訳が分からねぇ。
今の俺の心境はそれだけで表現できる。
「おい!咲耶」
「なんでございましょう、兄様」
だが声を荒げても可笑しくない状況だ。
何故だ、何故こうなった!
「これは何だ」
そう言って、ついてきてる奴を指差していう。
「この方は千葉 栄太郎さまでございます」
失礼ですよ、これなどと説教する咲耶の言葉は入ってこない。
(そうじゃねぇ、そう意味じゃ断じてねえ)
そう思いつつ、元凶となった手紙を握りつぶす。
そこには夜行から船の運び屋(名を千葉 栄太郎という)を連れて行けと簡素に書かれているだけだった。
「何時もいつも!てめぇの都合で世界は回ってんじゃねぇんだよおぉ!」
個人的に咲夜と二人で回りたかった旅に、訳の分からん奴が混じってしまった刑士郎の魂の雄叫びでもあった。
ついでに言うと、夜行への怨嗟の咆哮でもあった。
「ほうほう」
「どうしたのですか、夜行様?
そのように嬉しそうなお顔をされて」
秀真の御所で仕事に勤しんでいた、夜行と龍水。
それが口元を軽く上げ、雅さを失わない程度の上品さを持って嗤う夜行に(龍水視点)何時もと同じように尋ねる。
「何、犬の遠吠えは存外気持ちの良いものだと感じてな」
「はぁ、左様ですか?」
イマイチ理解しきれていない龍水に、後は自分で考えろと言いニタニタしながら仕事に再び没頭し始める夜行。
そして龍水は、もしや犬が飼いたいのか。
夜行様も可愛いところがお有りだ、新たな一面を見られ、龍水は嬉しく思います。
などと言う、妄想を爆発させていた。
「で、その千葉様は一体何の用で俺達に付いてきやがる?」
「……ふむ、お前達の友人として、ぜひ旅路を盛り立てさせてもらいたい。
……などというのはどうだろう?」
「取って付けた理由じゃねえか!」
「まぁ、素敵ですね」
普通に馴染んでいる咲耶と千葉を見て、俺が間違っているのかなど刑士郎は思わざる得ない。
それを気にした風もなく、千葉は平然としている。
酔ってタガが外れた彼は、常時の彼に戻りペラペラ喋りだす。
船に乗っている時はキャラが激しく変わる奴らしい。
……変わりすぎだろ、と内心で偏頭痛を催さざる得ない形士郎である。
「まぁ、本当のところは夜行殿に、100両ッポン!と頂いたから護衛せにゃならんだけなのだがな」
「オィ」
漏れてる、本音漏れてる。
正に喧嘩しか売る気がない態度だが、千葉は刑士郎を玩具にする気が満々らしい。
何故?楽しいからに決まっている!
「旅は道ずれ世は情け、とも言います。
兄様、良いではないですか」
思わずムゥ、と呻くしかなくなる形士郎。
そこにすかさず、千葉が売り込みにかかる。
「何、戦闘だけではないぞ。
炊事洗濯などの家事全般から、出産までこなす万能ぶりも持っているぞ」
「マジかよ。お前もしかして子持ちか?」
色々と技能を持っていて、出産もできるという点での判断である。
だがしかし、
「いや、俺と結婚したらいびられ続けて、精神崩壊しそうとの専らの評判だったからな。未だに未婚だ。
因みに立ち会った出産は馬の子供の時だ」
「テメェ、舐めてんじゃないぞぉ!!」
最早弄ることに全力を尽くす、千葉に形士郎は絶叫する。
コイツは俺を憤死させるつもりか、ボケがァ!
全力で、何故コイツを寄越した夜行!と再び怨嗟の念を垂れ流しにし始める形士郎。
そして嫌がらせだ、と御所で独り言を呟いた夜行に龍水は首を傾げ、再び新たな妄想の世界に入り込んでゆくのだった。
「まあまあ、こんなに早く打ち解けてしまうなんて、咲耶は嬉しくも疎外感を覚えてしまいます」
「どこがだ!コイツは夜行の糞が寄越した阿呆だぞ!
類が友を呼んでるじゃねぇか!」
「咲耶殿、大丈夫だ。
俺は男は好みではない」
マジでぶっ殺してやろうか……、本気でそう考え始める形士郎。
覇吐でもここまでウザくは……いや、同レベルか。
無論、これは夜行も考えての人選である。
ある程度、他者を認識し、思いやれる心の持ち主。
それを彼なりに選んだつもりだ。
馴染みの仲魔(誤字に非ず)達の様に、濃いのも選んだ理由であった。
「で、ここから讃岐の国に渡るのだな」
「は?何でだよ」
「おうどんが食べたいでござる」
「人格がブレてきたな、オイ」
もう二回目のキャラブレイク。
自重など投げ捨てる物であった。
そしてツッコミを入れる形士郎は全くブレない。
「だが実際問題、讃岐はともかくとして、水路の方が色々と安全だと思う」
咲耶の方を見つつ、そう言っている千葉。
言うまでもなく、彼女の、そして中の子の事を案じているのだろう。
ようやく巫山戯るのを止めたか、と一安心し話の続きを始める。
「そうだな。俺もその意見に賛成だ。
咲耶もそれでいいな?」
「兄様の頼みとあらば」
自らの事でもあるので咲耶も即決で快諾する。
もとより断る理由などないのだ、当然である。
「にしても、また船旅か。
慣れたとは言え、飽きもきそうだな」
「色々な土地に停泊しながらの旅になる。
街を見回れば、多少も気が晴れるだろう」
形士郎の何気ない一言に、反応する千葉。
そうだな、と軽く返しつつ、これからのことを考える。
何時までこの旅は続くのか。
横目で咲耶を見ながら、形士郎は考えに耽ていった。
これが最後のすかしっぺ。
あー、疲れたなぁと思いつつ、何気なしにアリスが可愛かったので冬木の街の人形師を投稿してみたら、大いに当たったのは今となっては懐かしき思い出。
その為この作品は更新されなくなったけれど、自分の中での世界観の出力に失敗してたし、仕方なかった(言い訳)。