ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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殴り書きです。


恋姫後漢就活伝(真・恋姫†無双)

 時代は後漢末期。

 世は荒廃し、怨嗟と軍靴の足音が響く時代。

 漢王朝の威光は陰り、空を覆い尽くさんばかりの不安が民達を渦巻いていた。

 そしてそれは、雲の如く天のある場所、王朝の主である劉氏の所にも届かんとしているのである。

 

 故に、能ある者は憂い、剣を取りて弁を振るう。

 理由はそれぞれ、忠義、救済、野心など、様々。

 共通するのは、このままでは座して滅びるという結末を予期しているということ。

 即ち、第二の王莽を自らで作り出すということだ。

 そして付け加えるならば、今の劉氏には光武帝など存在しない。

 つまりは、今度こそ王朝は倒壊するであろうと言うことである。

 

 

 

 

 

「うーん、この……」

 

 ここまで書いて、筆を握った手を止めてしまう。

 あまりにあまりの内容、我ながら馬鹿なものを書いたと思う。

 こんな物が官吏の目に入れば、即日逮捕は不可避であることは、まず間違いでない。

 初っ端で躓く、実に私らしいと言わざるを得ない。

 昔は良く二次創作を書いてたから、文章書く位は出来ると思ったが、これが中々に難しい。

 文字屋を舐めるな! と言われれば、今の私には伏して許しを請うしか無いだろう。

 

 ぐちゃっと、墨で文字が書かれた竹簡を塗り潰す。

 こんなの、見つかったら即効で首チョンパだし仕方ないね。

 そんな慰めと共に、私は自分の著作に成ろうとしていた物と、悲しみの決別を告げていた。

 

 難しかった、存外難しかった。

 自分だこれだ! と反射的に文字を出力しても、それがダメだったと気がつけば、直ぐにそれは無価値なものになる。

 パソコンとは違い、間違いを正せないのがこんなに不便だなんて、すっかり忘れていたことだ。

 全くもってうっかりさんだね、私。

 これはテヘペロ、なんて言ってコツンと頭を叩く。

 如何にこの世界にはない知識を持っていても、どうにも深い技能が無い為に、どうにも明日から本気出すが常態化してきている。

 危ないなぁ、なんて思っても中々変えようがないのだから困ったものだ。

 

 ……そのお陰か、ちょっと昔の事を思い出した。

 ここじゃない世界、つまりは私が俺だった時の思い出を。

 まるで痛い人だな、なんて思いながらも、それでも思い出してしまったのだ。

 

 その時の私は、単なる近代国家の一学生。

 無気力だけれど夢見がちで、自分は駄目な奴だけれどどうにか人生乗り越えてける、なんて無条件で信じていた。

 趣味は二次創作を読み漁ること。

 たまに自分で書いては、出来が悪いな、なんて笑いながらサイトのチラ裏に投稿するのが趣味。

 

 そんな、お気楽極楽な自分だったが、ある日唐突に大学をウロチョロしていた時に、何かが頭の上に降ってきたのだ。

 見上げた時にはっきりと認識できた訳じゃないけど、多分あれは銅鏡の様に見えた。

 急な事で対応できずに、ボケっとつっ立ってたら、見事に頭にクリーンヒット。

 人生終了のお知らせである。

 なんて不幸な、とか有り得ない、なんて思う暇はなかった。

 

 そして次は、気が付けば自分がおぎゃあと泣いていたのだ。

 それからしばらくは、まるで映画館で映像を見ているような他人事の気分であったが、子供の頃になれば、あぁ、これって転生したんだな、と原理は不能なれど理解は出来るようになっていた。

 憂鬱さはマックスで、やる気なんて微塵もなかったが。

 

 なんでかって?

 まぁ、理由は簡単である。

 第一に、ここが昔の中国で、皇帝の名前が劉宏である事を知ったからだ。

 劉宏、自分の記憶が正しければ、それは後漢の皇帝で、霊帝と嫌がらせの様な諡を追号された人物の名前。

 もう何で過去に遡っているのか色々と意味不明だったが、家の書簡を読み漁り、お父様やお母様から聞いた話によれば確実に間違いはない、なんて確信を得れてしまった。

 それがわかった時点で、既にやる気は大暴落。

 平和な我が家で食っちゃ寝、読んで寝を繰り返すという退廃的な生活を送り始めたのだ。

 

 下手に働きになんか出れば、この時代は横行する腐敗や暴力などで、あっという間にお陀仏してしまう。

 現代の便利さ、それも大学生なんて温室に居ていた自分には、とてもじゃないが対応できる気がしなかった。

 逃げているだけ、と言われればそれは正しいだろう。

 だが、それでも自分は上手くやってける自信がなかったのだ。

 リアルスペランカーを舐めるなと言いたい、うん。

 

 そして第二に、何故か性別が男から女に変わっていた事である。

 半分の確率で失敗して、私は何故だか女の子として生まれてきてしまったのだ。

 これで、もうこんな時代だし詰んだわ……と投げやりになったのが大きい。

 この時代の女性の権利は、それこそ皇后様でなければ低いのだし、当然である(これは十二歳の時に違うと気が付いたのだが、怠けれ育った私には後の祭りであった)。

 

 そうして元服してから家に引き篭ること3年間。

 現在私は、流石にこのままでは不味いと思って、心機一転小説家を目指し始めていた。

 ……まぁ、その夢は早くも自分の実力不足という形で、即刻挫折しそうであるが。

 

 

 

『晩華、晩華、聞こえているならこちらに来なさい』

 

 そうして、私が回想に浸っている時に、急に私の真名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 女の子の様な声で、聞き覚えがある人のもの。

 それに従うように、私はそそくさと部屋から出た。

 従わないと、後が怖いから。

 だから廊下をトコトコと急ぎ足で歩く。

 どうにもこの時期は冷えて仕方がない、何て思って思いながら。

 

「晩華、参りました。

 失礼します」

 

 他所様の家ならば、もっと順序を踏まえなければいけないんだろうが、ここは私の家である。

 多少の礼節の欠落も、お客人の前でないなら笑って許してもらえる。

 まぁ、甘えすぎているならば、直ぐにしっかりなさいと叱咤されるのであるが。

 

「よく来ましたね、晩華」

 

 そして行き過ぎたら私を叱咤するであろう人物、目の前の彼女が声を掛けてくる。

 見た目はぶっちゃけ中○生、黒髪ロングで微笑んでる女の人。

 体操着とか着せたら、きっと一部の人には大ウケであろう。

 そんな人なんだけれど……、

 

「はい、お母様。

 お待たせして済みません」

 

「すぐに来てくれたから、そんなに待ってないわ」

 

 たおやかな声は、間違いなく若い女の人のもの。

 だけれど今言った通り、この目の前の幼女と少女の狭間に位置する人物は、私の母なのである。

 ついでに言うと、父は身長170cmとこの時代では結構大柄。

 ……間違いなく犯罪である。

 

「何か考え事?」

 

「いえ、詮無きことです」

 

 そう、と呟く母、もといお母様に、少々ばかり背中に冷や汗が流れる。

 こういう時、どうして女の人は感が良くなるのか。

 全くもって謎だが、眠れるシックスセンスでも発露しているのかもしれない。

 

「そう、なら良いわ。

 ね、晩華、貴方にとっても重要な事を、私は伝えなくちゃいけなくなったの」

 

 目の前のお母様は表情を引き締めて、そんな事を言う。

 普段は穏やかに、お見合いがどうとかを言ってくるのだが、今はそんな表情をしていない。

 だから自然と私もお母様に釣られて、似たような表情になっていた。

 背筋が伸びて、シャンとしてお母様と向き合う。

 いつでも準備万端、戦闘モード。

 そして十秒くらい、ジッと私達は見つめ合う。

 思わず私が唾を飲み込むと、お母様は囁く様な声で、こう言ったのだ。

 

「お父さんがね、捕まったの」

 

「……は?」

 

 口から溢れたのは、とても間抜けな声だったと思う。

 でも、それでも仕方がないのだ。

 あかん、詰んだと思わせられるのに、十分なものだったから。

 

「本当、ですか?」

 

 探るように尋ねれば、返ってきたのは無言の首肯。

 思わず馬鹿な、と呟く。

 父は官吏をしていて、清流派であり、汚職などする人物ではないから。

 つまりは、罪を捏ち上げられたという事になる。

 

「……どう、なさるのですか?」

 

 震える声で、私は訪ねた。

 予期せぬ試練、もしかしたら三族全て処刑、なんて事になるかもしれないのに戦慄しながら。

 するとお母様は、嘆息しながら告げたのだ。

 あまりよろしくないけれど、と前置きしながら。

 

「仕方ないから、お父さんには保釈金を払って出所してもらいましょう」

 

「ん?」

 

 あれ? と首を傾げる。

 こういう時は、座して震えるしかないと思っていたから。

 それを感じ取ったのか、お母様はとても小声でこう言った。

 

「保釈金、またの名前を賄賂と言うわ」

 

「あー」

 

 成程、流石は世紀末と謳われる後漢末期、得心がいって深く頷いてしまった。

 世の中お金であると言わんばかりに、中央に金を積めば何とかなるのか。

 伊達にお金で官職が買える時代だ。

 

「ん? それじゃ、一体何が問題なんですか?」

 

 お父様は放免される、それが分かって一安心。

 驚かさないで欲しい、なんて一息ついた心地で私が尋ねると、お母様は未だに真面目な顔のままで続けたのだ。

 

「晩華、お父さんは保釈されるけど、首になっちゃうの。

 しかも、保釈金は莫大で、家には無一文になるのよ」

 

 晩華は賢いから分かるよね? と問われるが、永遠に分かりたくありませんと返事をしたい。

 うん、お母さんが言いたいことが、おおよそで分かってしまったから。

 今すぐ場を辞して、部屋で文字を弄り倒していたい。

 なので私はお母様をジッと、懇願するように見つめて、捨てられた子犬チックさを醸し出す。

 わんわん、私はダンボールに捨てられた子犬さんなんだよ? と言わんばかりに。

 すると気持ちがお母様にも伝わったのか、にこりと優しく笑ってくれた。

 私も笑い返すと、お母様はそのままこう宣告したのだ。

 

「頑張ってね晩華。

 この家の命運は、貴方に掛かっているわ。

 何としてでも職について!

 晩華はやれば出来る子だから!」

 

 拒否権はない、と言わんばかりに隙のない勢いで告げられた言葉。

 お母様の表情は、よくよく見てみれば笑顔ながらに血走っていた。

 お家の一大事、それは分かるがあまりに怖すぎる。

 普段のほんわかしているお母様を知ってるだけに、迫力がありすぎた。

 なので、せめてもの抵抗として、最後に私はこれだけ聞く。

 もうこれでどうにもならなかったら、諦めてしまおうと思いながら。

 

「あの、お父様は働くのですか?」

 

 そう尋ねれば、返事は即答であったと言えよう。

 

「暫く間を置いてから、官職に戻ることになるわ。

 今の、捕まったなどと風聞の流れている状況では、とてもじゃないけど無理なの!」

 

 肩をガクガクと揺らされながら、迫真の表情で告げてくるお母様。

 ……結果、私ははい、としか答えを返すことができなかった、巫山戯ろ。

 

 

 

 

 

 だからこれは、私の就活記。

 姓は杜、名は預、字なんて一向に決める気がなかった、私の物語。

 

 ……おい、巫山戯るな、杜預って誰なんだ。

 こんな時代に私程度が世間に顔出せばボッコにされるでしょう、いい加減にして!

 せめてもうちょっと強そうな人に転生できたらなぁ、なんて思う今日この時。

 私の職を求める放浪の旅が、今始まろうとしていた。




続くかは分かりません。
何故かといえば、自分は恋姫に歴史題材的なものを感じます。
三国志は基本ゲームしか知りませんから、中々に書きづらいのです。
それなのにどうして書いたかといえば、一回書いてみたいくらいに魅力がある世界観なのですね。
原作キャラが割と好きですから、続きを書くなら次回あたりに出してあげたいです。
ついでに言うと、自分はちょっと幼い子が好きです。
決してロリコンではありません!(強調)

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