転生したら狩人×狩人 作:楯樰
念能力《
異次元に作った空間に出入りする能力だが、能力の一番の要は念空間の方にある。
異次元に作られた空間……いや、一つの世界と言えるは其処は、使用者のオーラ総量によってその広さを変える。また白く広大な其処は念じれば造形を変え、時の流れ、重力でさえ思うが侭となる。
かつては一面真っ白だったその世界には念で具現化された造形物である草木があり、空は蒼く彩られ白い雲が浮かんでいる。また蒼い空の上には太陽のように光り輝く光球も存在していた。また、気流も存在しており、まさしくもう一つの現実世界と言えるようだった。
そして、その世界を構成する念以外の存在として、一振りの刀と正方形に固められたJ札の束。そして本が納められた書架が設置されていた。
――と、回想をしていた私はその《王の箱庭》内でラディストに稽古中である。……私が厨ニ臭いのはご愛嬌ですよ?
「……ッ!」
「ほっと……」
とりあえず今は目の前の事に集中しないと駄目だね。
内容は一本入れたらおしまいってだけの重力負荷を掛けたちょっとした模擬戦。
ただ、重心の移動を間違えば、即這い蹲ってしまうという重力負荷。負荷の掛かったラディストは額に汗を浮かばせ、私の右肩口を狙って左ストレートを放ってくる。……外の時より若干遅い位で。常人なら多分呼吸が出来なかったりで死ぬレベルなのにね。
私も大概だけど弟や妹も相当だよなとか思いながら、迫る手首を持って後ろに引き、私自身が弟の右側に来るように軽くいなす。
同じ負荷が掛かっているとはいえ、普段通り動ける私にラディストは驚きの表情を浮かべていたが、バランスを取り直し攻撃に転じて来る。
――ホントやるようになったなぁ。弟も。昔はいなされただけでこけてたのに。
悲しきかな既に彼も今年で二十歳になる……昔はあんなに可愛かったのになぁ。
……って駄目だ駄目だ。集中集中。
足を踏み込み私のお腹めがけてラリアットを仕掛けて来る。
私は数歩後ろにさがり、弟の蟀谷へと左足で回し蹴りをしようとするが、上体を起こし回避される。……うーん、甘かったか。
弟は近づいて来てまた蹴りで攻撃を仕掛けてくるが、私は左腕でガードして防ぐ。
しばらく肩で息をしている様子を見て、
「……うん、今日はこの辺で終わり」
「あー疲れたぁー……!」
宣言すると同時に重力を元に戻すとラディストは草原に後ろに転ぶ様に倒れた。
今日は二時間ほど続けたが、私はまだ五割位しか出していない。そのまま寝る体勢に入っている弟の顔を見て『おっきくなったなぁ』と歳をとったお婆ちゃんの様な気分。……まぁ、前世も合わせれば60近いから普通かも知れないけど……。
悪戯するつもりも含めて、寝た様子の弟の頭を膝の上に乗せ、《神と悪魔の体現者》を使い彼の疲労をとっていく。
弟が起きるまでのしばらくの間、仮初めである蒼い空を眺めながら弟の黒い髪を梳いたりしてぼーっとした時間を過ごした。
……あと2日でラディストと別れる事になる事を考えながら。
念空間……自称《バビロニア》から時間の流れを戻して部屋の置き時計の時間を確認する。……入ってから一分も経ってないね。時間の流れを3000倍位にしていたから当たり前といえば当たり前だけど。ちなみに仕舞ってる物は時間を止めて劣化とか防いでる。
「あー……ホント規格外。毎回思うけどさ……やっぱり世界一つ作ってるって尋常じゃないよね」
私が出てきた後に出てきたラディストが同じく時計を見ながら言う。
「当たり前でしょう? お姉ちゃん究極生命体(仮)なんだから」
「……ハァ」
くっ……。毎度の事ながらアメリカ人みたいな反応をくれる我が弟君。……いいじゃん、老い止めてあげてるんだからさ~。
まったく酷いったらありゃしない。
「そうだ。いまビスケットって何処にいるんだっけ?」
「あー……この前連絡とった時はヨークシンのオークションに出るとか言ってた。なんかいい宝石でも見つかったんじゃないかな」
ラディストは冷蔵庫から出した水を飲む。
「ふーん。そういやビスケ今シングルのハンターらしいけど、ラディはどうするのそこら辺」
「別にどうって事はないけど……」
気にして無い風を装っているけども、実は羨ましかったりするのはお見通しである。
むー……
「可愛いなぁーラディストぉ~…!」
「うわ、ちょ、いきなり何! というか頭ロックして撫でるな! …………あ、良い匂い」
なんかボソッと言ったような気がするけどそんな事よりも!
「ふっははは~! 弟分補給だぁー!」
「ちょ、やめ! に、臭い嗅ぐなぁ!」
「ふへへへー」
「いやぁー放してぇー!」
……後々になって気づいたけど、やる方とやられる方普通逆じゃない? これ。
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「うし。じゃ、元気でね」
「うん、姉ちゃんも」
今現在いる場所はヨークシンシティの広場。
《あの場所にもう一度》を使い、やってきたと言うわけ。
恐らくビスケットがこの近辺にいるはずなんだけど。
「あ、来た来た……おーい! こっちこっち!」
「ラディストー! リア姉ー!」
世の中噂をすれば何とやら。ロリロリしいゴシックドレスを身に纏ったビスケットが広場に顔を出していた。
ただそんなドレスとは対象的に体つきは女の子から女性になってるし。
主に何処がとは言わないけど。げに恐ろしきは
「うわ、ラディストが大きくなってる……! もう私よりも身長高いのねー……。リア姉は……髪伸びた?」
ナンパでもするかのような髪伸びた? 発言。
そうか、そんなに私は変わってないのね……まぁ、成長と言うか老いが止まっているから当たり前と言えば当たり前だけども。
……というか私はあなたの胸を揉みた……ゲフンゲフン。
よーし、自重しろ私。これ以上姉の尊厳を失ってどうする。
「そういうビスケはオバサン臭く……ってやめろぉ! 手を振りかぶるな! というかそれぜったい剛してるよね?!」
馬鹿なラディストは言うなりゴスゴスといいパンチを顔に貰う。
ラディスト。それはお前が悪い。
年頃の女の子にオバサン発言はよろしくないな。
……『女らしくなったね』とか言えたら完璧だった。
本来なら私も制裁を加えるべきだろうけど……赤面したビスケットが見れたので不問にしよう。……というかグッジョブ! 可愛いから許す!
「……ふぅ。それにしても相も変わらず頑丈ね。なんで特質系の癖してこんな硬いのさ」
「い゛や゛、じゅう゛ぶんい゛だいって。……まぁ頑丈になった理由は色々あるけど」
「……あー、なるほど」
ちらちらと私の方に目をやる復活したラディストと、なんか納得してくれちゃってるビスケット。
……私のせいと言いたいのかこのヤロー。
おっと、そういやそうだった。
「ビスケット、ちょっと私と来る?」
「はい? なんでまた急に?」
「あ、そういやそうだ。ビスケ、行った方がいいと思うぞ」
「ゴメン、意味わかんない。何でラディストも勧めてくるの?」
「「いいから、いいから」」
ちょ、え、なに?! と驚くビスケットを即座に気絶させ《王の箱庭》に回収。
ビスケットの滞在している宿に私とラディストは行き、ビスケットの荷物を全部回収し、私は気絶したビスケットの待つ《王の箱庭》に入ってラディストと別れた。