ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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単独掲載していたけれど、更新の宛がなかったためお引越ししてきた作品。
掲載は計画的に……。


大人になるにはどうするの? プロローグ(東方Project)

プロローグ 子供扱いって、やっぱり気に入らない

 

 私はいつも子供扱いされている。

 頭を撫でられたり、ぎゅって抱きしめられるとすごく心が落ち着くけど。

 でも、毎日そんなことをやられていたら、私だって面白くない。

 

「アリスちゃん、今日もママと一緒に寝ましょうね。

 夢子ちゃんも一緒に寝る?」

 

「いえ、私はもうそんな歳ではありませので。

 それにアリスだけ十分でしょう。

 ベッドの広さ的にも」

 

「あらあら、残念ね」

 

 全然残念そうに言っていないお母さん。

 それはきっと、夢子お姉ちゃんがオトナだからだ。

 だから別々に寝るのが当たり前なんだって、そう思っているんだ。

 

 そうして今日もお母さんに頭を撫でられながら、眠りに落ちる。

 それはとっても落ち着いて、お母さん大好きって寝る前に囁いて。

 ……やっぱり私が子供みたいで面白くなかった。

 

 

 

 そんなことが続いていたから、お手伝いできることはお手伝いしよう。

 自分でそういうルールを決めた。

 私は子供だって、ずっとそう思われているのが嫌だったから。

 

 毎日、夢子お姉ちゃんと一緒にお買い物に行ったり、お料理の手伝いをしたり。

 お母さんの難しいお仕事も、いっぱい一緒に考えたり(考えてもよくわからなかったけど)。

 マイやユキ達が困っていたら、一緒にどうにかしようとウンウン唸ったりもしていた。

 

 魔法のお勉強だって、一生懸命にした。

 みんなが暇な時、お母さんから借りた魔道書を頑張って読み解いて、少しづつ使える魔法が増えていったのだ。

 そうすると、みんな褒めてくれた。

 わちゃわちゃと頭を撫でられまくり、もみくちゃにされて、最後に夢子お姉ちゃんに髪を梳かしてもらう。

 夢子お姉ちゃんはすごく髪を梳かすのが上手で、すっごく気持ちいいの。

 

 でも、やっぱりそれって子供っぽいと思う。

 だから夢子お姉ちゃんに、髪の梳かし方を教えてもらったりした。

 お姉ちゃんは教えるのも上手で、私はすぐに一人で上手に梳かせるようにもなった。

 だけれど、やっぱり夢子お姉ちゃんに梳かしてもらった方が気持ち良い。

 でも子供みたいで悔しいから、一人で髪を梳かす。

 お姉ちゃんは ”アリスの髪を梳かすの、大好きだったんだけどね” なんて嬉しいことを言ってくれた。

 すっごく嬉しかったけど、大人な私は髪を梳かして、っていうのを我慢する。

 かわりにお姉ちゃんの髪にブラシを入れて、私が梳かしてあげたのだ。

 お姉ちゃんも喜んでくれたのが、すっごく嬉しい。

 ちょっとお姉ちゃんの気持ちがわかった瞬間。

 また一歩、大人に近付いた。

 

 そうして積極的にお手伝いすることで、私はお料理も洗濯も、一人前にできるようになっていた。

 全部、夢子お姉ちゃんのお陰だ。

 お姉ちゃん大好き、ありがとう。

 ……でも口にするのは恥ずかしい、大人な私はそっと感謝を心の中に閉まって鍵をかける。

 かわりに、毎日お姉ちゃんの肩もみをした。

 きゅっきゅって、親指に力を入れて。

 気持ちいいよ、ってお姉ちゃんが言ってくれるくらいに、私は肩もみが上手になっていたのだ。

 お仕事を頑張っているお母さんにも、肩もみをしてあげたら、すごく喜んでくれた。

 でも頭をいっぱいナデナデするのはやめて欲しい。

 嬉しすぎて、子供に戻っちゃう。

 それから、マイたちにもしてあげたら、痛いってすごく怒られた。

 お仕事をしてないから、肩が柔らかいままなんだ。

 もうちょっと、みんな苦労するといい。

 

 

 

 そんなことを続けて、もう1年近く。

 夢子お姉ちゃんは、すっかりアリスも一人前だね、何て褒めてくれた。

 でも、自分で分かるくらいに私はまだ半人前だ。

 

「うぅ、ここの魔法が上手く作動しないよぉ」

 

「アリスちゃん、深呼吸して。

 落ち着いて、ゆっくりやりましょう」

 

 お母さんは優しく指導してくれるけれど、自分でも分かるくらいにあんまり進歩してない。

 壊れたものを修繕する魔法とか、モノ探しの魔法とか、そういうのは割と得意だったりする。

 でも、かっこいい魔法が使えない。

 私ができる唯一の攻撃魔法は、ユキ達の手によって”ホーミングたくあん”と名付けられた。

 絶対に許さない。

 と、それは置いておいて。

 そんなことがあって、私の魔法習得は中々に難航していたのだ。

 

「夢子お姉ちゃん、私ってどうすれば魔法が上手くなるかな?」

 

 そのせいか、弱気になっちゃった私は、気付いたら夢子おねえちゃんに相談していた。

 だって、悲しくて、悔しくって、どうしようもなかったんだもん。

 多分泣きそうになっていた、泣かないように我慢していたけれど。

 

 だからなのか、優しい夢子お姉ちゃんはいっぱいいっぱい考えてくれて、そうしてこんな提案をしてきたのだ。

 

「そういえば幻想郷ってところで、スペルカードなんてものが流行っているらしいね」

 

 夢子お姉ちゃんに詳しく聞くと、幻想郷ってところで喧嘩した時の解決手段として、弾幕ごっこと呼ばれているものがあるらしい。

 

「弾幕ごっこは喧嘩だから、必要以上にいじめられることもなく、訓練には丁度いいかも。

 攻撃魔法とかが使えなきゃできないものだしね」

 

 そんなことを夢子お姉ちゃんは言っていた。

 弾幕ごっこ……うん、やってみたいかも。

 だから私は、お母さんにそれを伝えに行ったのだけれど……。

 

「アリスちゃんが怪我したらどうするの!

 もっと大人になってからじゃないとダメです!!」

 

 ……すごく、すっごくムカっとした。

 私は大人になるために頑張っているもん、一生懸命なんだもん。

 なのにお母さんは、私の頑張りを見てくれていない。

 とにかく気に入らなかった、だからお母さんに大声で私は怒鳴ったのだ。

 

「お母さんの馬鹿! もう知らないんだから!!」

 

 ツンと背を向けて、お母さんの仕事部屋から出ていく。

 ちょ、アリスちゃん!? なんて叫び声が聞こえたけれど、ガン無視した。

 走ってその場をあとにする。

 今から行くのは……夢子お姉ちゃんの部屋だ。

 

 

 

「お姉ちゃん! お母さんがダメって言った。

 私がどうしても弾幕ごっこがしたいって言ったのに!」

 

「はいはいアリス、落ち着きなさい。

 もぅ、お母さんは何時までも過保護なんだから」

 

「これが落ち着いてなんていられないよ!」

 

 私も頑張ってたんだから、少し位ご褒美をくれてもいいのに。

 お母さんのけちんぼ! おたんこなす! 魔界神!!

 

「で、アリスはこれからどうしたいの?」

 

 夢子お姉ちゃんが、頭を撫でてくれながら話しかけてくれる。

 そうだった、私はお姉ちゃんに相談しに来たんだった。

 

「お姉ちゃん、私はもうこれは家出しかないと思ったの」

 

 お姉ちゃんの頭を撫でてくれていた手が、ぴしりと固まる。

 ……やっぱり、家出は悪いことだよね。

 

「でも、家出するとお姉ちゃんもお母さんも心配すると思うの。

 どうすればいいかな?」

 

 お姉ちゃんは本当に困ったように、ポリポリとほっぺを指で掻いていた。

 ……私がお姉ちゃんを困らせている。

 今の私はきっと悪い子。

 だけどそれほど私は怒っているのだ。

 そうして、答え倦ねていたお姉ちゃんは、はぁ、と溜息を一つ吐いて、また私の頭を撫でてくれた。

 

「アリスってさ、悪いことしようと思っても、悪い子に成りきれないよね」

 

「だって、お姉ちゃん達に嫌われたくないもん」

 

 そう言うと、こいつめ! って笑いながら珍しくお姉ちゃんが私をもみくちゃにした。

 でも本当のことだもん、お姉ちゃんもお母さんも、他のみんなも大好きなんだもん。

 

「だからね、お姉ちゃん。

 何か良い案はないか、それかお母さんが納得できるように何か一緒に考えて」

 

 我ながら結構な無茶ぶりをしていると思う。

 それでも、夢子お姉ちゃんなら何とかしてくれる。

 そんな信頼があったのだ。

 

 だからそんな優しいお姉ちゃんを困らせているのは、本当に悪いと思ってる。

 お姉ちゃんの肩もみをしながら、どうやってお返ししようか、その方法を考え始めたのだ。

 

 ――そうして沈黙が訪れる。

 私もお姉ちゃんも考えているのだから、静かになるのは当たり前。

 だけれどそんな中で、うーん、と唸りながらお姉ちゃんの肩もみをしている私に、天啓が舞い降りたのだ。

 その発想は、夢子お姉ちゃんが毎日来ているメイド服から。

 

「お姉ちゃん! 私、幻想郷って所でメイドさんとして働く!」

 

「……はぁ?」

 

 イマイチ意味が飲み込めてなさそうなお姉ちゃんに、私は宣言したのだ。

 

「私、今日から働く!

 幻想郷って所で住み込みで働くの。

 だからおうちも出てく」

 

 ポカンとしたお姉ちゃん。

 その次に、目を白黒させて。

 そして最後に頭を抱える。

 

「お姉ちゃん、どこかヘンだったかな?」

 

「いや、変っていうか、その」

 

 お姉ちゃんが、明らかにどうすればいいのかがわからなくなっている。

 こういう状況を、困惑っていうことくらいなら、私は知っている。

 だからそれを正そうと、私は胸を張って堂々と告げた。

 

「私、夢子お姉ちゃんに教えてもらったから、大抵の家事はできるよ」

 

「そっか、しまったな。

 教え込み過ぎちゃったか」

 

 何かを後悔するかのように、呟いている夢子お姉ちゃん。

 でもお姉ちゃんは、ウンとひとつ頷いて、私の目をまっすぐに見つめてきた。

 そうしてお姉ちゃんは問うてきたのだ。

 

「アリスは、みんなと離れちゃっても、寂しくない?

 おうちに帰ってきたくなってりしない?」

 

 真剣な目で聞かれた。

 だから私も精一杯、想像を膨らませる。

 

 お母さんも、お姉ちゃんも、姉妹のみんなとも会えなくなってしまう状況。

 ……何だか、とっても寂しい。

 それに、少し怖い。

 

「離れちゃったら、平気な顔はしてられないと思う」

 

 そう言うと、お姉ちゃんはぎゅっと抱きしめてくれる。

 暖かくて、優しい匂いがするお姉ちゃん。

 ずっと離れたくないとさえ思ってしまう。

 

 ……でも、である。

 

「やっぱり、魔法が使えないままなのは悔しい、かな」

 

 そう思ってしまう自分がいるのは、確実で。

 早く大人になりたいと思う自分がいるのも、自覚しているのだ。

 

「だから私は本気なんだよ、今回は」

 

 いま自分にできる、ありったけの決意を込めての告白。

 お姉ちゃんは、抱きしめていた私の顔を見て、そうしてそっと頭を撫でてくれた。

 

「頑張るって決めた顔だね。

 ……よし、わかった。

 お姉ちゃんに任せて!」

 

 ドン、と胸を叩くおねえちゃん。

 その姿は、とっても頼もしい。

 やっぱりお姉ちゃんは、私の一番の味方だ。

 

「じゃ、行ってくるね。

 アリスはこの部屋で待っててくれればいいから。

 ……きっと荒れるだろうし」

 

 そう告げて、部屋から出ていったお姉ちゃん。

 恐らくは今から向かうのは、お母さんのいるお部屋。

 荒れるって、やっぱりお母さんは怒っちゃうのかな。

 それとも、夢子お姉ちゃんを怒っちゃうのかな。

 ……もし夢子お姉ちゃんをいじめるのなら、その時は容赦なく家出しようそうしよう。

 そんなことを決めると、なんだか急に眠たくなってきた。

 色々と私も爆発しすぎて、ちょっと眠たくなっちゃったのかもしれない。

 お姉ちゃんのベッドがあるし、ちょっと借りよう。

 そうしてベッドの上に寝っ転がると、急に眠気が襲ってくる。

 

 おねぇちゃん、お休みなさい。

 心の中で呟いて、私の意識は途切れた。

 

 

 

「あ、アリスちゃーんっ!?」

 

 だけれども、そんなに長い間寝かせてもらえなかった。

 大声と共に、お母さんが早に飛び込んできたからだ。

 

「嘘よね、アリスちゃんが出家するなんて嘘よね!?

 出家しちゃったら、毎日お母さんと寝れなくなっちゃうわよ!!」

 

 お母さんの声が、ちょっとうるさい。

 でも、そのお陰で、眠気は多少退散した。

 大丈夫、何とか受け答えできる。

 

「嘘じゃないわ。

 私、幻想郷に行って、働きながら弾幕ごっこを習得するんだから」

 

 弾幕ごっこを習得するば、攻撃魔法ももっと上手くなるはずだから。

 それに、私だってもう立派に働けるんだから!

 そんな意図を込めて、お母さんの目を見つめる。

 睨む勢いをもって、お母さんに思いを伝えたのだ。

 

「ほら、ね。

 言ったじゃないですか、お母さん。

 アリスは本気だって。

 アリスが本気だったら、許可をだすって言ったよね、お母さん」

 

 夢子お姉ちゃんからも、援護射撃が入る。

 本当に心強い味方だ。

 そしてお母さんはタジタジになっていた。

 

「だ、だって、アリスちゃんが本気なんて考えられるわけないじゃない!

 今日まで、私とずっと一緒に寝てきたんだよ!!

 それがこんなにあっさり……アリスちゃん、ひどいよぅ」

 

 ひどく落ち込んでいるお母さん。

 よくよく見てみると、本気で泣きそうになっている。

 ちょっと悪い気はするけど、でも、私は意見を変えない。

 魔法がもっと上手くなりたいのは事実なのだから。

 それに、これが大人に近付くための、大きな試験であるとさえ考えているのだから。

 ムン、と威勢を上げる私に、お母さんは……ついに泣き出した。

 

「ヤダヤダ、絶対にやだ!

 アリスちゃんと一緒に寝られなくなるなんてやだぁ!!」

 

「お母さん、あなたは子供ですか」

 

「……だってぇ」

 

 だっても減ってもありません! と夢子お姉ちゃんはお母さんにぴしゃりと言い放つ。

 そうして母さんは、拗ねちゃったように沈黙する。

 だがそれからお母さんは、じっと私の顔を見て、最後にこう訪ねてきた。

 

「どうしても?」

 

「どうしても」

 

 私の即答にがっくりと肩を落として、渋々とお母さんは立ち上がったのであった。

 そうしてお母さんは胸元から、ペンダントを取り出して、私に差し出してきた。

 

「アリスちゃん、これをあげるわ」

 

「何、これ?」

 

 不思議な魔力が宿ったペンダント。

 それはなんだかすっごく温かいものであった。

 

「これはね、何時でも家に帰ってこれるペンダント。

 これを持って、強く家に帰りたいと念じれば、アリスちゃんはここに帰って来れるのよ」

 

 ……いつでも家に帰れる。

 まじまじと、お母さんに渡された赤い色のペンダントを見つめる。

 どこまでも深紅なそれは、とってもありがたいお守りにさえ見えた。

 

「だからね、辛かったり疲れたりすると、一回帰ってくればいいわ。

 いつでも、お母さんはアリスちゃんが帰ってくるのを待ってるからね」

 

 安心させてくれる、お母さんの笑顔。

 それを見て安心してしまう私は、やっぱり子供なのかもと思ってしまい、慌ててかぶりを降る。

 私はもう、十分に働ける大人なんだから。

 

「お母さん、ありがとう」

 

 でもペンダントは十分に嬉しかったから。

 大事に首にかけることにした。

 

「どう言えばお母さん、幻想郷ってどうやって行くの?」

 

 ペンダントを貰い、ちょっとほわってしたところで、目的の場所のことを思い出す。

 行き方がわからなければ、私には手の打ちようがない。

 お母さんを見つめると、ウっとうめき声を漏らす。

 

「どうしても教えなくちゃダメかな?」

 

「ダメです、約束ですから」

 

 厳格に言う夢子お姉ちゃんに、私も激しく頷く。

 ここまで来て、反故にされたのなら、今度こそ流浪の旅に私は出る。

 そんな感じに見つめると、お母さんは残念そうに溜息を、はぁ、と吐いていた。

 

「えっとね、地下室にある魔法陣が、幻想郷に転移できる場所なの。

 ごく自然に転移して、何の影響も与えないから、賢者さんにだって気付かれない優れものだよ」

 

 気乗りしなさそうにだけれど、お母さんはしっかり教えてくれた。

 ……でも賢者さんって誰だろう?

 そんなことを気にしつつ、私達は地下室に向かった。

 途中でお母さんがこんなことを聞いてきた。

 

「ねえ、アリスちゃん。

 今日の晩、お別れ会をしてから旅立つのも、遅くはないんじゃないかしら?」

 

「そうやって決心を鈍らせようとしても、無駄なんだから」

 

 私の答えを聞いたお母さんは、残念そうに肩を落としていた。

 夢子お姉ちゃんも残念そうなのが、また何とも言えなかった。

 お姉ちゃん、私の味方だよね?

 

 

 

「ほら、ここだよ」

 

 石段を下って出た地下室。

 薄暗い地下に、ロウソクで灯された明かりで辛うじて見える範囲に、魔法陣は施設されていた。

 薄く照らされた明かりの中で、銀色に輝く魔法陣。

 今日、ここから新しいことが始まるんだ!

 

「アリス、何時でも帰ってきていいんだからね。

 それと、この折りたたみ式の果物ナイフ、あげるわ。

 何かと便利だし、魔法で切れ味が変わらないから是非使ってね」

 

「ありがとう、夢子お姉ちゃん」

 

 大切に夢子お姉ちゃんから果物ナイフを受け取り、ここに来る前に取ってきたポシェットの中に入れる。

 本当にありがとう、夢子お姉ちゃん。

 向こうでも料理の腕を磨いておくから、一緒にまた料理しようね。

 

「アリスちゃん、私からはお財布を渡しておくわね。

 向こうに着いてから、働き口を見つけるまでの間の足しにしてくれればいいわ」

 

 お母さんはお財布をくれた。

 何だか中身が沢山入っているように見えるのだが、向こうはそんなに物価が高かったりするんだろうか?

 

「お母さんも、わがまま聞いてくれてありがとう」

 

 お財布のお礼と、それから今回の件についてのお礼をしっかりという。

 嫌がっていたお母さんに、無理やり頷いてもらったのだから。

 心を込めて、精一杯頭を下げる。

 

「うぅ、アリスちゃん」

 

 ぎゅっと私を抱きしめるお母さん。

 それに続いて、夢子お姉ちゃん、まで抱きついてきた。

 ちょっと苦しいかもしれない。

 

「アリス、向こうでもがんばりなよ」

 

「アリスちゃん、困ったらお母さんの名前を呼ぶのよ。

 すぐに駆けつけてあげるから」

 

 お姉ちゃんの言葉に頷いて、お母さんの言葉には、曖昧に笑っておいた。

 お母さんなら、本気で出来ないことがないのも、困ったことに事実であるから。

 

「じゃあ、そろそろ行くね」

 

 名残惜しそうな二人を引っペがし、魔法陣に魔力を注ぐ。

 そうすると、私の魔力に反応して、魔法陣に刻まれた術式が起動する。

 そこから段々と光が強くなっていって。

 

 そうして、私はその場所から姿を消したのだった。




ロリスは可愛い、これは如何なることにも勝る真実。

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