ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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のうかりんにするはずが、ゆうかりん憑依ものになってしまった作品。
多分ゆうかりんの中の人もアホの子。


ゆうかりん物語(東方Project)

 朝、目覚めると知らない部屋にいた。

 

「知らない天井だ……」

 

 このセリフこそ、様式美であろう。

 で、ここはどこなのだろう?

 

「っは!? まさか!」

 

 酔った挙句に男の人の家に上がり込んだとか? お酒飲んだ覚えないけど。

 お酒だけでなく、雰囲気に酔ったとか、人に酔ったとか、酔うにも色々な種類がある。

 いま関係ないことだけれど。

 

 まあ、男性の家という事はないだろう。

 置いてあるコートとか日傘とか、全部女性ものだから。

 でも、それ以外の私物があまり見つからない。

 そもそも私物自体が少ない、モノをあまり置かない人の部屋だろう。

 

「すみませ~ん」

 

 小さく呼びかけるように、声を出す。

 小心者の私に、今の状況は辛いものがある。

 できれば、誰かこの家の人に会いたい。

 そしてどうなっているのかを説明して欲しい。

 

「誰かいませんかー」

 

 心持ちは幽霊屋敷を彷徨っているようなもの。

 出てきたら、それはそれで開幕土下座不可避である。

 

「居るなら返事ください」

 

 ……そもそも、どうして私がこんな状況に置かれねばならないのだ。

 むしろ私は、人を見つけたら速攻で訴訟できるのではないか?

 それこそ大正義、今なすべきことなのでは?

 

「いやいやいや」

 

 錯乱してる、うん。

 落ち着け私、大きな声出して錯乱してる奴が、ホラー映画とかでは最初に死ぬんだから。

 

「ふもっふっ!」

 

 よし落ち着いた、私は大丈夫です!

 うん、行ける。

 弟に落ち着くための呪文として教えられていた言葉。

 とりあえず口に出してみると存外落ち着けた。

 言ってる私の絵面を想像すると、頭が悪すぎて正気に戻っただけなのだけれど。

 

 さて、探索続行。

 といっても、家自体がそこまで広くないみたいだし、あと扉を一つ除いて、見回りは終了してしまった。

 

「誰もいない」

 

 何故いないし、居てよめんどくさい。

 にしても困った、気分的にはもう空き巣である。

 そして最後の扉にも、誰の気配すら感じない。

 いい加減にして欲しいものである。

 

「よいしょっと」

 

 最後の扉を開ける。

 そこにあったのは、誰もいない洗面所。

 もはや予定調和のごとく、私は一人っきり。

 憂鬱が脚を忍ばせて、近くまで訪れていた。

 ……このままでは気分が滅入る。

 家の人には悪いけど、ちょっと洗面所を借りよう。

 顔を洗って気分転換、うん、悪くない選択だ。

 

「失礼しまーす」

 

 こっそりと、洗面所に近づく、ちょっとドキドキしながら。

 そこで、私は思わず声を漏らしてしまった?

 

「は?」

 

 洗面所なのだから、当然そこには鏡がある。

 綺麗な鏡、白雪姫に出てきそうなピカピカ振りだ。

 でも、問題はそこじゃない。

 そこに映っていた人物が問題だった。

 

「誰?」

 

 そこには恐ろしいくらいに整った美人が、間抜けヅラを晒して鏡に映っていた。

 

「済みません、どちら様でしょうか?」

 

 思わず尋ねてしまうと、鏡の中でも美人さんが、同じように口を動かし始める。

 はは、モノマネか、似てる似てる……。

 はは、ははは……はぁ。

 

 ちょっとため息、フフ、今いい感じに混乱してるわ、私。

 とりあえず息を吸う、大きく大きく、これでもかという程に。

 よし、準備はオッケー、何時でも行ける。

 

「はあぁぁぁ!? 誰よあなたっっっ!!!」

 

 ふぁっきん!

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ということがあったの」

 

『大変だね、ゆうかりんも」

 

「そうなの、大変なの」

 

 あれから二時間後、現在ようやく話せる相手が見つかった。

 見つけた時にはビビったけど、今は落ち着いて話ができる。

 うん、昔の総理大臣も言ったもんね、話せば分かるって。

 あと、私の名前は風見幽香らしい。

 感想的にはそうなのかー、だったが。

 

『でも、今も別人なんだよね、ゆうかりん』

 

「そうなの、本人さんはどこに行ったのかしらね」

 

 私が話している相手、それはここがどこか確認するために外に出た時に見つけたのだ。

 それは外に大量にあったもの。

 

『さあ、でも困ったね。

 ゆうかりんがいなきゃ、私たちどうなっちゃうんだろ』

 

「どうなるの?」

 

『飢えて死ぬ、もしくは枯れる』

 

「生死が関わっているのね」

 

 それは、大量の向日葵。

 外に出た瞬間に、ちわっす、なんて挨拶をカマしてきたのだ。

 脳に響き渡る感覚に、私は騒然としていた。

 具体的に言うと、こいつ直接脳内に!? となっていた。

 

『ゆうかりんは”花を操る程度の能力”を持ってたからね。

 体はゆうかりんなんだから、何とかできない?』

 

「私サイキック戦士じゃないから」

 

 何だ超能力者か……納得していいのか、これ。

 もう何もかもが現実を超越しすぎて、訳分かんない。

 

『一応やってみてよ、僕達も死にたくないし』

 

「んー、どうすればいいの?」

 

『ささやき いのり えいしょう ねんじろ!

 とってもいーじー』

 

「むしろクレイジー」

 

 だからサイキックなのは無理だって言ってんよ!

 でも、もしかしたら万が一なこともあるかもしれない。

 ……一応、やってみよう。

 いのり ささやき えいしょう ねんじろ……工程がメンドくさい!

 適当な事ほざこう、うん。

 そうして出来た呪文がこれ。

 

「ひまわりさん、おっきくなーれ」

 

 ……あ、頭悪い、自分のことながら頭が悪い!

 でも、リリカルマジカルが正解じゃないことだけは知ってる。

 弟が嬉々として言わせようとしてきたあたり、危ない呪文なのかもしれない。

 例えば白い悪魔とかを呼んだりとか。

 

『もっと気持ちを込めて』

 

「ひ、ひまわりさん、おっきくなーれっ!」

 

 何だこの恥ずかしさ!?

 死ぬ、羞恥にとらわれて死ぬ!

 私は一体何をやっているのだ、本当に。

 

『おっ、きた』

 

「マジで?」

 

『マジマジ』

 

 そうひまわりが言った途端、急にぐんぐんとひまわりが伸び始めた。

 その様相は、まるでジャックと豆の木を彷彿とさせるもの。

 ぐんぐんとひまわりは伸びていく、雲さえ突き破って。

 

「うわぁ」

 

 思わず声を漏らさずにはいられない。

 そこには、猛々しくそびえ立つ、ひまわりの姿が。

 さっきはジャックと豆の木といったが、最終的に太陽の塔と化していた。

 ……どうしろというの、これ。

 

『ゆうかりん、やりすぎ』

 

「はい」

 

『でも、気分は良い』

 

「左様で」

 

 ちょっと頭がくらくらする。

 力を使いすぎたとか、そういうのじゃなくて、あまりの奇天烈な事態にだ。

 

「今日は寝ようそうしよう」

 

『ゆうかりんおやすみー』

 

「うん、おやすみ」

 

 さぁ、寝よう。

 もしかしたら、寝て起きたら全てが元に戻ってるかもしれない。

 うんうん、と頷きながら、家の扉を開けた。

 

「あら、幽香。ごきげんよう」

 

 ゆっくり、ドアを閉める。

 誰だ今の、何故家の中にいたし。

 普通に不法侵入なんだけど……。

 

 いや待て、さっきの様子だと幽香さんの知り合いのようだった。

 ここは相談してみるべきだろうか。

 ……うん、自分ひとりではどうにもならないし、そうするしかなさそうだ。

 覚悟を決めて、もう一度、扉を開ける。

 

「いきなりご挨拶ね、そんなに会いたくなかった?」

 

「いえ、むしろ都合が良いわ」

 

「そうね、異変を起こすのなら、一言声かけをして欲しいものだわ」

 

 異変?

 と思って外を見ると、空高く輝いている日輪の如きひまわりの姿。

 ……確かにこれは異変ですわ。

 

「元に戻したほうが良いの?」

 

「いえ、見たところ、有頂天まで届いてるようですし。

 暇をこじらせた天人達の、退屈しのぎにもなりましょうや」

 

 よく分からないけど、要するにそのままにしとけってことだよね。

 何か黒いものが見え隠れしてるけど、これから頼ろうとしているのだし、見なかったことにしておこうそうしよう。

 というか天人て、これはファンタジーへ一直線だわ。

 

「幽香、あなたどうしたの?

 色々とおかしいわ。

 中身(魂)もミキサーに掛けたかのよう」

 

「私も自分の頭がおかしくなってるみたいなの。

 少し頼らせてもらっても?」

 

 ほぅ、と興味深そうに感嘆する、謎の淑女。

 これはワンちゃんあるわね、きっと。

 

「朝起きたら知らない人になってたの。

 何を言ってるのか分からないと思うけれど本当なの、信じて」

 

「落ち着きなさい、重要な話のようですしね」

 

 にこりと、紫色の淑女が語った。

 それに乗せられるかのように、私は語る。

 起きてから今までの事を……無論、外での呪文の件は適当にはぐらかして。

 

「あらあら、では今のあなたは風見幽香ではないと、そういうことね」

 

「体はその人のものらしいけど」

 

 ふんふんと聞いていた彼女。

 そして彼女は頷いて、こう言った。

 

「放置ね」

 

「なじぇに!?」

 

 噛んだ、解せない。

 でもそれ以上に、彼女の言葉の方が解せなかった。

 

「だって、ねぇ」

 

 意味深に笑う彼女。

 扇子で口元を隠してくつくつと笑っている。

 それがそこはかとなく色気を放っているが、今は関係ない。

 それ以上に、問題なことがあるのだから。

 

「言いたいことがあるのなら、はっきりと言って」

 

 勿体ぶるから、急かしてしまう。

 私は推理小説でも、焦らされすぎると、先に答えを読んでしまうのだ。

 弟に、鬼だ、外道の極みだ! などと罵られる程度の忍耐力しか持ってない。

 故に、さっさとはっきりさせて欲しいものだ。

 

「いえいえ、あなたの方が、仲良く出来そうだと思っただけですわ」

 

 ……胡散臭い、華麗臭の如くに漂ってくる胡散臭さだ。

 ほほ、何て笑っているが、阿呆な私にも分かる程に危険な感じがする。

 絶対、お腹の中では別のことを思っているだろう。

 

「私が困るのだけれど」

 

「私は困りませんわ」

 

 イラっとした、確かに他人事なのだろうけど、その言いようはあんまりだと思う。

 

「少しは慰めてくれないの?」

 

「寝たら忘れそうな顔をしておりますわ」

 

 馬鹿にされてる、かつてないほどに馬鹿にされている。

 おこです、激おこ不可避です。

 

「そこから動かないで」

 

「いえ、そろそろお暇しようとしていたところですわ」

 

「ふふ、遠慮しないでいいのよ」

 

「いえいえ」

 

 アイアンクローを掛けてあげようとした瞬間、彼女の足元に穴ができた。

 穴からは、沢山の目玉がこちらを覗いており、ぎょっとする。

 思わず足を止めてしまったところで、彼女は微笑みながら告げた。

 

「では、ごきげんよう」

 

 穴に落ちていく彼女。

 私は、ただそれを見送ることしかできなかった。

 

 

「……釈然としない」

 

 何か一方的にからかわれただけで、ロクな目に遭わなかったような気がする。

 あの紫の人、性格が悪い。

 名前も聞き忘れてしまったし。

 ひどくモヤモヤする、こういう時は……。

 

「うん、寝よう」

 

 寝て忘れよう、もしかしたら元に戻っているかもしれないし。

 そう思い、私はベッドに向かう。

 二度寝は至高、それが私の流儀。

 

 

 

 なお、

 

「やっぱ、元には戻らなかったかぁ」

 

 戻れよ、切実に。




続くとしたら、のんびりとした幻想郷ライフを送りつつ、どうやってこの体から離脱するかを試行錯誤する感じのお話になると思われる。
なお、その際に発生する奇行のせいで、風見幽香がイカレタとかいう風聞が幻想郷中に流れる模様。

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