機動戦記ガンダム・ナガレボシ   作:アルファるふぁ/保利滝良

25 / 57

こんにちは
一年戦争のサイドストーリーの多さに内心ビビっているアルファるふぁです
アニメ・ゲーム・漫画・小説 プラモの裏設定まで含めたら、一体どれ程の数になるのでしょうか・・・

今回も日常パートです!



アイアンフィストにて

 

視界一杯に広がっているのは、澄みきった空と雲の群れだった

クラクラする頭でも、青と空のコントラストが美しいと思えた

大の字になって倒れながら、ネクスト・ブレイクは青空を眺めていた

「まあこんなものか」

経験を感じさせるバリトンボイスが聞こえた

顔をそちらに向けると、無駄のない体つきをした男が仁王立ちしていた

「ウォルター、もう少し容赦してくれ」

「本気は出していないが、お前の鍛え方がなっちゃいないだけだろう」

「マジかよ」

ネクストの顔はアザだらけになっていた

ウォルターに何度も顔面を殴られたためだ

別にウォルターの怒りを買ったわけではない

「いや、ホント、ここまでボコボコにされるとは思ってなかった」

ネクストは強くなりたいと望んだ

ウォルターはそれを承諾した

ウォルターはネクストを手っ取り早く鍛えるために、生身の模擬格闘戦をすることを提案した

ネクストの駆るナガレボシが、ネクストの動きに合わせて動く特殊な機動兵器であるためだ

「俺も、ここまでボコボコにできるとは思っていなかった」

ナガレボシの動きをマトモにするため、操縦しているネクストの動きをマトモにしようというねらいだった

「この様だぜ」

「何を誇らしげに」

だがなんといってもネクスト・ブレイクはこの前まではただのバックパッカーなのだ

いきなり喧嘩まがいの模擬戦は無理があった

ミシミシ痛む体を起こして、ネクストは苦笑いした

「もう一度だ」

友人の腫れた顔を見て、ウォルターは答えた

「やめた方がいいぞ」

のっそりと大地に立つ

ズボンの尻に付いた土を払い、ネクストはボクサーのものを真似した構えをとった

ややフラついているが、その目は闘志に燃えていた

とんでもないガッツだ、とウォルターは思った

「良いだろう、とことん付き合ってやる」

「よっしゃあ!行くぜーッ!」

そしてネクストはウォルターに殴りかかっていった

それから数分後、アイアンフィストの診療所に伸びた新顔が放り込まれることになる

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだ」

「何が、というわけなんだ、だ・・・体張りすぎじゃねえか?それ」

「無茶は過ぎると大変なことになるぞ」

ウォルターに手も足も出ないことを話すと、グレックリーとレイゼンはそう相槌を打った

二人ともウィスキーのストレートをカパカパ空けていた

ここは酒の席だ

ネクストがウォルターと食事をしたことのある場所でもある

四個の椅子で囲むテーブルを三人で埋めながら、談笑していた

「それが、ウォルターはな、俺が弱いって言うんだよ!おかしくねえか?元軍人とド素人だぜ?比べちゃダメでしょ!」

小さなコップに注がれたカクテルサワーを少しずつ喉に流しながら、ネクストは続けた

顔には無数の絆創膏やらテープ留めのガーゼやらが張り付いていて、なかなかに滑稽だった

本人は至って真面目にやっている分、なかなか笑える

「だけどよ」

ウィスキーを一気飲みしてグレックリーが言う

「強くならねえと、だろ?」

「そうそう」

「じゃあもっと頑張らねえと」

「そうそう、うっ・・・面目無い」

グラスを握ってネクストが固まる

図星で、反論できない

と、ボトルを傾けていたレイゼンが、何かを思い付いたような顔をした

「どうした?」

「いや、俺たちがお前にアドバイスをすれば多少はマシになるのではないかと思ってな」

その提案に、ネクストが椅子を蹴って立ち上がった

「ホントかっ!?」

「嬉しそうな表情だな」

「ま、大尉にボコボコにされる可能性が低くなるからな、仕方ねえさ」

ヘラヘラとしながら、元ジオン人二人がウィスキーを飲み干した

流石に顔が赤くなり始めているが、二人ともまだまだ正気だ

酔いもいい具合に回っているし、さぞいいアドバイスを貰えるだろう

「そうだな、イメージトレーニング実験とかどうだ?」

「イメージトレーニング実験?」

レイゼンの提示した言葉に、ネクストは首をかしげた

「いやいやレイゼン、ここは生活鍛練法をやらせてみるのはどうだ?」

「生活鍛練法?」

グレックリーの提示した言葉に、ネクストは首をかしげた

「よくわかんないが・・・まずはレイゼンの方から聞こうか」

ネクストは頬を掻きながら言った

レイゼンは頷いてから話し始めた

「イメージトレーニング実験とは・・・まあ名前の通りのものだ」

「勿体ぶるなよ」

「せっかちだな、まあいい・・・まずイメージトレーニングをして、それからイメージした動きをやってみるんだ」

「イメトレだけじゃ駄目なのか?」

「いや、自分の想像と実際にできることは大分違う・・・それを理解するのは大事だ」

「ただ妄想するだけじゃいけないってことなのか」

「そういうことさ」

「ふうむ・・・?」

コップを傾けて、今の話を反芻する

このトレーニングなら、鍛練の方向性や自分の能力を理解するのにうってつけだろう

だが決定打に欠ける気がする

これだけでは、自分の頭の中だけで戦闘スタイルが完結してしまう

それでは、あのブルース・ウェインには勝てない

「グレックリーの方は?」

ネクストはもう一方の方に話を向けた

こちらは一体どんなトレーニングなのだろう

「簡単だ、日常生活をしてみればいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだ」

「なにが、というわけなんだ、よ・・・二日酔いのテンションでここに来るのはよして欲しいわね・・・」

相変わらずの毒舌で出迎えられた

ここはアウラ・ドレインバーグスの管理する家畜小屋である

アイアンフィストで食べられる肉等の生産の約四割がここで賄われる

残りは外部から買ってくるが、それでも住人の約半数のタンパク質を確保するここの役割は大きい

コロニーと違い環境の激変が多い地球では、肉は強力なエネルギーとして欠かせない

「生活鍛練法ってのは、まあ農作業とかの日常的な重労働で体を根本から鍛え、さらに他の利益を得るという突飛な思想で・・・」

「ウォルターもやってる、って所に食い付いたんでしょ」

「そう」

アウラの言う通りだ

グレックリーに言われるままに始めた生活鍛練法だが、普通にアイアンフィストの仕事をしているだけなのに強くなるはずはない

それなのにネクストが実施することを決心したのは、その生活鍛練法をウォルターが実施しているからだ

そしてネクストが最初に生活鍛練法の場として選んだのが、この家畜小屋だ

「まあ手伝うなら構わないわ、足手まといにはならないで」

「おう、任せろ」

「あと酒臭い」

ネクストは軍手をはめて腕を回した

流石に一日二日でパワフルになることはないだろうが、ウォルターに近付く第一歩だ

果たしてどんなハードな仕事が待ち受けているのだろう

「じゃ、鶏の卵の回収をして頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだ」

「いやいや、なにが、というわけなんだ、よ」

手伝いの礼に貰った新鮮な鶏卵を抱えて、ネクストはリーア・ケストレルと話していた

片手割りで卵をボウルに落としつつ、会話の中身を考える

「どういう訳なんだろうなぁ」

「私にもわからないなぁ」

「脱線してるよなぁ」

「そうだねぇ」

そんなこんなで、リーアはホットケーキを焼き上げた

ふっくらとしたケーキの山を一つずつ皿に移しながら、リーアはネクストに指示を出す

「フォーク」

「はい」

「バター」

「はい」

「メープルシロップ」

「はい」

「ホイップクリーム」

「はい」

「泡できてないじゃん、かき混ぜて!」

「はい」

ミキサー片手にネクストが頑張っていると、キッチンの向こうから声が聞こえてきた

明るく元気で、無邪気さに溢れたアルトボイスだ

「リーアねーちゃん!まだー?」

「僕もうお腹ペコペコ~」

「僕もー」

「ごめん、もう少しだけ待っててね!」

何も言えなかった

彼らが明るく元気なのは、リーアの奮闘のおかげだ

連邦の攻撃で家族を失った子供たち

ネクストが彼らを守るなら、リーア・ケストレルは彼らを支える存在だ

「俺・・・君達の家族を守れなかったけどさ」

ホイップクリームをシャカシャカかき混ぜながら、ネクストは呟いた

「リーアに負けないように、俺は君達を絶対に守るよ」

それは、罪滅ぼしかもしれない

本人たちの前で言わないのは卑怯だとわかっている

だからこれは、意思の再確認と、覚悟のし直しだ

自分で始めた戦いだ

その理由は、大きな力に挟み潰される人達を助けるためだ

それはとても難しい

世界を敵に回すのと同義だった

だが、ネクストはそれでも戦いたいと思った

ホットケーキを待っている子供たち

彼らに、親を失ったような不幸を、もう味あわせたくない

だから、強くなる

強くなりたいと、願った

 

 

 

 

 

「ねーちゃん、このホイップクリームしょっぱいよ」

「本当だしょっぱい!」

「涙の味がする~」

「ねー、そうだよねー」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。