ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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DSのゲーム、無限航路。
発掘して、ついついやりこんでしまってる最近です(物書く時間を削りながら)。
復古ブーム的に、僕の心の中に直撃してしまった悲劇。
宇宙戦艦で旅するゲームで、とっても面白いですよ!(ステマ)


二週目くらいのユーリくん(無限航路)

 遥か遠い未来。

 人類は技術革新により、地球より天高い星の海へと旅立つ翼を得た。

 限り有る地球の資源、増えすぎた星の人口、新たなる可能性への欲望――そして、果てしのない好奇心。

 故に、彼らは旅立つ。

 移民船へと乗り込み、星の開拓者となって。

 離散、集合を繰り返し、星間国家を築きあげていったのだ。

 

 国家の運命を握るのは、航海者達によって切り開かれていった宇宙航路。

 海賊が跋扈し、宇宙海流に翻弄され、幾多の勇敢な航海者達が命を散らしていったその路を人々はこう呼ぶ。

 

 無限航路――

 

 航海者たちの血によって舗装された、永遠に果てのない航路と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小マゼラン銀河、星間大国エルメッツァ連邦が中心となって複数の国が存在する宙域。

 エルメッツァは、かつて小マゼランに移民し、数多の開拓の末に広大な領域を支配するに至った、小マゼランの中心地域。

 彼の国の発展は、様々な形で行われていた。

 政府主導で大規模開拓を行ったカルバライヤ地域(その後、独立運動が高まった為に、独立を許可している)。

 エルメッツァ中央から外れて小マゼランへと移民を行った国家への同化政策。

 ――そして、0Gドッグ(宇宙開拓者)と呼ばれる人々が開拓した宙域の併合(俗に、自治領と呼ばれている)。

 これら硬軟合わせた外交、統治、開拓によって、エルメッツァは星間国家と呼ばれるまでに成長し、今日に至っている。

 

 そしてまた、今日も。

 新たに、航海者の卵たる0Gドッグが生まれ様としている。

 星の海に、手を伸ばしている若者が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ユーリ。

 やっぱり、行くの?」

 

「あぁ、チェルシーはそんなに嫌なのか?」

 

「だって、宇宙って危ない事がいっぱいあるんでしょう?

 私、ユーリが怪我するなんて、嫌」

 

 エルメッツァ連邦自治領、ロウズ。

 かつて、0Gドッグであったデラコンダ・パラコンダによって開拓され、エルメッツァ政府から正式に自治領として認可された宙域。

 そこで、少年と少女は今日も空を眺めていた。

 ……まぁ、正確には、少年に付き合って、少女も空を眺めている、が正しいのだが。

 

「チェルシーは、あの空が綺麗だとは思わないかい?

 僕は、憧れてる。

 空に、星に、宇宙に」

 

「私、ユーリが居ればそれで良いから……。

 私が家で家事をして、ユーリが働いてくれて。

 それで、幸せだって思う。

 それに、ユーリの赤ちゃんだったら、産んでいいよ?」

 

「ば、馬鹿言うな、チェルシー!

 僕達は兄妹だぞ!!」

 

「分かってる……冗談、だから」

 

 ひどく面白くなさげに呟く少女に、少年は”最近のチェルシーの冗談、笑えないな”と小さく独語していた。

 どう聞いても冗談ではない本気さがあったが、兄妹というフィルターが大体の事を妄言といった風に遮断してくれている。

 実に便利である、兄弟フィルターとは。

 

 と、そんなこんなで日課の様に星を見上げている二人だが、ここ二週間ばかりは単に星を見に来ている訳ではなかった。

 何がかといえば、二人の足元には手持ちカバンにリュックサックがあり、中には着替えやマネーカード(この時代は、大体が電子媒体にて貨幣交換が行われている)が入っていて、まるで旅行にでも行くのかと言った風情だ。

 チェルシーの荷物が膨らんでいるのは、ご愛嬌といったところか(チェルシーのリュックサックには、誕生日にユーリに買ってもらった、ロウズの特産品であるデラコンダ・パンナコッタちゃん人形が詰め込まれている)。

 そんな二人が実際に何をしているのかといえば……。

 

「アレ、かな」

 

 空を見るユーリが呟き、合わせてチェルシー自身もユーリと同じ様に夜の空を仰いで。

 ――そして、

 

「流れ星じゃないかな、ユーリ」

 

「かもしれない。

 だけど、それにしては変則的な機動をしてる」

 

「そっか……来ちゃったんだ」

 

 ユーリの言葉に一理あると感じて、複雑な顔をするチェルシー。

 だが、ユーリはそんな事にお構いなしで、待っていたモノが来るのに胸をトキメかせて。

 

「私とユーリは、今から来るお迎えさんに乗って旅立つんだね」

 

「うん、そうすれば、僕もチェルシーも0Gドッグの仲間入りだ。

 お金は幸いにあるから、多分何とかなるさ」

 

「お金持ちだったお父さんに感謝だね」

 

 あまり嬉しくなさそうなチェルシーを無視し、ユーリは胸が高鳴るままに流れ星の様な迎えを、自身を宇宙(そら)に運んでくれる打ち上げ屋を待ちわびて。

 待ちわびていて……少し怪訝な顔をしてしまう。

 あれ? と、チェルシーも同様に。

 

「こっちに、来てるね」

 

「来てるな」

 

「凄いスピードだね」

 

「そうだな」

 

 間違いなく、空からこちらに向かってきている物体があった。

 ノンストップで、急降下している。

 ……ここまで来て、ユーリもチェルシーも確信したのだ。

 アレはこちらに向かってきてるんじゃない、動きを制御出来てないじゃないか、と。

 

「ゆ、ユーリ!?」

 

「動かないで、チェルシー」

 

 それに気が付いて、即座に少年、ユーリの体は動いていた。

 チェルシーと呼んでいたよ少女に覆い被さり、これから来るであろう衝撃に備えたのだ。

 そして、二人が予測したそのままに、迎えの船は”堕ちてきた”。

 

「きゃあっ!!!」

 

「ック」

 

 衝撃、風圧、砂埃。

 それらが二人を襲って(主に跳ねた土はユーリに掛かっていた)、ゲホンゲホンとむせてしまう。

 ユーリは”中の打ち上げ屋の人は大丈夫かな?”と思って、チェルシーは”宇宙って……やっぱり怖い”なんて考えたりして。

 砂の霧が晴れた先には、エンジン部分が破損した小型艇が一隻、見事なまでに擱座している。

 

「大丈夫か、チェルシー?」

 

「うん、ユーリこそ」

 

「こっちも怪我なんてしてないよ」

 

 お互いの無事を確かめ合い、ホッと安堵の息を吐く二人。

 カバンが土塗れな事に顔を顰めつつ、次に確かめる様にして、ユーリは小型船の方に目を向けた。

 二人が連絡をして待っていた、宇宙へ連れて行ってくれる打ち上げ屋の船。

 幸いな事に火は吹いてないが、焦げた臭いと煙プスプスと噴いている。

 ユーリは即座に、修理するなら3時間かな、と修理工廠(賃金は月に200ガット)で働いていた経験を元に推測して。

 どうしようか、とチェルシーと二人で顔を見合わせた時。

 ガタンと、何かを開けた音がした。

 反射的に音の方角へユーリ達が振り向くと、そこには開かれたハッチがあって。

 中から、草臥れた格好の女性が一人、這い出てきた。

 

「チクショー、何が停船しなきゃ攻撃するだ。

 する前に撃ってんじゃないかい、早漏ヤロー共め」

 

 伸びている、女性は一時間汁に浸かったうどん並に伸びてしまっていた。

 ハッチ口から俯せに倒れて、ボソボソと小さな声で悪態をつく。

 ユーリ達には聞こえてないが、よしんば聞こえていたならチェルシーから”この人えっちな人だ……”と即座に判断されたであろう。

 要するに、言葉に品が無かった。

 が、聞こえてないユーリ達はお構いなしに、恐る恐るではあるが近付いて行く。

 大丈夫かな? と心配しながら。

 

「あ、あの、すみません」

 

「あ~?」

 

 そうして船の近くまでたどり着くと、緊張気味にユーリは声を出して。

 気怠げな返事をしながら、むくりとゾンビの様に女性は体を起こす。

 声のした、覗き込んでいたユーリの方へと視線を向けたのだ。

 

「……何だい、アンタ」

 

「依頼をしていた、ユーリです!

 こっちは、妹のチェルシー」

 

「あー、成程、アンタらが依頼主って訳だね。

 にしても、なぁ」

 

 ジロジロとユーリと、その後ろに隠れる様にしてトスカを見ているチェルシーを観察する打ち上げ屋、トスカ・ジッタリンダ

 その視線は露骨で、思わず二人揃って首を傾げてしまう。

 が、次のトスカの溜息と共に出てきた言葉で、二人の疑問は解消される。

 

「アンタらのみたいな小坊とお嬢ちゃんが依頼主だなんて、ビックリするね。

 で、随分と若いけど、依頼料は払えるんだろうね?」

 

「あ、はい、こちらに」

 

 そうか、とユーリも理解する。

 若い身なりで、現実を知らなさそうな二人組。

 そんな彼らに、打ち上げ屋の依頼料は確かに高かった。

 だからユーリは言葉を示す前に、そっと用意していたマネーカードを差し出す。

 こちらの方が、数倍は分かり易いから。

 

「へぇ、ちゃんと2000G(ガット)あるね、感心感心。

 割と大金だけど、どうしたんだい?」

 

「修理工場で働いた分と、足りなかった分はお父さんの遺産で何とかなりました」

 

「そうかい、そりゃ結構。

 じゃあ、貰うもん貰ったし乗りな……って、言いたいところなんだけどねぇ」

 

 物憂げに、トスカはエンジン部に目をやる。

 無論、そこにあるのは焦げ付いて破損したエンジンの姿。

 破損部分は少ないが、揺らされたせいか、すっかりとご機嫌斜めなのだ。

 

「これ、どうにかしないと、飛べそうにないね。

 さて、どうしたもんだか」

 

 重い溜息、今後の展開を考えると、憂鬱をトスカは拗らせてしまう。

 ロウズ自治領には、領民が流出する事を恐れて、航宙禁止法なる宇宙に出る事を禁止する法律が存在しているのだ。

 勿論、抜け穴なんて幾らでもあるが、ロウズ宙域の首都星でもあるロウズは警備が厳重で、トスカの小型艇もご覧の有様と化してしまっていた。

 無論、この現場に警備隊が駆けつけてくれば、御用となる事は請負である。

 悪夢か、そうなのか! とトスカが悪態を付きたくなるのも、仕方がない事であろう。

 が、この時ばかりは、トスカは運が良かった(撃墜されて、運が良かったというのもおかしな話であるが)。

 何故ならば、ユーリは修理工廠でそれなりの経験を持っている、機関士であったからだ。

 

「ツールを借りても良いですか?」

 

「は?」

 

「修理工廠で働いてたので、直せますよ」

 

 平然と言ってのけたユーリに、僅かに意識に空白の出来るトスカ。

 だが、自信があるユーリの顔に、任せられるか、と判断して使いな、と船の中からツールを取り出し放り投げる。

 どさ、と重い音を立てて、目の前に落ちたソレを迷う事なく手にし、ユーリは本当に修理へと取り掛かる。

 中々に的確で、正確な手捌き。

 エンジンには詳しくないトスカをして、口笛を吹かせる程の腕。

 三十分、一時間、二時間と順当に時間は経過し、それに合わせて船の傷も直されていく。

 その間、トスカはチェルシーから、ユーリは修理工廠の親方に、筋が良いと褒められてたなどを自慢しまくって、トスカを辟易とさせていたのは、全くもってどうでも良い事である。

 そして、ユーリの予測通りに、三時間後――

 

「お見事!

 どうやら、宇宙に上がりたいってのは遊びじゃないみたいだね」

 

「ありがとうございます。

 でも、最低限の修理で飛べる様にしただけですから、戦闘とかは出来るだけ避けてください」

 

「分かった。

 けど、戦えない訳じゃ無いんだろう?」

 

「まぁ、一回くらいなら」

 

「OK、それだけ分かれば十分さ」

 

 先程までとは対照的に、意気揚々としているトスカに、煤が付いた顔で微笑むユーリ。

 そんな彼に、チェルシーはタオルを持ってきて、ゴシゴシとその顔を拭う。

 手慣れた手つきは、何度も彼の顔を拭いた事がある証左だ。

 

「ユーリ、お疲れ様。

 はい、飲み物」

 

「ありがとう……って、これ、どろり濃厚ピーチ味……」

 

「嫌?」

 

「もうちょっと、飲みやすい方が良いかな」

 

「うん、ごめんね、ユーリ」

 

「いや、良いけどさ」

 

 近くの自販機でチェルシーが買ってきたのは、喉越しが悪いことで有名なジュースであった。

 何故そんな物を買ってきたかといえば、単にそれだけ残ってて、他が売り切れてたから。

 ロウズは交通の便が悪く、自販機は三週間に一回しか補充がされない。

 つまりは、ロウズでは良くある光景な訳である。

 

「……アンタ達、本当に兄妹?」

 

「どう言う意味ですか?」

 

「うんにゃ、チョイと気になっただけさ」

 

 イチャイチャと聞こえてきそうな二人に、思わずトスカは尋ねてしまったが、返って来たのはご覧の答え。

 ま、いっか、と思考を放棄したトスカは、”付いて来な”と二人をハッチの中へ案内する。

 何時までもここに居ては、警備隊に発見されてしまうから。

 そろそろ出発の時、とトスカは判断していたのだ。

 

「わぁ」

 

「ここが、船の中」

 

 そうして、トスカの船に乗り込んだ二人は初めて見る船内をキョロキョロと見回す。

 完全にお上りさんであるが、トスカはそれを咎める事なく、むしろ自慢げに誇らしくしていた。

 

「ようこそ、デイジーリップ号にってね」

 

 船の名前を聞いて、ユーリの鼓動が高鳴った。

 何時か、自分も自身の船を持ちたい、という衝動が芽生えたから。

 でも、今は。

 

「よろしくお願いします、トスカさん」

 

「はいよ」

 

 その第一歩を、歩み始めたに過ぎない。

 遠く天まで続く道の、はじめの一歩を。

 トスカはそれに応える様に快活な笑みを浮かべて、ユーリの手を握り返す。

 そこでユーリは、”あ、綺麗な人だ”という事に気が付けたのだった。

 無論、ユーリの事に関しては勘の鋭いチェルシーがそんな彼を見て、”ユーリの妹は私なのに、トスカさんも妹にするつもりなの!”と半ば錯乱した事を考えていた……かどうかはさて置き。

 ユーリが管制席に、チェルシーは普段は畳まれている中央の補助席に座り、トスカはメインパイロットの操舵席へと腰を下ろす。

 そうして、インフラトン・インヴァイター、エンジン部分にある船の心臓にに火を灯したのだ。

 

「ユーリ、チェルシー、準備は良いかい?

 忘れ物なんてしてないだろうね」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「わ、私も」

 

「なら良いさ。

 大気圏抜ける為に、一気にブッちぎるからね。

 しっかり掴まってなっ!」

 

 インフラトン・インヴァイターの出力が上昇する。

 50・70・90と、機関にエネルギーが満ちていく。

 そうして、100の値を計測器が指した時、トスカは加減なく操縦桿握り、ブースターのスイッチを押した。

 爆発する様に、デイジーリップ号は宇宙へと向かって、爆進を始める。

 

「じゃ、行こうか、宇宙の天蓋を突き破ってね」

 

 トスカの言葉が、ユーリの心にストンと落ちた。

 胸のトキメキが止まらず、体に強烈なGが掛かるのも気にせずにユーリはただ空を見つめる。

 これから先の事を、漠然と空想しながら。

 

 

 

 ――そんな中、夜が明け始め、恒星が顔を覗かせる。

 ――ユーリの目も、負けないくらいに輝いていた。






なお、続きを書けるかどうかは別問題な模様。

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