヒッキー、ゆきのんの事お願いね」

 

 申し訳ないが由比ヶ浜には先に帰ってもらうよう頭を下げて教室から見送ると、俺は椅子に腰掛けたままだった雪ノ下にこう言った。

 

「それじゃ、悪いけどちょっと付き合ってくれよ」

 


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