ソードアート・オンライン 《SpecialStory》   作:ЖセイキチЖ

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第13話 赤鼻のトナカイ

《月夜の黒猫団》が全員死んでしまって俺は責任を感じていた。蘇生アイテムかあると噂があり、ボスがいると聞いたのでそのためのレベル上げを始める。噂を聞きつけてかその間に何人が俺の元を訪れた。その中にはユウキ、アスナ、アリスがいた。手伝おうかと言われたがすべて断った。アイテムがドロップしても俺にくれると言ったが拒否した。他の人の力を借りたら意味が無いのだ。これは俺が初めて所属したギルドへの罪滅ぼしなのだから…。

蘇生アイテムがドロップするというのはクリスマス当日らしい。なので最前線からいくつか下の迷宮区で効率だけを求めて狩りを行った。そのために睡眠時間は1時間あるかないか程度であろう。

ボスである《背教者ニコラス》が出現するというモミの木はレベル上げに勤しむ間にほぼ確信を得るに至っていた。

名のある情報屋からいくつもの木の場所を聞いて確かめたが、すべてモミではなくすぎ類だった。

数ヶ月前、35層のフィールドにあるランダムテレポート・ダンジョン《迷いの森》の一角で、俺は1本の捻くれた巨木を見つけたいた。意味があると目をつけていたが今まで何も起こらなかった。そこに見に行ってみるとそれは紛れもなくモミの木であった。そこが《背教者ニコラス》が出現する場所で間違いないと考えた。

 

俺はそろそろ日にちが変わりクリスマスになろうとしているので、長期滞在している宿屋に戻り、備え付けの収納チェストを開き、出現したアイテムウィンドウからありったけの回復・解毒結晶とポーション類を自分の所持品アイテムウィンドウに移動させる。武器、防具の耐久度を確認してから、俺は《迷いの森》にあるモミの木へと向かった。

これから死ぬかもしれない戦い。俺はひどく落ち着いていた。おそらく死ぬのが怖くないからだ。《月夜の黒猫団》のために、サチのために、俺は戦いで死ぬなら1つの罪滅ぼしの仕方だと思ったからだ。あの時ほどこのデスゲームを憎んだことは無い。ゲームで死んだ人が現実で死ぬなら蘇生アイテムが必要ないのは分かっていた。でも、信じたくはなかった。どうしても生き返って欲しいから。最後の言葉を聞きたいから…。

時計を見てもう時間が無いと思った俺は最後のワープゾーンに入ろうとした。その瞬間、背後のワープゾーンから複数のプレイヤーが出現した。俺は背中の剣の柄に手をかけた。

人数は10人程度。よく見てみるとクラインが率いるギルド《風林火山》と、アスナの友達であるアリスだった。

「…つけてたのか。」

クラインが答えようとした時にそれより勢いよく俺に向かってアピアリスが叫んだ。

「そうよキリト。私たちと組みなさい。2人でいいから。」

アリスはまだそんなことを言っていた。

「前にも言っただろう。それじゃあ意味が無いんだ。俺が悪いから周りの力を借りてたら意味ないんだ!」

俺はアリスに対して強く言った。

「あなたは死ぬ覚悟なの?それは許さないわよ。」

「…ふっ。今なら何も死ぬことに抵抗はないよ。大切なものを失ったからな。」

そう言って歩きだそうとしたらまた数十人背後から現れた。クラインのギルドより多そうだ。

「あつらは《聖竜連合》っす。フラグボスのためなら一時的なオレンジ化も辞さない連中っすよ。」

クラインのギルドが言った。

「お前らつけられたな。」

「あぁ。そうみてぇーだな。」

どいてくれない気がしたのでもう1度剣の柄に手を伸ばし、剣を使おうとした。その時、クラインよ叫び声が俺の手を押しとどめた。

「くそっ!くそったれが!」

俺より先に武器を抜き放つと、背中に向けたまま怒鳴った。

「いけっ!キリト!ここは俺達が食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ!死んだらゆるさねぇーぞ!」

アリスは戸惑ったが決心して聖竜連合の方を向く。

「クラインさんの言う通りです!早く行きなさい!」

俺は2人にお礼を言うことなく、最後のワープゾーンへと踏み入れた。

 

日にちが変わると同時に、どこからともなく鈴の音が響いてきて、俺は梢の天辺を見上げた。

目の前の大きなモミの木の前にボスが現れた。背丈は俺の3倍はあろうかという怪物だった。

ニコラスはクエストに沿ったセリフを口にしようとした。

「…うるせぇよ。」

俺は呟き、剣を抜くと右足で雪で覆われている地面を思い切っきり蹴った。

 

気づくとボスを倒していた。HPを見てみるとレッドまでおちいっている。。今までで1番死に近づき、ギリギリで生き残ったのに俺にはボスを倒した喜び、生きてたことへの安堵が全くなかった。

ゆっくりと剣を収めてからアイテムウィンドウを開く。ボスのドロップ品である物があった。ギリギリの戦いだったため、回復アイテムは1つも無かった。

唯一入っていたアイテムは《還魂の聖晶石》という物だった。これを見て本当に生き返るのかと思い、すぐに実体化させアイテムに触った。効果を見てみると「このアイテムを使用する際に蘇生したいプレイヤーの名前を発生することでプレイヤーが死亡してから10秒間なら蘇生可能」と書いてあった。

およそ10秒間。この1文が俺をさらに絶望にたたき落とした。

この10秒というのはゲームでプレイヤーが死んでから現実世界の人の脳へとマイクロウェーブが流れるまでの時間だと察した。

俺はもう何も考えられなかった。思い足取りでワープゾーンに入り戻った。そこにいたのはクラインのギルドのやつと、アリスだった。

アリスが何かを俺の表情から何かを察したのか名前を呼んでから何も言わなかった。

「…キリト…。」

「それが蘇生アイテムだよ。過去に死んだやつには今はない。君の目の前で死んだやつに使ってやれよ。」

俺は冷たく言い放った。

そう言って転移結晶を使おうとした時にアリスにコートを掴まれた。

「キリト…あなたは生きて。これから何があっても生きて。」

何度も生きてと繰り返すアリスの手からコート裾を引き抜いた。

「じゃあな。」

それだけいい転移結晶を使った。

 

どう帰ってきたか知らないがいつも使っている宿屋に戻っていた。時刻は3時を回っていた。

これからどうしたらいいんだろう。少しの可能性を信じてここまできた蘇生アイテムは意味がなかった。戦ってないと気が狂いそうなのでフロアボスを倒しに行こう。やることが見つかって少しは楽になった。寝れもしないので、俺は朝を待った。気づいたら7時を過ぎていた。部屋から出ようとした時、聞きなれないアラーム音が俺の耳に響いた。

部屋を見渡したが、音源らしいものは見つけられなかった。ようやく視界の隅っこにメインウィンドウを開くとことを促す紫のマーカーが点滅していることに気づき俺は指を振った。時限起動アイテムが収納されていた。俺はそれを取り出し、テーブルの上に置いた。クリスタルをタッチすると懐かしいサチの声が聞こえた。

 

メリークリスマス、キリト。

君がこれを聞いている時、私はもう死んでいると思います。もし生きていたら直接言いたかったからです。

 

…私にとって、君は暗い道の向こうでいつも私を照らしてくれた星みたいなものだったよ。じゃあね。キリト。君と会えて、一緒に居られて本当に良かった。

ありがとう。さようなら。

 

俺は何が起きているのかわからなくて途中聞き取れなかった。でも最後だけはしっかりと聞き取れた。これはサチが死ぬ間際に俺に向かって言った言葉だと確信したから。

 

俺は涙が止まらなかった。少しだけこころの傷を癒してくれた気がしたから…。

 




これからがオリジナルストーリーになると思います。
サチの録音されているメッセージですが、かなり短くなっています。時間がなかったためです。時間がある時に直します。

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