あと、もう一回言っておきますと、この小説はバトルは添え物です、はい。
暗闇を裂くようにして、一つの影が躍り出る。
それは暗闇に咲く花、白百合の一輪。
それを迎え討つは、獰猛な猛犬。
「本当に現れるとはな、セイバーのサーヴァント!」
「ランサーのサーヴァントとお見受けします。
いざ尋常に勝負!」
「ッハ! おもしれぇ!」
交わす言葉は少なく、けれどもお互いがその立ち処ろを理解していた。
片や己のマスターを害する敵として、片や己のマスターに言われた任を全うしようとする。
つまりは激突は必然であり、互いに一戦交えずして退くことは考えられなかった。
故に言葉はなく、交わされるのは剣戟。
ランサーは朱槍と振るい、セイバーは黄金の剣で薙ぐ。
ガキンッ、と鈍い金属音が起こるのを始まりとし、連続で幾つもの音が響き渡る。
それは、朱槍と黄金の剣が重なり合う事に響く鉄の音。
一合、二合、続けざまに叩きつけられて発する音は更に続く。
鉄と鉄の潰し合うような響き。
叩きつけられる事に、火花が飛び散る一撃。
互いが引かぬ必殺の間。
けれども互いに決定打はなく、鈍い鋼の喝采が轟くばかり。
セイバーは眼前の敵を睨んで、けれどランサーは獰猛な笑みを浮かべての攻防。
「ッハァ!」
セイバーが一歩踏み込みランサーを両断せんとするが、ランサーは絶妙な距離の取り方で槍を自由に震える範囲にしか踏み込ませない。
「やるっ! けどあめぇよ、セイバーっ」
一瞬ブレたセイバーの黄金の軌跡。
それを見逃さずにランサーはセイバーの剣を上へと打ち上げ、その隙をついて一瞬で後退する。
剣を放すことはなかったが隙を見せたセイバーは顔に焦りを見せるが、後退して勢いを乗せたランサーの一撃にはギリギリ対処が間に合った。
……しかし姿勢は万全ではなく、足を地面にめり込ませながら吹き飛ばされる寸前にまで追い込まれる。
追撃に移るランサーにセイバーは大上段から迎撃するが、その動きは容易に読み切られ、鋭い一撃がセイバーの肩を抉る。
セイバーは顔を顰めつつ、けれども構わずにランサーへ斬撃を放つ。
それは肉を切らせて骨を絶たんとする意図があり……ランサーもそれを読み取って鼻白みながら再び後退する。
故にセイバーが受けた一撃は致命傷に成らなかったが、ランサーへ打撃を与える事も能わなかった。
「ック、やってくれますね、ランサー」
「そういうお前は、荒い割に力不足だな」
一連の攻防、それだけで両者は互いの力量を把握する。
セイバーは悔しげに顔を歪め、ランサーはまだまだやれるとばかりに好戦的な笑みを貼り付けて。
緊張を持って、その場に沈黙が訪れた。
そんな中で、余裕のあるランサーは目の前の彼女を分析する。
一連の攻防から察するに、目の前の女騎士は大いに素質がある、自分で鍛えて撃ち合いたいほどに。
それに現時点でも、決して弱くはない。
……けれども、それだけ。
まだまだ発展途上で、完成している訳ではないことが理解できる。
完成すれば稀代の剣士にもなれるが、ことこの聖杯戦争に置いてそれは問題である。
本来ならば最盛期の、完成した姿で召喚されるはずであるが、彼女はランサーが評した通りに発展途上。
本来ならば有り得ないが、もしかしたら召喚には何か不備があったのだろう。
あんな状況での召喚だ、それもあり得る。
だからセイバーは完全ではない、発展途上の姿で召喚された。
大器ではあろうが、未だ器に満ちるほどの経験が足りていない。
「惜しいな」
だからこそ、ランサーとしては歯痒い。
熾烈なる戦いを求めて参戦しランサーからは、目の前の存在が完全でない事が惜しくてならない。
それこそ、口に出してしまうくらいに。
「何がですか、ランサー」
「言わずとも分かっていて、それでも聞きたいか?」
ランサーの物言いに反論できず、食いしばりながら口を閉ざすしかないセイバー。
彼女としても力量の差を理解していた。
だからこそ不快感は湧いてくるのだが。
ランサーは本当に惜しんでの言葉なのだろう。
けれども、それだけ自分が足りていないと自覚させられる。
私は祖国を救わねばならないのに、と自身の力不足を歯噛みせずにはいられない。
そんな彼女をランサーは見て、もうここに用はないことを感じたのだ。
「ここらで引き分けってな、セイバー」
「逃げるのですか、ランサー!」
思わずセイバーが叫べば、ランサーは軽く笑って、こう言った。
「今日のところは引いてやるって言ってんだ。
それよりも良いのかい?
お前さんのところのマスターはすっかり惚けてしまってるようだが」
思わずセイバーが振り向けば、そこには呆然としたまま戦いを見つめていた士郎が立っていた。
訳も分からずに、けれども何とか立ち上がった士郎の姿が。
駆け寄りそうになるセイバーに、ランサーはこれだけを告げる。
「筋は悪くないが、お互いにまだまだだな。
次会うときには、主従揃ってもうちっとは出来るようになってろよ」
ランサーは楽しげに告げると、鮮やかにその場を離脱した。
半ば呆然とそれを見送るセイバー。
そんな彼女に、士郎が慌てて近付いてきたのは、ある意味で当然の事であった。
敵は去り、その場には傷付いた白い彼女だけが取り残された。
耐え切れずに走り出す。
何も出来ずに眺めているしかなかった失態を取り戻そうとしてだ。
そうして駆け寄れば、彼女の露出していた肩は真っ赤に染まり、純白の白と思っていた衣装も今では汚れが見て取れる。
それ程までに、彼女は懸命に戦ってくれていたのだ。
「だ、大丈夫か!?」
半ば叫んだのは衝動であった。
一目見て彼女が手傷を無数に負っているというのが分かるのに、叫んでしまう程に慌てていたのだ。
けど、そんな俺に、彼女が最初に掛けてきた言葉は、ある意味で衝撃とも言えるものであった。
だって、それは……。
「申し訳ございません、マスター。
貴方のお役に立てませんでした、自分の未熟を痛感せずにはいられません」
そう、懺悔の色を滲ませた謝罪だったから。
目を見開いて、次の瞬間には口から言葉が溢れていた。
「馬鹿なことを言わないでくれ!
俺はあんたに救われた、俺にとってはそれだけなんだ。
なのに、女の子が戦ってる中でも、俺はジッと眺めるしかできなかった」
むしろ後悔を覚えるべきなのは俺の方だ。
死にたくないと思っていた。
けれど、それでも女の子一人を戦わせて、それで自分は助かったというのは、なんと情けないことか。
「……ごめん」
出た言葉は、なおも情けない。
俺は彼女に謝る事しかできない。
けど、それを聞いた彼女は、ボンヤリとだが微笑んだ。
ボロボロで傷だらけな彼女だけれど、それでも何よりその顔は美しく見えた。
彼女の在り方が、少し分かった気がするから。
「ここでお互いに、ごめんなさいと謝り続けても不毛ですね」
それは彼女も同じだったのか。
困った様な表情を浮かべて、一歩俺に歩み寄る。
が、直後に肩の傷が疼いたのか、赤色が滲んでいる肩を抑えて、そのまま立ち止まった。
「お、おい!?」
俺を守って付いた傷、そう考えると冷静ではいられず、彼女に慌てて近づく。
見れば分かる、女の子にとって最悪であろう跡が残りそうな傷。
見ているだけで痛々しくて、早く何とかしなきゃと強く急かされる。
「ちょっと待ってろ、今すぐに治療するから」
家の中には救急箱もあったはず。
その場所を思い出しながら、彼女の無事な方の肩を支える。
早く治療しなければと急いて、肩を貸しながら進もうとする。
……そんな時のことだ。
「あの、すみません」
どうした、と声を掛けようとした。
でも、実際にその言葉が口から出ることはなかった。
何故か? 理由は簡単。
――そんな反応ができない程の出来事が起こったからだ。
「え?」
思わず、そんな声が出てしまったのも仕方がないだろう。
だって、それは……。
「しばらくですが、このままにさせてください」
急に、彼女が俺に抱きついてきたから。
唐突だった、そしてそれに俺は反応を返すことが出来ずにいた。
でも、彼女は俺に抱きついてくるのをやめない。
むしろもっとと言わんばかりに、強く抱きしめてきているのだ。
「……いや、なんでさ」
思わずそう口走ったのも仕方がないことだ、うん。
けれど、彼女は答えを返す事もない。
じっと俺を抱きしめたまま動かない、実質的にされるがままのマグロ状態。
心臓が、心なしか早くなってる。
きっと、顔も赤いだろう。
首筋に当たる吐息に、思わず体を震わせる。
鎧の無骨さと、彼女から伝わってくる暖かさと柔らかさに動揺が避けられない。
――抱きしめて来た彼女は、花の香りがした。
「えっと、失礼しました」
「あ、いや、その……びっくりした」
何分か分からないぐらい、彼女は俺を抱きしめていた。
その時間は、短いような、長いような、不思議な感覚であった。
俺達は互いに、困った顔というやつをしている。
「あ、あの、急にこんな事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「あ、謝られても、反応に困る」
うーん、と顔を見合わせる。
彼女も、そして多分俺も、顔が赤い。
それだけこの子の体温を感じてしまったし、それは相手からしても然りなのだろう。
多分お互いに、恥ずかしいという感覚は共有しているはず。
まぁ、だからこそ、余計に気になることなのだが。
「その、どうしてこんな事を?」
恐る恐るではあるが、聞いてしまっていた。
何も考えずに、急に抱きしめてくる子には見えなかったから。
すると考えがこの子にも伝わったのか、照れて赤いまま、彼女は答えてくれた。
「どうやら召喚条件が特殊だったせいか、マスターとパスが繋がってなかったようなんです。
でも、こうして……」
また、彼女が俺に触れてくる。
頭に血が巡りすぎておかしくなりそうだ。
けど、彼女はちょっと恥ずかしげに、このまま告げていく。
「マスターと触れ合うことで、繋がりが出来たのかもしれません。
暖かい何かが、私に流れてくるんです。
だから、ほら」
彼女が肩を見せてくる。
槍で抉られて傷ついた、か細い肩を。
でも、そこにあったのは……。
「……どういうこと、だ」
そこにあったもの、それは何故か傷一つ付いてない流麗な彼女の撫で肩。
一生残るであろうと思っていた傷は、既にそこには無くなっていた。
驚いて彼女の顔を見ると、そこにはちょっと悪戯に成功したような女の子の顔があった。
ちょっと自慢げなのが、微笑ましく感じてしまうような。
「マスターに触れることで、こうして傷が癒せてしまうみたいなんです。
だから、先程は無礼だとは思いましたが抱きしめてしまいました。
再度、この場で謝らせて頂きます。
すみませんでした!」
一気呵成に、興奮気味に喋っていく彼女。
きっと、まだ抱きしめた時に高鳴りが、残っているせい。
でも、逆に俺は冷静になってしまっていく。
分からない単語が、幾つも散見してしまっているから。
「あの、ちょっと待て!」
「え?」
まだ喋ろうとする彼女に、待ったを掛ける。
このまま喋り続けられても、俺はその意味の半分も理解できないであろうから。
だから、この際に訪ねてしまおうと、そう思ったのだ。
「質問させてくれ。
まず、マスターってなんだ?」
「……はい?」
尤も、彼女からすれば前提からおかしかったのか。
困惑したような顔が、どうにも印象的で。
……そんな理由があったからか、ここに近づいて来ている彼女に、俺は咄嗟に反応できなかった。
「それはね、衛宮くん。
貴方が聖杯戦争ってロクでもない儀式に、巻き込まれちゃったから呼ばれている呼称よ」
目の前の彼女共々、驚いて声のした方角に振り向く。
するとそこには……、
「こんばんは、衛宮くん。
今夜は良い夜ね」
ニコリと微笑んでいる、赤い色をした彼女の姿。
「とお……さか?」
穂群原学園のアイドル、遠坂凛が透き通った笑みで、俺達の前の現れたのだ。
ラブコメできてたでしょうか?
上手く書けてたら喝采物、失敗してても経験値獲れたという前のめりでいきましょう。
あと、最後が雑っぽかったですが、何か目がチカチカいて、マトモに考える気力が削がれていってたのでしょうがないです(言い訳)。
……まぁ、寝れば治るのですが(経験則)。