ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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なろうに投稿した短編。
お下劣ギャグテイストの練習に書いたもの。
なお、以外に好評で作者が戸惑ったのはここだけの話。


清純だと思っていた俺の彼女が、想像以上にやばかった(オリジナル)

 俺こと咲山浩太には彼女が出来た、つい最近のことだ。

 相手は幼馴染で、向こうから告白してきた。

 気分? もう有頂天である。

 いやっふーっ! と叫んでも良い感じだ。

 

『こうちゃん、私とお付き合いしてください!』

 

 あの時の彩月の声は、未だに脳内でリピート可能。

 一言一句、忘れることの無いであろう、麗しくも勇気ある言葉。

 長い黒髪をたなびかせて、どこか幼げな顔を不安で上気させながらの告白。

 あいつから告白されるくらいなら、俺から告白しておけば良かったと思ったのは、全てが終わったあと。

 ちょいと情けないかなとも思ったが、それも嬉しさの中に埋没していった。

 うん、だって一日にして人生の勝ち組、リア充街道に躍り出れたのだ、当たり前である。

 

 そんな俺だが、今日は彼女の家に御呼ばれしてる。

 幼馴染だし、今までも何度もお邪魔したことはあるが、彼氏になってからは初めての訪問。

 こう……胸が高鳴る感覚?

 そういうのを感じてしまうのは、やはり現金なものなのだろうか?

 いや、男なら誰だってこういうトキメキを感じるだろう!

 

 という訳で、現在彩月の家の前。

 五月雨という表札が見えて、馴染みの家だということを教えてくれている。

 だが、ここも彼女の家だと思うと、それだけで感慨深いものを感じてしまう。

 さぁ、ここから俺の新たな人生が始まるんやで!

 と、意味不明なことを考えながら、躊躇なくインターフォンを押した。

 すると何時もと通りに、ピーンポーンとどこでも聞ける音が響き、数秒後に”はい”という応答があった。

 

「あ、おばさんですか?

 浩太です、遊びに来ました!」

 

 愛想よくそう告げると、インターフォンからは彩月のお母さん、おばさんの嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

『まぁまぁまぁ!

 よく来たわねこうちゃん!!

 彩月から色々と話は聞いているわ。

 玄関は空いてるから、入って入って!』

 

「はい、ありがとうございます。

 お邪魔します」

 

『はい、どうぞ』

 

 何時も歓迎はしてくれているが、ここまで熱烈に迎えてくれたのは初めてだろう。

 というか彩月の奴、もう両親に話したのか。

 俺なんか、まだ恥ずかしくて話せてないっていうのに。

 だって、絶対にからかわれるし……。

 いや、今はそんな事はどうでも良い。

 今日は彼女の家でイチャつく日なのだ!

 俺はそう鼻息を荒くすると、軽い足取りで玄関まで行き、扉を開ける。

 すると彩月の家独特の匂いがして、普段はこれで落ち着くのに、今日ばかりはドキドキしてしまう。

 

「いらっしゃい、こうちゃん」

 

「はい、こんにちは、おばさん」

 

 互いに笑顔で挨拶し合う。

 彼女の両親に会う! というのは一般男子諸君にとっては緊張と汗しか掻かないイベントだろうが、俺にとってここは第二の我が家同然。

 わざわざ緊張する意味がないのだ!

 そういう訳で、俺はドキドキしながらも自然体のままで、居間に通された。

 おじさんは仕事でおらず、ここには俺とおばさんのみ。

 あれ? と感じたのはおかしくはない筈だ。

 肝心の彼女がいないのだから、当然であろう。

 

「あの、彩月は?」

 

「ごめんなさいね、こうちゃん。

 彩月にはお醤油が切れたから、買い物に行ってもらってるの。

 帰ってくるのは、あと大体30分くらい掛かるわ」

 

「あ、そうなんですか」

 

 ちょっと残念、というか拍子抜けだ。

 タイミングが悪いというか、間が悪かったというか。

 多分、目に見えて残念な表情を、俺はしていたのであろう。

 だからか、おばさんが、すごくいたずらっぽい表情をしながら、こんな提案をしてきた時には、俺はひどく驚いたと言わざるを得ない。

 

「こうくん落ち込まないで。

 代わりにと言っては何なんだけれど――」

 

 もう愉快で仕方ないという顔をしながら、おばさんは言ったのだ。

 

「彩月の部屋で……待ってる?」

 

「はいよろしくお願いします!」

 

 即答していた、自分でも引いてしまうくらいに。

 だが、それだけに魅力的に感じたのだ。

 彼女が居ない内に、彼女の部屋にお邪魔する。

 何だか、心の奥から背徳感的なものがムクムクと来るのだ。

 

「あら、こうちゃんも年頃なのねぇ」

 

 ニヤつきながら、おばさんは手早くジュースとお菓子を用意したお盆を俺に渡し、そうして囁いた。

 

「何かするにしても、嫌われない程度でね」

 

「……ハイ」

 

 つまりは、怒られない範囲でなら何をしてもいいのですか?

 そう受け取れる発言に感じたのだが、それは俺の脳が腐っているからだろうか、恋愛的な意味で。

 まぁ、あまり意識しない方が良いだろう。

 そういうことで、俺はジュースを零さないようにお盆を持ちながら、階段を上がっていった。

 階段を上り終えた先には、彩月の部屋とプレートが掛かっている扉がある。

 何度も訪れた事がある、あいつの部屋だ。

 流石に、誰も居ないと分かってながら入るのは緊張してしまう。

 だけれども、この罪悪感こそがまた一興なのだと自分に言い聞かせて、俺は部屋の扉を開けた。

 中は電気が付いてなかったので、電源を入れて侵入する。

 

「相変わらず、日当たりの良い部屋だな」

 

 窓から差し込む日差しで部屋は明るい。

 電気をつけたのは、まあ気分というやつだ。

 部屋の外装は、クリーム色の壁紙に、ベッドや机が置いてある。

 それらを小物で可愛らしく装飾してあって、女の子の部屋だと意識してしまう。

 

 それは兎も角、その女の子の部屋の主はおらず、今いるのは俺だけ。

 そう考えると、そわそわしてしまう。

 いけない事をしていると、倫理観が訴えてきているのだろう。

 だけれど、今更そんなことを気にしても、入ってしまってるのだから仕方がない。

 

 俺はいけないという気持ちを誤魔化すために、そこらをキョロキョロと見回す。

 すると、机の上に一冊の本が見えた。

 Diaryと書いてあるから、日記帳なのだろう。

 何でこうも無防備に置いてあるのか理解できない。

 だが、その無防備差は、まるで読んでくださいと告げているようで。

 部屋に入った時以上に、いけないと倫理観が静止してくる。

 これをやったら、おばさんの言っていた嫌われない程度に、という線を容易に超えてしまうことだから。

 俺としても、彩月に嫌われるのは本意ではない。

 むしろ、何としてでも避けたいことだ。

 ……だが、それ以上に、この抗いがたい魔力には逆らえなかった。

 

 だって彼女の日記なんだぞ?

 ぽんと置いてあったのなら、読むのが礼儀というものだ!!

 そんな言い訳を自分に言い聞かせて、俺は恐る恐るとページを捲った。

 それだけで、既に先程までの葛藤は何処かへ旅立ってしまったのにも気付かず、ただ目を走らせていくのであったのだ。

 

『×月○日 土曜日

 今日からお父さんに日記帳を買ってもらったので、初めてながらに日記を書いてみようと思います。

 お父さん曰く、”継続は力なり、だからお前もその力をつけろ”といきなり渡されて、少し驚いちゃいました。

 でも、一言ずつでいいってお母さんも言ってたし、それならと思って始めました。

 これから毎日、頑張って続けます!

 

 追記、丁寧語なのは、後に残るからはっちゃけすぎても良くないなと思って、そうしました』

 

「はは、あいつらしいな」

 

 始まって一日目を読んで、あまりのらしさに頬が緩んでしまう。

 真面目で、だけれども頑張りやな彩月の性質。

 日記にまでその癖が現れていて、どんどんと俺は日記の内容に没入してしまっていく。

 

『×月△日 木曜日

 今日は放課後にこうちゃんがアイスを奢ってくれました。

 嬉しいので日記に書いちゃいます。

 何が嬉しいと言いますと、こうちゃんが私とお出かけしてくれたのもそうですが、アイスをトリプルで頼んでも良いって言ってくれたんです!

 もう嬉しくって、”こうちゃんありがとう! 世界で一番男前!!”って褒めちゃった。

 ちょっと即物的すぎたかな?』

 

「まるで人が買収したかのように……」

 

 アイスのトリプルで格好いいという言葉を買ったと思うと、非常に虚しく感じてしまう。

 ッフ、俺に触れると火傷するぜ、と黄昏てしまうくらいには。

 ま、まぁ、気にしないんだけどね!

 ……嘘です、本心から男前って言って欲しいです。

 甲斐性なしと呼ばれ無いだけマシかもしれないけど。

 

『×月□日 日曜日

 今日は久しぶりにこうちゃんのお家に行ってきました。

 久しぶりでドキドキでした。

 だって好きな男の子の家だもん、私だって張り切っちゃいます!

 ……やったことは、単なるゲームでしたが。

 でも、こうちゃんがおトイレに行ってる間に勢いでベッドに飛び込んでみました!

 すると何だか心が暖かいこうちゃんの優しい匂いがして、すごく幸せでした。

 こうちゃんの足音がして、直ぐに何事もなかった様に座り直したけど、気付かれてないよね?

 私のすごくときめいてたの、こうちゃんには気付かれていないですよね?』

 

「あの時そんな事をしてたのかよ」

 

 まだ恋人になる前の日。

 新しいゲームであるワルオカートが手に入ったといったら、彩月が一緒に遊びたいと言って、俺の家でハンドルを握っていたのだ。

 俺がトイレで席を外して帰ってきた時、露骨に目を泳がせてやがった。

 もしかすると俺の肌色コレクションでも発掘されたと思ったが、そういうことだったのか。

 ……彩月が俺のベッドで悶えている。

 何か字面にすると、すごくエロくね?

 

「いかんいかん」

 

 ブンブンと頭を振って、面白そうなページがないか捲っていく。

 その中で、思わず手を止めてしまったページがあった。

 それは……、

 

『□月△日 月曜日

 今日はどうして私がこうちゃんのベッドに倒れてしまったのか、気になったのでパソコンで調べてみました。

 お父さんのお古のパソコンですが、未だにご機嫌です!

 と、それは置いておいて、ヤッフゥー知恵袋なる緑の配管工さんが分からないことを教えてくれるサイトで、私は質問をしてみました。

 ”好きな人の布団で、彼の匂いを嗅いでほわっとしてしまいました、どうしてですか?”と。

 明日には答えが帰ってくると、嬉しいです』

 

「おう、赤裸々暴露やめーや」

 

 彩月は変な所でアグレッシブになるから困る。

 その変な行動力のお陰で、俺に告白してくれたんだと思うと、ちょっと嬉しくなるが。

 まぁ、ネットの上だし、何にも実害はないだろうから大丈夫か。

 俺はそう思って、次のページを捲った。

 

『□月○日 火曜日

 お返事が来ました!

 そのお返事によると、”それはクンカクンカと言って、相手の事が好きでないと出来ない行為で、好きであればあるほど、良い匂いに感じてしまうものです。安心感を感じたのなら、もっと胸を張ってクンカクンカしてあげてください”とありました。

 成程、勉強になります』

 

「アウトォーーーー!!」

 

 実害あるじゃないか!

 何がクンカクンカだ、俺の彼女に変なことを教えやがって!!

 彩月も間に受けてんじゃねぇよ!

 

「やっぱりネットはアレなのばっかりだな」

 

 俺もネットをしている事を棚に上げて、毒づきながら文字を読んでいく。

 今度は、あんな巫山戯た話はないよな? と警戒しながら。

 すると、俺はあるページで指を止めてしまった。

 ちょっと頭が痛くなっているのかもしれない。

 

『□月×日 金曜日

 今日は体育の授業がありました。

 それがどうしたって話ですが、問題はそれからです。

 なぜ私がそんな事を書いているのか?

 それはこの感動を忘れない為の、大切な儀式だからです!

 だって今日……こうちゃん、体操服忘れて帰ったんですもん』

 

「おいいいいィィィ!!」

 

 まだ途中までしか読んでないが、頭を抱えてしまう。

 だってさ、あれだけあどけない表情をしてる彩月がだぞ?

 こんな怪しげな事を書いている。

 もうそれだけで、SAN値がガリガリと削れていく。

 もしかしたら、これは魔道書なのかもしれないと言わんばかりに。

 しかも無事に魔力を帯びていたようで、これ以上は読むな! と理性が叫んでいるのに読み進めてしまう。

 

『私は体操服が入った袋を、ギュッと抱きしめました。

 すると中からは、どこか香水の様な刺激的な匂いがします。

 良く分からないけど、お腹がキュンとしてしまいます。

 だから取り敢えず、袋に体操服が入ったままクンカクンカしてみると、何だか頭がクラクラしてしまって。

 俗に言う酩酊感ってこんな感じなんだ、と感心してしまいました。

 こんなにキュンとしてるってことは、私はこうちゃんが大好きって事だと思います』

 

「それが告白してきた理由かっ!!!」

 

 あー、頭がおかしくなりそうなんじゃぁ。

 錯乱しそうな頭で、俺は遠い目をしながらページを捲る。

 どうしてだか、手が止まらない。

 呪いか、好奇心か。

 どちらにしても、今の俺はルビコン川を渡ってしまったのを自覚せざるを得なかった。

 

『□日■日 土曜日

 今日はヤッフゥー知恵袋でお世話になった方にお礼を申しました。

 すると相手の方は、”ようこそこちらの世界へ”と喜んで歓迎していただけました。

 君と私は同志だとも言って頂けて、私は幸せです。

 世の中では私達の様な人種はマイナーらしいですが、それでも胸を張って生きていけば良いという言葉は、心強く感じずにはいられませんでした』

 

「それ以上いけない……」

 

 もう戻れない所まで行っているのか、恐ろしく彩月が遠くに感じる。

 お前はどこに行こうとしているのか。

 彩月の照れた顔が脳裏に過ぎるが、もうそれが上手に描けなくなっていた。

 むしろ、何だか危ないものにさえ思えて……。

 それを振り払うように、俺はページを捲る。

 最早恐怖すら覚えて、それでも俺は震えながらに読むのだ。

 どこかに救いを求めて、お願いだから優しく穏やかな彩月に戻ってくれと。

 

『□月○日 水曜日

 私はずっと悩んでいます。

 こうちゃんに告白するか否かについてです。

 どうしようにもドキドキして、こうちゃんの顔すらマトモに見えなくて。

 こんなことなら自覚せずに、ずっとクンカクンカしていられたら幸せだったと思います』

 

 惜しい! クンカクンカすら入らなかったら完璧だった!

 クンカクンカに目を瞑ったら、俺もドキドキできたのに!!

 どうして微妙に残念になってしまったのか。

 この咬み合わない感覚が堪らなく口惜しい。

 間違っているのは確実に世界、俺じゃないんだ。

 

 ……やめよう、考えるだけ虚しい。

 世の中にはどうしようもない事が有るらしいから、これはきっとそういう類のモノなのだろう。

 本気でままならない、どうしてこうなったと頭の中で点滅する。

 

 ――だけど、だからこそ読むのを止められない。

 

 もっと知らなければと、俺の心が囁くのだ。

 もはや本能といって良い衝動。

 だから俺はページを捲る。

 もう、後先の事なんて考える余裕がなかった。

 

『□月××日 土曜日

 ヤッフー知恵袋で新しいフレーズを教えて頂きました。

 モフモフという、何だかとても可愛い語感の言葉です。

 何でも可愛いものを愛でる時に使うとか。

 こうちゃん可愛いよモフモフ! ですね』

 

「前のが超絶変態過ぎるから、比較的にマトモに見える……。

 というか、女子ならモフモフは許されるか。

 いやマテ、俺がモフモフしているとか言われたら、何だかイエティみたいで嫌だな」

 

 毛むくじゃら、と暗に言われている気がしてならない。

 彩月が幾ら変態でも、そんな含んだことを言うはずないから問題は無いのだが。

 でも女の子なら神の柔らかさ的にモフモフは許される?

 モフモフ、モフモフ、彩月の髪の毛……。

 

「と、いけない、これじゃ彩月と同じ末路をたどる」

 

 そのうち俺までクンカクンカとか言いだしたら、それこそ世紀末。

 この星はクンカクンカの炎で包まれることであろう。

 

「さてと、続き続き」

 

 気にしたら負け、そう思って次のページを捲る。

 

『□月×□日 水曜日

 ヤッフー知恵袋の方は本当に親切です。

 私がモフモフをマスターしたというと、次の技を教えてくれたのですから。

 その名はペロペロ、クンカクンカの亜種に当たる奥義だそうです。

 私はヤッフー知恵袋の人を師匠とお呼びしたく思います。

 こうちゃんペロペロ』

 

「奥義ってなんだよ! というか変なことを教え込んで他の全て同一人物かよ!?」

 

 やめろぉ! それ以上いけない!!

 クンカクンカとペロペロの二刀流スタイルとか、一体何を極めようとしているかとひどく問いただしたい。

 彩月をここまで追いやるとは、師匠とかいう人物を俺は許せそうにない。

 何てことを、何てことを……。

 

『□月×○日 日曜日

 こうちゃんから飲みかけのゲオルグ(コーヒー)をゲット!

 微糖だから、苦い様で甘い味がしました。

 でも飲んでから気付きましたが、これって間接キスですよね?

 そう考えると、ちょっぴり恥ずかしいです。

 こうちゃんもそれに気付いてか真っ赤になってたので、きっと私達はこの時両想いだったのですね!』

 

「……彩月」

 

 良かった! 本当に良かった!!

 可愛い彩月もきちんと息をしていた。

 その大地には死滅した萌えと癒しのオーラを感じる事ができる!

 

『追記 とても嬉しかったので、こうちゃんの空き缶をペロペロしてしまいました。

    初めてのペロペロは、ちょっぴり苦い味』

 

「オチを付けるなあぁぁぁぁ!!!!」

 

 どうしてそんなピンポイントで俺を困らせる!

 まるで狙い撃ち、七面鳥……ッウ、頭が!?

 

「落ち着け浩太、俺はやれば出来る子だって」

 

 そう、クールになれとどこぞの主人公も言っていた。

 冷静さを欠いたら死ぬぞ(精神的な面で)。

 そう震えながら自分に言い聞かせて、更にページを捲る。

 

『□月×■日 火曜日

 私は確かめたく思います。

 こうちゃんに、告白する勇気があるのかどうかを

 だから……』

 

 珍しく、具体的なことは書かれずに、この日だけあっさりと終わっている。

 自分の中だけで分かれば良い事だったのか、それともそれ以外の理由か。

 分からないが、それでも気になるのは人の性。

 どうしようもなく、彩月の事が気になって仕方なかった。

 

『□月××日 水曜日

 決めました、私こうちゃんに告白します。

 私がこうちゃんが好きなら、避けては通れなくてまっすぐ行くしかないからです。

 だから私は行きます、こうちゃんへと告白しに』

 

 頭の緩い文章が全く見当たらない。

 それだけ、彩月にとってもこれは重要なことだったのか。

 ……変な性癖を持っても、彩月は彩月のままなんだって、ようやくちょっとは分かった気がする。

 良かったと思う反面、何とも言い難い感覚が心に残ったのは事実だ。

 うーんと唸りながら、反射的に次のページを捲ってしまっていた。

 

『□月×●日 木曜日

 やりました! 勝ちました! 勝利です!

 こうちゃん大好き!! 結婚決定です!!!

 あぁこうちゃんこうちゃん、くんかくんかすーはーすーはーぺろぺろぺろぺろ!!!!

 将来はこうちゃんの子供を沢山生んで一緒に幸せな家庭を作りましょうね!!

 今日は嬉しすぎて何も手がつきません、さっきから空き缶ペロペロしすぎてもう鉄の味しかしなくなってます!

 でもいいです、明日からクンカクンカペロペロし放題ですから!

 頭も胸も下の方もキュンキュンして止まりません!!

 こうちゃんこうちゃんこうちゃんこうちゃん』

 

「……やべぇ」

 

 見てはいけないものを見てしまった。

 どうせなら、前のページで終わっておけば複雑なれど幸せなままで追われたのに。

 あはっ、と思わず乾いた笑いを浮かべてしまう。

 でもしょうがない、これはこれで……乙と思えたらなぁ。

 遠い目をしてしまう俺、そのうち天使達が舞い降りてきてパトラッシュの下に召されそうである。

 で、もはや歯止めの止まらなかった俺は、たまらず次のページを捲ってしまっていた。

 このページから逃れようと、ある意味必死だったのだ。

 

『□月×▲日 金曜日

 師匠がお父さんであることが発覚しました』

 

「おかしいだろォォォ!!」

 

 おじさんなにやってんすか、まずいですよ!

 

『何でもお父さんは、クンカクンカの達人で何年もお母さんの私物をクンカクンカし続けてきたそうです』

 

「遺伝だったのかよ、これ」

 

『すごいです! と褒めるとお父さんは自慢げに顔を緩めて、お父さんのコートを差し出してきました。

 これでクンカクンカするが良い、との事らしいです』

 

「自分の娘に何てことさせようとしているんだァァァ!!!」

 

『けど、クンカクンカする相手は、もう私にとって一人だけだと告げると、お父さんはビックリして私を見ていました。

 それから少し私を見て、きつい目でこうちゃんのことを問いただしてきました。

 そこから口論になって、色々と酷いことも言ってしまいました』

 

「クンカクンカから俺の話題につながるのか……」

 

『そうして最終的に、こうちゃんをお父さんがクンカクンカするという結論で、決着がつきました。

 俺が見極めてやるとお父さんはニヤリとしてましたが、こうちゃんの匂いを嗅げば一発だって、私知ってます。

 次の休日、つまりは明日が楽しみです!

 こうちゃん、明日家に来てくれるって言ってましたもん!』

 

「え?」

 

 ここまで読んで、恐ろしい事に気がついた。

 俺、もしかしたらこの家に留まってたら、彩月だけじゃなくておじさんにまでクンカクンカされちゃうの?

 もしそうなら世紀末通り越して世界の終焉である。

 可愛い彩月にクンカクンカされるならともかく、髭面のおじさんにクンカクンカされた日には割腹するしかなくなる。

 

「ヤバイってレベルじゃないぞこれっ」

 

 やべえ、逃げなきゃ。

 逃げないと尊厳やプライドごとクンカクンカされ尽くしてしまう!

 そうなれば、俺はおかしくなってしまうっ!!

 

「今日は帰ろう、そうしよう」

 

 そうして俺は振り向いて、ドアノブに手を掛ける。

 ……その時、である。

 扉をガチャリと開ければ、そこには――

 

「読み終わった? こ~うちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『×月○○日 土曜日

 今日は家族みんなでこうちゃんをクンカクンカしました。

 お父さんもこうちゃんをクンカクンカして、ウムこれなら、だがしかし……と悩んでいましたが、正式にお付き合いすることを許してくれました。

 嬉しくって嬉しくって、私はこうちゃんに抱きついて全力でぺろぺろしてしまいました。

 それを見たお母さんに、はしゃぎすぎね、と笑って窘められてしまって。

 ちょっと恥ずかしかったです。

 これで私達を遮るものはないね、こうちゃん!

 

 ……でも、気になることが一つだけあります。

 こうちゃん、どうしてそんなに虚ろな目をしてるの?』




どうでも良い話ですが、この小説のせいで、知り合いに変態扱いされるとかいう屈辱。
……この程度で変態など片腹痛い!
狭い世界しか知らんのや!(心の咆哮)

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