やはり俺の青春ラブコメがゲームなのは間違っている。 作:Lチキ
瞼を瞬きうつりこむ世界は見慣れた天井ではない。
テレビで見る外国の街やゲームで良くある街並み。ドラクエみたいな全体石ずくりの建造物に、木と布で作られた簡易的な市場。ファンタジー世界の代名詞と言わんばかりの街並みが目前には広がっていた。
「これが仮想世界!」
手を動かしたいと思えば手が動き、右を見たいと首を向けると景色がスライドされる。これが仮想世界、ここがゲームの世界であるなんて信じられないほどのリアルがそこにはある。
隠しきれない高揚が頬を緩ませる。試に飛び跳ねたりストレッチしたりしても現実と寸分変わらない。しいて言うなら、目線の先には設定した名前と共にHPバーやその他もろもろが表示されてる事と、今現在俺の姿は比企谷八幡の姿ではなく俺作のアバターである事くらいしか差異が分からない。
ちなみに、俺のアバターは身長や体型は現実とたいして変わらない。顔立ちもアジア系から少しヨーロッパ圏内風に変わった程度だ。
短いながらもしなやかに流れる金髪は寝癖とは違う規則性のあるバランスのとれた跳ね上がりで、ガラス細工でも見てるかのような錯覚に陥る碧眼は何処までも澄んでおり、まるでどこかのリア充に似てるとも言い難いすっとした輪郭。
‥‥うん、多少、ほんの少し、隠し味的な差異はあるけど概ね現実の俺と変わらない姿がそこにアル。うわー俺ってまじイケメン。ほれぼれする。
・・・念のために言っておくが悲しくなんてない。
現実だって見えてるし何ならそこらへんのラノベ主人公の100倍は感受性が豊かで敏感な人間だ。現実だって見えているんだ‥‥グスン。
「おーすげぇな」
なぜか自爆で鬱状態になってした自分を鼓舞し、せっかくのゲームを満喫する事にした。
ゲームが始まり初めて喋った言葉が小学生レベルのアレだがそこは気にしない。だって本当にすごいんだもん。
街並みはさっき言った通りだが遠くからざっと見るのと間近で見るのとでは違う。
あたりには俺と同じようにキョロキョロと周囲を観察し感嘆の声を上げる者も大勢いる。
特に俺が気に入ったのはNPCのクオリィティーだろう。
露天商とか明らかにプレイヤーじゃない街の住人なんかに話しかけると凄い気さくに返してくれる。
表情1つとっても現実の人間とほとんど違いが分からない。むしろ、現実の方が無視とかしてくるぶんNPCの方が優しいまである。
これが人工知能を使ったシステムなのか。
どんだけ最新技術を使っているのだろうか。ゲームや機械に詳しくない俺でも普通に凄いと分かってしまう。分からされてしまう。こんなゲームを作った奴は間違いなく天才だ。
初期のポケモンとか何度話しかけても同じ内容しか帰ってこないし、なんならレッドさんもはい/いいえしかコマンドない。
え?一緒にするなって?ばっかお前ポケモンさんなめてんじゃねーぞ。俺なんか図鑑コンプリート一歩手前まで行ったくらいやりこんでんだぞ。
ゲーム上の設定のとあるエスパー、ゴーストタイプ、それに格闘、岩タイプのせいでコンプリートはできなかったけどな。
分からない奴はお父さんかお母さんにでも聴いとけ、キーワードは通信、進化、友達だ。これが分かれば君も明日からボッチマスターになれるぞ。
目指せボッチマスター!
あ、もうなってるか。
時計塔がある広場っぽい所まで来たわけだが、とりあえず街の外に行ってモンスターを狩るのがアレだよな。
手をスライドさせメインメニューを空中に表示させ、自分のステータスを表示する。
フルダイブ式はコントローラーがないからこういう空中ディスプレイが表示されそこから様々な機能を仕様できる。道具の管理だとかステータスや持ち物の表示だとか、フレンド?‥‥こいつは多分使わないからスルーしておこう。
色々ある表示の中から俺はステータスと書かれた欄を押す。
名前の通りそこを押すと装備やステータスが表示された。
ステータスの方は始めたばかりなので初期値のまま。装備は布の服に革のブーツ、片手剣が1本。手持ちの金が3000コル。
あ、コルというのはこのゲームの通貨の事だ。ベルとか円とかゴールドと同じ。原価単位は大体日本円と同じである。
初期に支給されてる武器でも狩りはできるだろうけど、せっかくなので自分なりの武器でやりたいのが男の心情だ。
ソード・アート・オンラインは名前にある通り剣を使い戦う。なんならそれ以外の戦闘方はないのである。魔法がないファンタジーと言うのも珍しいが、だからこそ剣のみで戦うスタイルはある種斬新であり、王道でもある。
俺としてはこういうタイプのゲームは割と好きな方だ。
なんか理由は分からないけど燃えるだろ。殴り合いと剣の斬りあいはいつの時代も男心をくすぐる魅力がある。
時代が過ぎ銃による戦闘が主流になろうともやはりステゴロが最高。
そんな訳でさっそく新しい武器を買ってひと狩行こうぜ!と思ったが武器屋が見つからない。
SAOの舞台は空に浮かぶ鋼鉄の城という設定で。この舞台はアインクラッドという名前で、全体は卵みたいな形で内部構造は1から100までになる階層に区切られ1階層をクリアするごとに上の階に行き、100層をクリアすればゲーム攻略終了となる仕組み。
階層はピラミッドのような作りで上に行くたびフィールドは小さくなっていく。
つまり、第1階層はアインクラッド最大面積を誇り第1階層最大である始まりの街もとにかくでかいのだ。そんなデカイ街でたった1つしかない武器屋を探すとなればまぁ骨が折れる。
ポケモンとかならある程度ポケセンとショップの位置は決まってるけど、ここはどうか。少なくともゲーム初見の俺ではそういうアルゴリズムを知るのはまだ先の話だろう。
仕方なくあたりをしばらく歩いていると1人のプレイヤーに目がいった。
まわりの奴らが興味深くあたりを物色してる中、明確な目的を持った足取りに意気揚々と輝く目。
明らかに他の
さてはあいつ。
「そ、そこのあんた!」
「え…?」
思い立ったらつい反射的に呼び止めてしまった。普段反射的に誰かを呼び止めたり、なんなら話をする事すら少ない俺だが声が出てよかった。一安心だ。こんな事に安心を覚える俺自身に一抹の不安はあるけどな。
呼び止められた青年はいぶかしげに俺を見る。
「えっと‥‥俺に何かようか?」
「あ、ああ‥‥きゅ、急に悪いな。もしかしてβテスターか?」
「!」
この反応ビンゴだ。
というか顔に凄い出てる。確か感情を読み取りオーバーリアクションで再現するシステムだかがあるんだっけ?
それともこいつがただ単に分かりやすい奴なのか。
「‥‥なんでそう思うんだ?」
相手に身構えられてしまった。悪意なく話しかけただけで警戒するとか失礼な奴だ。いや、むしろ俺に取っては平常運転の反応だな。
少しキョドってしまったのも印象が悪いか。顔はイケメンでも滲み出るコミュ障感が否めない。
「別に大した理由じゃないけど、えっと、君が他の人たちと違い足取りがはっきりしてたからかな。ほら、他の人たちは興味深そうに周りを見てるから」
そういわれて、周囲を見渡すとなるほどと一気に警戒心をなくさせる青年。
イケメンらしくイケメン風の口調にしてみたが功をそうしたようだ。なんだよイケメン風の口調って。はいリア充王様であるリア王こと葉山を参考にしました。
顔もそうだがこの口調だとまんま葉山だな。べ、別に葉山の奴が羨ましいんじゃないんだからね!
「それで、悪いんだけど武器屋の位置を知っていたら教えてほしいんだけど」
「いいぜ、あんたニュービーか?」
「ああ」
「そうか、俺はキリトよろしくな」
「‥‥あ、ああ、俺はヤハタだ。よ、よろしく」
付き出された手が一瞬なんのことかわからなかったが握手か。
イケメンの真似事をしても隠しきれないぼっちとしてのカリスマが光りキョドリながらもたどたどしく握手を交わすのだった。
始まりの街から少し離れた草原。そこには3人の野郎が剣を片手にイノシシを囲むように立っていた。。
「ぐはぁぁぁあ!?」
あ、今1人吹っ飛ばされた。
悶絶しながら騒いでる赤髪の男の事はひとまずおいといて、俺がキリトに連れられ武器屋まで行った所だった。
武器屋に行ったところ片手剣や槍やらが並ぶ中俺が手にしたのは曲刀。日本人にはあまりなじみがないが。イメージとしては日本刀の親戚みたいな感じで又は中国の青龍刀みたいな奴だ。
性格が捻くれてるから剣も曲がってるとか、自虐的な意味ではなく単純にフォルムが気に入っただけだから。変な勘ぐりはやめてもらおう。
それで、話の流れでキリトが一緒にひと狩行こうぜと提案してきたので断ろうとした時だ。
断っちゃうのかよ。
俺と同様にキリトがβテスターだと気が付いたらしい赤色の髪の男クラインが仲間に入れてほしそうに話しかけてきた。
仲間にしますか?
はい
いいえ←
と、断るき満々で口を開こうとしたら。
「いいぜ、俺はキリトよろしくな」
「おおー!ありがとなキリト!俺はクラインよろしくな!」
俺が断るより先に神速の速さでキリトが了承した。
まぁ、よくよく考えるとクラインはキリトに用があり、キリトと俺はもうさよならするところだったんだからキリトが勝手に了承しようと俺には関係ないか。
そんな訳であばよと片手を上げ無言でその場を去ろうとしたら。
「そっちの兄ちゃんもよろしくな!それじゃあみんなで狩に行こうぜ!!」
「おう!」
クラインに両肩掴まれそのまま連行されるように俺は拉致られるのだった。
おい、俺の意志どこいった?迷子なの、八幡君の意志ちゃんお兄ちゃんが探してますよ~
そして今に至る。
「ぐおぉぉぉっいってぇぇぇえ!?」
イノシシ、というかイノシシ型のモンスターフレンジ―ボアに吹っ飛ばされたクラインは2転3転地面を転がり腹を押さえ野太い悲鳴を上げる。
本来イノシシの突進なんて大怪我しても不思議ではない。それこそ入学式の俺の様に骨の1本や2本折れるレベル。
ただし、ここは精巧に作られていると言っても所詮ゲームである。
ダメージによるフィードバックは現実世界の半分以下であり、衝撃はあれど痛みはほぼ感じない。
吹っ飛ばされたところでHPバーが少し減るくらいしか電子の体に変化はない。
「おおげさだな、そんなに痛くないだろ?」
「ぐぉぉー…ん?そういや、そうだな。そういやこれゲームだったな。いや~あまりにリアルすぎてついうっかりな!」
ニカッと屈託ない笑顔で勢いよく立ち上がるクライン。
うっかりであんな反応するとか、こいつは芸人か?もしくはおちゃらけたリア充。
教室の後ろでうぇーうぇーいってる感じの奴、どこの戸部だよ。
「うっかりって‥‥とにかくもう一度やってみろよ」
「つってもよ~どうやらいいのかよくわかんねーンだよ‥‥」
情けない話というわけじゃないがドラクエでいう所のスライム。ポケモンで言う所のコラッタレベルであるこのイノシシ相手にクラインはたじたじである。
「説明しただろ、剣を構えて一瞬溜める。そうすれば後はシステムが自動でソードスキルを発動させるって」
片手剣でフレンジ―ボアの前に立ちクラインが吹っ飛ばされた突進を軽くあしらうキリト。体制を変え、俺とクラインに見えやすい位置で剣を構える。次の瞬間、キリトの片手剣は青いエフェクトに包まれ勢いよく振り下げられる。
「フギャー!!」
か細い断末魔を上げフレンジ―ボアはポリゴンの塊となり崩壊する。
おおーお見事。
あれがソードスキルか。
魔法という概念がないSAOにおいて重要になるのがこのソードスキルだ。
ソードスキルはシステムアシストにより連撃や高火力の技を出すいうなれば必殺技みたいなものである。
普通の斬るや突く攻撃と違いシステムがスキルと認識し威力を何倍にも跳ね上がらせるため本来何回も斬らなければ倒せない敵を一撃で倒すことができる。
俺達レベルではまだせいぜい2連打が関の山だがソードスキルの中には10連打以上も可能な技もあるとかないとかいう話だ。
コマンド押さなくても必殺技が使えるの便利だが、慣れるまでが難しい。
ただ、クラインは他のゲームでギルド長を務めていたらしく飲み込みも早かった。
キリトの見本を参考に一振り二振り剣を上下させしばらくすると淡いエフェクトに包まれソードスキルが発動する。
「おっしゃあああ!やったぜ!」
野郎の雄叫びが木霊した。初めてモンスターを倒した瞬間はうれしいものだが何分相手が相手なだけにそこまでかと疑問に思う。
あまりの興奮しきった反応に若干引いてる俺を尻目にキリトは賞賛の声をかけた。
「おめでとう、といってもこいつスライム相当の奴だけどな」
「え?マジで!?俺はてっきり中ボスクラスの奴かと思ったのに・・・」
「そんな訳ないだろ」
呆れるキリトは少し遠くの草原を指さす。そこには2体のフレンジ―ボアが新しくポップされていた。
というか、こんな序盤に中ボスクラスがいたらせっかくの神ゲーが一気にクソゲーに早変わりだ。
ポケモンで言うならマサラタウンを出発してすぐにチャンピョンロードの敵が出る様なもの。
ライバルすら突破できねぇよ。
「よし、クラインはそのまま感覚をつかむまでやっててくれ。次にヤハタ‥‥」
「ん?」
名前を呼ばれ振り返るとキリトは少しバツの悪そうな微妙な顔で俺を見ていた。
はて、何なのかそんな顔をされる覚えはないが、一応理由を考えてみる。
キリト、クラインにソードスキルを教えていた。
クライン、感覚を忘れないように反復練習中。
俺、曲刀にエフェクトを纏わせイノシシを狩っている最中。あ、倒した。
ふむ分からん。
キリトの奴は、なぜ目を点にさせているのだろうか?
まるで学校の旅行中同じ班になった奴らがどこに行くかと意気揚々と話しているときに、お土産を買っていた俺に向けられた時のような目じゃないか。
小声で、「普通1人で買うか?」「集団行動しろよ」と聞こえたが何のことかさっぱりわからん。それにひそひそと話していたが普通に聞こえてた。むしろ聞かされていた。
いや、だってお土産とか別に人と話し合わなくても買えるし、個人の買いたいものがあるのに無理やり集団で行動させようとする方が悪い。
協調性がないとか当時の担任に言われたがどちらかと言うと俺は被害者だ。
ボッチを無理矢理6人班とかに押し込む学校教育が悪い。
実質5人とそれについて回る1人という構図なんだし確認とったところで却下されるのがオチである。なら早々に1人で買い物を済ませたほうが建設的。
自分一人でできる事に下手に人員を増やしても意見が統合されずだべったりして時間と労力の無駄だしな。
良く言うだろ、自分でできる事は自分でやるって。
そんな当たり前の事をしているにすぎない俺を悪というのなら世界の正義は間違いだ。むしろ俺こそ正義である。
「えっと‥‥大丈夫そうだな‥‥」
「おう」
「そ、そっか‥‥」
にも関わらず少しさびしげな顔をするキリトにのどに刺さった小骨ほどの罪悪感を感じるのはなぜだろう。
やはりアレか、正義っていうのはいつの時代も人に理解されない孤高の存在だから常人とは相いれないものなのか。なんつってな。
それから俺達は時間がたつのも忘れめちゃくちゃ狩をした。
それからさらにしばらくたち、俺は自分のレベルアップに専念するため2人と行動を別にする事にした。
え、だって元々武器屋の場所聞いたらキリトとはおさらばするつもりだったしこの集団プレイも半ば無理矢理連れられついでにただで教えてくれるならもうけもんという100%の打算だし。
これ以上一緒にプレイする必要もない。
別れ際にクラインから、違うゲームで知り合った仲間と一緒にプレイするからどうだと誘われたが丁重にお断りした。
だって考えてみろよ。もしこの誘いにのりのこのこついていったら―――
クライン『お~い皆こいつも一緒にプレイするけどいいよな?』
ヤハタ『よ、よ、よろしゅくおふぇがいします!』
仲間『お、おう・・・よろしくな』
仲間(なんか変な奴が来た・・‥!?)
みたいな感じになるだろ。俺の方もお仲間さんの方も気まずい空気の中プレイするとか、何プレイだよ。
しかし、イメージの中ですら噛みまくる姿しか想像できないなんて俺のボッチクオリティーの高さが伺える。キリッ俺はキメ顔でそう思った。
なんだよボッチクオリティーって。
効果音付きのキメ顔でこうも場に変動を与えないのは世界広しといえども俺くらいなものだ。
クオリティー高いな俺。泣けてくるぜ。