何時も通りプロローグだけ書いて投稿。
なお、話の九割は原作の焼き直し。
あと、どうでもいい事でしょうが、一応作品別で種類分けとかしておきました!
世の中には、時として理不尽な事がある。
更に二分すると、それは避け得るものと避けられるものに分けられる。
両者を分かつ分岐点は、兎に角運の良さといえよう。
つまり何が言いたいかといえば……。
――衛宮士郎は、絶望的に運が足りていなかったということだ。
家の中は暗く、人気はない。
そこにいるのは俺、衛宮士郎ただ一人。
暗い武家屋敷は幽霊のかほりがする、とは某姉代わりの言葉であるが、それも俺にとっては親しんだ静寂。
そんな静けさの中で、自分に起きた怪談の如き出来事について考えていた。
理解できないものを、できるものに落とし込むために。
さっきは何が起こっていたのか。
すっかり理解できていなかったが、それでも分かることは少しはある。
俺はさっき、間違いなく殺された。
青い奴が追いかけてきて、逃げ切ったかと油断したところを心臓に一刺し。
……間違いなく、俺はあの時死んだ。
それは変えようのない事実なはず。
でも、俺はこうして動いている。
死んだと思ったけれど、刺された心臓は未だに脈打ってる。
ドクンと、血の着いた制服の上からでも分かる、命の瞬き。
生きている事の証明。
だからこそ、解せない。
衛宮士郎は死んだが生きている、その矛盾を解消するには。
そんな事を考えて、ふとポケットから、主張するようにカチャっと金属が擦れる音がした。
ふと、思い出して手を突っ込むと、そこには赤い宝石の姿。
鎖で繋がれてネックレスになっているこれは、現場に落ちていた唯一のもの。
思わず拾って帰ってきてしまったが……。
――そこまで、考えた時である。
鈴の音が響き渡った。
通常であれば聴く者に清涼感を齎すそれは、こと衛宮の家に限ってはそうでない。
これが響く時、それは即ち――
考えるより先に、その場から飛び退いていた。
ゾッとする感覚が背筋に走り、何よりも色濃い匂いが俺に近づいてきたから。
――死という、先ほど嗅いだキツい鉄の匂いが。
「ッチ、大人しくしてれば、苦しまずに逝けたものを」
天井から、ナニカが槍を持って降ってきた。
一刺し穿たれた床は見事に抉れ、刺されたものは絶命するであろう事を予感させる。
そして目の前を見れば……。
俺を殺した青い奴が、ソコニイタ。
酷く詰まらなさそうな顔をして、俺を見ていた。
事実、コイツにとって俺は塵芥にも等しい存在なのであろう。
その隠さない態度と、それに乗っている殺気が、何よりの証拠。
思わずにはいられない――巫山戯るな、と。
「冗談じゃない」
歯を軋ませながら言い、近くに落ちていたポスターを拾う。
藤ねぇが置いていった魔法少女の小さな女の子が描かれたものを持って、俺は威嚇する。
だが、コイツはそんなものを屁でもないと思っているらしい。
鼻で笑い、そして言う。
「俺の方こそ、冗談でいて欲しかったぜ」
首をコキリと鳴らしながら、青い奴は続ける。
「何が悲しくて、一日に同じ奴を二回も殺さにゃならん」
全くと呟くと、コイツは紅い槍をこちらに向けて……。
「今度は迷うなよ坊主、あの世は河の向こうだぜ」
無慈悲に、コイツは朱槍を突き刺そうとした。
早い……けれども目で追えていた。
走馬灯の様に、迫る死から目が離せない。
あぁ、また死ぬのか。
そう思うと、背筋が凍りついていく。
ポケットのペンダントの意味には、もう気付いている。
一回、俺は死んで生かされたのだ。
見知らぬ誰かに、助けられた。
……それなのに、俺はまた死のうとしている。
――脳裏に、赫い世界がチラつく。
一瞬、垣間見えたモノ。
それに、感情が強く揺さぶられる。
それは、単純な使命感のようなもの。
――俺は、責任を果たしていない。
抱いたものは、たった一つの義務感のみ。
俺は死から蘇った、その責任を果たせていない。
死ねない、死んではいけない。
意味もなく死ぬなんてできるか! ふざけろ!
「――
願望は必死さに、必死さは活力へと、変わっていた。
呟いたのは自己暗示、自分を閉じた世界へと連れて行く、俺だけの呪文。
朱槍が近づく中での、確かな抵抗。
「何?」
思わず漏らしたであろう男の声を無視して、目指すべき事項を決定に確定していく。
死なない為に、責任を果たす為に。
――構成材質、解明
――構成材質、補強
――
男の朱槍は、目の前で止まっていた。
俺には届かず、それを遮るものがある。
魔法少女カレイドライナーリリカル☆アリスのポスターが、俺の命を救っていた。
「本番に強かったんだな、俺って」
驚きのあまり呟き、自分でも成功できた事にひどく驚いているが、それは別の方面から相手も刺激してしまったらしい。
「……へぇ、面白い芸風だな、坊主」
触発されたであろう目の前の男は、面白がっている風に言う。
直ぐにでも殺せるであろう速度で槍を振るう男は、だけれども直ぐには殺さなかった。
路傍の石だと思っていたのが、存外鈍く光っていたからか。
宝石と自称するには才能がないにも程があるが、それでも決して唯の石ではないと思いたい。
でなければ、この場で死ぬ――
なら、とポスターを構え、相手を見る。
コイツの槍は、普通ならば対応できる速さではない。
ならば、どうするべきであるか。
……答えは、たった一つしかない。
「ッフ」
軽く息を漏らして、バックステップでそのまま後ろの障子に体当たりしにいく。
このまま戦っても負けるならば、このポスター以外の武器を手にすればい。
目指すは土蔵、少なくとも部屋で対峙するよりかは幾分か可能性がある。
勝算なんて元からないも同然であるが、それでもこのままよりかはマシ。
そう思って行動に移すが、目の前の男はそれを安々と許すほど甘くはなかった。
「逃げるなんて男らしくねぇ。
詰まんねぇことすんじゃねぇよっ!!」
吐き捨てるような男の声と同時に、槍の追撃を喰らう。
ポスターで受け止めるが、その衝撃は重くて、自分の体重以上の力が障子を圧壊させた。
想像以上の力で押し出せれたが為に転げてしまう。
そして男は、俺の背中に槍を突きたてんと迫ってくる。
……が、予測通りとして、丁度いい位置でまたも槍を受け止める事に成功する。
「ハン、やるねぇ」
男はカラカラと笑い、まるで遊ぶように槍を突き出してくるが、それをわざわざ相手にすることはない。
ここは外で、土蔵までの距離は少々。
全力ダッシュなら、と俺は必死に駆け始めた。
……けれど。
「へぇ、あそこが目的ってかい」
槍男に、簡単に目的を看破されてしまう。
焦る、がそれは意外な効果を齎した。
「なら、俺が送り届けてやるよ。
――――飛べ」
そう言うと、コイツは事もあろうに俺にドギツイ蹴りを一発寄越してきたのだ。
あまりの衝撃に、胃酸を吐き出しそうになるが、結果的に土蔵まで文字通り一飛びで到着ができた。
さぁ、次は何を見せてくれる? と笑っている男を背に、ホウホウの体で俺は衝撃で空いた土蔵に入り込んでいく。
中は暗くて、静まり返っている。
けれどもモノは溢れていて、ガラクタが散乱している。
ここになら、と何かないかとひっくり返す。
一発逆転の秘密兵器を出せだなんて言わない。
けど、せめてアイツと打ち合える得物がなくてはならない。
でなくては、待ち受けるのは死の足音。
だから俺は、探して、探して、探して――
「クソッ!」
「よう、坊主、何かあったか」
けれども見つからなくて。
……ついに、タイムリミットが来た。
ヒョイと顔を見せた青い奴は、俺の状況を見て、はぁ、と一つ溜息を吐いた。
やれやれと頭を掻いているのは、呆れているのか。
「他に何かあると思ったが、ネタは打ち止めらしいな」
そう言って、血の滴るような朱槍を俺に狙いを定める。
何度も向けられた槍だが、今度ばかりは詰んだと感じた。
「ま、期待した俺も馬鹿だったかな」
呆れていたのは、どうやら見る目のなかった自分のことらしい。
目の前の奴の独白を聞きつつ、再び俺に槍が迫ってきた。
息を飲み込む暇すらもなかった。
冷たさのあまり、呼吸は止まってしまっていて。
……咄嗟に、自分でも悪あがき出来たのが不思議なくらいだった。
「何?」
咄嗟にポスターを広げて、奴の槍を受け止める。
鉄の如き盾となった魔法少女カレイドライナーリリカル☆アリスのポスターは無残にも引き裂かれる。
が、そのお陰で、僅かながら俺の寿命は伸びた。
そう、ほんの僅かだけだが。
「今のは、びっくりしたぜ」
クク、と笑いながら、奴は告げてくる。
そこに呆れの色は混じっているが、幾分かの感心も含まれているように感じた。
「坊主の趣味がどうこうと文句を付けるわけじゃねぇが……まぁ、いいや。
あの世で犯罪者にならねぇ程度にな。
あと、今のは少し驚いたぜ」
一方的に喋り、彼はまた槍を引いた。
突き出すための予備動作……今度は、俺を守る盾はない。
「もしかしたら七人目はお前だったのかもな。
魔術師としては風変わりだが、戦いのセンスはあったぜ」
手向けとしての為か、その言葉には頑張ったな、というニュアンスが滲んでいた。
……だからと言って。結果が変わるわけではないが。
あまりの理不尽に握り締めた手から、血の一滴が流れ落ちる。
結局、衛宮士郎は何も成すことがなく、正義の味方なんて夢物語のまま果てようとしている。
――なんて、間抜け。
「何?」
だからその二度目の言葉を聞いた時、俺は言葉もなくただ奴の訝しげな声を聞くだけであった。
異変、そう、異変だ。
士郎の手から流れ落ちた血の一滴。
その血が陣を為し、召喚に必要な門を開ける。
「まさか、本当に七人目だと!?」
初めて聞いた青い奴の驚愕。
それを聞いた時、初めて土蔵の床が赤く発光していることに気が付いた。
ただ呆然と、俺は眺めていて……。
――瞬間、魔法陣から、ナニカが飛び出してきた。
「チィッ!?」
次に感じたのは、戦慄。
魔法陣から飛び出したナニカは、恐らく人間では敵うことがないであろう青い槍使いを吹き飛ばしたのだ。
有り得ない……そう思う。
しかし、ソレがこちらに振り向いた時――時間が止まった気がした。
「――え?」
僅かながら、声が漏れる。
戦慄からではない、驚愕からでもない。
――見上げたものの、透明感故だ。
「貴方が」
目の前のソレから、声が聞こえた。
涼やかで、柔らか、淀みがない。
紛れもない女の子の声、その事実に頭がフリーズする。
「貴方が、私のマスターですか?」
けど、それは間違いなくあの青い槍兵を吹き飛ばした人物の声で、俺に向けられたもの。
声が出ない、息も出来ない。
白いドレスに、銀の鎧。
黄金の剣を握る彼女は……何故だかとても女の子に見えた。
そう、目の前の彼女が、絵本から抜け出してきたヤンチャなお姫様の様に感じたのだ。
そんな俺に、彼女は微笑んで。
――涼やかに、告げたのだ。
「サーヴァントセイバー、契約により参上しました。
今日より、貴方の運命は私と共に有り、私の運命も貴方と共にあります」
どこまでも迷いなく、彼女は告げた。
その鈴の音の様に告げた声と、姿。
きっと、俺は忘れることがないだろう。
何故だか、そう予感させられた。
単にセイバーと士郎の、ギスギスした雰囲気じゃないラブコメが書きたいと生まれた今作。
そのうち続きを書きたい(書くとは言ってない)。