fate/faker oratorio   作:時藤 葉

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タイトルから分かるとおり、今回の更新は本編ではなく閑話です。

本来ならばもっと先、具体的には今章【one for all】完結後に投稿する予定だったのですが、スランプやその他諸々の関係で本編執筆が滞っているため緊急措置として今回の更新となりました。

そのため読むにあたって致命的な本編のネタバレはないものの、時系列的には先の話です。

こういう形の投稿はあまりよろしくないかなーとは思うのですが、あまり投稿が滞るのも申し訳ないので……。

あと今更ですが、章分けしました。あんまり深い意味はありませんので参考程度に。


LV.EX 【 Goddess with archer 】

 

 オラリオにそびえ立つ白亜の摩天楼『バベル』。

 

 ダンジョンの蓋として機能しているその塔は、冒険者のための公共施設の他、様々な商業者にテナントとして貸し出されている。

 

 その塔の頂上。

 

 そこは迷宮都市オラリオにおいてロキ・ファミリアと肩を並べるトップクラスの探索ファミリア『フレイヤ・ファミリア』を統べる美の女神、フレイヤの住処だ。

 

 今日もまた、美の女神はバベルの最上階からオラリオを見下ろす。

 

 

――――故に、その邂逅は必然だった。

 

 

「……これは偶然。そう、一片の余地もない偶然」

 

 その女神の呟きに応える者はいない。

 元より返事を求めた呟きではないのだから。

 

「忌々しい、というべきかしら。少なくとも不愉快極まりなくは、あるのだけれど」

 

 女神の唇が不気味な弧を描く。

 

 その表情は笑み、否。

 

 その表情は微笑み、否。

 

 その表情は嘲笑、否。

 

 

 

――――女神はただひたすらに、『嗤って』いた。

 

「名は――シロウ・エミヤ」

 

 その名に、背後の二人の男のうち片方が僅かに反応する。

 しかし口を挟むことはない。

 

 フレイヤがその名を告げて数瞬の後、淑やか笑いがバベルの頂上に響き渡り、そしてそれは間もなく哄笑へと変化した。

 

 

「――――ああ、なんて愚かしく、そして憎らしい! 見たこともない魂の色、違う。あれは見たくもない、醜悪極まりない魂。空虚な器、借り物の理想、何から何まで偽物の自分。まさに生粋の贋作者(フェイカー)とでも呼ぶべきかしら。オッタル、貴方はどう思う?」

 

「……さて、私はその男を知らないものですから、何とも」

 

 フレイヤはオラリオ唯一のLV.7『猛者』オッタルに、問いを投げかける。

 

 そのオッタルの返事は当り障りのないものだったが、両者とも気にした様子はない。

 美の女神の気まぐれな問いかけはよくあることであり、猛者のはっきりしない返答もまた同じであるからだ。

 

 ただ、そう、ただとある一点において、オッタルは驚愕していた。

 

――愚かしいと、美の女神がそう発言したということに対して。

 

 魂の輝きを何より好む美の女神だ。

 魂が気に入ったからと、脈絡もなく子供に目をつけてはその美貌と『魅了』を駆使し、眷属に加える。

 それが他のファミリアの子供であろうと、遠慮はなく、自分の思うがままに。

 

 だから美の女神は必ず最初にこう言うのだ、曰く『気に入った』と。

 

「他者の死に様を目の前にして、助けられなかったと嘆く。たとえそれが善人であろうと、悪人であろうと、自らを犠牲にしてでも助けたかったという。そんな偽善で満ち溢れたおぞましい理想。その理想に名を付けるとしたら『正義の味方(・・・・・)』願望。万人の救済など、叶いはしない。そんなこと神にだって成し得ないのだから。……美しくない。ああ、この言葉が最もふさわしいわね。まるで美の女神を冒涜するかのよう。心の底から憎らしい――」

 

――殺してしまいたいくらいに。

 

 病的なまでの憎悪、ただ美しくない、醜悪極まりないという一点だけで、この女神は偏執的なまでの殺意を衛宮士郎に向けていた。

 

「けれど私は美の女神。神は子供を殺さない。当たり前よね、大事な子供を殺す、そんなことをするわけはないのだから」

 

「……では、どうするのですか」

 

 それは不意に口をついて出た言葉だった。

 本来のオッタルならば、決して口を挟むことはしない。

 だが、いつもとあまりに違いすぎるその有様が、彼をそうさせていた。

 

 美の女神は突然口を挟まれたことに対して何も言わず、ただ唇の孤を更に歪ませて言い放つ。

 

「――――試練よ。神は子供を殺さない、けれど神は子供に試練を与える。あの醜悪な贋作者には試練を与えます。乗り越えられなければ死ぬだけよ。それは子供の力不足であって、試練を与えた私が関与できるものではないもの」

 

 たった今、この瞬間にオッタルは確信した。

 

 眼前の女神はシロウ・エミヤという男を殺すであろうということを。

 オッタルが直接手を下すにしろそうでないにしろ、もはや殺意を向けられているという点は揺るがない。

 

 そのことに関してオッタルが何かを思うということはない。

 女神の思うがままに、言われるがままに、望まれるがままに、それが猛者という男だから。

 

 そしてようやく、女神は振り返る。

 けれど視線を向けた先にいるのはオッタルではなく、もう一人の男。

 

 

「――――貴方はどう思う? 英霊……それともアーチャーと呼んだほうがほうがいいかしら」

 

 我関せずとばかりに紅茶を飲んでいた、その紅い外套を身に纏っていたその男はカップを置くと、美の女神に視線を向けること無く言葉を返す。

 

「……さて、な。私はそこの(オッタル)とは違う。元よりこの身は貴様の持つ神の力(アルカナム)によって本来の役割を無視し召喚された、従僕に過ぎない。そんな私の意見を聞いてどうするというのだ」

 

「あら、貴方とあの汚らわしい男の魂はそっくりよ。歪んではいても理想を追い求め続け、その果てに英霊へと至った貴方とは比べ物にならない差はあるけれど。けれど根底はとても似通っている……なら思うところがあってもおかしくはないでしょう?」

 

 アーチャーはその言葉を聞くと、睨みつけるようにフレイヤに視線を向ける。

 

「繰り返すようだが、私は従僕にすぎない。もしそう思うのであれば、主らしく命令すればいい」

 

「そうしないのをわかっていて、貴方はそう言うのね。確かに私は貴方の主。でも私が貴方を呼んだ(召喚した)のは、貴方の生き様を、その魂を『気に入った』から。だから私は貴方に命令はしない。ただお願いするだけ、そうでしょう?」

 

「お願いだというのであれば、拒否させてもらおう。私は従僕ではあってもそこの男のような駒ではない。……話は終わりか?」

 

「あら、つれないのね」

 

 そう言い残すとアーチャーは霊体化し姿を消す。

 アーチャーのこのような態度は今に始まったことではない、故にフレイヤもオッタルも突然姿を消したことに戸惑いはない。

 

 既にフレイヤは思考を別のものへと向けている。

 あの借り物の理想を抱えた衛宮士郎という男にどんな試練を与えるのか。

 

 理想を叶えようとして、それでも叶うことはないまま苦しみながら死に至る士郎の未来を想像するだけで、美の女神は昏い喜びに満たされた。

 

 

 

 

 

「――――女神という存在は、女性より遥かに度し難いのだな」

 

 自分の他には誰もいない、バベルの頂上でアーチャーは佇んでいた。

 

 女性とは男の自分には推し量ることのできない存在だと以前から思っていたが、女神とはそれの遥か上の存在らしい。

 美の女神などというが、これなら同じ(マスター)でもあの黒髪の少女の方が何倍も可愛らしいというものだ。

 

「それにしても……衛宮士郎、か」

 

 脳裏に浮かぶのはあの男。

 かつての自分が殺そうとした、あの男。

 

 そんな理想は借り物だと、そんな偽善では誰も救うことができないと、誰もが幸せであってほしいなどという願いは空想のお伽話だと、そう言いながら双剣を叩きつけた。

 衛宮士郎という男は死ぬはずだった、否、殺さなければならなかったのだ。

 

 我が身はお前の言う理想の成れの果てだから、我が身は醜悪な正義の体現者だから。

 こんな存在が生まれないためにも、衛宮士郎(かつての自分)を殺さなければならない。

 

 だが結果として、衛宮士郎は生き残った。

 

 たとえ自分が偽物だとしても、この夢は美しいと、間違いじゃないと、そう言いながら壊れかけの剣を振るった。

 そしてその剣は、確かにこの身を貫いたのだ。

 

「……しかし、あの女神が言う衛宮士郎は、俺の知る男ではないのだろうな」

 

 もしそうであるならばあの女神はきっと、衛宮士郎という男に憎悪を抱くことはなかっただろう。

 

 考えられるのは数多の並行世界の、自分の知らない衛宮士郎。

 きっとその衛宮士郎は、聖杯戦争などという非日常は経験していないに違いない。

 

 ならば私はどうするべきだろうか。

 

「殺すべきか、どうか」

 

 あの衛宮士郎は英霊エミヤへと至ることはないだろう。

 傍らにあの遠坂凛という少女がいる限り、それはありえないのだから。

 

 だがこの世界に遠坂凛という少女は存在しない。

 

 この世界の衛宮士郎が、英霊エミヤに至らないと誰が保証できるだろうか。

 

 ならば殺すべきなのか、衛宮士郎を。

 

「……ああ、もちろんわかっているとも」

 

 思考がそう傾きかけたところで、脳裏に浮かぶかつての主から釘を刺される。

 

 あの少女がもしここにいれば、衛宮士郎を殺すことなど認めない。

 そんなことは、容易く理解できる。

 

 

 だがそれとは関係なく、既に答えは決まりきっていた。

 

 

 それは当然のことなのだ。

 

 何故なら、

 

 

 

「――――とうの昔に、答えは得ているのだから」

 

 

 既に遠坂凛という少女から、答えをもらっているのだから。

 

 

 

 

リメイクについて

  • (ソードオラトリアを読んでから)書け
  • (オリ設定のゴリ押しで)書け
  • (いっそ全く関係ない新作を)書け
  • 書かなくていい

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