アイドルマスターシンデレラガールズ~花屋の少女のファン1号~   作:メルセデス

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一応、生きてます。


第11話

季節は夏の暑さが治まり、木々の葉が紅葉し始め、外の景色が違って見え始めた頃。

季節が変わり始め、今日の気温は平年より低めらしい。いつも天気予報だけは調べる癖がついているのが、こういう時に役に立ったなとふと思う。必要あるかはわからないが、念のために手袋を忍ばせた置くことにしよう。

 

既に学校は放課後の時間帯を迎えた。

二学期が始まってからと言うもの、シンデレラプロジェクトのメンバーは忙しさを増しているようで、休日はレッスンやイベントで出演してるらしく、同じクラスにいる彼女とも学校の中でこそ会話は交わしてはいるが、それ以外で接する機会はほとんどなかった。そのシンデレラプロジェクトの一員でもある彼女、渋谷凛は、自分の席に座って外を眺めている。いつもであれば、授業が終わった後すぐにでも教室を出るのだが・・・その視線は窓に向けたまま動かない。今日は休みなのかもしれないが、その時でもこうして外をじっと眺めているのは、彼女の初めて見る姿だ。

 

島村さんによれば、美城常務、という外国から帰国した人が、アイドル部門全プロジェクトを白紙化にするということを帰国早々に宣言したらしい。だが、その発言に反対意見を出したのが、俺との面識もあるシンデレラプロジェクトのプロデューサーだという。そのプロデューサーが白紙の代替案として企画したシンデレラの舞踏会、というのを実現させようと日々忙しい毎日を過ごしている、とのことだ。

常務という役職が具体的にどこまで位が高い地位なのかは知らないのだが、少なくともプロデューサーよりは上の立場だろう。そんな人が思いつきで発言したのではないだろうし、何かの思惑があることは間違いない。実際、城ヶ崎姉の方が化粧品の宣伝とのタイアップしているポスターを見たことがある。恐らく美城常務が提案したものだと判断しているのだが、今までとは違った城ヶ崎美嘉というアイドルの魅力をアピール出来ていたと個人的には思っている。それが本人がやりたい仕事だったかどうかは別として、と付け加えるが。まぁ、その美城常務の意見が絶対というわけではないだろうし、島村さん達がプロデューサーを信じているのであれば、そちらの方針に従っていれば間違いはないだろうと思っている。

 

俺が知る彼女達の近況としてはこんなところだ。

そんな事を思い返している間に、自分の帰宅準備が整う。視線の先の彼女は、相も変わらず動く気配がない。そんな姿が心配・・・というわけではないが、気になるのは事実だ。放課後になってることを気づいていないわけではないとは思うが、声をかけるくらいはいいだろう。そう思い、席を立ちあがり、同じクラスのアイドルに近づいた。それでも、視線がこちらに向くことはなかった。

 

「今日は事務所に行かないのか?」

 

そう声をかけると、ようやく彼女の視線がこちらを捉える。声をかけた相手が俺だと認識すると、体ごとこちらに向き直した。

 

「・・・今日はオフだから」

 

端的に返答を返す渋谷。と、同時に帰宅準備を始める。・・・本当に放課後だと気づいてなかったんじゃないだろうか。

 

「・・・今日ってさ、時間ある?」

 

荷物を鞄に詰めて立ちあがった後、問いかける声が耳に届いた。用もなければそんなことを伺いはしないだろう。ただ、どうも一緒に帰るだけだとか、そんな空気ではない。彼女なりに何か用事があるということだ。・・・それも、明るい話、というわけではなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いた話を要約しよう。

プロジェクトクローネ。「かつての芸能界のようなスター性、別世界のような物語性の確立」

346プロのブランドイメージの確立の第一歩として、美城常務がプロジェクトを立ち上げたという。

 

各部署の垣根を超えたプロジェクトらしく、俺と直接関わりがあるシンデレラプロジェクトもその対象に入っており、秋の定例フェスに向けて、美城常務自らメンバーを選定しているとのことだ。

 

そしてそのメンバーに、渋谷は選ばれた。ただ、ニュージェネレーションとは全く別のユニットの活動を予定してあるとのこと。その話を聞いた段階では、渋谷は自分のユニットがあるからと断ろうと思ったらしい。ただ、同じユニットに選出されたほかの二人のメンバーは、まだデビューもしておらず、この話を断るとデビューが先送りになるのではないかと危惧しており、結局、その場では断ることは出来ず、結果は保留となった。

 

以上が、彼女から聞いた話を自分なりにまとめた内容だ。そして、この話・・・彼女なりに考えた結果、新しいユニットの方は断るつもりでいるらしい。

 

「渋谷がちゃんと考えて結論を出したなら、それで良いんじゃないか?」

 

一通り彼女からの話を聞いて、思ったことは実にシンプルだった。ニュージェネレーションはまだ結成して半年も過ぎていない。まだまだこれからって時に、わざわざ別のユニットと掛け持ちすることもないだろう、と思う。それと同時に、渋谷が別のユニットを組むことに積極的だったなら、それもまた賛成はしていた。彼女自身がどうしたいかをちゃんと考えられていれば、彼女の選択を後押しするのが一番良いだろう。

 

「芳乃の考えはどうなの?」

「さっき言った通りだ。渋谷が考えた結論なら」

「それは私の考えを後押ししてるだけ。芳乃自身がどう思ったか、聞かせて欲しい」

「・・・俺の意見なんて参考になるとは思えないが」

「参考になるかならないかじゃない。私が芳乃の意見を聞きたいの」

 

何故、そこで俺に意見を求めるのか。渋谷と俺では、考え方も、思考も、生活している環境さえ違うのに。

だが、そこまで言われてると、流石に言わないわけにはいかないだろう。彼女より二、三歩先に前を歩いていた俺は、後ろを振り返る。ここから彼女と別れる道までは直線なため、足を止めることはしないが、歩く速さは少し遅くしながらも、夕日の陽を背に、彼女と向きあう。

 

「一つ、確認させてくれ。新しいユニットに参加した場合、美城常務は既存のユニットを解散するとは言ったか?」

「ううん。既存のユニットを解散するとは言ってなかったよ」

「・・・ニュージェネとして今後も活躍することに、反対はない。それは本当。ただ、両立と言った形で、違うユニットとして活動する、っていうのも別段悪いことじゃない、とは思う」

「それは・・・どうして?」

「実際に会ったことがないから性格云々は知らないが、美城常務の提案そのものに良いイメージを持っているからだ。本人がやりたいか、やりたくないかという気持ちの問題はあるだろうが、ニュージェネとはまた違ったこととか、新しい何かを経験出来る機会だ。その機会を逃すのは残念ではあるな」

 

新しいユニット、違うメンバーとの活動。苦労も多いだろうが、その分何かを得ることが出来るだろうとは思う。ニュージェネの活動自体はもちろん減るだろうが、解散だとか、活動休止だとかそういった話は出ていないのであれば彼女にとって悪い話ではないだろう。

 

「ただ、さっきも言ったがニュージェネだけで活動することが何も変化がないわけじゃないだろうしな。結局、渋谷の気持ち次第になるんだよ。俺が実際に経験してるわけでもないから、推測で話すしかないんだ」

「・・・それでも良いよ。私が我儘を言って、聞いたんだから。言ってくれてありがとう」

 

どちらにせよ、対象となる相手とは話をしないといけないだろう。スムーズに話がいけば良いが、新ユニットを断るとなれば、デビュー前の二人からすると、せっかくの機会を失うのだから簡単に物事が進むとは思えない。新ユニットの参加を希望したなら、島村さんと本田さんが困惑するような話だ。

 

彼女からの言葉に返答することなく前を向くと、渋谷と俺の分かれ道となる場所に二人が立っていた。

あっ、と隣に並んだ渋谷が小さく声を漏らす。それだけで、数歩先の目の前の二人が、知らない人ではないことがなんとなく伝わった。そしてそれは、俺にとっても例外ではなかった。

 

「凛」

 

夏にあったライブ。あの時に見かけた姿を、ここでもう一度目にするとは思わなかった。隣にいる渋谷を名前で呼んだあと、視線をこちらに向ける。病院にいた時と体型などは変わったように見えないが、あの時よりも健康的だと思える。

 

「それと・・・久しぶりだね、芳乃」

「・・・元気そうだな、北条」

 

 

 

 

 

 

 

 

渋谷に話がある二人は、場所を変えてハンバーガーショップに移動することになった。俺はこのまま帰ろうとも思ったのだが

 

「凛がアイドルってこと知ってるんでしょ?だったら、聞いても問題ないよ」

 

と、北条に言われ、そのまま同席することになった。(渋谷にも確認したが、承諾された)

・・・聞いた話を公言するつもりもないが、聞かれても問題ないという信頼はある、と思っていいのか。

北条加蓮の友人は、神谷奈緒という名前らしい。あの夏のライブの際にも彼女と一緒にいた人だろう。

正面から初めて神谷さんを見たが、眉毛が気になる。ここまで女子で太い眉毛の人は見たことがない。・・・本人には言っていないが。

 

 

各々好きな物を注文して、席に座る。俺よりも先に座っていた神谷さんが注文したハッピーセットの景品を触っている。景品は何かのフィギュアなのだが、対面側にいる俺の視線を気にせず触っているところを見ると、買った本人が欲しかったのだろう。

 

「奈~緒~、芳乃が見てるよ」

 

と、続いて買った商品を手に持ってやってきた神谷さんの隣に座りながら声をかける。はっ、とした表情でこちらを見るフィギュア好きと思われる少女。

 

「こ、これは・・・だな・・・」

「・・・別に引いたりしてないですから。気にしないでください」

 

別に個人によって好きな物や事など異なるのだから、否定する気もない。クラスメイトにアイドル大好きだと公言してる人もいる、なんならアニメやゲームが好きだって自己紹介の時に堂々と宣言したのもいる。

 

「そ、そっか。というか敬語は良いよ。あたしだけに敬語ってのも気が引ける」

「了解。神谷さんがそれで良いなら」

「あんまり気にしないかもしれないけど、一応、奈緒の方が年上だからね」

「・・・覚えとくよ」

 

渋谷や北条と同年齢だと思っていたが・・・・違ったのか。流石に高校生だろうから1,2歳の年齢差だとは思うのだが。ただ、人は見た目によらない。シンデレラプロダクションの新田美波というアイドルがいる。

直接会ったことはもちろんないのだが、映像や雑誌で彼女を見かけた時、アルコールが飲める年齢だと思っていたからだ。本人に直接会うことがあったなら、素直に謝ろう。

 

それからすぐに渋谷も合流して答えを伝えるべき相手と向き合うように座る。答えの内容を知っている俺でも、ここからどういう事態になるか、というのは想像出来ない。完全な第三者なため、話を振られた際は答えようと思うが、出来るだけ本人達にまかせた方が良いだろう。

 

「色々考えてみたんだけど、私は参加できない」

 

そう、渋谷は結論だけを告げた。

 

「そうだよね。凛にはニュージェネがあるもんね」

 

二人とも渋谷の立場を理解はしているはずだ。既存のユニットとは違う別のユニットとしての活動が、島村さんや本田さんの活動の弊害になるかもしれないとうことは。

 

「でも、私、このチャンス逃したくない。奈緒と凛と3人でもっと歌ってみたい」

 

それでも、北条は勧誘を諦めない。渋谷が難しい決断をしたのだと理解しながらも、相手の目を見てはっきり自分の思いを言葉にした。

 

「この3人ならきっと凄いことが出来る。そう思えた。

・・・明日レッスン室に来て。もう一度この3人で合わせてみようよ。そうすればきっと分かる」

 

北条加蓮という人物と関わった期間というのは、決して長い期間ではない。人をからかったりすることはあるが、でまかせや思いつきで発言することはなかったと思う。・・・北条がそれだけ本気だということは、俺でも伝わった。ほかの二人にももちろん伝わっているはずだ。なんとなくだが・・・ここに来るまで、彼女もその意思を持っていたし、渋谷なら断るだろうと思っていた。ただ、今の彼女の表情を窺えば、どう返答するかなんてわからない。だって隣にいる彼女は、誰もが見ても迷っていることがわかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話したいことがあるんだけど」

 

そう、北条が店を出る前に一言声をかけてきた。別に断る理由もないため、帰りながら話そうという結論に至り、途中まで一緒だった神谷さんと別れ、今は北条と二人で帰り道を歩いている。

 

考えさせて欲しい。

渋谷が出した結論は保留であった。結果的に、新ユニット結成の可能性が残るという結果になった。・・・、その気のなかった彼女が保留の返事をしたのは、北条と神谷さんの二人と組むユニットに、ニュージェネレーションにはない何かを、渋谷も感じ取っているのだろう。今頃、自分が後悔しないために,結論を出すために考えているはずだ。

 

「・・・私は賭けてみたいんだ」

 

ちょうど歩道橋の階段を上がり始めたところで、前を歩く北条が、こちらを振り返る。自然と見上げる状態になる。

 

「私と奈緒が感じた何かは、本物だって信じてるから。・・・って、芳乃に言ってもわからないよね」

「部外者の俺にはな。・・・ただ、渋谷だって北条の言う何かを感じたんだろう。だからこそ、迷ってる」

 

ニュージェネレーションでは体験できない何か、彼女はそれを事前に感じていたのだろうか。それを、今日北条が口にしたことで、改めて実感したのかもしれない。

 

「もし、私たちの誘いを受けて、明日、凛がレッスン室に来くれたら、トライアドプリムスは結成するはず」

「そのトライアドプリムスっていうのがユニット名か」

「うん。もうユニット曲だってあるんだから」

 

そう話す加蓮は、嬉しそうで、楽しみにしているようで。初対面同士の会話というのは、互いに警戒なり探り合いなりするものだと思うが、病院で俺に初めて会った時の北条の警戒心が特に強かった気がする。

 

「なんかじっと見てるけど、私の顔に何かついてたりする?」

「そういうわけじゃない。病院で会った時の頃と比べると、楽しそうだなって思ってな」

「初めて会った時の頃は思い出さないでよ・・・。確かに、話しづらくしたのは私のせいだけどさ」

 

自覚あったのか、とか、意図的にやってたのか、とまでは言わない。それ以上言うと手とか足が襲い掛かってきそうだったからな。

 

「・・・で、話したいことってなんだ?」

「あーそうそう、話したいことはね」

 

考えを悟られると嫌な予感がしたため、こっちから話題を振る。今までの内容が北条の言う話したいことであるならば別だが、それとは別に何かあるんだろう。・・・と話題を振ったのはいいのだが、どうも嫌な気しかしない。それも彼女が一歩こちらに歩みよって、互いの手が届く距離にあるからだろうか。

 

「芳乃宛にメール送ったんだけど、届かないんだよね。どうして?」

「・・・高校進学する前日に紛失したんだ。その際にアドレスも新しいのに変更した」

 

なるほど。確かに、北条とは連絡先を交換していた。内容は、「お菓子作ってー」と送ってくるのが大半だったが。

 

「・・・そう。あと、家に行ってもいつも留守なんだけど?」

「高校進学してから俺だけ引っ越ししたからな。親父が家にいるだろうが、出張やら家にいるのが夜しかないから、留守なのも仕方ないな。北条と連絡を取ろうにも、アドレスなんて覚えてないし、家なんて知らなかったからこっちから連絡を取る方法がなかったんだよ」

 

嘘を言っているわけではない。実際、前に登録していたアドレスが全部登録出来ているわけではないし、不便なこともなかったから調べることもしなかった。連絡をしないといけない事態が発生したら調べたとは思うが。

 

「それで・・・私に、何か言いたいことある?」

「今度、好きなだけフライドポテトを奢る。それで許してください」

「ダメ。あと、私が頼んだ時にお菓子も作って」

「・・・わかった」

 

約束だからね、と念を押して彼女は階段を上がっていく。圧の強さに負けて謝った上に、振る舞うことが確定した。俺が悪いこともあるし、二つのことで許してくれるなら良しとする。これくらいのことなら大して苦にはならないしな。今から、材料の買い足しにでも行ってもいいかもしれない、と思い立ったところで風が髪を揺らした。平年よりも寒いと言ってただけあり、確かに肌寒さを感じる。それは目の前の北条も一緒らしく、くしゃみをした後、体を震わせていた。流石に目の前でくしゃみをされると、俺よりも寒さを感じてるんじゃないかと思う。念のためと入れておいた手袋を取り出して、隣に並んだ。

 

「使うか?」

「・・・いいの?」

「まぁ、目の前で寒そうにしてたらほっとくわけにもいかないだろ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

手袋しなくて風邪を引きました、なんてことはないだろうが手袋をはめて損はないだろう。手袋をはめた彼女は両手を合わせて感触を確かめている。以前、母親から聞いた話ではあるが、体調を崩しやすく入退院を何度かしたと話を聞いている。今となっては心配しすぎることもないとは思うが、せめて近くにいる時くらいは気にかけても罰はあたらないよな。

 

「ねぇ、芳乃。お願いがあるんだけど」

「俺に出来ることなら良いけど、何だ?」

「今度、芳乃のお母さんに挨拶させてよ。あの時、お世話になったから」

「・・・あぁ。母さんも喜ぶよ」

 

俺には何も出来ないが、出来れば彼女たちが納得して前に進めるような形になれば良いなと、そう思うことしか出来なかった。

 


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