「・・・動くな」
犯人の女性は感情の籠っていない声で言う。
こう着状態の中、人質になっていた男性がピクッと動いてしまう。
一閃・・・。
少し違うのかもしれないが、首に当てていた刀を滑らせるように動かすと、右肩から左腰にかけて出血する・・・。
常人でも致死量とわかる量の血が、金庫内にあふれる。
「・・・次は君」
刀の血を払いなが。
「・・・最後に名乗っておくね "遠切" 弥生」
一歩、また一歩と近づいてくる弥生。
「言った筈だ! 最後は貴女だ!!」
[完全世界]
地面に手を付き辺りの空間のあらゆる物理法則を支配し、同時にECMの蔓延る空間を侵食しECMを無効化する。
発動した瞬間、腕輪型のリミッターが形状を維持できずに崩壊する。
[武装召喚
手元に全長約130cm程の鞘のない日本刀が現れる。
「最後に一度だけ・・・武装解除して大人しく投降しなさい!」
今まで、警察等が呼びかけていたセリフを陽が復唱する
「・・・断る」
そういうと弥生が刀を構えその場で一振りする。
陽が同じくその場で刀を一振りする。
すると、陽の横の金庫の壁の両面に刀傷が現れる。
「・・・斬撃を見切られたのは久しぶり」
驚いたようなセリフを言いながらも、声色と表情に一切の変化がない。
「おおよそ瞬間移動能力の亜種ですね、空間に対する斬撃を別の空間に上書きしているんでしょう。」
スラスラと説明していく陽。
「・・・理屈が分かっても同じ」
弥生は答えながら、急接近しながら切りかかる。
ギリギリで受け止め反撃に入る陽。
刀で受ける際に、斬撃を飛ばされる陽。
瞬間移動能力で干渉するが、少しずつ切り傷が増えていく。
次第に、切り合う間合が近づき鍔競り合いになり、拮抗する二人。
十秒程の鍔競り合いの後、ほぼ同時に後方に飛び間合を開ける。
「・・・戦闘では私の方が経験の差で勝っていたね」
ふぅと息を整えながら言う弥生。
一方陽は、連戦に加えて奥の手まで使わされて疲労状態だったが・・・。
「いやいや、一手読み違えてますよ。」
そういいながら、ふぅと息を吐きながら刀で空中に十字を切る。
[遠切 十字斬]
数m離れた弥生の体に十字の切口が生まれる・・・。
「・・・なぜ」
血を吐きながら呟く。
「秘密だよ。」
弥生の落とした刀を拾うと、分子操作で鋼糸状にして弥生を縛り上げる。
「・・・私を止めても私たちは止まらない。」
そういうと、そのあと弥生は抵抗することも言葉を発することはなかった。
ESP錠を腕に装着させると、車両内に瞬間移動させる。
「最後の一人確保しました。」
局長に疲れた様子で報告する。
「大丈夫かネ!! 柏木クン今すぐ応急処置をしてくれたまえ!!」
「ハイ局長!」
局長の指令ですぐさま朧さんが応急処置を始める。
幸い浅い傷ばかりだったので、体中絆創膏だらけになる程度ですんだ。
「にーちゃん、大丈夫か!」
「陽はん、大丈夫?」
「陽さん、大丈夫?」
チルドレンが、葵の瞬間移動で乗り込んでくる。
「大丈夫だよ」
そういって陽がほほ笑むと、女性陣が顔を赤くして黙ってしまう。
「どうしたの?」
不思議そうに陽が尋ねると・・・。
「ていうか、にーちゃんその剣どうしたんだよ!!」
唯一顔を赤くしていない薫が質問してくる。
「この刀はね、この前皆本さんに買ってもらったのいいでしょ!」
と言いながらも、武器庫に瞬間移動してしまう陽。
その後、報告ついでに内部の人質をチルドレンと共に救出しその現場を後にした。
後日、現場の報告を聞き今回の事件で犠牲になったのは、弥生に切られた一人だけだったことを知った。
彼女が最後のに残した言葉だけが陽の心に引っかかっていた。
元ネタ一覧
[完全世界]
原作名・サイコバスターズ
本来は、時間を操る能力だが本作では、陽による物理法則を操作する能力。
応用することでECMなどを無効化することができる。
ただし、他者のESPに干渉は出来ない。
[ 贄殿遮那]
原作名 灼眼のシャナ
主人公の一人、2代目炎髪灼眼の討ち手の武器
原作ではあらゆる自在法の干渉を受けない特殊な能力を持つが、本作では刀身に特殊な金属を含ませることでESPに対する高い親和性を持つ。