活動報告版に上げていた物体なので、無論のこと短い。
第9話が終わって少ししてからのお話。
守矢神社の行方(冬木の街の人形師)
「聞いてください!諏訪子様、神奈子様!
アリスさんから手紙が届きました!」
「アリスの奴、然も当分会えない~、て雰囲気を醸し出していたのに、ちゃっかりしてるねぇ」
「粋が有るとも言えるだろう。
早苗が喜んでいるのだ、いらん事を言って水を差すな」
天まで届け、私の思い!と言わんばかりにテンションを上げている早苗を見て、両神格の発言。
からかう風味の諏訪子を、神奈子が窘める。
特に最後の方は、ドスを効かせての発言である。
「怖い怖い、年増は怒りっぽくてやだねぇ」
「貴様とて、大して年齢は変わらんだろうが」
「そうだったっけ?」
惚けて調子をずらそうとする諏訪子に、何時も通りに神奈子は溜息を吐いた。
そうして早苗の方に、思い出したように向き直る。
「で、どんなことが書いてあるんだい?」
ひょっこりと早苗の背中に抱きつく形で、諏訪子が手紙を覗き込む。
「ふふ、アリスさんは古風ですね」
手紙の内容を読んで、思わずと言わんばかりに笑みを漏らす早苗。
そして内容を覗き込んだ諏訪子は、へぇ、何て言葉を零していた。
「文通かぁ、昭和の香りがするね」
手紙の内容は、以下の通り。
近況報告、そして早苗の近況は?と尋ねて、よければ文通しましょ?と繋がっているのだ。
「ロマンの香りと言ってください、諏訪子様」
「あはは、ごめんごめん」
口を尖らせる早苗に、手をパタパタ振って謝る諏訪子。
それで気分を取り直したのか、半ばルンルン気分の早苗である。
何時もの3割増くらいの笑顔で、ニコニコしている。
「文通は良いものだ。
文字を書くということは、近況を示すだけでなく、自らの想いや万感を込めてのものにできるからな。
どれほど拙くてもいいから、まずはやってみることが肝要だ」
神奈子の経験なのか見てきたからなのか、深く染み込むような説得力が、その言葉には存在していた。
それに勇気付けられたかのように、早苗がぎゅっと手を握り締める。
「しましょう!文通を!」
「えいえいおー」
すっごい嬉しそうに、腕を高く突き上げている早苗。
そして便乗するように、ヘラヘラ笑いながら早苗に倣う諏訪子。
「諏訪子もいっそのこと何か書いてみるか?」
「嫌だよ、めんどくさい」
折角、ということで神奈子が諏訪子に文通を進めてみるも、あっさり一刀両断される。
そして神奈子の額に青筋が立つのは、半ば当然のことであった。
「……ほら早苗、早速書いて見ろ」
神奈子は諏訪子のことを、受け流すように、受け流すように、と内心で繰り返しつつ、早苗に手紙の執筆を勧める。
「はいっ!今なら名文が書けるような気がします!!
それでは失礼致します!神奈子様、諏訪子様」
言い終るやいなや、即刻自室に向かって駆けていった早苗。
その姿に一つ頷いて、神奈子は諏訪子に語りかけた。
「今回の件で、早苗はどれほどあちらよりになったか?」
「まだ神様寄り、でもやや人間のほうに寄りつつあるね」
その言葉に、神奈子は安心や寂しさなどを含む、様々のものが胸に去来していた。
早苗の中に存在する人間と神様の天秤、それが人間側へと傾いたのである。
「ま、良い事なんじゃないかい?
普通に過ごせて、普通に幸せになれるんだから」
「そうかもしれん、が」
早苗は人に見えないものが視えてしまっているが故に、宙に浮いてしまっている。
人より目が良かったからこそ、早苗は浮かんだままだったのだ。
それが地に足がつくとなれば、早苗はようやくこの現代という時代に対応できるのだ。
だが早苗は、神奈子達にとって、現代に残るための唯一の楔となっていた。
そしてそれが外れてしまうのなら。
「あんまり縛るのは良くないよ。
早苗が死んじゃったら、私達も揃ってお陀仏になろうともね」
そう、早苗がいなくなるのなら、その時が神奈子達の最後。
特異点たる早苗を介して、ギリギリの信仰でようやく耐え凌いでいるのだ。
愛しく親しいものにして、唯一の命綱。
それが2柱にとっての、東風谷早苗だった。
「だが可能性はある。
アリス・マーガトロイド、奴は明らかにこちらよりだ」
「魔を司る匂いがプンプンだったからね」
早苗にできた友人、人形師を名乗る少女。
皮肉にも、今回早苗を人間側に傾けた人間が、裏側世界の人間なのだ。
だがそれは同時に、彼女を押さえる事が出来れば、早苗は自動的に2柱の元に付いてくるということだ。
「だけどさ、それって明らかな誘導だよね。
早苗には自由意思で決めてもらいたいんだけど」
「……分かってはいる。
早苗のことだ。ありのままの事情を語ると、私達を助けてくれるに決まっている」
神奈子は、固まったこめかみをグリグリと解す。
2柱の風祝の未来を考えると、どういう行動が最適解なのか。
未だに結論を出すことはできなかった。
「このまま私達がいなくなると、早苗は一人ぼっちだね」
「アリスはいる、が、家族という意味合いでは一人になるな」
これは別に、早苗が天涯孤独という意味ではない。
両親ともに健在である。
だが、真の意味で早苗の特異性を理解できる親しき人物は、居なくなってしまうのである。
それを考えると、容易には守矢神社を離れる気にはなれなかった。
「だが私はこのままの消滅は、断固として認めん!」
「頑固者だね」
結局のところ、彼女たちの趨勢を決めるのは東風谷早苗ただ一人である。
彼女達が、理を破り幻想になるには、どちらにしろ、早苗に術式を発動してもらわねばならないのだから。
守矢の風祝には、それができる力がある。
そして今の2柱には、それをなす力が残っていないのだから。
「何とでも言え。
しかしアリス・マーガトロイド、か……」
神奈子は計算を巡らせる。
早苗に多大な影響を与える奇貨について。
「神奈子、あんた悪い顔してるよ」
「それだけ奴を気に入っていると思ってもらおう」
今時珍しいほどに信仰を向けてくれた彼女。
それは魔の心得があるのだとしても、それを補うほどの嬉しさがあった。
「まぁ、うまく転がしてやるさ」
くく、と笑いを漏らす神奈子を見て、呆れたようにやれやれと肩をすくめる諏訪子。
何れアリス・マーガトロイドという少女は、八坂神奈子という神の重大な選択に巻き込まれるかもしれない。
だがもしそうだとしても、最終的に決断を下すのは自身の意思だろう。
だが諏訪子は、既に少女に深い同情を与えていた。
少女の前途を思いを馳せて。
1年前に書いた物体なので、割と粗が目立つかも。
それでも、守矢家を書いてる時の安定感が良かったことは覚えてます。
なお、アリスは守矢家に永住したら、幻想郷行きのチケットが貰えるというお話。
どちらにしろ、本編後のことであります。