――助けてよ、■■■■。
――運命だと思った。
私が、彼らと出会ったのは――。
最近まではそれが当然だと思っていた、三十分に一本しか電車の通らないローカル線。寂れた商店街に、これっぽちも華がない一軒家が並ぶ住宅街。
周囲を山に囲まれ、春には桜が咲き、夏には緑が生い茂り、秋には枯葉が舞い、冬には雪を積もらせる。
そんな、都会と比べれば少しばかり自然が多いことぐらいしか特筆することもないような片田舎の町が、私の町。私の、生まれ育った――私の嫌いな町。
すぐ傍の山から吹いてくる風に肌寒さを感じながら、秋の朝を、ゆっくりと歩いてゆく。
景色を楽しむような情緒は持ち合わせてないし、この町は、どう言うわけか酷く私の癪に触る。だから、きっと歩みが遅いのは、単純に学校に行くのが憂鬱だから。
……自覚して、一層足取りが重くなる。
これじゃダメだ、しっかりしないとっ、といつの間にか俯いていた顔を上げて、
――向こう側から歩いてくる、少女と青年に目を奪われた。
足が止まった。
背の高いアジア系の青年と、小柄なヨーロッパ系の少女。
ワイシャツにジーパンと言うラフな格好をした短髪の青年に対し、黒を基調としたロリィタ・ファッションに身を包み、地面につきそうなほどに伸ばしたプラチナブロンドの小柄な少女。
――たぶん、この町の住人じゃない、と言うことだけは、分かった。あんなに目立つ二人組なんて、私は今まで見たことも聞いたこともないし、もし新しく越してきたとしても、この狭い町で、噂にならないわけがない。それに、よくよく見れば男の方は旅行用のトランクまで引いてる。
……それと、さっきから気になっていたんだけど。
――何で、周りの人は、彼らに一度も視線を向けないんだろう……?
いくら朝で少ないとは言っても、通りに人がいないわけじゃないのに、誰一人として彼らに奇異の視線を向けていない。
……もしかして、幻覚?
いやいやいや。あんなにはっきりくっきりとした質量を幻覚があってたまりますか。
じゃあ何で? 結構大きめの声で話してて、男の方が持ってるトランクもガラガラ音出してるのに、何で誰も反応しないの?
ふつふつと好奇心が湧き上がる。
彼らとの距離が近づくほど、心臓の高鳴りが増す。
「――かし、――――当にぶらつい―――――見付か―――?」
「さてね、今回は規模が―――ぎる、――るにしても、宛もな――――」
ドクン。ドクン。ドクン。
あと二十メートル。十五。十。八。五。二。
――そして、すれ違う。
「本当、厄介だよ。今回の“魔女”は……」
「あ、あのっ!!」
二人が、酷く驚いた表情で振り返る。驚いてるのは私もだ。何をとち狂って声をかけたのか。
えっと、その……、とどもりながら、何か言おうと言葉を捜す。
「ま……“魔女”って、何ですか……?」
――そして、私は拉致された。