ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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桜を見て、ぼんやりと桜ちゃんを連想したので書いた作品。
これも冬木の街の人形師と同じ世界なのでしょうが、どうしても本編には関われない(ry
これも士郎と桜のイチャイチャ。


桜の夢(Fate)

 

「先輩、桜ですよ」

 

「あぁ、綺麗だな」

 

 ヒラヒラと舞い落ちていく桜の花びらを、桜は愛おしげに眺めている。

 まるで自分自身が、咲き誇る桜と同化したが如く。

 

「……あ」

 

 突風、勢いよく吹く風。

 春一番が舞い戻ったかのような、そんな強さ。

 そしてそれが去ったあとに、そこにあったのは……。

 

「ふふ、びっくりしちゃいました」

 

 桜が舞い散る中で、微笑みを浮かべている桜。

 桜の精だと言われても、何の疑いも持たぬであろう光景。

 

「先輩?」

 

「あ、あぁ、俺もびっくりしてたんだ」

 

 取り繕うように言うと、先輩もですか! と顔を更に破顔させた桜の姿が。

 さっき惚けていた時なら、桜に見惚れてた、と言えただろうが、今更言えるはずもなかった。

 

「桜と桜、うん、似てるよな」

 

 代わりに出てきたのは、おかしな感想だった。

 キョトン、と桜は首を傾げていた。

 

「謎かけですか、先輩」

 

「いや、感想だよ」

 

 地面に落ちていた、桜の花びらを一枚拾う。

 その色がやはり似ている、と思うのだ。

 

「この花の色が薄いところが、何となく桜っぽいかなって」

 

 遠慮がちなところとか、優しく、そして柔らかく笑うところとか。

 そう思って言ったのだが、桜はムムっと考え込むような表情をしていた。

 

「それって影が薄いってことじゃあ」

 

「桜は目立ってるよ」

 

 綺麗だし、と付け足すと、ポンっと湯を沸かしたように桜は沸騰した。

 

「そ、そうですね。

 桜の木はみんなに見てもらいたいから、花を咲かせてるんですよね

 だってこんなに綺麗ですから」

 

「ちょっと意味が違うけど、確かにそうだよな」

 

 多分、桜は意味を分かって誤魔化している。

 だけど、それ以上は何も言わなかった。

 それが無粋だということも、分かっているつもりだ。

 

 俯いていた桜。

 よく見ると、まじまじと落ちていた桜の花びらを見つめていた。

 

「私がこれだとしたら、姉さんは何色になるんでしょうか?」

 

 ふと思いついたであろう疑問。

 俺も少し考えてみる。

 遠坂の色、といえば赤だろう。

 でも、今は桜の花からの連想をしている。

 赤い桜なんて、呪われてそうだ。

 

「そうだな」

 

「先輩は、何色だと思いましたか?」

 

 興味津々といった体で、桜が俺を見ていた。

 ワクワク、と擬音まで聞こえてきそうである。

 そこまで期待されることなんてあるか? と思いつつも、答えることにした。

 

「ショッキングピンクかな」

 

「しょ、ショッキングピンクですか!?」

 

 びっくりした風に桜が言う。

 そしてその驚愕の表情は、段々と顔が崩れていき、最終的には口元に手を当てていた。

 

「姉さんがショッキングピンク、フフ」

 

 堪えきれず、といった感じで桜は笑いが止まらないみたいだ。

 でも、それ以外に、あんな個性の塊を形容できるはずがない。

 桜の中でも、中々に個性的に色を放っているのが遠坂らしいじゃないか。

 そんな事を思ったのだ。

 

「ところで先輩」

 

「どうした、桜」

 

 後ろ後ろ、と指を指す桜。

 えっ、と後ろに振り向くとそこには、

 

「へぇ、私ってショッキングピンクなんだ、衛宮君」

 

 めっちゃ笑顔の遠坂がいた。

 デモナンデカナ、コメカミニアオスジガミエルヤ。

 

「どうしてここに」

 

「衛宮君と桜の姿が見えたから、一緒にお茶でもと思ったんだけど」

 

 遠坂の手には我らの大正義、マウント深山の大判焼きの姿が。

 

「お、おぉ、ありがとう遠坂。

 家に上がったら、早速お茶を入れるから」

 

 だから先に帰ってるな、そう言おうとしたところで、ガシッと肩を掴まれる。

 

「ど、どうしたのかな遠坂。

 俺には家に帰って、お茶を入れるという使命が」

 

「あとにしなさい、こき使ってあげるから」

 

 あ、こき使うのは確定なのか。

 嫌な予感しかしない、でもそれ以上に今の状況が怖い。

 

「そうね、私がショッキングピンクなんていうのなら」

 

 遠坂はニンマリと笑っていた。

 どことなく、ペルシャ猫を思わせる笑い方だ。

 でも、俺にはそれが、死神の微笑みに見えてならなかった。

 

「ま、待て遠坂っ!?」

 

「問答無用!

 あんたは花咲かじいさんよろしく、灰になりなさいっ!!」

 

「それ灰になったのは、じいさんじゃないからっ!」

 

 それじゃあ、じいさんがとなり夫婦に燃やされたみたいじゃないか、と走馬灯が見える中でひっそりと思った。

 そして現実で、遠坂の右ストレートが、俺の腹に着弾した。

 見事なまでに腹に食い込んだ一撃。

 ぐふぉ、と言う呻き声と共に、空気まで吐き出された。

 

「士郎の、士郎の、馬鹿ぁ!!」

 

 正直悪かったと思ってる。

 意識が暗転する中で、遠坂の方に目をやる。

 

「姉さん、残念でしたね」

 

「慰めなんていらないわよっ」

 

 怒り声が聞こえる中で、仲睦まじい姉妹の姿が見えた。

 その姿に、暖かみを覚えながら、俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

「……ぱい、…んぱい、先輩」

 

「んっ」

 

 体が揺らされている。

 目を開けると、心配そうな顔をした桜がそこにいた。

 

「あ、悪い。

 家まで運んでくれたのか」

 

「先輩、寝ぼけてるんですか?」

 

 ちょっと呆れてます、という表情を浮かべている桜。

 それに、あれ? と違和感を覚えた。

 

「俺って確か、遠坂にパンチを食らって意識が飛んだんだよな?」

 

「……何でそこで遠坂先輩が出てくるんですか」

 

 不満そうに、じぃと俺の顔を見つめ続けている桜。

 ……どういうことなんだ、一体。

 頭を抱えて、どういう状況だったのかを思い出そうとする。

 

「先輩は土蔵で寝ちゃって、風邪をひいたんです」

 

 そんな混乱していた俺に、桜から救いの手が差し伸べられる。

 春に入ったからって、そんなところで寝れば当然です、と軽く俺を睨みながら。

 バツの悪さを覚えて、必死に思い出そうと、頭の中をまさぐり回す。

 そうして、ようやく記憶のピースが揃い始めた。

 確か昨日は、慎二と魔術の鍛錬をしていて、そのまま二人で寝入ってしまったのだ。

 

「兄さんが、”衛宮だけが風邪を引いたなんて、まるで僕がアレみたいじゃないかっ!”ってすごく怒ってましたよ」

 

 思い出したのか、桜がくつくつと笑う。

 そして俺も、それを聞いて安心した。

 

「慎二まで、風邪は引いてなかったんだな」

 

 俺に突き合わせたのに、引いてしまっていたら申し訳ないから。

 だから慎二が無事だったと聞き、安堵したのだ。

 

「でも兄さん、怒ってました。

 藤村先生も、”士郎のご飯があぁぁ!?!?!?”と絶叫してました」

 

 あぁ、俺より飯の心配なあたり、いつもの藤ねえだ。

 安心すればいいのか、呆れればいいのか。

 

「だから、早く治してください。

 私も……心配ですから」

 

 そう言って桜は、氷枕をタオルに包んで、俺のおでこに載せた。

 

「先輩、よく寝てくださいね」

 

 それだけ言って、桜は俺の髪の毛を撫で始めた。

 それはまるで子守唄のようで。

 人の温かさを感じることのできる、柔らかな手だった。

 

「なぁ、桜」

 

 意識が朦朧とし始める。

 あぁ、確かに俺は風邪をひいてるみたいだ。

 でも、その中で、ひとつだけ気になったことを聞いてみた。

 

「遠坂と何かあったのか?」

 

 夢の中で、何かを見たきがする。

 桜と遠坂が、嬉しそうにしていた、そんな姿を。

 でも、それ以上は思い出せなかった。

 思い出そうとするたびに、霞がかってしまう。

 

「せん、ぱい」

 

 驚いたような顔を、桜はしていた。

 でも、すぐに微笑んで見せて、俺の髪を柔らかく撫で続ける。

 

「きっと、これからあるんですよ」

 

 それだけ言って、桜は口を閉ざした。

 だからそれ以上、俺も聞こうとは思わなかった。

 

「桜の手、気持ちいいな」

 

 沈んでいく意識の中で、最後にそう呟いたきがする。

 桜は、最後まで笑っていた。

 

 

 

 

 

 そののち、俺は再び意識が浮上した。

 眠る前より、幾分か気分はマシになっていた。

 だけれど、何か違和感を覚える。

 なんかこう、頬に。

 

「ふふ、先輩の頬っぺた」

 

 桜の声だ。

 それから、ツンツンと頬を感覚。

 目を開けると、楽しげな桜が俺の頬をつついていた。

 

「何、してるんだ、桜」

 

「っえ」

 

 固まった、見事なまでに。

 そして次第に、ガチガチだけれど、再起動したようだ。

 

「氷枕、変えてきますね」

 

 震える声でそう言い残し、脱兎のごとく桜は部屋から遁走した。

 

「全く、何してるんだか」

 

 妙に膨れた感覚の頬を抑えて、そう愚痴をこぼした。

 

 

 彼を周りから見る人は、誰もいない。

 でも、もしいたのなら気付いたであろう。

 彼の口元は、弧を描いていた事に。




士郎と桜がイチャイチャする作品が、もっと増えますように(祈願)。
勿論、セイバーや凛でもええんやで?

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