やはり俺の青春ラブコメがゲームなのは間違っている。   作:Lチキ

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比企谷八幡はプレイする。

人々が夢に見た世界。

剣を持ち魔法を操りどでかいドラゴンや醜悪な魔物と戦うファンタジー。

 

男の子なら誰もが夢見るそれは現実の世界に存在しない架空の産物。

 

英雄に勇者に魔法使いに剣士に憧れた。が、所詮それはない物を羨むただの妄想だ。

この妄想を長く続けると、大体そうだな中学2年生くらいまで続けると少年の微笑ましい想像は痛い厨二病に変色してしまう。

例えば材木座とか材木座とか、あとは剣豪将軍とか名乗ってる材木座とかがいい例だ。いや、悪い例だ。

 

ただし、2022年人類はそんな夢や幻、妄想を現実にすることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――そう仮想世界として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の体育の時間。

夢に夢を重ねて白いキャンパスを真っ黒に染め上げる中二病患者材木座は宣言する。

 

「ゴラムゴラム、よいか八幡!有象無象が跋扈(ばっこ)する価値無き世界はついに我らに真の姿を現したのだ!」

 

「‥‥」

 

「幾百年の時代を越え、あの血で血を洗う最終決戦ラグナレクが今再び蘇る!!!!共に戦場を駆けた記憶が輪廻の果てに戻りうるようだな八幡よ!!!はーはははははッ!!!」

 

「‥‥」

 

「ハハハハッゴホンゴホンッッッ‥‥えーと、我の話聞いてる?」

 

「‥‥」

 

「おーい、もしもし比企谷さん?はーちーまーんさん!!」

 

「‥‥」

 

「‥‥お願いです返事してくださいっ無視とかされ続けたら我悲しくて死んじゃう・・・」

 

「・・・キャラぶれぶれじゃねーか」

 

「おお!八幡!」

 

「うるせ!ボリューム下げろ殺すぞ」

 

「あ、はい、すいません‥‥ていうか我の扱いひどくない?」

 

この何を言ってるか分からない中二病のデブの事は置いておいて。

 

「やっぱり酷い!?」

 

モノローグに突っ込むんじゃねぇ、え?口に出てた?知るか。

 

このとち狂ったピザデブがまた何を言い出すのかと疑問に思う奴も多いだろう。実際周りから遠巻きにこちらを見ている名前も知らないクラスメイト達も

「何言ってんの?」「よくわかんないけどうっさいな」「あれ?あんな奴うちのクラスにいたっけ」と言う風な視線を向けている。

 

最後に至っては材木座じゃなく俺に対する感想のようだが多分気のせいじゃない。

 

まぁアレだ、それはそれとして材木座が言ってる事は聊か・・・相当過大解釈されてるがそれは1つの事柄をさしている。

 

今現在、世界から注目されてる最新技術を使ったゲームが近々発売されるのだ。

これだけ聞けば高校生がゲーム1つで何を騒いでいるのかと思うかもしれないが侮るなかれ。

このゲームは完全な仮想世界を再現したRPG。ゲームの中に入りプレイできる全ゲーマーが夢見たまさに夢のようなゲームである。

 

俺だって昔は良く妄想したものだ。

世界を支配する魔王だとか、神に選ばれた選定者だとか、戦士や騎士になって俺SGEEEEE!とか優しくしてくれる女の子に「あれ?もしかして、もしかしてこの子俺の事好きなんじゃね?」とか思って、告白して玉砕、翌日になるとなぜか全校生徒がそのことを知ってるだとか‥‥ゴホン、ゴホン。

最後のは違うな。あれはただの実話だわ。

登場人物、団体、俺のトラウマ、全てノンフィクションの黒歴史じゃねぇか。

 

異世界ファンタジーという妄想。ただし、科学技術が発展した現代ではある特定の条件下でこの妄想は現実のものとなった。

 

VRマシン

最新鋭のバーチャルリアリティ技術。無数の信号やら多重電界だの小難しい話は俺も良く分かっていないが、要するに仮想世界で自分の好きなように動くことができる。

テレビゲームやネットゲームの世界に入り込める技術であり、これを利用したゲームがVRMMO。

ナーブギアという頭全体を覆うヘルメットのような機械を頭につけ、横になる。たったそれだけで仮想世界に一っ跳びできるという。

 

これについて材木座がちょー楽しみと言っている。ただそれだけの事であり、それに対してうん、相手してやるのめんどいなよし無視しよう。というのがさっきから今に至るまでの流れである。

 

え?だから声に出てる?知らんがな。だから泣くなようっとおしい。

 

結局その後授業が終わるまで材木座の、ゲーム説明会のようになった。いるよな自分の好きな物をやたら説明したがる奴って。正直聞いてる方はそこまで興味ないのに1人だけヒートアップしてるパターンの奴。

 

はぁ…早く授業終わらないかな。それと材木座少し静かにしろよ。厚木が凄い形相で睨んでるぞ。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

世界を騒がす今一番熱い、話題のゲーム。

VRMMORPG第1弾『ソード・アート・オンライン』通称『SAO』

世界初のVRMMORPGという事で発売が発表されてから今の今まで様々なメディアで繰り返し報道されている。

 

試験運用として募集されたβテスト版は、1000人の定員に対し50倍以上の応募があったと聞く。俺も応募したがさほどしない間にゲーム会社らしきところから残念でしたと言う趣旨の手紙が送られてきた。

 

ベータ版は2か月という期間だけだが、ネットのレビューは凄まじく某最大掲示板サイトには1日でスレの数が過去最大を記録したとかしないとか。要するに誰もが欲しがる魅惑のゲームである。

 

斯く言う俺もそんな魅惑を一度でいいから感じたいと思いどうにか手に入れようと奮闘した。

 

ハードとソフト合わせて10万以上する高価品でバイトもしたが半分くらいしか集まらず、仕方なく親父に頭を下げたら鼻で笑われた。あのクソ親父が。

それでもおふくろに交渉しても絶対YESといってくれなさそうなので親父に交渉するほかなかった。5万貸してと言って何に使うのかと聞かれゲームと答えたら憐みの目で拳骨されるのがオチ。

 

比企谷家のカーストはおふくろ、小町>カマクラ>>>>>>>親父>俺となっている。俺どころか親父ですらカマクラよりも下である。

亭主関白とか何それおいしいの?男尊女卑?女尊男卑の間違いでしょ。さらに言えば別に女の方が男を虐げているのではなく男の方が奉ってるから質が悪い。

 

なのでどうにかこうにか親父に交渉を続けた。土下座しながら出世払いするから貸してくれといったら「お前がまともに社会に出れるわけねーだろクソ息子」と鼻で笑われた。

 

おのれクソ親父!‥‥親だけに良く分かってるじゃねーか!

認めちゃっうのかよ。まぁ将来の夢が専業主夫だし仕方ないね。

次点で親の脛を効率よくできるだけ長く齧る事を計画してる俺が言いかえすことは出来なかった。

あんなのでも伊達に家族を養っているだけの事はある。親マジリスペクトただし親父はマジディスパイズ。

 

そんな感じで自力入手は不可能と悟った俺は比企谷家最終兵器にして対親父用の切り札。

 

マイシスター小町を召喚!あらゆるトラップ、魔法、モンスターを無効にし親父にダイレクトアタック!

 

さらに小町の効果発動!

小町が攻撃が成功した時ライフに関係なく勝利は確定する。

強すぎじゃね。軽くチートだチーターだーまる。

 

そんな感じで俺はゲーム1式を手に入れた。実際はただの交渉だけど。交渉というか小町がお願いしたらふたつ返事でハードを買ってきやがったよあいつ。どんだけ小町に甘いんだよ。

小遣いとへそくりでも足らず母親に土下座して小遣い3か月分前借して結局こづかい5か月分カットされた姿は親父といえど多少哀れに思ったのは秘密である。

 

親父ざまぁー。

 

その後おふくろに聞いたら親父だけじゃなく俺の小遣いもカットされてたけどね。

人を呪わば穴2つ。

 

そんな訳で汗水流し血を吐きながら(主に親父が)手に入れたソード・アート・オンラインは今日の13:00から正式サービスが開始される。

 

すでに諸々の設定は済ませてあり、後はナーブギアを頭にかぶりベットに寝ころべば仮想世界に一っ跳びという寸法である。

遠足しかりいくら年をとってもトラウマを抱えようともこういう時間は胸が躍る。

 

見てないからわからないけど今の俺の目の濁りは普段より数段増しになっているに違いない。うまくいけば漆黒に輝くブラックダイヤモンドレベル。何それ一度中に入った光は二度と表に出さないの?

むしろ、俺が一生家から出たくない。

 

時間までまだ少し時間がある。ふと、スマホを見るとアマゾンとマックと小町と平塚先生、最近はたまに由比ヶ浜からもスパムっぽいメールが届くメール受信のランプが点灯している。

 

差出人は材木座だった。

あいつは人一倍このゲームを楽しみにしていたけっかな。今ではあの騒がしさが滑稽なまでに懐かしい。

 

SAOは初回発売数は約1万本、それも日本限定発売という事もありかなりの競争率で、さらにβテストに選ばれた奴は優先的に購入権が手に入るので実質9000本となる。

 

βテストの抽選でも1万人以上の応募があったんだから全員に行き届くはずもなく、発売日の前日には全国のゲーム屋には長蛇の列ができていた。俺も千葉にある某有名ゲーム屋の前に並んだ口である。

 

本当にアレは辛い戦いだった。なにがつらいってアレだよ。寒空の下野郎どもが押しくらしててそんなに寒くなかったのが何よりつらい。寒くないからいいじゃんとかじゃなくて男として辛いんだ‥‥

 

さて、ここで朗報もとい残念でもない感じなお知らせだが材木座は当日に風邪をひいてゲットどころか列に並ぶことさえできなかったそうだ。

 

学校でもついぞ消沈した様子で楽天オークションを見ながら小声で「30万で落札とか‥‥ありえん・・・」みたいな事を呟いていな。あの様子とこの呪詛めいた不幸のメールみたいなのから察するにあいつはゲームを手に入れられなかったのだろう。

 

材木座安らかに眠れ‥‥

 

「あ、もう時間じゃん」

 

俺は材木座の事を意識の外に追いやスマホを無造作にベットに投げ捨てるとナーブギアの電源を入れスイッチを押しゆっくりと目を閉じる。

 

心はまるでトラウマにさいなまれる前の純粋な少年の様だ。意気揚々と無意識に上がる口角を感じながら俺は呟く。

 

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