ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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二つある内の大いなる黒歴史の一つ。
何も考えていなかった、明るい時代の産物とも言えるかもしれない。
ノリだけは軽妙か、それとも微妙か、今でも測り兼ねる一作。
……地味に処女作だったりします。


その他作品
血染花はもう咲かない プロローグ(神咒神威神楽)


 最後の記憶、咲夜の泣きそうなのに笑おうとする顔。

 それに申し訳なさと誇らしさを感じる。

 

(わりぃ、咲耶、先に行かせてもらうぜ。

 お前はもっと後に来い。

 腹の子をきっちり育てろよ)

 

 最後に妹や子供と自分以外のことを思いながら死んでいく。

 最初は理解不能な考えだったが今では良く分かる。

 あちら側では礼でも言うか、そんな彼らしからぬ事を考えて、凶月刑士郎の意識は完全に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花の香りがする、陽があたり世界を照らしている。

 

 曙光の光、それに包まれているのだ。

 そこで刑士郎は理解した。

 目を開けると満開の桜と共に野郎二人、それに俺らの大将の姿があった。

 

「よう、兄様、目覚めはどうだい」

 

「起きて早々てめえの顔が見えて最悪だぜ」

 

 赤髪の益荒男、坂上覇吐の近距離での姿を捉える。

 いつもの軽口、口で言うほど悪くない気分での寝起きである。

 

「刑士郎よ、手紙を寄越したはずだが間に合わんだか」

 

「あの場合は仕方がねぇ、おかげで咲耶の眼も覚めたしな」

 

 摩多羅夜行、自分は死んだのだから居て当然の男である。

 

「情けない、女を残して死ぬなど。

 咲耶とお前はこれからだと言うのに」

 

 口を尖らせている久雅竜胆、だが彼を責めるのも酷な話だろう。

 人間のみでありながら狂人と化した者共を200以上切り捨ててるのである。

 

 好きな女を守りきった。

 故、彼は勝ったと形容しても良いのだから。

 

 そんな中、ふと覇吐が竜胆と夜行に耳打ちする。

 刑士郎はあまりに露骨な隠し話にやれやれと肩をすくめ、ことの成り行きを見守っていた。

 

 話の内容を聞き、愉快そうに顔を歪めている夜行。

 摩多羅夜行は死を裁くもの、なんて聞こえてくるあたり穏やかではない。

 

「覇吐、これを」

 

 話が終わったのか、覇吐に何かを渡す夜行。

 それは木製の変わったシルエットをしている棒であった。

 遥かな旧世界ではそれを球を打つのに使い球技の道具に使われていたもの、野球のバットである。

 

 何故そんなものを夜行が持っているのかとか、そんなことはどうでもいい。

 問題なのはそれを持って笑顔でにじり寄ってくる覇吐の存在であった。

 

「てめぇ、それでどうするつもりだ」

 

 長年戦闘を繰り広げていた勘が告げている。

 奴は危ない、と。

 

 不意に足が動かなくなる。

 これには覚えがある。

 夜行の咒だ。

 

「覇吐、やれ」

 

 笑顔で命令を下す竜胆、殺る気十分でそれを振るう覇吐。

 

 ガキーン、といい音が鳴る。

 不思議と痛みはなかった。

 

 ……飛んだ。

 不思議なことに空を舞っている。

 そんなことが出来るのは変態の夜行だけだと思っていたが違ったらしい。

 

「座の知識ではこれを葬らんというらしいぞ」

 

「さすが竜胆、俺の惚れた女だけあって勉強熱心だな」

 

 下の戯け共の声と同時に意識が再び途切れる。

 

 その最後の一瞬、夜行の言葉が頭に届いた。

 

(時間をやろう、良き最後を迎えよ)

 

 下に落ちる感覚、この感覚を最後に、刑士郎は座から叩き落された。




っく、殺せ! と言わんばかりの初々しさ。
本当にどうなっているのかと自害したくなります。
でも、これも成長の糧になってると思うと、何だかんだで印象深いです。

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