思いつき短編集   作:御結びの素

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8巻のテニスの話から、ノーヘッド・本田さん。
時期は1巻開始の4年前。木場君が教会から脱走し、死にかけのところを拾われる話と同時進行。


ハイスクールD×D
チャリオット・オブ・デュラハン


 その日、拙者は頭を失い、主を得た。

 

 

『魔物大図鑑:デュラハン』

 

 首なしの鎧騎士。巨躯の黒馬に跨り、自らの頭部を片手に抱えている。

 主としてヨーロッパに出没し、死を予言すると恐れられている。

 なお、その鎧の中は空洞になっているので着ることも出来る。君にもしもその機会があれば、一度着てみてもいいかもしれない。

 呪われるが。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ある日、雪降る森の中、拙者の頭が吹き飛んだ。

 いや、消し飛ばされた。

 不幸中の幸いは、拙者が首なし騎士デュラハンであったこと。

 そのおかげで、頭部が消滅しても即座に死亡とはならずに済んだ。死ぬことにかわりはないが、走馬灯を見ることぐらいは出来る。

 

「なんてこと……」

 

 女性の声が聞こえる。

 拙者の頭を消し飛ばした女性が、そのことを嘆く声だ。

 

「あっ!」

 

 ぐらり、とがらんどうの鎧の身体が傾ぐ。

 即死しなかったとはいえ、大打撃であったことは確か。もう、立っていることも出来そうにない。

 意識が薄れていく。それが何処にあるのか、拙者でさえも知らない意識が。

 とりあえず、頭が無くなってもしばらく思考することは可能だったようだ。

 

 ヨーロッパのとある森の中。死を告げる者として、なんとなくここに来なければいけない。

 そんな気分に従った結果がこれだ。

 教会の者と思われる集団と、悪魔と思われる女性の争いに遭遇し、魔物であり騎士でもある立場から悪魔の側に加勢した。

 その結果が自身の死。

 なるほど、今日、死を告げられる者は拙者だったのだろう。

 雪の上に倒れ伏した拙者の身体。赤い髪の女性が、その冷え切った鉄の塊に触れた。

 もう、考えることもできなく……。

 

 スミス・本田、ここに死す。

 

 

 

 

 何故か意識が回復した。

 拙者は死んだはずであるのに、だ。そう、たしかに拙者は死んだ……はずだ。

 アレは夢ではない。頭はない。繋がりが感じられない。

 頭が無くとも見ることは出来る。それが何故かはわからないが、デュラハンとはそういう魔物だ。

 目覚めた拙者は周囲を観察し、そこが自身の記憶にない場所であることを知った。

 どこかの建物の一室。

 特に拘束などをされているわけでもなく、ベッドに寝かされている。室内には、拙者以外には誰も居ない。

 となると、誰かが助け、保護してくれたのだろうか? 

 

「目覚めたみたいね。入るわよ?」

 

 部屋のドアがコンコンと音を立て、続いて女性の声。

 この声には聞き覚えがある。

 

「私は、リアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主よ」

 

 ドアを開けて姿を現したのは、紅の髪の悪魔だった。

 グレモリー。魔の者たちの間では、よく知られた名だ。

 名乗り返そうとして、声が出せないことに気付く。

 拙者には頭が無い。

 

「あなたの名前、スミス・本田で合っているかしら? 調べさせたのよ、家の者に……私の命の恩人だって」

 

 命の恩人などと、とんでもない話だ。

 教会の者の攻撃から彼女をかばおうと勇んで前に飛び出し、彼女の邪魔をしただけの馬鹿者。それが拙者だ。

 上級悪魔。それも噂に聞く“滅びの魔力”の持ち主ともなれば、あの程度どうということも無かっただろう。

 相殺どころか、敵の攻撃を飲み込みそのまま倒してしまうことも可能だったはずだ。

 間に割って入った阿呆が居なければ。

 と、伝えたいのだが、拙者には口が無い。仕方が無いので、なんとか身振り手振りで質問に答える。

 たしかに、拙者の名前はスミス・本田。

 日本国にある駒王なる町の四丁目、人間どもが“お化けが出る”と恐れる古屋敷に住み着いているデュラハンである。

 

「ありがとう。それから、ごめんなさい。あなたの頭、どうにか治療出来ないかと手を尽くしたのだけれど……無理だったわ」

 

 拙者は礼を言われるようなことは何もしていない。そして、彼女が頭を下げるいわれもない。

 それを伝えられぬこのもどかしさ。

 なんとか解消できぬかと、拙者は辺りを見回した。巡らす頭は無いのだが。

 

「ああ……少し待っていて」

 

 そう言うと、彼女は一旦部屋を出て、ペンとノートを持って戻って来た。

 あいわかった。

 拙者はペンを受け取るや、その切っ先をノートの上へと走らせる。

 そして、ノートの上下をひっくり返し、彼女が読みやすいようにして差し出す。

 その時、礼を示すことも忘れられてはならない。

 頭は無いが、腰をおることは出来る。空っぽの鎧だけの身体なので、腰も無いと言えば無いのだが、そこは気分の問題だ。

 

『拙者の方こそ礼を言わねばならぬ。このような馬鹿者のために、貴重な物を使っていただき、誠にかたじけない。今この時より、貴女が拙者の主。命の恩は、命で返す所存』

 

 拙者の背より、黒い悪魔の翼が飛び出す。

 死んだはずの身が未だ生きており、そしてそれを助けてくれたのが上級悪魔。

 さらにこの身に今までに無かった力が宿っているとなれば、大体の経緯を察することは出来る。

 それに何より、何かしらの繋がりがあることが分かるのだ。

 失われた頭とのそれに近い何かが、拙者とリアス殿との間に確かに存在している。

 剣が手元に在れば、古き世の騎士の真似ごとをしたかったところだ。

 

「ありがとう。あなたは私の『戦車(ルーク)』。でも、デュラハンならチャリオットでも良いのかしら?」

 

 デュラハンには戦車を呼ぶ能力を持つものがいる。拙者もその中のひとりだ。

 戦車と言っても、無限軌道をキュリキュリと鳴らす砲塔を乗せた鉄の車ではない。馬に引かせ、敵を轢く古の馬車である。

 

「リアス。あっちの彼が目を覚ましたみたいよ」

「そう……。スミス、実はあなたの他にも怪我人がいるの。私はその子の様子を見に行って来るわ。朱乃、スミスのことをお願い。あと、彼は言葉が話せないから……」

 

 新しく現れた黒髪の女性は、アケノと言うらしい。

 どうやら他所へ行くと言う主に代わり、このアケノが拙者に説明をしてくれるようだ。

 しかし、主は拙者の頭のことを気に病んでおられる様子。気にされるなと伝えたいのだが、それを文字として書く前に他の者の所へと行ってしまわれた。

 まずは速筆の技を身につけねばならぬのであろうか。

 




批判されがちな赤い髪の部長さんが好きです。
例によって続きませんが、リアスがデュラハンアーマーを着こんで、滅びの魔剣とか、滅びの盾とか作ってバリバリ前線で戦う話を書いてみたいなーなんて思ったことがありました。

魔力はリアス、剣技はスミス。慶王さまと冗裕みたいなって言えば分かる人は分かるかもしれません。


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