転生したら狩人×狩人   作:楯樰

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皇帝と妖狐って聞くと気になるのは私だけ…だと…!? バカなっ

「それじゃ、ご両親の了解も得たから。ミト」

「はい? いったい何の了解を……」

「ジンと一緒にハンター試験受けてきなさい」

「え」

「では、二名様ザバン市にご案内~」

「ちょ、ちょっとま――!」

箱庭に堕ちていくミトを笑顔で見送って、私はザバン市へ。

ハンター試験頑張ってらっしゃいという走り書きを、二人を《箱庭》から追い出す前にジンの背中に張り付け、くじら島の拠点に戻る。

 

いやぁ……良いことした後は気持ちがいい。

これでミトちゃんも悲しい思いしなくて済むだろうし。

ジンも子供を勝手に作ったりしないだろうし。

……原作でのゴンの母親には悪いけれど、でもこれで良かったんだと思う。

まぁ、イレギュラーな私がゴンの母親ということはないだろうし。

……あ、でも妹の例があるから言えないかも。

 

いや、生まないからそもそもありえないけど。

 

私からの卒業試験をクリアしてくれる日が何時かは判らない。

……まぁ、もしザバン市に着いてすぐ書置きに念字で残した文章に気が付いたとして、卒業試験が終わるまではざっと三年ぐらいかな。

いや、卒業試験に気づかない可能性も……いや、ミトちゃんに言っておいたから破って捨てたりはしないだろう。

 

「はぁー……ちょっと本格的に動こうか。師範代二人の姉がなんの功績もないっていうのは世間体的にもちょっと申し訳ないし」

背伸びをして家から出る。

……家から出て、家を《箱庭》に移動させた。

森の奥からのっそりとキツネグマの夫婦が現れる。

「やぁ、ゴン。それにゴンの奥方。……急にこんなことになったけど、長い間お邪魔させてもらいました。また来るかもしれないけど、その時は宜しくね」

 

――ぐお。

問いかけに呼応するように二匹は唸る。

原作に出てきたキツネグマがコンだったし、彼がゴンでも問題ないよね。

 

「……ん。じゃ、元気でね!」

首を縦に振り、二匹は森の奥へ帰っていく。

……さて、ご近所様に挨拶も済ませたことだし、くじら島にはもう用はないかな。

 

 

面白そうな依頼がないか会長室に突撃しようそうしよう。

 

-------------------------

 

流石にアポなしで突撃するのは駄目かな、と思い直し、トゥルルと協会の会長室に電話をかけた。

「なんか依頼無い?」

『そんなことより儂と勝負せんか? 暇で暇で仕方ないんじゃよ』

第一声が依頼の有無な私もだが、ネテロ会長も大概だな……。

「……嫌です。1万回は出来たんでしょ? 感謝の正拳突き100万回にでも挑戦しててくださいよ、会長」

『それはもうやったんじゃっつーの。それでも暇だから死合に誘ってるのではないか』

あっはっは、……はぁ。一体この爺さん、何を目指しているというのか。

アラウンドハンドレットだっていうのに。略してアラハン。

感謝の正拳突き100万回は既に日課なんですね、わかりますん。

「マジっすか。会長マジパネェっす。あと試合の字が違いそうなんでお断りっす」

『……陳腐なゴロツキみてぇだからそれやめろ』

「はーい。……それで、なんか面白そうな活動とか無いですか?」

『つまらんのぉ……ま、そうじゃなぁ、ハンター試験の試験官やってみるか?』

あーそういうことも確かハンターの仕事だったけか。

まぁ、でも今年は無理だ。

「……来年なら喜んでお受けしてたんですが……今年はウチの弟子二人が試験に出たので」

『別に良いんじゃがな。身内贔屓してくれなければ。……まぁそういう事なら、あーっと……何処にやったか』

書類を物色する音が聞こえる。

『おお、これじゃ。ジャポンの都の王様……いや皇帝じゃな。正確にはその皇帝の住む宮廷からじゃが、魔獣の一種である妖狐が皇帝をたぶらかしてるんじゃないか、ということでその真偽と、もし妖狐であれば討伐してほしいという依頼が来ておる――っておい、急に来るんじゃねぇ! 心臓に悪いわ!」

つぅーつぅーという音と共に私の握っていた公衆電話の受話器が落ちた。

「なんでそんな面白そうな依頼が来てるのに早く言わないのかな、このエロ爺は」

「理不尽じゃろ、それ! ……儂、卑猥なことしたかのぉ?」

「恍けんな。手合せの度に胸を触ろうとしてきたクソ爺。……去勢してもいいんですよ?」

「…………それは勘弁してほしいぜ。儂が悪かった」

見た目五十代過ぎたころか、というような実年齢百歳ほどのハンター協会会長は、股間を守りながら冷や汗を掻いていた。

「ふん。判ればいいんですよ、わかれば」

この世界でも鍛えられないけれど、念での強化ができる。

ま、それでも蹴る方も同じくらい念で強化してたら痛いどころの話じゃないけど。

「ん、じゃ依頼書もらいますねー。あ、…そういやメンバー見つかりました?」

「まだよ、まだ。…鍛えていた奴ら一人除いて皆途中で逃げ出してしまったからのぅ……実に面倒くさい。まぁ、一人残っただけでも幸いか」

 

……会長から持ち掛けられた十二支んのメンバーの育成も随分長い。

 

一から鍛えようと初め画策したのだが、脱落者が絶えないために今では一人しか残っていない。

この一人が中々しぶとく、私とネテロで行う教育も最後まで立っているのだ。

まぁ、この一人を含めてあと十一人。

結局十一人は現在活動を行っているハンターから逐次選出することになった。

長い時間をかけたのに一人という現状。

一から育てて、というのは一般常識内では面倒だ。

正直今、面倒になってきた。

 

人道だとか道徳観念抜きにしたら、一時間ほどで優秀な兵士を造ることは出来る。

だが、求めるのはハンターである。兵士ではない。

生きている人間にパワーレベリングをするとしたら、才能の塊のような人間くらいにしかできないのだ。

 

「それにしても始めからいるから凄いよねぇ~…何が彼をあそこまで頑張らせるのか」

周囲が脱落していく中、ただ一人初期のころから居るのだ。

尊敬を通り越して「よくもまぁ」と呆れてしまう。

「さぁ、の。自分のその大きな胸に手を当ててみればわかるんじゃないかの」

「……このセクハラジジイめが」

……そろそろ怒っても問題ないよね。

「睨むんじゃねーよ。……いや、割とマジでよく考えてみろ。鏡を見た方がいいとも思うがな」

「……はぁ?」

さっぱりわからん。

 

さっさといけ、と言われてしまったので追及できなかった。

正直何が何やらさっぱりである。

秘書の女性と副会長の男性に会長室の入り口で会い、思わず時間の流れを感じてしまった。

軽く会話をしながら、自分もこの人たちも歳とったなぁとか考えて依頼の受付処理を済ませた。

 

私が向かうはジャポン。我が魂の故郷。

キョートにある拠点である。

 

-------------------------

 

京町屋と呼ばれる後で知った造りの家に上がり込み、カンカンという音を聞く。

音の元へと近づいていくと、目的の人物を見つけた。

「や、御影君。こんにちわ」

「……」

カンカンという鉄の塊を叩く音のみが返ってくる

どうやら集中してしまって聞こえてない様子。

終わるまで見学することにした。

 

 

……終わったのが二時間程経った後。

それにしても良いものを見せてもらった。

完成したのは包丁。なのだけど国宝級の日本刀のような美しさと清らかさ、そして強かさを感じた。

勿論念が篭っていて、不変の念がこもってる。

錆びず、汚れず、刃毀れせずといった具合の出来だ。

 

全ての工程が終わった後、思わず拍手をすると、驚いて肩が跳ね上がり、ようやく私の存在に気付いたようだった。

 

「……すみません、お茶の用意も出来なくて」

「いやいや、気にしないで。急に来た私が悪いから。……それからどう、調子の程は」

「まぁ、なんとか。全部カトリアさんのおかげです。……ありがとうございました」

「いいって、そんな頭下げなくても。…それより、最近人間国宝に指定されたって聞いたけれど」

「あははは。お恥ずかしながら、まだまだ未熟ではありますが、不肖ながら人間国宝やらせてもらってます」

トン、と胸を叩き恥ずかしげに笑う。

「謙遜しないの。……お弟子さん、あそこから覗いてるけど。今何人ほど居るのかしら」

「ははは。はい、わかりました。……そうですね。あそこで覗いている馬鹿達と、今日休んでいるのを含めると5人ですね」

「なるほど。…それで、今日奥さんは?」

「上で寝てます。私以上に集中したら周りが見えなくなる性質の人間ですから。…今日も、というかここ二、三日徹夜でしたので」

「……流石と言えばいいのか。いえ、呆れるべきかしらね」

「…………はい」

長い溜とともに肩を竦めさせる。

苦労してるんだろうなぁと思いつつ、似た者同士だなぁとも思う。

 

旦那さんになっただろう御影君が造る担当なら、奥さんになった彼女は装飾担当だ。

今上の階で眠っているらしい奥さんは、御影君に念の使い方を教えるためハンター協会から派遣された元ハンター。

彼らの結婚には目くるめくラヴロマンスがあったのだろうが、まぁ、それは私の認知しえないことだ。

「にしても、カトリアさんは歳を取りませんね。……実は魔女だったりしませんか」

失礼なことを言う。

まぁ、魔女のように不老っていうのは間違っていないけれど。

「……念能力者の君もそんな歳をとってないでしょうが」

「……そうですが」

お弟子さん達には聞こえないよう顔を近づけて小声で。

見た目彼は20歳くらいにしか見えないが、これでも三十代後半だ。

そろそろ体が衰えてくるだろう年齢だが、すこぶる元気そうである。

 

……はて、お弟子さんの女の子二人がキャーキャー言ってるが何故だろうか。

…………あ。

 

「私は用事の途中で寄っただけだから、これで」

「……あ、はい!」

「うん。……頑張れ、十六代目」

「えぇ、時間があればまたいらしてください」

畳から立ち上がって逃げるようにして道に出る。

 

色々な意味で頑張れ。

主に弟子たちから浮気だと誤解されて茶化される事と奥さんへの対応を頑張れ。

 

私は逃げるその足で、キョートにある宮廷へと向かった。

 


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