ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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ゼロ魔とインガノックのネタ。
地味にフーケ追いかけるところまで考えましたが、現在掲載中のFate/shining nightの方を優先するため、切り捨てられた作品。
供養程度のもの、理想郷のチラ裏にも供養として捧げました。


ここでも彼は、右手を伸ばす(ゼロの使い魔×赫炎のインガノック)

 ――あぁ、空が、見える。

 ――君が、そう願ってくれたから。

 

 泣いていた君、助けたかった君。

 思い出した君、助けられなかった君。

 一緒にいてくれた彼女。

 

 君が願ったから、空はこんなにも輝いている。

 それを、倒れ込みながら、僕は見上げていて。

 

 ――こんな終わり方なら、良いか。

 

 そんな納得があった。

 諦めた訳ではない。

 ただ、美しいものが目に映っただけ、それだけのこと。

 そうして、最後に思うことがあるとすれば。

 

 ――君と出会えて、良かった。

 ――会いに来てくれて、ありがとう。

 

 そう、心から思うのだ。

 言葉になんてならない思いが溢れている。

 けど、その中でも、思いを伝えることは出来るのだから。

 だから、そう、強く思ったのだ。

 

『ギー』

 

 ――誰かが、僕の名前を呼んだ。

 

 聞きなれた声。

 強く想っていた人の声。

 姿は見えない。

 けれど、確かに君を感じて。

 

「キーア」

 

 自然と、彼女の名を呼んでいた。

 感覚で分かるのだ。

 彼女が確かにそこに居ることが。

 

『ギー、聞いて』

 

 姿の見えない彼女は、そのまま僕に何かを言う。

 どこか困惑したように、だけれども喜色を滲ませて。

 

『まだ、寝ちゃダメみたいだよ、ギー』

 

 ――そう告げる彼女の声は、どこまでも澄んでいて。

 

『階段は全て登っちゃったけど、それでも先はあるみたい』

 

 ――どこか期待を感じさせるような、そんな麗らかささえ持っていて。

 

『だからね――私はまだ、貴方はまだ手を伸ばしていて欲しいの、ギー』

 

 ――そう、彼女が告げた瞬間。

 何かが淡く光って、僕を飲み込んでいく。

 

 それは引き摺り込むように。

 逆らえない力で、僕は飲み込まれていく。

 

『大丈夫、貴方は決して一人なんかじゃないんだから』

 

 ――その言葉を最後に、僕は光る何かに、完全に飲み込まれた。

 

 異形都市インガノックとは別の場所へ。

 彼の西亨とも異なる場所へ。

 地図に乗らぬ、未知なる世界へ。

 

 ――誘われて行ったのだ。

 

 

 

 

 

 ひとつ、大きな爆発音がする。

 それは魔法の行使によるもの。

 魔力が暴発して、正しく術式が発動しなかったが為に起こったものだ。

 

「はぁ、はぁっ」

 

 息が荒れる。

 結果を見るに、今度も失敗。

 この場で、サモン・サーヴァントに成功していないのは、私だけとなっていた。

 

 どうして、どうしてなのだろう。

 どうして私だけ、こんなにも上手くいかないのだろうか。

 公爵家の子女たる、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールともあろうものが。

 

 何度目かもわからない失敗、諦観にも似た何かが、私にまとわりつこうとしている。

 だけれど、こんなところで諦めるわけにはいかない。

 決して、それだけはしてはならないことだから。

 ヴァリエールの子女が、こんなところで挫ける訳にはいかないんだからっ!

 

「もう一回っ」

 

 杖を振り、呪文を唱えて術式を発動する。

 しかし、今度も、また。

 ――爆発。

 

「ミス・ヴァリエール、貴方はよくやりました。

 ですが、これ以上は危険です。

 また明日に、私と共に続きをしましょう」

 

 気遣うように、担当教員のコルベール先生が私へとそんな提案をする。

 心配してくれている。

 彼の顔を見れば、それは痛いほどに伝わってくるものがある。

 しかし、しかしだ。

 

「もう、一度だけ。

 もう一度だけ、チャンスを下さい!」

 

 決め事をしよう。

 これで失敗したら、今日のところは諦める。

 その代わりに、私はこの召喚に全力を尽くすのだ。

 

「……本当に一回だけですよ」

 

 さも困った、と言わんばかりにだが、コルベール先生は同意をしてくれた。

 先生に頭を下げて、私は集中をする。

 

「ゼロのルイズ、何度やっても無駄だと思うぜ」

 

「全くだ」

 

 どこからか、はやし立てる声と、嘲笑が聞こえてくる。

 けれど、今はそんなことさえ気にならない。

 いつもなら、絶対に許さないはずなのに。

 でも、今はそんな些細なことはどうでも良いのだ。

 私は全力を尽くさないといけないんだから。

 

 軽く息を吸う。

 頭をクリアにして、澄んだ気持ちで、自らの思いを朗々と謳い上げる。

 

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!」

 

 ――どこでもいい、とにかく私の声が届く貴方に。

 

「神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」

 

 ――ヴァリエールの家名にふさわしい使い魔を。

 

「私は心より求め、訴える!」

 

 ――何より、私にふさわしい使い魔をっ!

 

「我が導きに、応えなさい!!」

 

 ――来なさい……いや、来いっ!

 

 ――その時、私は何かに手を伸ばしていて。

 

 

 ――刹那、爆発が巻き起こる。

 一際大きい粉塵が、その場にいる皆を巻き込み、包む。

 

「ッケホ、ッケホ、ヴァリエールっ、ちょっとは加減しなさいよ」

 

 どこからか、気に入らない声が聞こえた。

 天敵の声、忌々しい声。

 故に、私はこう思う。

 

 ――ふんっ、ツェルプストーったら良い気味ね。

 

 ざまあみろ、と内心で舌を出す。

 だって本当にそうしか思えないのだもの。

 でも、巻き込んだ他の皆には悪いことをしたかもしれない。

 いつもなら、そう思うくらいの余裕はあったのだろうけれど。

 それでも、今はそんな事を思う余裕はない。

 だって……本当に大切なことに、直面しているのだから。

 

「ッケホン、み、ミス・ヴァリエール。

 一体どうなりましたか?」

 

 コルベール先生の声。

 未だ粉塵が残る中で、あちこちで咳き込む声が聞こえてくる。

 そんな状況だから、私も確認のしようがない。

 

 ――でも、確かに私は手応えを感じていた。

 何を引いたかは分からないけど、確かに私は”何か”を召喚したのだっ。

 

「……人間」

 

 青い髪の、何時もツェルプストーと一緒にいるタバサという子が、そんな事を漏らした。

 意味がわからない。

 が、粉塵が晴れた時、ようやく理解できた。

 

「ぜ、ゼロのルイズが人間を召喚したっ!?」

 

 誰かが、素っ頓狂な声で、そんなことを叫んだ。

 ――そう、その場にいたのは人間。

 それもあちこちを負傷している、人間だった。

 

「ゼロのルイズの爆発に巻き込まれたのか?」

 

「ついてないな、コイツ」

 

 一種の哀れさを持って、皆がその人間を見ていた。

 それに頭が沸騰しそうになるも、激発するのだけは抑える。

 そうして、恐る恐るとその人間を観察する。

 

 変わった衣装をしている。

 でも、布の質は高価だとは感じないし、恐らくは平民であろう。

 性別は男、年齢は20代くらい。

 私の爆発で負傷したと騒いでいる奴らがいるが、どう見ても傷口は切り傷だ。

 爆発では、こうはならない。

 

「ミス・ヴァリエール、彼は……その」

 

 コルベール先生がとても言いづらそうに、口を開く。

 もごもごと口篭って、言うまいか、言おうかという葛藤が見て取れる。

 だから、私は先生が何か言う前に宣言する。

 

「こいつが、私の使い魔です!」

 

 指をさし、倒れている男の所有権を宣言する。

 呼びかけに答えたのがこいつなら、きっとそうなるのが正しいはずだから。

 使い魔に人間なんて話、聞いたことなんてないけれど。

 それでも、こいつしか現れず、他に姿が見えないのなら、そういうことだろうから。

 

「……分かりました。

 では、早々に契約をして下さい。

 終わり次第、医務室に運び込みます」

 

「はい」

 

 怪我をしている彼。

 確かに、すぐに治療が必要だろう。

 ならば、早々に済ませなければならない。

 ……恥ずかしいけど。

 人間、しかも男となんてすると思っていなかったけど。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 五つの力を司るペンタゴン。

 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

 

 なんだろう、少しドキドキする。

 初めてだから……いや、これはあくまで契約の為に必要なことだから、ノーカンに決まってる!

 そんな言い訳と共に、私は彼の顔へと、もっと言えば唇へと顔を近づける。

 緊張のあまり目をつむって、意識のない彼の唇へと自分のものを重ねた。

 

「……契約完了ですね。

 さあ、彼を医務室に運びます。

 ミス・ヴァリエール、ついて来て下さい」

 

「はい、先生」

 

 これは平民。

 そう、平民なんだから。

 だから、私の顔は決して赤くなんてなったりしない。

 

 誰に言い訳しているのかさえ分からずに、私はコルベール先生に付いていく。

 意識のない彼が、早く目を覚ましてくれるようにと祈りつつ。

 ずっと目を瞑ったままで居てと思いつつ。

 複雑な気持ちで、私は医務室へ向かったのだ。

 

 ――その時、視界の端で、可愛らいい女の子が、激怒しているように見えた。

 

 きっと気のせいだろう。

 そんなことより、私はこれからの事を考える。

 この使い魔と、上手くやっていけるのかとか、私もこれで魔法が使えるようになるのだろうとか、そんな取り留めもないこと。

 

 でも、その中で何となく分かっていることもあった。

 きっと、これで何かが変わるだろう、とそんなことだ。

 

 漠然とした期待と不安。

 それがごちゃごちゃになっているけど、それでもそれだけは確かな予感だった。

 

「何にしろ、あんたが目を覚ましてくれなきゃ始まんないんだから」

 

 ――だから、早く起きろ。

 いや、やっぱり起きないで。

 

 そんな二律背反に苛まれながら、私は校舎へと向かっていく。

 正確には医務室だけれど。

 ……せめて、呼び出した責任として、目が覚めるまでは傍にいよう。

 色々と聞きたいことも沢山あることなのだし。

 

 どうして傷だらけだったのとか、あんたはどこの国の人だとか。

 細かく数えれば、沢山数え切れないほどに。

 私はこいつに聞いてやろうと思ったのだ。

 

 ――使い魔が、人間、だなんて。

 

 やっぱり、どこか不思議な気分に私は陥るのだった。

 




題名の右手を手を伸ばす、もギー先生が寝こけたまま終わったので、物語はこれからだ! 感を余計に掻き立ててしまっている。
誰か続き書いてくれないですかねー(遠い目)。

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