ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

6 / 38
冬木の街の人形師、38話からの分岐です。


没ネタ 素敵で夢見るワンダーランド

 召喚の日、大聖杯のある大空洞にて、私は思わず声を荒げていた。

 有り得ないと、憤慨ここに著しいものがあると言わんばかりに。

 だって、だって、それは……。

 

「酔った魔術協会の学生が、クリスマスに礼装を鍋敷きに使って焼け落ちた、ですって?」

 

「はい、金色に輝く鍋と炎が見られたとの情報が入っております。

 これについて、魔術協会は学生の処分を行い、当面の希少品、礼装などの貸出を禁止するとの決定を下した様です」

 

 なんて冗談、面白くないから夢なら覚めて。

 強くそう願ったけれど、残念ながらここは現実で、告げてきたアインツベルンの彼女は、至って真顔で。

 巫山戯るのも大概にして、と憤りを覚えずには居られなかった。

 本当に、どうなっているというのか。

 そもそも、イギリスにある時計塔で、どうして日本の鍋なんかが行われていたのか。

 全く持って意味不明すぎて、呆然とする他にない。

 

「魔術協会って、一体……」

 

「呵呵、儂も若かりし頃は時計塔で鍋をしたものよ。

 伝統じゃな、闇鍋にゴキブリを混ぜるのが楽しみであった」

 

 呆れ果てたと言わんばかりに呟く凛に、臓硯は昔を懐かしむ様に目を細めた……色々と最悪すぎる思い出みたいだけれど。

 一方で神父はニヤニヤと私を見ていて、今すぐに撃ち殺したくなってくる。

 目が、どんな気持ちだね、マーガトロイド? と口ほどに語っていたのだから。

 

「呪われてしまいなさい」

 

 九割学生、一割神父に向けての呪いを呟くと、私はメイドの彼女の方に振り返った。

 彼女はもう既にやる気を失っており、直ぐにでも帰りたそうなオーラを漂わせている。

 私としても、茶番だと叫びたくなる衝動に駆られるが、主催者としてそうは問屋が下ろさない。

 ……もう心が折れてしまいそうだけれど、それでもこれからについて私が決定しなくてはならないのだから。

 

「他の礼装を探すのって、どれほど現実的かしら?」

 

「魔術協会はしばらく当てにはなりませんので、それこそ探検に出ねばなりません」

 

「探検?」

 

「はい、我らアインツベルンは八年前、資金と札束と金貨を使って、召喚用の礼装を調達いたしました」

 

「全部お金なのね」

 

「因みに、その総額は十億を軽く超えます」

 

「十億……」

 

「ファンタジーな数字ね」

 

 絶句する私を他所に、凛が羨ましそうにアインツベルンの彼女を見つめるが、残念ながら札束は湧いてこない。

 私の実家も裕福ではあるが、十億を簡単に捻り出せる程に財産は無い。

 もし使えたとしても、こんな博打に投下するにはあまりにリスキーであると言わざるを得ない。

 

「無理、ね」

 

「では、諦める他に無いと、そういう事でよろしいですか?」

 

 尋ねられて、私は言葉に詰まった。

 ようやく、ここまで来たのだ。

 それをこんな事で、鍋のせいで全部木っ端微塵になるなんて、そんなの絶対に認められる訳がないのだから。

 

「何か、他に方法はないかしら?」

 

 周りを見渡し、ここに居る面々に意見を募る。

 幸いにして、ここに居る連中は冬木の御三家。

 何かしらの知恵を持っていると、私はそう期待して。

 ……どうしてだか、臓硯以外の全員に目を逸らされた。

 

「凛」

 

「無いわよ、ここにだって初めて来たくらいなんだから」

 

「貴女は?」

 

「先程述べた方法以外に、術はないかと」

 

「……神父」

 

「私は一教会の神父に過ぎない。

 魔術にも、残念ながら詳しくはない」

 

 全員、駄目だった。

 最悪な事に、どうしようも無い状況である。

 寄りにもよって、この妖怪を頼る事になるなんて……。

 

「………………何か、方法は?」

 

「嫌々聞く事もあるまい。

 いっその事、機会を待つのも策じゃ」

 

「私は貴方ほど気は長くないの。

 だからこんな事をしている、分かるでしょう?」

 

「若いのぅ。

 まぁ、だからここまで来れたとも言えるか」

 

「それで?」

 

「ふむ、一つだけ方法はある」

 

「聞かせて」

 

 ここまで来ると、もうこの妖怪相手でも縋らずにはいられない。

 手段も方法も理不尽に吹き飛んだのだから致し方ない、そう自分に言い聞かせる。

 そんな私を舐める様に臓硯は見た後に、ふむ、と小さく呟いてからその方法を告げた。

 

「召喚の詠唱に、一節を加えるだけで良い。

 三騎士やライダーなどは土台無理でも、キャスターならば呼びつけられる」

 

「それは?」

 

「”汝こそは偉大なる祖。汝こそは魔を統べる法。我は汝の共謀者”、これさえ囁けば、魔術師が引っ掛かるであろう。

 尤も、触媒無くして何奴が来るかなどは保証できぬが」

 

 へぇ、と凛が感心した声を漏らす。

 私としても、正に裏技な方法は今初めて知った。

 流石は腐っても、冬木御三家の一角と言えるか。

 

「良いわ、もうどうしようもないもの。

 やるしかないのよ、私は」

 

「告げておくが、この召喚で十年分の魔力が吹き飛ぶ。

 次はない事は、覚えておくが良い」

 

 神父がご丁寧に解説してくれるが、そんな事は百も承知である。

 全く持って巫山戯た状況であるが、もう後に引く事なんてできない。

 後は当たって砕けろの精神で、死中に活を見出す他にない。

 

 半ば、ヤケクソでの行動。

 でも、今までで一番やる気に満ちていた。

 

 

 

「……始めるわ」

 

 そうして、準備を整えた私は、神父から令呪を受け取り陣へと向かい合う。

 お守りの代わりに、私の右手には、昔に貰った大切な魔道書(グリモワール)を。

 何時もはスカートの裏に縫い止めているそれを、今ここで引っ張り出して。

 

 ――深く溜息を吐いた後に、私は始める。

 ――浅く、浅く、小さく、小さく息をして。

 ――そして、

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 俄かに、魔道書が発光する。

 緩やかに、けれども渦巻きながら。

 まるでこの魔道書が、重力の発生地帯の様に。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 上から、下に。

 下から、上に。

 魔力の本流が反射し、瞬く間に工程を完了していく。

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者。

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝こそは偉大なる祖。汝こそは魔を統べる法。我は汝の共謀者。

 汝三大の言霊を纏う七天。

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔道書のページが、風に吹かれてパラパラと捲れて行く。

 魔法陣から、光が溢れて目を覆う。

 何かが、私の下へ飛び込んでくる。

 それを、私は受け止めて、それで……。

 

「え?」

 

 小さく声を漏らした。

 私の手元には、元々持っていたグリモワールが一冊と、それとは別にもう一冊。

 ファンシーな絵柄の、絵本の様な物体が一冊手元にあって。

 

「……………………」

 

 これは、つまりはどういう事なのか。

 分からない事柄に、私の頭はこんがらがりそうになる。

 けれど、それよりも前に……。

 

『こんにちは、素敵なあなた。

 夢見るあたしは、あなたの使い魔。

 貴女はあたしで貴女はあなた、貴女も一緒に夢を見るの。

 だから、あなたの名前を教えて頂戴』

 

 どこからか歌う様に、少年とも少女とも、淑女とも紳士ともつかない声が聞こえてきて。

 蝶が花に誘われる様に、私の名前をボソリと呟く。

 

「アリス、よ」

 

 小さな声で、ポツリと。

 それだけ言うのに、精一杯で。

 それ以上、私は言葉を述べられなくて。

 でも、この絵本にとっては、それだけでも十分だったらしい。

 途端に声が、少女のモノへと変化して。

 

『まぁまぁまぁ!

 あなたはアリス! 迷子のアリス!

 不思議で不可思議、でもアリス。

 だったらこれは運命ね!』

 

 楽しげな声の下に、絵本の姿がボヤけて変わる。

 まるで手品で蜃気楼、だけれどキチンと姿を現して。

 ……その姿は、そう。

 

「アリスがあなたで、私もアリス。

 素敵な出会いに祝福を、夢の時間はまだまだ続くわ。

 だからアリスをよろしくね」

 

 銀髪の少女、ゴシックロリータを纏った姿は、まるで絵本の主人公。

 魅入る私に、彼女も見入る。

 これはきっと不思議な出会い、ワンダーランドへの第一歩。

 

 こんなの、望んでなかった、けれど……。

 不思議と、私の心臓は高鳴っていた。




ナーサリーちゃんがすっごい好きなので、ちょっとやらかしてしまいました。
可愛い、すっごく可愛い、めちゃくちゃ可愛い、兎に角可愛い。
絶対に嫁に出したくない程に可愛いので、FGOで絆レベル10になったら養子縁組します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。