機動戦記ガンダム・ナガレボシ   作:アルファるふぁ/保利滝良

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こんにちは
ザクのバリエーションではザク改が好きなアルファるふぁです
嘘だといってよ、バーニィ

今回は前回の戦闘後なので、若干しんみりしたドラマパートになっております



覚悟を決めた者

 

アイアンフィストの住人達が慌ただしく動いている

彼らは現在、連邦のモビルスーツによる攻撃を受けた自分達の住み処の修復しようとしていた

もっとも、攻撃から時間が経っていないため、瓦礫をどかすくらいしかできていない

そろそろ陽が沈みきってしまう頃、街の中心に置かれた大鍋から香ばしい匂いが漂ってきた

作業に従事していた人達のための炊き出しだ

何人かの男女が、それぞれ別々の大鍋をお玉でかき回していた

中身は野菜や肉を使ったミルクシチューだった

乳白色に浮かぶ野菜が色鮮やかだ

肩を落としたアイアンフィストの住人達が、鍋の隣に置かれたテーブルから食器を取っていく

「はいはーい、ちゃんと並んでね!向こうのテーブルでパンも配られてるよ!慌てずしっかり食べなきゃダメだよ!」

リーアが椀になみなみとシチューを注ぎながら行列に声をかけた

明るい語調の台詞、恐らく他の住人達を励ましているのだろう

しかし本人にも憔悴の色が少なからず見えた

見回すと、住人達は瓦礫に腰かけスプーンでシチューを啜っている

しかし、さも旨そうな笑顔を浮かべながら食う者は一人もいなかった

先程まで活気があったアイアンフィストの建物は、いくつかが砕けていた

あの暖かい街の光景は、一瞬にして豹変してしまったのだ

「あ、ごめんなさい!今入れるから!」

いつの間にかシチューを注ぐ手が止まっていたことに気付き、リーアは申し訳なさそうにお椀を手に取った

その表情にも、他の住人と同じように、疲れが滲み出ている

 

 

 

 

 

 

一人の男が、とても巨大な建物の前で煙草を燻らせていた

その目は建物の方を見ておらず、むしろ建物から逸らしているように思えた

短くなった煙草を足下に放り、踏み潰す

呼気を吐いたのは、煙草の煙を出すためか、それともため息か

「・・・ビーン、もう一本吸うか?」

神妙な面持ちで、別の男が近付いてくる

この街の用心棒の元締め、ウォルターだ

ウォルターは湯気のたった椀を片手に、ビーンに声をかけた

「いや・・・いらない」

「そうか・・・」

煙草を拒否したビーンにウォルターが相づちを打ち、二人の間に長い沈黙が起きる

ウォルターはビーンから視線を外し、大きな建物に目を向けた

アイアンフィストが大規模な敵に襲われたときの切り札、元ジオン残党のモビルスーツ数機

それらが納められている格納庫は、奇跡的にも無事だった

アイアンフィストの建物の中でもかなり頑丈なモビルスーツドックだが、流石に連邦のモビルスーツの攻撃に遭えばひとたまりもない

だが、こうしてモビルスーツドックは無事だった

守られるはずの街は大きな傷を負い、守る側のモビルスーツにはかすり傷一つなかった

ウォルターの顔が険しくなる

「自分を責めるな、ウォルター」

「・・・あぁ」

「こればかりは、運としか言えない」

ビーンは顔を動かした

動いた視線の先には、崩れた建物があった

その建物は彼の家だった

アイアンフィストの、町長の家だった

あそこには誰もいない

生きている者は誰も

「運としか・・・な」

ビーンはポケットを漁った

しかしポケットの中に煙草が無いことを思い出すと、ポケットから手を出した

ウォルターは彼に葉巻を突き出した

それを受け取り、ビーンは火を付け、くわえる

「なあウォルター」

「なんだ」

「俺は、町長代理が務まるか?」

「できるさ」

「ありがとう」

短い会話の応酬を区切り、ビーンは煙草を一度口から離した

その顔は先程の疲れきった表情から一変した

視線が鋭くなり、口も引き結べられる

「・・・町長代理として、改めて君達に頼む」

吸いきっていない葉巻を投げ捨て、ビーンはウォルターの顔を見た

彼もまた、覚悟の決まった表情をしていた

「アイアンフィストを、守ってくれ」

「わかった」

ウォルターは強く頷いた

「必ずやり遂げよう」

 

 

 

 

 

 

「オーライッオーライッオーライッ・・・はいOK!」

作業服の男たちのジェスチャーに従いながら、ネクストはナガレボシを移動させた

ナガレボシが膝を折り、しゃがんだ

モビルスーツモドキが動きを止めたかと思うと、その首元からネクストが這い出てきた

「よくやったな、ブレイク!まさか勝ってしまうとは」

「ウォルター?」

いつの間にかナガレボシの足下に立っていたウォルターが、ネクストに声をかけた

「凄まじい腕だったぞ」

ネクストはナガレボシから地面にゆっくり降りた

幸いにも突起や出っ張りの多い形状をしていたので、梯子のようにするすると降りられた

「・・・連邦って、あんなことするんだな」

地面に立って早々に、ネクストは呟いた

独り言かウォルターに喋りかけたのか判別できなかったが、ウォルターは後者と判断して言う

「お世辞にも、俺達は彼らに都合のいい存在とは言えないが・・・」

「・・・ジオン残党を匿い、モビルスーツを多数保有している、大規模な地球への不法住居者か・・・」

「世間的には、俺達はそういうことになっている・・・だが、」

一泊置いて、ウォルターは言った

「いきなりこうまでされるのは、初めてだな」

その顔は、疲れきっていた

ネクストは歯を食い縛り、目を吊り上げ、拳を強く握った

「ふざけやがって・・・」

ウォルターは、その呟きは無視することにした

突っついてはいけない気がした

「ふざけやがって!!!」

怒りに燃えたネクストが、どこへともつかぬ暴言を口から吐き出す

空気を察したか、ナガレボシの周りで彷徨いていたアイアンフィストの作業員は彼から離れた場所に動いた

「一番偉けりゃ、誰にでもなんでもしていいってのかよ・・・力と多数の支持さえあれば、少数を潰していいってのかよ・・・」

拳を一層強く握り、空を見上げ、腹から叫ぶ

「ふざけんなよこの野郎!!!あの人達は静かに大人しくしてたんだぞ!それを!それを・・・!」

「・・・ブレイク・・・」

「ウォルター・・・俺は、戦う」

ネクストの目から、涙が一筋に流れた

怒りの形相を携えながら、ネクストはアイアンフィストのために悲しんでいた

そして、傲慢な者達に怒っていた

「アイアンフィストの明日のために、戦う!」

決意の瞳が、ウォルターを射抜く

「ネクスト・ブレイク」

ウォルターは彼の名を言った

しっかり、はっきり言った

「俺達に力を貸してくれ」

ウォルターは頭を下げた

ネクストの力を、彼は望んだ

「アイアンフィストを、共に守ってくれ」

答えは決まっていた

「ああ」

答えを求める必要はなかった

連邦もジオンもくだらない

彼らはここにいて、ここに生きている

奴等はそれを自分勝手に潰してこようとした

「ぜってーアイツら、ぶっ倒してやる」

ネクストはナガレボシを見上げた

星空に照らされて、その機体は輝いて見えた

 


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