転生したら狩人×狩人 作:楯樰
シルバ君を思わずゼノに渡す前に地面に落としてしまい、呆然として時間が過ぎた後。
ゼノに自室に連れられて、アーモンド臭漂う茶をだされた。
「……辛い」
いや、何が
時の流れを感じるというか、人って成長早いものだな、って改めて思って……はぁ。
「……まぁ、気持ちが分かるがな? ……というかお前も結婚すりゃいいじゃねーか」
「…………やだ」
「おい、やだって言うけど……今お前幾つだよ」
「……四十前半。結婚するつもりは欠片もない! ……でも悲しいものは悲しいのっ!」
「やっぱ女心は分かんねーわ」
お手上げだ、というようにやれやれと首を振る。
へっ! 男心も混じってますしねっ! 女心が分かってもわかるわけないよーだ。
「お前三十代に入る時も嘆いてたな。で、酒屋で浴びるように酒飲んでたんだろ? 引っ切り無しに電話掛かってくるから……あの時、リンが怖かったんだぞ。不倫だと疑われるわ、癇癪起こして料理が毒物しか使ってなかったりだとか。俺でも致死量ギリギリな分量で」
「……。ごめん。ホントごめん」
心情的に理解できるから余計に申し訳ない。平伏しかできん。
……というか私に猫耳生やせれたのはその『うらみ』でなのか。衝撃の事実だわ。
「まぁ、言っても仕方ねーし……もう言わねぇけど。なんで結婚しねぇんだよ、お前?」
「……うーん。だって結婚する必要性を感じられないし。……一人で生殖可能だし」
「はぁ? お前両性じゃなかったろ?」
この世界では割と生まれてくることがあるらしい。……女性器と男性器を兼ね備えた人間が結構な確率で。
「勿論女ですことよ? 私の体つき見て、女だって思わない方がどうかしてるんではなくて?」
「変に女言葉使うな。キモイ」
「ひっど! ……うー自分でも気持ち悪かったから言いたくなるのもわかるけどさ」
「……じゃあなんだって生殖可能だなんていうんだよ」
「うん。……まぁ、簡単に言えば――女だけど性的興奮を感じたら生えてくる……ようにした」
にょき、と生えてくるのだ。にょきっと。
くいくいっと腕で男性特有の現象をジェスチャーしたら深いため息吐かれた。
……なにゆえに。
「あぁ、うん。……前から思ってたがお前バカだろ。お前の能力は一応知ってるがよ。そんなことしちまえば生物的にも、念能力者的にも規格外で人から外れてるお前が、生殖行動したくなくなるのは目に見えてるだろうが」
「分かっててやったんだよ。――私だって色々あるの。馬鹿みたい見えるかもだけどさ……」
ちょっとシリアス醸し出して言う。
それに対するゼノの反応といえば、
「いや、ただの馬鹿だろ」
「そんなバカにしてたら泣くからね! 幾ら私だって泣いちゃうかんね!」
辛辣だった。
あれ、私の親友……酷すぎ?
「泣くなめんどくさい。……まぁ、なんとなく。……初めて会った時から男勝りというか、女らしくなかったからな。幼女だから当たり前だけどよ。あぁ、わりぃ。そういうのじゃねーな。……既に人格が成熟してたというかな。女だって認めてはいるが否定しているっていう感じがした」
ゼノ少年すげーな。普通気づかないだろう。……まぁ、暗殺者の家系ってことであの頃から常人とは違う目を持っていたんだろうけど。
「……図星かよ」
「あれ、私顔に出てた?」
「いや、出てなかったがな。……まぁ、お前は性同一性障害なわけか。なるほどな。なんで付き合いやすいのか分かった気がする」
それ誤解です、ゼノさん。
「……ごめん、唐突に話ぶった切るけど、……もし私に男として過ごした経験が生まれた時からあったって言ったらどうします?」
「はぁ? ……なんだ、それ。どっかの宗教で言う輪廻転生かなんかか?」
「さぁ? 神様っぽいのにも会ってないし。……でも、もしかしたら神の悪戯だとか悪魔の罠だったりするかもだけどさ。……ともかく私は男として女が好きな面もあるし、女として育てられたから男の人もいいなーって思うけど……でもなんだかどっちも許せなくて」
「それってバイじゃねーのか」
「ちーがーいーまーすぅーっ!」
俺は男でも女でも食える漢女なんだぜ? とか言わないから。
……美しいものなら老若男女食う赤セ○バーじゃないんだから。
「悪かったよ。……まぁ、お前がバイなら俺はとっくの昔に食われてるだろうからな」
「……私の事そういう目で見てたの? 昔から? ……ひどい」
「冗談だって。真に受けんな。……その、なんだ。ちょっと可愛いな、とは思ってたけどよ」
「きもっ! マジ引く!」
「うぐぅ……お前というやつはぁ! ……過去の話だ! 過去の!」
黒歴史ですね、わかります。
ここで私が頬を染めながら不倫を誘ったら……。
「……それに、お前と再会した時にはアイツ、リンもいたしな」
「なによ、ちょっと嬉しかったのに。……このまま不倫ルート入りかけてたのに」
「物騒なことを言うな。なんだよ不倫ルートって」
「……私がリンさんに腹を裂かれて、中に誰もいませんよ、て言われて。それからゼノが頭だけになってリンさんに抱えられながら、湖の上でnice boatする結末」
「やっぱりお前馬鹿で阿呆だな。何言ってんのか意味不明だし、不倫なんてしねーから」
肩を竦めさせて断言して。無自覚に惚気るゼノはウザかった。
……部屋の入口にいる、私に向かって針を飛ばそうとしていたリンさんが頬を染めていた。
彼女が可愛らしいので無自覚にでも惚気たのはGJだ。
――鬱憤も晴らした後で、箱庭の中から熟成させた100年モノのワインを出してリンさんも交えて月見酒を。
途中でシルバの嫁さんのキキョウさんが襲撃してくるなどがあったが、ワインがお好きなようで、飲ませたら大人しくなった。
翌日、シルバは私たちが飲んでいる間、第一子であるイルミの世話をしていたらしい。
……あの厳つい顔で赤子を宥めるのが想像できなかった。
私だったら泣くね、うん。
……というか既に息子が居たと知った時点で泣いたね。
――うわーんっ!
無邪気な幼いイルミを愛でてやっぱり子供は可愛いなぁ、なんて思いつつゾルディック家を後にした。
うへへ、とにやけてたらゼノに《
とりあえずくじら島に帰って弟子二人を抱きしめた。
……訂正、ミトちゃんだけ抱きしめた。ジンは絞め落した。
あのマセガキめ。今度やろうものならお望み通り胸で圧殺してやる。
――と、まぁこんな具合に。
時に暗殺者一家にお邪魔してみたりしながら比較的平和に三年が経ち、弟子二人は一端の念能力者となった。
私基準の一端だから……まぁ、師範代になったばかりの弟妹達くらいだろう。
……。あ、あれ? それなりに強いかもしれない。
……ま、まぁそれはいいとして。
――ジンがハンターになりたいと言い出した。
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「……理由、聞かせてみなさい。ジン」
「やりたいことができた。……だから止めてくれるなよ、師匠。それにもう、受け付けは済ました」
「――ハンターになる理由になってないんだけど?」
「……」
ジンは自然体だ、構えはない。
故に予動作を予測することは難しい。
――そして行われる不意の一撃。
腕がぶれて、私の死角になるような位置から拳が飛んでくる。
「……ッ。そりゃあ俺の師匠だもの。これくらい防がれるよな」
「当たり前。……ねぇ、ジン。一つ聞いてもいいかな。――やりたいことって、失踪したジンのお父さんを探しに行くため?」
「……それも一つ。だけど……」
また自然体に戻ってジンは指先を高速で、かつ気持ち悪く動かす。
「師匠の元にずっと居たら俺、いつまでたっても勝てねーじゃん!」
「んな理由だろうと思ったよッ!」
「――ぃってぇッ!」
ゴチン、とジンの頭から異音がなる。
……全ては私を打倒するため、なんだろうけどさ。
私に勝った後が問題だ。
結婚だと? 私と? ふざけんなって言いたい。
そもそも、なんだって将来良妻になるだろうミトちゃんじゃないのさ。
歳も近いし、遠慮はしなくていい。
おまけになんだかんだ言いながら世話してくれて。
半歩後ろで控えつつ、間違ったときは先だって正してくれる。
……こんな良物件はそうそう居ないだろうに。
「それにミトも今なんだかんだ言ってるけど、大きくなるよ?」
「うぅっ……いや、だけどそれは昔の俺に負けた気がするんだって!」
「……気持ちはわかってやれなくもないけどね、そりゃあ」
おっきくなるよ、と言っても私程じゃないかもしれない。
……いや、私の場合母上が規格外だったのもあるけど。
「だから、武者修行も含めて! 頼む、師匠っ!」
「はぁ……」
多分、私が許可しないとジンはゴンの母親にも会えないだろうし。
主人公不在というどうしようもない原作崩壊が起きるだろう。
いや、ゴンがいなくても世界は廻るけど。
原作云々の以前に、ジンに許可を与えないとおそらく大成することなく、くじら島で燻ったままだ。
私に断りを入れずにこの島から出て行ってもよかった。
やっていける、というのは道場に行ったとき分かっただろうし。
態々顔を見せて、許可をもらいにきたのだから……多分、ハンター試験に出るな、と言ったら参加を取り消して此処に残る。
だったら許可を出せばいいのだけど……でもミトを知っているから尚の事容易に出せない。
ミトがジンに向けてる好意がどれくらいのものかは知っている。
……例えそれが未だ恋情になっていないとしても、ジンが息子を預けた時、どうなるかはわからない。
私としては……弟子達の想いに応えてやりたいけども。
二者択一。
ジンかミトのどちらかを、本人たちは自覚はないだろうけど、将来傷つけることになる。
「……うーん。ミトはどうするの?」
「アイツは連れてかない。……だって口うるさそうだし。おっかないし」
あーうん。決めた。考えなくとも、簡単な事だった。
……つまりどっちとも選べばいい。
「いいよ、許可してあげる。ただし条件付きで」
「……条件ってなんだよ」
「ふっふーん……今日すぐに出ていくってわけじゃないよね?」
「…………もしかして」
「さぁ? なんでしょうね?」
うげ、とこの家から逃げてそのままくじら島を出ようとしたジンを、私は『箱庭』の中に落とした。
さて、と。
もう一人の弟子の所に行きますか。
そろそろR-15付ないとまずいかも。
美幼女だったんだもの。
ゼノが五歳児に可愛いって思っても仕方ないね。
異論は認める。