地味にフーケ追いかけるところまで考えましたが、現在掲載中のFate/shining nightの方を優先するため、切り捨てられた作品。
供養程度のもの、理想郷のチラ裏にも供養として捧げました。
――あぁ、空が、見える。
――君が、そう願ってくれたから。
泣いていた君、助けたかった君。
思い出した君、助けられなかった君。
一緒にいてくれた彼女。
君が願ったから、空はこんなにも輝いている。
それを、倒れ込みながら、僕は見上げていて。
――こんな終わり方なら、良いか。
そんな納得があった。
諦めた訳ではない。
ただ、美しいものが目に映っただけ、それだけのこと。
そうして、最後に思うことがあるとすれば。
――君と出会えて、良かった。
――会いに来てくれて、ありがとう。
そう、心から思うのだ。
言葉になんてならない思いが溢れている。
けど、その中でも、思いを伝えることは出来るのだから。
だから、そう、強く思ったのだ。
『ギー』
――誰かが、僕の名前を呼んだ。
聞きなれた声。
強く想っていた人の声。
姿は見えない。
けれど、確かに君を感じて。
「キーア」
自然と、彼女の名を呼んでいた。
感覚で分かるのだ。
彼女が確かにそこに居ることが。
『ギー、聞いて』
姿の見えない彼女は、そのまま僕に何かを言う。
どこか困惑したように、だけれども喜色を滲ませて。
『まだ、寝ちゃダメみたいだよ、ギー』
――そう告げる彼女の声は、どこまでも澄んでいて。
『階段は全て登っちゃったけど、それでも先はあるみたい』
――どこか期待を感じさせるような、そんな麗らかささえ持っていて。
『だからね――私はまだ、貴方はまだ手を伸ばしていて欲しいの、ギー』
――そう、彼女が告げた瞬間。
何かが淡く光って、僕を飲み込んでいく。
それは引き摺り込むように。
逆らえない力で、僕は飲み込まれていく。
『大丈夫、貴方は決して一人なんかじゃないんだから』
――その言葉を最後に、僕は光る何かに、完全に飲み込まれた。
異形都市インガノックとは別の場所へ。
彼の西亨とも異なる場所へ。
地図に乗らぬ、未知なる世界へ。
――誘われて行ったのだ。
ひとつ、大きな爆発音がする。
それは魔法の行使によるもの。
魔力が暴発して、正しく術式が発動しなかったが為に起こったものだ。
「はぁ、はぁっ」
息が荒れる。
結果を見るに、今度も失敗。
この場で、サモン・サーヴァントに成功していないのは、私だけとなっていた。
どうして、どうしてなのだろう。
どうして私だけ、こんなにも上手くいかないのだろうか。
公爵家の子女たる、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールともあろうものが。
何度目かもわからない失敗、諦観にも似た何かが、私にまとわりつこうとしている。
だけれど、こんなところで諦めるわけにはいかない。
決して、それだけはしてはならないことだから。
ヴァリエールの子女が、こんなところで挫ける訳にはいかないんだからっ!
「もう一回っ」
杖を振り、呪文を唱えて術式を発動する。
しかし、今度も、また。
――爆発。
「ミス・ヴァリエール、貴方はよくやりました。
ですが、これ以上は危険です。
また明日に、私と共に続きをしましょう」
気遣うように、担当教員のコルベール先生が私へとそんな提案をする。
心配してくれている。
彼の顔を見れば、それは痛いほどに伝わってくるものがある。
しかし、しかしだ。
「もう、一度だけ。
もう一度だけ、チャンスを下さい!」
決め事をしよう。
これで失敗したら、今日のところは諦める。
その代わりに、私はこの召喚に全力を尽くすのだ。
「……本当に一回だけですよ」
さも困った、と言わんばかりにだが、コルベール先生は同意をしてくれた。
先生に頭を下げて、私は集中をする。
「ゼロのルイズ、何度やっても無駄だと思うぜ」
「全くだ」
どこからか、はやし立てる声と、嘲笑が聞こえてくる。
けれど、今はそんなことさえ気にならない。
いつもなら、絶対に許さないはずなのに。
でも、今はそんな些細なことはどうでも良いのだ。
私は全力を尽くさないといけないんだから。
軽く息を吸う。
頭をクリアにして、澄んだ気持ちで、自らの思いを朗々と謳い上げる。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!」
――どこでもいい、とにかく私の声が届く貴方に。
「神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」
――ヴァリエールの家名にふさわしい使い魔を。
「私は心より求め、訴える!」
――何より、私にふさわしい使い魔をっ!
「我が導きに、応えなさい!!」
――来なさい……いや、来いっ!
――その時、私は何かに手を伸ばしていて。
――刹那、爆発が巻き起こる。
一際大きい粉塵が、その場にいる皆を巻き込み、包む。
「ッケホ、ッケホ、ヴァリエールっ、ちょっとは加減しなさいよ」
どこからか、気に入らない声が聞こえた。
天敵の声、忌々しい声。
故に、私はこう思う。
――ふんっ、ツェルプストーったら良い気味ね。
ざまあみろ、と内心で舌を出す。
だって本当にそうしか思えないのだもの。
でも、巻き込んだ他の皆には悪いことをしたかもしれない。
いつもなら、そう思うくらいの余裕はあったのだろうけれど。
それでも、今はそんな事を思う余裕はない。
だって……本当に大切なことに、直面しているのだから。
「ッケホン、み、ミス・ヴァリエール。
一体どうなりましたか?」
コルベール先生の声。
未だ粉塵が残る中で、あちこちで咳き込む声が聞こえてくる。
そんな状況だから、私も確認のしようがない。
――でも、確かに私は手応えを感じていた。
何を引いたかは分からないけど、確かに私は”何か”を召喚したのだっ。
「……人間」
青い髪の、何時もツェルプストーと一緒にいるタバサという子が、そんな事を漏らした。
意味がわからない。
が、粉塵が晴れた時、ようやく理解できた。
「ぜ、ゼロのルイズが人間を召喚したっ!?」
誰かが、素っ頓狂な声で、そんなことを叫んだ。
――そう、その場にいたのは人間。
それもあちこちを負傷している、人間だった。
「ゼロのルイズの爆発に巻き込まれたのか?」
「ついてないな、コイツ」
一種の哀れさを持って、皆がその人間を見ていた。
それに頭が沸騰しそうになるも、激発するのだけは抑える。
そうして、恐る恐るとその人間を観察する。
変わった衣装をしている。
でも、布の質は高価だとは感じないし、恐らくは平民であろう。
性別は男、年齢は20代くらい。
私の爆発で負傷したと騒いでいる奴らがいるが、どう見ても傷口は切り傷だ。
爆発では、こうはならない。
「ミス・ヴァリエール、彼は……その」
コルベール先生がとても言いづらそうに、口を開く。
もごもごと口篭って、言うまいか、言おうかという葛藤が見て取れる。
だから、私は先生が何か言う前に宣言する。
「こいつが、私の使い魔です!」
指をさし、倒れている男の所有権を宣言する。
呼びかけに答えたのがこいつなら、きっとそうなるのが正しいはずだから。
使い魔に人間なんて話、聞いたことなんてないけれど。
それでも、こいつしか現れず、他に姿が見えないのなら、そういうことだろうから。
「……分かりました。
では、早々に契約をして下さい。
終わり次第、医務室に運び込みます」
「はい」
怪我をしている彼。
確かに、すぐに治療が必要だろう。
ならば、早々に済ませなければならない。
……恥ずかしいけど。
人間、しかも男となんてすると思っていなかったけど。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。
この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
なんだろう、少しドキドキする。
初めてだから……いや、これはあくまで契約の為に必要なことだから、ノーカンに決まってる!
そんな言い訳と共に、私は彼の顔へと、もっと言えば唇へと顔を近づける。
緊張のあまり目をつむって、意識のない彼の唇へと自分のものを重ねた。
「……契約完了ですね。
さあ、彼を医務室に運びます。
ミス・ヴァリエール、ついて来て下さい」
「はい、先生」
これは平民。
そう、平民なんだから。
だから、私の顔は決して赤くなんてなったりしない。
誰に言い訳しているのかさえ分からずに、私はコルベール先生に付いていく。
意識のない彼が、早く目を覚ましてくれるようにと祈りつつ。
ずっと目を瞑ったままで居てと思いつつ。
複雑な気持ちで、私は医務室へ向かったのだ。
――その時、視界の端で、可愛らいい女の子が、激怒しているように見えた。
きっと気のせいだろう。
そんなことより、私はこれからの事を考える。
この使い魔と、上手くやっていけるのかとか、私もこれで魔法が使えるようになるのだろうとか、そんな取り留めもないこと。
でも、その中で何となく分かっていることもあった。
きっと、これで何かが変わるだろう、とそんなことだ。
漠然とした期待と不安。
それがごちゃごちゃになっているけど、それでもそれだけは確かな予感だった。
「何にしろ、あんたが目を覚ましてくれなきゃ始まんないんだから」
――だから、早く起きろ。
いや、やっぱり起きないで。
そんな二律背反に苛まれながら、私は校舎へと向かっていく。
正確には医務室だけれど。
……せめて、呼び出した責任として、目が覚めるまでは傍にいよう。
色々と聞きたいことも沢山あることなのだし。
どうして傷だらけだったのとか、あんたはどこの国の人だとか。
細かく数えれば、沢山数え切れないほどに。
私はこいつに聞いてやろうと思ったのだ。
――使い魔が、人間、だなんて。
やっぱり、どこか不思議な気分に私は陥るのだった。
題名の右手を手を伸ばす、もギー先生が寝こけたまま終わったので、物語はこれからだ! 感を余計に掻き立ててしまっている。
誰か続き書いてくれないですかねー(遠い目)。