思いつき短編集   作:御結びの素

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本棚の整理をした。
わたモテと十二国記がお隣さんになった。
それでなんとなく書いた。


十二国記 と わたモテ
私が王だ。文句は天に言え!


 1

 

 その日も、私は妄想に浸って過ごしていた。いつものように。

 先月くらいから始まった、フェータとかいうアニメにハマって、その作品の中に自分とオリジナルキャラを登場させる。そんなありふれた代物だ。

 妄想の中の私は、“魔術師見習い”、そして、使い魔サーヴァントと言われる使い魔的な存在を使役しているのだ。

 本来の物語では7人までしか登場しないはずのサーヴァントの主人。そこに現れる8人目が、この私。

 イレギュラーってヤツだね。当然、強いしなんだかんだで勝ち抜いて行く。

 とはいえ、ピンチは必要だ。順調すぎてはイベントが起きない。

 今日の妄想は、前回の続き。敵の罠にはまって魔力を失ってしまった私のサーヴァント(イケメン)に、魔術的な儀式(セッ〇ス)を通じて魔力を緊急供給するのだ。グヘヘ。

 

 ・ ・ ・

 

 ……「これは魔術的なものであって、ヘンな目的じゃないんだからね!」

 

 そんな私の言葉を無視して、アサシンは一糸まとわぬ姿に。ウソ! 小さいころに見た弟のと全然違う! あんなのムリムリムリ!

 やめて! 待って! こ、怖い!

 

 ・ ・ ・

 

 と、まぁ私の昼休みは、机に突っ伏して寝たふりをしつつ、こんな妄想をして過ぎ去って行くのだ。

 話す相手とか居ないしね。1人も。

 

「……見つけた」

 

 今日も今日とてそうしていると、すぐ近くでそんな声がした。

 なかなかのイケメンボイス。このウゼーヤツラばっかりのクラスに、こんな良い声の持ち主が居ただろうか。いや、居ない。

 そう思った私は、この声の主は誰なのか、目を開けて確かめることにした。こんな時でも寝ていたフリ演技忘れない私は大したヤツだ。

 褒美として帰りにアイスを食おう。自腹だ

 

「あなただ」

 

 目を開けると、私の目に1人の男の姿が飛び込んできた。

 若い男だ。20は過ぎていそうだが、まだ30には届いていない。そんな年齢に見える。

 男の目は、私を真っ直ぐに見つめていた。

 イケメンだ! イケメンに見つめられている!

 薄い金色の長髪。裾の長い昔の中国っぽい服装。表情の欠けた偏差値の高い顔!

 周囲の騒ぎなんて気にならない。私の目は、そのイケメンに釘付けだった。脳内保存中である。

 

「……お捜し申しあげました」

 

 男は、私の足元に跪くと、深く頭を下げてからそう言った。

 返す言葉は、思いつかなかった。初めて見る顔だ。これまでの人生で、金髪イケメンと話したことなど一度も無い、あったら絶対に覚えている。

 

「御前を離れず、忠誠を誓うと誓約する」

 

 続けて、男は早口で難しい言葉を使った。並の高校生なら意味がわからないところだが、妄想能力に長けた私の頭脳は、その意味を即座に理解する。

 これはアレだ。「あなたこそ、私のマスターだ」的な意味に違いない。

 うつらうつらと妄想と現実の境界線を過ごしていた昼休み。そうやって半分寝ぼけた脳細胞が、私にある言葉を吐かせた。

 

「そうだ。私がお前のマスターだ」

 

 私がそう言った瞬間、クラス中が大騒ぎになる。私の言葉の内容もおかしなものだったが、まだ寝ぼけたと言えばどうにかなるものだった。

 だが、私の言葉を聞いた金髪の男は、跪いた姿勢からさらに頭を下げ、額を当てたのだ。私の足の甲に。

 一気に目が覚めたね! いや、あ、これ夢だ、と思ったかもしれない。そのときはとにかく混乱してしまっていたから、なにがどうだったのかなんてわかりはしない。

 友達いない。話し相手もいない。弟にはバカにされ、コンビニの店員にもろくに返事が出来ない。そんな私には、あまりにも難易度の高すぎる体験だったのだ。自分なら上手く切り抜けらえるってヤツがいたら、是非見せてほしいね。演劇にでもして。

 

「私とおいでください。追手が来る前に」

「ひゃい!」

 

 変な声を出してしまった。だって、イケメンが急に顔を近づけて言うんだもん。仕方ないよね。

 しかも、私の足の甲におでこピターってしたイケメンが、だ。

 よくわからんが、私、モテてる! よくわからんが!

 イケメンに手を引かれ、ホイホイと付いて行く私。どこまでもお供しますとも、ええ、このまま愛の逃避行的な。

 手を引くイケメンに比べて、私の足は遅かった。背も小さく、身体を鍛えているわけでも無い。か弱い乙女なのだ、私は。

 

「お許しを」

 

 すると、私のその様子を察知したイケメンが、ガバっと抱き上げた。横抱きだ。お姫様だっこってヤツだ。

 つまり、私の夢だ! 少し鼻血が出た。

 さすがイケメン、私のして欲しいことをよくわかっていらっしゃる。そこらのアホ共とは、存在の始まりからして違う。

 私を抱え、イケメンは走る。上へ、上へと。目指すは屋上だ。背後からは、騒ぐ生徒達の声。怒鳴る教師の声。

 風のようにとは流石に言い過ぎだが、そこらの貧弱一般人とは明らかに違う速さで、イケメンは雑音たちを置き去りにする。

 そうしてたどり着いたのは、校舎の屋上。

 ドアを開けて外へと飛び出た途端、ギィギィと錆びた鉄をこすり合わせたような鳴き声が聞こえた。

 鳴き声の出どころを探すと、今飛び出して来たばかりのドアの上に、一羽の鳥がとまっている。鳥と言っても、普通の鳥じゃない。

 広げた羽根の両端、その幅が5メートルを超えていそうな巨鳥だ。ソイツが、泥のような色合いの羽根を羽ばたかせ、赤や黄色の混ざった毒々しい色合いのねじ曲がったくちばしで、錆びた鳴き声を上げている。

 どう見てもまともじゃない。

 突然現れたイケメン。こっちは私の味方で、対応からして忠実な従者的な存在。多分、絶対。

 そして、私を狙って襲って来るのは、いかにも悪役っぽいモンスター! 

 どうやら、私の日常は、いきなり学園ファンタジーバトル恋愛モノっぽくなってしまったらしい。

 やったー!

 急激な事態の流れに、私の頭は混乱している。ハイってヤツだ。もうどうにでもなれ。イケメンに任せるしかねぇ。できれば優しくしてね。

 

「私にお任せを。その手、決して離さぬようお願いします」

 

 いつの間にか、私の両腕はイケメンの首にがっちりと絡みついていた。自分で外そうと思っても、外すことができないくらいキツクだ。恐怖が、私の身体を支配していた。

 巨鳥が翼を一打ちする。身体がブワリと浮き上がり、今までコンクリートに食い込んでいた鋭い爪があらわになった。

 ああ、アレに襲われたら、絶対死ぬな。そんな感じの凶悪な形をしている。

 

「ヒョウキ」

 

 イケメンが何かの名を呼ぶ。すると、どこかからそれに応える声が返って来た。

 どこからか現れた赤黒い獣が、私と、私を抱えるイケメンと凶鳥の間に割って入った。

 後から現れた赤い豹のような獣は、どうやら味方らしい。アレか、召喚魔法的なヤツか。

 

「ジュウサク」

 

 また獣が呼ばれて出て来た。大型の猿のよう姿だ。マントヒヒだっけ?

 恐ろしさが一周回って、変な冷静さが私の中に生まれ始めていた。

 

「ここを任せる」

「御意」

 

 召喚した獣に鳥の相手を任せて、私たちは逃げる展開らしい。

 鳥、倒せないのか。最初っから強すぎ。

 私は、ピッタリとくっついていた身体を、更にイケメンにくっ付ける。ここは、屋上。飛び降りるにしろ、空を飛ぶ召喚獣を呼ぶにしろ、落ちたら死ぬ。しっかりくっついていないと。

 あ、良い臭いがする。

 鳥と戦う豹と猿。そんな彼らに心の中で「がんばれ」と応援しつつ、私たちは新しく呼ばれたハンキョとか言う犬っぽい獣に乗って逃げ出した。

 

 

 2

 

 

 どれだけの距離を移動したのか、その辺りはもうさっぱりわからない。

 とりあえず、ここは、学校も、私の家も見えないどこかのビルの屋上だ。

 

「カイコ」

 

 イケメンが、また新しい召喚獣を呼び出した。何種類いるんだろうか。あの鳥に勝てない辺り、強いのは居ないんだろうけど。

 呼び出されたカイコの姿を簡単に表現すると、鳥女だ。ゲームで出て来るハーピーとか、こんな感じなのか。

 カイコは、羽根っぽい手に豪華な剣を持っていた。王権の剣とかそんな感じで、由緒ありそうな代物だ。金や宝石を使って優美な装飾がされている。

 カイコはその剣をこちらへと差し出した。

 

「これを。あなたのものです。お使いください」

 

 イケメン曰く、これは私のものっぽい。見た目はあまり頑丈そうではないが、こういうのは魔法か何かがかかっていた、実はスゲー強いってのが、お約束である。

 私は、こわごわゆっくりとその剣に手を伸ばした。内心ではワクワクである。私専用の魔法の剣とか、ファンタジー、キタコレ!

 持ってみると、割と重い。金って重いらしいからな。まぁ、重いよね。金属の塊だし。

 イケメンの首に絡めたままだった、もう片方の手がそっと外された。少し名残惜しい。人生初体験のおいしい出来事だったのに。

 が、剣には剣で興味がある。アレだ、今は重くて持っているだけでフラつくけれど、抜けばたちまち魔法の力で超ツエーなはず。私、知っているよ。

 

「じきに、先ほどのコチョウが追って来ます。あれは速い。どうか、コチョウを斬っていただきたい」

 

 つまりアレか、イケメンと愉快な召喚獣たちでは敵わない鳥さんも、魔法の剣で覚醒した私の力なら、サクッと倒せてしまうわけか。

 守ってもらう系かと思ったら、弱いイケメンを守る系の話だった。

 それもまた良し! なんだかよくわからないが、なんとなくわかる展開に、私の脳内麻薬が大興奮。

 よーし、剣をスパッと抜き放って、巨大鳥を一刀両断してやるぜ!

 

「う……」

「どうか、されましたか?」

 

 剣が上手く抜けない。鞘から、なかなか抜けてくれない。何か、こう引っかかる感じで。ヤバイ、恥ずかしい。

 

「剣は初めてでしょうか?」

「…………はひ」

 

 私は、小声で肯定しながら俯いた。フツーは剣なんて持ったことないですよ。

 こんなことなら、昔見かけた居合道の教室の広告、電話しておけば良かった。あの頃は「銃の方が強いよね」とか思ってバカにしていました。すいません。

 

「では、ヒンマンをお貸しする。――ジョウユウ」

 

 新しい愉快な仲間は、ジョウユウ君。ベトっとしたクラゲかスライムかってボディの上に、石みたいな色合いの顔が乗っている。ぶっちゃけ気色悪い。

 そのスライム君は、ニュルニュルっと私の近くまでやって来ると、そのまま足を伝ってスカートの中へと入りこんできた。

 やめて! 私、初めてなの! いきなりスライムは上級すぎる! せめて、最初はイケメンに優しく!

 とか思っている間にスライム君の感触が綺麗さっぱりなくなった。

 

「憑依させました。剣の技は、ジョウユウが知っています」

 

 憑依!? わかる、わかる。アレだよね、

 私があーしたい、こうしたいって考えると、それを察して最適な行動で剣を使ってくれるとか、そんな感じの便利なヤツだよね。

 

『察しの良い御方だ。その通りで御座います』

 

 鼓膜からではない、頭の内側からの声が聞こえて来た。さっきのスライム君に違いない。

 よし、スライム君。君に決めた!

 私は戦いなんて知らないからな。でも、戦うならカッコよく行きたい。

 スタイリッシュに頼むよ。

 口では上手く物を言えない私だが、頭の中では饒舌なのだ。このスライム君は、なんだか上手くやっていけそうな気がする。ウマが合うってヤツだ。

 

『御意』

 

 私の手がひとりでに動き。なめらかな動作で剣を鞘から解き放った。

 美しく輝く刀身が、キラリと空にかざされる。もう、さっきまでのたどたどしかった私ではない。

 言わば、ニュー私。ネオ私。私エクストラ。

 ドヤ顔で決めポーズをした私の鼓膜を、ギィ、ギィィっと錆びた鳴き声が震わせる。

 

 さっさと来いや、鳥公。私がバッサリ三枚におろしてやるぜ!

 

 

 




傾国の喪王、智子。
イケメンを優遇し、ブサメンを排斥する。
この方針で割と長い期間国を保つ。
悪人は顔も悪い。これが大体当たる世界。

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