モンスターハンター 二刀を持つハンター   作:ひかみんとかカズトとか色んな名前

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このお話で、カイルが<神速>と呼ばれる所以がわかるかと思います。
とはいえ戦闘をさっくり纏めたら一話に収まってしまった。





第十二章・緊急事態

エドワードが姉妹を連れ酒場に入ると、いつものがやがやとした雰囲気…ではなく、かなりピリピリとした殺伐な雰囲気であった。

見たところ下手なハンターはおらず、酒場にいるハンターはどれも上位のハンターのようだった。

 

エドワードは彼らに目もくれず、エヴリネがいるであろうカウンターに向かう。

 

そこには、何やらおろおろと落ち着かない様子のエヴリネがいた。

 

「エヴリネ嬢。」

「あっ!エドワードさん!た、大変です!!か、カイルが…!」

「カイルが…!?何があった!」

 

エドワードに声をかけられ、安心半分焦り半分といった表情のエヴリネが慌てて話し始める。

普段からのんびりマイペースを保っていたエヴリネがこれほど乱れているのを見た姉妹も驚きの表情を隠せず、エドワードもまた眉間に皺を寄せていた。

 

 

「砂漠のイビルジョーの監視を行っていた人達が、角竜ディアブロスの襲撃を受けたんです!」

「ディアブロス…!」

 

慌てたエヴリネの口から出たモンスターの名前は、ディアブロス。その名前に、マリアは驚愕した。

角竜ディアブロス。

砂漠に生息する大型モンスターであり、飛竜種の中でも気性荒く凶暴性が高い上に縄張り意識が強い。

二つの角が最も特徴であり、この角と自身の地上での身体能力、地中潜行能力といったものを駆使して侵入者を排除する。

恐らく、イビルジョーがディアブロスの縄張りに入ってしまい、怒ったディアブロスが付近にいた監視隊を蹴散らした。ということだろう。

 

「だが、空は?空からも見張っていたはずだが…!」

「そこが問題なんですよ!!ギルドの人が受けた情報の中に、空に飛竜がいたって…!」

「…ッ!」

 

エヴリネの言葉に、飛竜という言葉にエドワードは一気に表情を変えた。

 

「…飛竜だと…?!まさかカイルは…!?」

「それを聞いちゃったカイルがすぐさま家に“走って”行って、多分他のハンターに紛れて竜車に乗ってっちゃったかもしれないんです…!」

「あのガキ…!」

 

苛立つエドワードと慌てるエヴリネに、姉妹二人は置いてけぼりになっているのかおろおろとしていた。

だがエドワードとエヴリネは話を続ける。

 

「とにかく、救助隊は?!生存報告もまだなのか?!」

「今ギルドが手を打ってますが、人手が足りなくて…!」

「だから俺が呼ばれたってことか…新種調査に人を割きすぎた結果か…!」

「しかもそれに加えて、イビルジョーにディアブロス、そして空にも飛竜種とただ救助するにも困難なラインナップになってます…」

「だから迂闊にハンターも送り出せないし、出ようともしないのか…」

 

エドワードとエヴリネの話が続き、二人揃って頭を捻り唸る中、黙って聞いていた姉妹二人の内マリアが口を開いた。

 

「エドワードさん、救助に向かいましょう。」

「何…?」

 

マリアの突然の発言に、耳を疑うような素振りを見せるエドワード。

それもそのはず、上位クラスのハンターも手が迂闊に出せないモンスターがひしめく砂漠に、まだ下位のハンターが救助に行くと発言したからだ。

 

「だっ、ダメよマリアちゃん!無謀すぎるわ!」

「でもカイルさんが向かってる以上放っておけません!!」

「だとしても…!」

「マリア嬢。」

 

 

エヴリネとマリアの言い争いになりかけた時、エドワードがマリアを呼んだ。一番の真剣さをもって、だ。

 

「…はい。」

「それは、カイルがいるから、か?あいつと同じパーティーだからか?」

「それもあるかもしれません。でも、私は彼に恩がある。だからこそ出来る限りお手伝い出来るならしたい。それに、救える命を救いたい…そのためにハンターを目指したんです。甘ければ甘いと言われても構いません。ですが、気持ちに偽りはありません。」

 

真剣にエドワードと向き合い、思いをぶつけるマリア。そのまま数秒睨むように見合った後、エドワードは視線を妹に逸らす。

 

「…エリカ嬢もかい?」

「勿論!!」

 

エリカもまた、エドワードの問いに真面目な表情で即答した。

そんな彼女達に、エドワードは微笑みをこぼす。

 

「やれやれ、若いっていうのは危なっかしいな…エヴリネ。」

「はい?」

「竜車を準備しろ。出来る限りの救助と、カイルを…あのバカを連れ戻しに行くぞ。」

「……エドワードさん…」

「いいさ。それに、ハンターの厳しさを確認するのにいい機会だろうしな。…っと、俺もマジな装備じゃないとヤバそうだな。」

 

マリア達の覚悟を確認したエドワードはそう言いつつ、自身の装備を取りにどこかへと走っていった。

 

「マリアちゃんとエリカちゃんは準備は大丈夫?」

「いえ、私たちも一旦戻って荷物を整理してきます。ここに集まればいいですね?」

「オッケーよ。」

 

エヴリネとそれだけ言葉を交わし、マリアはエリカと共に家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

カイルの家に着いた姉妹が中へ入ると、慌てた様子のジャスミンが家の中でてんやわんやしていた。

 

「ジャスミン!」

「にゃっ!?マリアさんにエリカさんにゃ?!たたた大変だにゃ!ご主人が…」

「聞いたよ!だから私たちとお髭さんで連れ戻しに行くの!!」

「にゃ…無理はなさらないでくださいにゃ…」

 

ジャスミンの言葉に頷いた姉妹はすぐに二階へ駆け上がり、閃光玉やペイントボールといった基本的なアイテムを取り出しアイテムパックにまとめていく。

 

 

「ジャスミン、行ってくるね。」

「にゃ、お気をつけてにゃ…。」

 

急いで出て行く二人を、ジャスミンは心配そうに見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

マリア達が酒場のカウンターに向かうと、エヴリネからエドワードは既に竜車の元に向かったと聞かされ、二人はそちらに慌てて向かう。

指定された竜車の側には、黄土色の甲殻を加工し、両肩から伸びた角が特徴的なディアブロス一式に身を包み、全体的に青みがかった大剣《キリサキ》を背負ったエドワードがいた。

 

「エドワードさん!」

「んっ、来たな…すぐに出発する。用意はいいか?」

「おっけー!」

 

エリカの返事に頷いたエドワードはすぐに竜車に飛び乗り、姉妹二人も続くように乗り込む。

そして、竜車は砂漠を目指して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく飛ばしに飛ばし、一行は数日なところを一日強でセクメーア砂漠へとたどり着いた。

竜車を引くアプノトスが大分クタクタにも見えるが。

 

だが、ベースキャンプでも感じ取れるほどに威圧感が漂い、つい数日前の砂漠とは違うことを物語っていた。

 

「…」

「これが今の砂漠だ。恐らくカイルは平然と歩き回ってるだろうが、俺たちは慎重に行く。…とはいえ、エリア2で待ち構えられていると迂闊に出れんが…」

 

エドワードの指示に素直に従う姉妹。

三人は準備を終えると、ベースキャンプからエリア2へと走っていく。

 

 

 

 

 

 

エリア2に入った三人は、そこの時点で今の砂漠の有様を目の当たりにした。

 

そこらじゅうに飛び散る血、転がって動かない数体のガレオスに加え、遺体に群がるであろう小型モンスターすらいなかった。

血の匂いが砂と混じり、異様な雰囲気へと変化させていた。

 

「…この子達は被害を受けた方ですかね…」

「そうだな…ガレオスを食うとなれば…イビルジョーしかいないだろう。」

「…ッ」

 

その余りにも悲惨な光景に姉妹二人は身を震わせ、唾を飲み込む。

と、不意に漂う嗅ぎ覚えのある匂いがどこからともなく漂ってきたのだ。

 

「この匂い…ペイントボール!」

「ってなると何かと交戦してる可能性があるな……慎重に行くぞ、お嬢ちゃん達。」

「え、でも…」

「慌てて向かって、鉢合わせして返り討ちが一番避けなければいけないことだ。あくまで自分達がまだ弱いことを忘れるな。」

 

普段の気さくさなど全くなく、厳しい現実味を帯びた言葉を投げかけつつ、ペイントボールの匂いを辿るように歩き始めるエドワード。

姉妹もその厳しい言葉に歯がゆさを感じつつも、エドワードについて行く形で歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

エリア2からエリア3へ、エリア内をしっかり警戒しつつエドワードは慎重に歩みを進める。

だがエリア3には何もいないらしく、不気味なほどに静かであった。

 

「…ランゴスタもいねぇってなると相当だな…」

「そうですね…」

 

そう短く話し、三人は不測の事態に備えて壁沿いに歩いていく。

すると、エリア7の方から足音が響く。

エドワードは二人を止め、自身の得物に手を添え警戒。姉妹もまたすぐに得物を構えられるように警戒した。

 

「…ぅ…」

 

だが次に聞こえたのは、誰のかわからない呻き声と倒れる音。

三人は人とわかると、すぐに壁際から警戒しつつ離れ、エリア7への道に倒れていた人に近寄った。

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!」

「…うぅ…だ、誰…だ…?」

 

エドワードが倒れた人に駆けより、意識を確認すべく声をかけ始める。

格好を見る限りハンターの防具ではないため、恐らくイビルジョーの調査員だろう。

意識があるとわかると、三人は少し安心した。

 

「俺はギルドナイトのエドワード・エイムスだ、貴方は!?」

「わた、しは…イビルジョーの、調査の…ために…派遣された、者…ゲホッゲホッ…!」

「調査員の…!他に生き残った人は!?」

「わか、らない…みんな、散り散り…に……」

 

それだけ言い残し、生き残った調査員は意識を失ってしまう。

 

「(どうする…?彼は今すぐ安全な場所に連れて行かないといけない…だが下手にキャンプに戻ろうとすればカイルを見殺しにしかねない…)」

 

調査員の彼を抱えたまま考え始めるエドワード。

そんな彼に、マリアが声をかける。

 

「エドワードさん!一旦彼を安全な所に連れて行きましょう!」

「ッ…お、おう。だが…」

「大丈夫です、ちょっとやそっとじゃカイルさんは死にませんよ。」

「……そうだな。」

 

自分より短い付き合いなのに、自分よりもカイルのことを信用している。

そんなマリアに驚きつつも、エドワードは調査員を連れてベースキャンプへと一時退避した。

 

 

 

 

 

 

 

「よし…これで後は休ませておけばいいだろう。」

 

応急処置を終えたエドワードがそう言いつつ立ち上がる。

ベースキャンプのベッドに横たわる調査員は意識はないものの、落ち着いた表情をしていた。

 

「それじゃあ次、行きましょう!」

「おーっ!」

「…あくまで慎重にな。」

 

姉妹が張り切る中、エドワードは冷静であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人がフィールドに戻ると、ペイントボールの匂いはまだ漂ってきており、ある程度の位置は把握出来ていた。

 

「これは…エリア5かな?」

「だろうな…だがどちらと戦っているか…」

 

エリア2を走り、匂いが漂ってきているエリア5を目指す三人。

途中のエリア1もまた惨劇の跡があり、池の周辺が荒れ果て小型モンスターの死骸もそのまま荒らされていた。

そして近づく、ペイントボールの匂い。

一体どんな出迎えが来るのか。

三人は今まで以上に警戒を強め、エリア5へと走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

どれだけの時が経っただろうか。

斬っても斬っても倒れるどころか弱ることのない巨体。

そんな巨体を二つ相手にしつつ、ただただ踊るように、八つ当たりするように一人のハンターが巨体を切り裂いていく。

 

太刀が、片手剣が血を求めて踊り、自身の気を紛らわすように巨体を、皮を、肉を。次々と裂いていく。

 

だが…

 

「…チッ…」

 

片方の巨体を切り裂く中、地中から気配を感じたそのハンターは舌打ちをしつつ巨体から離れる。

 

「グオォォォォォッ!」

「ゴォォォッ!?」

 

地中から現れた巨体─ディアブロス─の角がもう一つの巨体─イビルジョー─の体を捉えるように突き刺さる。

が、当然イビルジョーの体が持ち上がる訳でもなく、イビルジョー自身も体に変にディアブロスがくっつく形になってしまったために動けなくなっていた。

その隙を見逃す訳もなく、一人のハンター…カイルは躊躇なく飛び込む。

 

人を越えた、異常な速度で、太刀と片手剣を抜き放ちつつ。

 

「…舞い散れ。」

 

そう呟くと、太刀と片手剣を振るい再び舞うようにイビルジョーとディアブロスの体を切り裂いていく。

イビルジョーもディアブロスも、お互いよりもカイルを優先して排除しようとしているものの、その巨体に加え協力しようという動きではないため、先ほどのような隙が生まれる。

 

カイルは二匹の動きが合っていないことを上手く利用し、衝突させてお互いに削り合わせていた。

勿論下手に利用すれば逆効果な上に死のリスクもあるが、カイルはそんなものお構い無しにただただこの二匹を排除することしか頭になかった。

 

 

 

 

 

 

「ここか…っ!」

 

エドワード達がエリア5に辿り着いた時に見た光景、それは…

 

「あれ…カイルん…?」

「…」

 

巨体モンスターを二体も相手にして圧倒しているカイルの姿であった。

だが、普段のような冷静かつ落ち着いた雰囲気ではない。

まるで、苛立ちを発散するかの如く乱暴な立ち回りであった。

 

「…これは…八つ当たりだろうな。」

「や、八つ当たり、ですか…!?」

「…詳しいことは俺が話していいかは判断しかねる。だが、あいつが今回飛び出した原因のモンスターがいなかったから、あんなに暴れているのさ…」

 

呆れたエドワードは驚きを隠せないマリアと呆然としているエリカにそう説明すると、カイルを呼び戻そうと叫ぶ。

 

「カイル!!!」

「…!チッ…!」

 

エドワードが叫び、カイルの気が僅かに逸れる。

その瞬間を見逃さなかったディアブロスがなぎ払うように角を大きく振るう。

 

カイルは無理矢理体を捻るようにその攻撃を回避すると、武器をしまいエドワードの方へ駆け出す。

 

「…!?早…」

 

その瞬間、カイルは人とは思えない速度で駆け出したのである。

当然、散々いいようにされた挙げ句、いきなり逃げ出したカイルをディアブロスとイビルジョーが逃がそうとする訳もなく追撃するべく走り出す。

 

…が、それすらもまるで追いつかないのだ。

二体とも苛立ち、最高速度のはずなのに、だ。

 

「お前等は呼んでない、ってな!!」

 

エドワードはカイルが自分より後ろの方へ逃げ込むタイミングで拳大の物を二体のモンスターの眼前へ投げつける。

それは、二体の前で爆ぜると目を潰さんばかりの光がまき散らされ、どちらも目がくらんだために突進を止めてしまう。

そしてどちらもあらぬ方へと暴れ始める。

 

カイル、そしてエドワードも撤退し始めたのを見た姉妹二人も彼らに着いていくように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてカイル、言いたいことはあるか?」

「…。」

 

場所は変わりベースキャンプ。

隣接エリアどころか狩り場では危険だろうと思ったのか、わざわざベースキャンプまで戻ってきた。その訳は…

 

「真偽の区別のついていない情報に食いつき飛び出す…それをやるなと何度も言っているだろう?」

「…。」

「…黙りか。ヘルムを取らない辺りいつも通り、か?」

 

やれやれと呆れた様子のエドワードに、戻って来てから無言を貫くカイル。

そんな殺伐とした空間に姉妹もいた。

 

「…エドワード。」

「ぁん?」

「砂漠に現れた飛竜…あれは嘘か?」

「私は知らん。…私だって調査から帰還早々こっちに来ているんだ。そもそも真偽を確かめる前に来ざるを得なかったからな。」

「…そうか。」

「あの…」

 

どことなく意気消沈しているようにも見えるカイルと、相変わらず説教する姿勢のエドワード。

その二人に、いまいちついていけてない姉妹のマリアが声を出した。

 

「私たちが知るには早いかも知れません。ですが、聞かせてください。…カイルさんが追うモンスターは、誰かの仇なのでしょうか…?」

 

マリアがそう聞いた瞬間、エドワードとカイルの様子が少し変わった。

 

「…カイル?」

「…そうだ。俺の師であり、仲間であり…親友だった一人を殺したモンスターだ。」

 

 

 

 

 

 

 

「…じ、じゃあこの間の、親友への報告って…」

「…お前が察した通りだ。」

 

少し前に行った事を思い出したエリカは、そのことを恐る恐る尋ねる。それに対しカイルは静かに答える。

 

「…ごめん、カイルん…」

「気にすんな。そんなの言われなきゃわからん事だ。」

 

過去の自分が易々と踏み込もうとしたことを反省するエリカに、カイルも責めることなく告げる。

 

「うぅ…」

 

と、テント内からくぐもった声があがり、姉妹二人が駆け寄っていく。

エドワードとカイルはその場から動かなかった。

 

 

「エドワード、今回の件の処罰は受けるが…奴らはどうする?あのまま放っておくと被害が広がるぞ。」

「…そうだな。とはいえ、アレだけ斬ったのならここから退避することも考えられんか?」

「ディアブロスはともかく…あのイビルジョーとやらがそうあっさりと逃げていく簡単なモンスターとは思えん。」

「まぁそうだよな…だが俺らだけで狩れるとは言い切れんぞ?お前も脚が持つかどうか…」

「俺の脚に関しては問題ない。…だが、いち早く情報をギルドに届けるのも一つか…」

 

カイルはエドワードがそう議論しながらチラリと、テント内の姉妹二人が見守っている意識を失ったままの調査員に視線を送った。

 

「…そうだ、カイル。彼以外の調査員はいなかったか?」

「見てはいない…いや、恐らく手遅れだろう。俺がイビルジョーと相対したとき、奴の牙に溶けかかった衣服の切れ端が引っかかっていた。」

「…そう、か…。」

「一人は確実だろうが、何人食われているかはわからん。探してみるか?」

「いや、止めておけ。…彼女達もここいらのプレッシャーに大分やられてるようだし、一度撤退すべきだ。」

 

エドワードはそう言うと、姉妹二人の方を向いた。懸命に調査員を看る二人はどこか疲れを感じさせる表情だった。

彼女達としては隠してるつもりなのだろうが、エドワード達からすればバレバレであった。

 

「そうだな…ギルドはこの事態を把握してるのか?」

「把握してるだろうよ。とはいえ、イビルジョーだけでなくディアブロスの急襲に加えて、お前が勝手に飛び出した上にあの二体にだいーぶ傷を与えたんだ。ギルドもかなり慎重になるだろうさ。」

「…悪かったな。」

「そろそろマジで気をつけろって事だよ。」

 

よっこらせ、とエドワードは立ち上がると、帰り支度を始める。それを見たマリアとエリカも荷物をまとめ始める。

カイルもまた、ゆったりとした動作で支度を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、その夜─

 

カイルが乗ってきた竜車と、三人が乗ってきた竜車の二台がドンドルマに向けて走っていた。

だが、カイルの竜車に乗っているのは調査員ではなく…

 

 

「…あの、カイルさん?」

「……なんだ。」

 

そう、姉妹二人であった。…エリカは眠りこけているが。

 

あの後、エドワードの強制によりカイルの方に姉妹を放り込まれた、ということである。

なんでも話をつけておけ。と言われたらしいが…

 

エリカは沼地からの休みなしで殺気の満ちた砂漠捜索で疲れ果てたのかすっかり眠ってしまい、それと逆にマリアは何故か寝付けないとアプノトスの手綱を握るカイルの横に座っていた。

 

「…ごめんなさい。」

「何で謝る。」

「私、勢いで助けにいくと言ったけど…あの場で、何も出来なかった。調査員さんも私が連れて行った訳でも、あの二体を前に閃光玉も構えられなかった…」

「………。」

 

淡々と語るマリアの話を遮ることなく、黙って聞くカイル。

その様子を気に掛けながらも、マリアは続ける。

 

「砂漠についた時もそう…どこか怯えていたのかもしれない…。それなのに、行く前に覚悟はあるって言って…私ってなんて弱いんだろうなぁって」

「マリア。」

 

自分の行動を悔いるように呟くマリアの言葉を遮り、カイルは彼女の名を呼ぶ。

 

「お前の覚悟はエドワードとエヴリネを動かしたんだ。そんなお前が弱い訳がないだろうが。」

「え……で、でも」

「お前があの二人を動かしたからこそ、あの一人が救えたんだ。…少なくとも、自分の命惜しさにへっぴり腰になってたハンター共よりよっぽど優秀だよ。」

「カイルさん……」

 

攻められて当然だろうと思っていた彼女にかけられた励ましの言葉。

それも普段冷静で厳しい彼からの言葉だったのもあり、マリアは目に涙を溜めていた。

 

「…泣くなよ、というのも酷か。」

「ぐすっ…当たり前じゃないですかぁ…ふえぇ…」

「鼻水まで垂らすなよ…仮にも年上だろうに。」

「………えっ」

 

カイルからの思わぬ一言に、マリアは涙も鼻水も止まる。

突然の変わりっぷりにカイルもまた彼女の方を向いた。

 

「…ジャスミンから聞いていたと思っていたが…」

「聞いてないですよ!?いくつなんですか!?」

「確か…19…だったか?」

「…私より一つ年下だったんですね……」

 

自分より年上と思っていたカイルが年下だったことに驚きを隠せないマリア。

それもそのはず、カイルは年齢と比べればかなり落ち着いた性格をしており、身長などの体格もそれなりに良く、ハンターランクも高い。

それを19歳という若さで成し遂げているのだから、勘違いするのも無理はない。

 

「まぁ、よく言われたことさ。…で。」

「…?」

「呼び方でも変えるのか?」

 

年齢的にはマリアの方が上とわかった今、彼女は態度を変えるのか?とカイルは直接問う。

マリアは苦笑いを浮かべつつ首を横に振った。

 

「例え年下であっても、ハンターとして先輩ですから。呼び方も態度も変える気はありませんよ。」

「…そうか。」

 

健気な彼女の態度に、カイルは微笑みつつ短く返した。

 

と、ふとカイルの体にマリアが寄り添う。

 

 

「…マリア?」

「ん…ごめ…なさぃ…」

 

と思いきや話が一段落して落ち着いたからなのか、眠そうに目を擦りうとうとし始めているマリアの姿が。

 

「……はぁ、しょうがない姉妹だ…」

「すぅ…」

 

ただえさえ豊満な女性は苦手なカイルなのに、その女性が眠気に負けて寄り添うように眠り始めたのだ。

呆れた様子のカイルだったが、起こすわけにもいかずそのまま一晩竜車の手綱を握ったままマリアを寄り添わせた。

 

 

 

 




さっくり纏めたら一話で砂漠活動が終わってしまった()

次でこの流れの話は終わりになりますが、そこである程度の関係が明らかになると思います。
とはいえ少しだけですが。

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