ペンギンのおもちゃ箱   作:ペンギン3

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自作二次創作小説である、冬木の街の人形師の活動報告版に上げていた短編。
活動報告版に上げていた物体なので、無論のこと短い。
第9話が終わって少ししてからのお話。


冬木の街の人形師
守矢神社の行方(冬木の街の人形師)


「聞いてください!諏訪子様、神奈子様!

 アリスさんから手紙が届きました!」

 

「アリスの奴、然も当分会えない~、て雰囲気を醸し出していたのに、ちゃっかりしてるねぇ」

 

「粋が有るとも言えるだろう。

 早苗が喜んでいるのだ、いらん事を言って水を差すな」

 

 天まで届け、私の思い!と言わんばかりにテンションを上げている早苗を見て、両神格の発言。

 からかう風味の諏訪子を、神奈子が窘める。

 特に最後の方は、ドスを効かせての発言である。

 

「怖い怖い、年増は怒りっぽくてやだねぇ」

 

「貴様とて、大して年齢は変わらんだろうが」

 

「そうだったっけ?」

 

 惚けて調子をずらそうとする諏訪子に、何時も通りに神奈子は溜息を吐いた。

 そうして早苗の方に、思い出したように向き直る。

 

「で、どんなことが書いてあるんだい?」

 

 ひょっこりと早苗の背中に抱きつく形で、諏訪子が手紙を覗き込む。

 

「ふふ、アリスさんは古風ですね」

 

 手紙の内容を読んで、思わずと言わんばかりに笑みを漏らす早苗。

 そして内容を覗き込んだ諏訪子は、へぇ、何て言葉を零していた。

 

「文通かぁ、昭和の香りがするね」

 

 手紙の内容は、以下の通り。

 近況報告、そして早苗の近況は?と尋ねて、よければ文通しましょ?と繋がっているのだ。

 

「ロマンの香りと言ってください、諏訪子様」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 口を尖らせる早苗に、手をパタパタ振って謝る諏訪子。

 それで気分を取り直したのか、半ばルンルン気分の早苗である。

 何時もの3割増くらいの笑顔で、ニコニコしている。

 

「文通は良いものだ。

 文字を書くということは、近況を示すだけでなく、自らの想いや万感を込めてのものにできるからな。

 どれほど拙くてもいいから、まずはやってみることが肝要だ」

 

 神奈子の経験なのか見てきたからなのか、深く染み込むような説得力が、その言葉には存在していた。

 それに勇気付けられたかのように、早苗がぎゅっと手を握り締める。

 

「しましょう!文通を!」

 

「えいえいおー」

 

 すっごい嬉しそうに、腕を高く突き上げている早苗。

 そして便乗するように、ヘラヘラ笑いながら早苗に倣う諏訪子。

 

「諏訪子もいっそのこと何か書いてみるか?」

 

「嫌だよ、めんどくさい」

 

 折角、ということで神奈子が諏訪子に文通を進めてみるも、あっさり一刀両断される。

 そして神奈子の額に青筋が立つのは、半ば当然のことであった。

 

「……ほら早苗、早速書いて見ろ」

 

 神奈子は諏訪子のことを、受け流すように、受け流すように、と内心で繰り返しつつ、早苗に手紙の執筆を勧める。

 

「はいっ!今なら名文が書けるような気がします!!

 それでは失礼致します!神奈子様、諏訪子様」

 

 言い終るやいなや、即刻自室に向かって駆けていった早苗。

 その姿に一つ頷いて、神奈子は諏訪子に語りかけた。

 

「今回の件で、早苗はどれほどあちらよりになったか?」

 

「まだ神様寄り、でもやや人間のほうに寄りつつあるね」

 

 その言葉に、神奈子は安心や寂しさなどを含む、様々のものが胸に去来していた。

 早苗の中に存在する人間と神様の天秤、それが人間側へと傾いたのである。

 

「ま、良い事なんじゃないかい?

 普通に過ごせて、普通に幸せになれるんだから」

 

「そうかもしれん、が」

 

 早苗は人に見えないものが視えてしまっているが故に、宙に浮いてしまっている。

 人より目が良かったからこそ、早苗は浮かんだままだったのだ。

 それが地に足がつくとなれば、早苗はようやくこの現代という時代に対応できるのだ。

 だが早苗は、神奈子達にとって、現代に残るための唯一の楔となっていた。

 そしてそれが外れてしまうのなら。

 

「あんまり縛るのは良くないよ。

 早苗が死んじゃったら、私達も揃ってお陀仏になろうともね」

 

 そう、早苗がいなくなるのなら、その時が神奈子達の最後。

 特異点たる早苗を介して、ギリギリの信仰でようやく耐え凌いでいるのだ。

 愛しく親しいものにして、唯一の命綱。

 それが2柱にとっての、東風谷早苗だった。

 

「だが可能性はある。

 アリス・マーガトロイド、奴は明らかにこちらよりだ」

 

「魔を司る匂いがプンプンだったからね」

 

 早苗にできた友人、人形師を名乗る少女。

 皮肉にも、今回早苗を人間側に傾けた人間が、裏側世界の人間なのだ。

 だがそれは同時に、彼女を押さえる事が出来れば、早苗は自動的に2柱の元に付いてくるということだ。

 

「だけどさ、それって明らかな誘導だよね。

 早苗には自由意思で決めてもらいたいんだけど」

 

「……分かってはいる。

 早苗のことだ。ありのままの事情を語ると、私達を助けてくれるに決まっている」

 

 神奈子は、固まったこめかみをグリグリと解す。

 2柱の風祝の未来を考えると、どういう行動が最適解なのか。

 未だに結論を出すことはできなかった。

 

「このまま私達がいなくなると、早苗は一人ぼっちだね」

 

「アリスはいる、が、家族という意味合いでは一人になるな」

 

 これは別に、早苗が天涯孤独という意味ではない。

 両親ともに健在である。

 だが、真の意味で早苗の特異性を理解できる親しき人物は、居なくなってしまうのである。

 それを考えると、容易には守矢神社を離れる気にはなれなかった。

 

「だが私はこのままの消滅は、断固として認めん!」

 

「頑固者だね」

 

 結局のところ、彼女たちの趨勢を決めるのは東風谷早苗ただ一人である。

 彼女達が、理を破り幻想になるには、どちらにしろ、早苗に術式を発動してもらわねばならないのだから。

 守矢の風祝には、それができる力がある。

 そして今の2柱には、それをなす力が残っていないのだから。

 

「何とでも言え。

 しかしアリス・マーガトロイド、か……」

 

 神奈子は計算を巡らせる。

 早苗に多大な影響を与える奇貨について。

 

「神奈子、あんた悪い顔してるよ」

 

「それだけ奴を気に入っていると思ってもらおう」

 

 今時珍しいほどに信仰を向けてくれた彼女。

 それは魔の心得があるのだとしても、それを補うほどの嬉しさがあった。

 

「まぁ、うまく転がしてやるさ」

 

 くく、と笑いを漏らす神奈子を見て、呆れたようにやれやれと肩をすくめる諏訪子。

 何れアリス・マーガトロイドという少女は、八坂神奈子という神の重大な選択に巻き込まれるかもしれない。

 だがもしそうだとしても、最終的に決断を下すのは自身の意思だろう。

 だが諏訪子は、既に少女に深い同情を与えていた。

 少女の前途を思いを馳せて。




1年前に書いた物体なので、割と粗が目立つかも。
それでも、守矢家を書いてる時の安定感が良かったことは覚えてます。
なお、アリスは守矢家に永住したら、幻想郷行きのチケットが貰えるというお話。
どちらにしろ、本編後のことであります。

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