食器も片付けた。洗濯物も干した(自分のだけ)。
掃除も、大雑把にではあるが、とりあえずは終わった。
そんな、全てが一段落ついた、午前の空白の時間。
煎餅でも齧りながら、テレビでも見ていたい気分なのだけれど、困った事にそのテレビに値するものがどれなのか、ここ1週間検討もつかず。
かといって、自分の中でそこまで優先度の高い項目でも無かった為に、永琳さんに聞くといった事も、していない。
流石にぼけーっと過ごすには抵抗があるので、ならば、と、前々から考えていた、脱出方法を模索してみる事にした。
(何処から切り込んでいくかなぁ。カード名? フレーバーテキスト? カード効果だとピンと来ないしなぁ)
そのまま悩む事小一時間。
頭を抱えたり、うんうん唸ってみたり、貧乏揺すりで室内に地響きを起こしてみたり。
手元に置いてあったカップから、飲み物が完全に消え去った頃、ようやく考えがまとまった。
(よっしゃ、例の方を召喚してみましょうかね)
ソファーから立ち上がり、大きなリビングの中央に陣取る形で目を瞑る。
今までとは全く異なった召喚に、内心で期待と不安が鬩ぎ合う。
【土地】【アーティファクト】【エンチャント】【インスタント】【ソーサリー】【クリーチャー】
新たに呼び出そうとしているのは、それらとは全く別のカードタイプを持つもの。
その名を、『プレインズウォーカー(略称・PW)』。
マジック・ザ・ギャザリングにおいて、決して語らずには居られない存在である。
『プレインズウォーカー(ストーリー)』
MTG界において、世界と世界を行き来する、次元を超えた活動が出来る存在の事。
カードゲーム、マジック・ザ・ギャザリングはプレイヤー自身がこのPWになった、という設定で対戦が行われる。
次元を渡る能力は勿論の事、その保有する魔力は無限であり(放出力は個々で違う)、神の如き存在となる。
そのせいか、ほとんど不死とも思える寿命を持つ。
世界をも変えうる力を手にしたプレインズウォーカー達は、それぞれ自身の決めた道に従って、その力を振るうようになる。例えそれが、世界の破滅を願うようなものであっても。
『プレインズウォーカー(ゲーム)』
自分の下へ増援として駆けつけて来てくれた、2人目のプレイヤーとも言えるカード。
召喚されたのなら、三~四つある呪文の中からプレイヤーが選択したものを行使し続け、ライフドレイン、クリーチャー召喚、手札補充などで恒久的に、何かしらのアドバンテージを獲得してくれる、優秀な存在。
自身が召喚したのなら頼もしく、相手が召喚されたのなら、真っ先に対処したいカードでもある。
これから召喚しようとするのは、MTGで最も召喚コストの低いPW。
属性の色は、青。
読心術・透視・念動力・テレパシーなど、精神操作系魔法の神童とまで呼ばれた者。
名を【ジェイス・ベレレン】。
陰気な性格なれど、非常に強い好奇心と知識欲を持ちあわせせた、自身の力の使い道を悩む者である。
「ジェイス様! いらっしゃーい!」
某新婚さん応援番組のようにコールしながら、初めてのPWとの対面に心を躍らせる。
通例通り、瞬間に集まった光が四散。
久々の3マナ召喚の為に疲労感が一気に襲い掛かってくるが、体力もついたお陰でそこまで気になるような事にはなっていない。
召喚し続けている勇丸と合わせて、4マナを使用している計算になるけれど、まだまだ余裕が崩れるような事態には陥らなさそうだ。
俺も進歩しているんだなと実感しつつ、現れたのは全身を青黒いローブで覆った、身長が俺より頭一つ程高めの男。
ローブと一体となっているフードで目元が見えないが、カードだってそのように表記されているのだから、特別気にはならない。
……そう、今までは。
(来た! 生ジェイス様来た! これで勝つる!)
―――こう思ったことは無いだろうか。
テレビやPCの前などで、『も少しカメラをずらしてくれれば』と。
見切れているあの風景が見れる。全体像が確認出来る。色々な角度から撮影対象を観察出来る。
そして、もはや察しの良い者なら容易に想像出来るであろう事。
………パンツが見える。
………。
生憎と、現状はそういったものではないので、今の考えは無かった事にするとして。
今の興味の対象は、ジェイス様の顔である。
カードでは、顔がフードに隠れた、青の魔法使い、といった印象が強かったけれど、それは雰囲気がそうであったから、という、安直な考えからだ。
しかし!
目さえ見たのならそれら印象も変わってくる。
ベンゾウさんやのび太君の③の目。
普段はビン底のようなメガネを掛けているけれど、外したのなら、パッチリお目々の美人さんがこんにちは。
前髪に隠れて見えない、時折奥に見える目が何かを訴えかける設定のキャラ達。キタロー!
興奮しているのは自覚しているが、いつもストッパー役であった勇丸は、この場に居ない。
ならば、誰も俺を止める事など出来ないのだ!
(どんな目なんだろうな~。パッチリ系? キリッと系? ……まさか③系じゃないだろうな)
シリアスな風貌でその目は反則だな、と思いながら、腰を曲げて、ジェイスを見上げる様に体を動かす。
……が、彼の手が俺の目の前まで伸び、指を一本立てて、ゆっくりと左右に振る。
実際には言っていないものの、『チッチッチッ』と声が聞こえてきそうな仕草をされ、そしてそれが凄く似合っていると来た。
(……あれですか、見てはダメなんですか。そのお顔)
その通りだと言わんばかりに、ジェイスは腕を下ろし、その存在感を放つ様に佇む。
こりゃ、諏訪子さんや神奈子さんと対峙している時の様だと感じながら、初ジェイスとのコミュニケーションを試みることにした。
といっても、身体言語(ジェスチャー)をする程でもないので、軽い対話から。
この辺は『俺が召喚したカードの云々だから』、という意識は完全に切り捨てて、一個人のPWとして彼と接する感じでいく。
精神・知識・文明を代表する青の属性を持つ、あらゆる面で俺よりも秀でた能力を有している人物。
始めて出会った時の諏訪子さんよりも若干崩したような、神奈子さんよりも上な態度で、事にあたる。
『調子はどう?』『お腹空いてない?』『したい事ある?』『とりあえず緑茶ですがどうぞ』等々。
何気に初めての人型でもあったので、対話出来るかとも思ったのだけれど、声に出す言葉はなく、全て念話で内容を伝え合う。
意外と気さくに話してくれているのに気を良くして、『いやぁー、永琳さんって人がね』など、長々と、全く関係のないところまで話が飛び火してしまった。
そうして過す事、はや数時間。
若干ギスギスしながらも、名前を呼び捨てで話せる仲には、親睦を深める事に成功した。
初めは、ただの利害関係での繋がりで接する事に抵抗があったけれど、話していく内に、彼の思慮深い性格やらが垣間見え、それらに惹かれる様に話へとのめり込んでいく。
あっという間にお昼頃に差し掛かった頃には、何となくではあるがPWの存在というものが、俺の鈍い頭でも掴めて来た。
やはりこの存在は特別なようで、ある程度の自由意志と、“第二のプレイヤーの立ち位置”という設定に偽りは無く、MTGでカード化されているものは勿論、されていない呪文まで行使出来るのだそうだ。
ただし、そのキャラの属性……【色】からあまり外れない、という制約は付くようだが。
彼だけに限った話ではないが、PWは様々な呪文を行使出来る存在である。
ジェイスの属性マナは、先にも述べたように、青。
その色らしい各種トリッキーな呪文を多分に習得しており、呼び出せるクリーチャーも幅が広い。
小型であるフェアリー種などの妖精クリーチャーや、同じく小型クリーチャーとしていの位置付けにいる、ドラゴンの小型種、ドレイク。
小~中型に多いエレメンタル種―――精霊タイプに、知性の獣としての要素が含まれた中~大に多いスフィンクス種など、自身の属性に沿った、多種多様なクリーチャー召喚、使役する一面も持っている。
大雑把に言ってしまうと、このPWというカードタイプは、“固有の神の召喚する”といったイメージが合っているのではないかと思う。
そしてここが最も重要だと思うのだが、このPW、強固な意志の持ち主である事は間違いないのだ。
PWになるには、皆、精神的に大きな切欠が必要らしく、肉親の死、生命に関わる危機的状況など―――中には瞑想の境地の果てに開眼した者もいるようだが―――大半の者が強い精神的負荷を経てからこのクラスになっている。
よって、例え俺が召喚し、従順にしてくれる存在になっていたとしても、それらを覆して謀反? でも起こされたら一発で人生リセット。
それだけならまだしも、最悪、一生傀儡にされてしまうかもしれない。
特にこのジェイスさん。
直接的な攻撃力は他のPWよりも低いものの、精神・幻術関係での腕は一級品、を通り越して無双状態。
MTGは、そも物語の延長線上に点在しているものであり、そのMTG内でのストーリーが進めば、ジェイスは相手の精神を崩壊や形成出来るなど、内政チート―――というより、対人関係無双が、余裕で可能なお方なのだ。
ただ唯一の救いは、当の本人がその手の精神攻略を忌避している、という事。
読心術や精神掌握ならば、ある程度はやってくれるようなのだが、『精神崩壊だー』『精神形成だー』『記憶の改竄? 余裕です』、って事には、色々と、思うところがあるらしい。
知識欲が多分に強い、という点を除けば、初対面でも即座に見敵必戦とはならないだろう、と踏んで、ここにお呼びした訳である。
どこまでPWが自由意志を持っているのかが判断し難いが、それは今後、慎重に調べてみるとして。
(ん、そろそろ本題を尋ねてみようかな)
ある程度ではあるけれど、これならば問題なく俺の言う事も聞いてくれそうだと判断しながら、彼に尋ねてみる。
「ジェイス……さんって、次元移動ではなくて、星々の間を移動する事って出来ますか? 具体的には……大体四十万キロ位なんですが」
呼び捨てで良いと本人から承諾は貰っているのに、どうにも畏まってしまう。
けれど、そんな事は気にもしていないようで、さらっと言ったありえない長距離にも、彼は不敵にニヤリと口元に笑みを浮かべた。
その反応から判断するに、俺の答えに対しては肯定してくれているようだ。
おぉう、なんて頼もしい存在なんだPW。
これは多用する日も近いかも、なんて深く考えずに、そう思ってると、
―――唐突にジェイスがソファーから立ち上がり、玄関の方へと顔を向けた。
下がっていろ、と、意思が伝わって来て、とりあえず指示された通りに、奥の部屋へと移動する。
(永琳さんは今日の夜まで戻らない筈……。誰だ? 防犯設備は完璧だって聞いたから、泥棒な訳は無いだろうし……。となると、永琳さん関係の知人の線が濃厚。……あぁ、別に隠れて住んでいる訳じゃないから、見つかっても良いのか)
永琳さんに連れられて、俺は何箇所かの研究機関に訪れていた。
『面倒はこちらで見ている』なんて前に施設の人に伝えているのを聞いてもいたし、疚しい事は無い。
最も、周りがどう思うかは、別問題であるのだけれど。
その話をした時の関係者っぽい人達の顔といったら、まさに唖然、の一言に尽きるだろう。
イェーイ! 美人と一つ屋根の下フォー! なんてな! なんてな! ぐはははは!
……手は出しませんよ? 死にたくないですからね。
さて、それならば、ジェイスが俺を逃がす様に行動するだろうか。
家に用事があるだけなら、心の機微を誰よりも熟知している―――そして、それがリアルタイムで把握出来る彼ならば、そんな真似はしない。
十中八九、この家―――ないし、俺に敵意を持って訪れる人物が来た、と判断するのが妥当だろう。
ギクシャクしながらも、何とかジェイスの指示通りに、距離を取った。
近くにあったソファーに身を隠し、いざとなったら攻撃&防御&脱出のどれでも選択できるよう、脳内にカードを思い描いておく。
すると、玄関の方から扉が開く音が聞こえ、続いて何人かが室内に侵入してくるのが分かった。
『複数で来るなんて、ますます永琳さんじゃない』と思いながら、ジェイスの方を見てみれば、彼は両手を音の方へと突き出し、何かの呪文を練っているかのようだった。
詠唱呪文とか聞こえないんだな、とか思いつつ、完全にソファーへと体を滑り込ませ、心を静める。
室内なのだから、威力の低い熱傷の槍や、お粗末といった相手を無力化させる呪文などが周囲に被害を出さずに済むのではないかと思いながら、
「九十九さん、今帰った……」
聞きなれた声に、思わず頭の中が真っ白になった。
高級なガラスを鳴らした様な、澄んだ声。
もはや誰が、との疑問すら沸かず、断定出来る。
八意永琳さん、その人である。
(ハッ!? いやいや待て待て。永琳さんの声だけ録音とかで、それに釣られて俺が出てくるのを誘う作戦かもしれないじゃないか!)
ふふふ、危ない危ない。危うく騙されるところだったぜ。
気が緩んで『はーい』とか返事をしたり素直に出て行った日にゃあ、即デンジャーコースまっしぐらさ!
おのれ未知なる侵入者よ、人の情を餌にするとは、何と卑怯な。
その卑しい心に俺が正義の鉄槌を喰らわして……、って、あ、隠れるも何も、ジェイスがさっきから囮になってくれてるんだったか。
とか思っている間に、
何か、重量のあるモノが地面へと接触する振動が響いた。
(あん? まるでそこそこ重い湿った肉の塊が床に崩れ落ちるような音が……)
永琳帰宅→ ジェイスが対処→ 何かの魔法で永琳を攻撃→ 永琳昏倒? → ドサッ
当たっていたのならヤバい図式が脳内で構築されるが、ブルブルと頭を振って、嫌な考えを吹き飛ばす。
(いやいや何も永琳さんが倒れたと決まった訳じゃない。ジェイスが返り討ちになった可能性も……どっちにしたってダメじゃねぇか!)
現状が分かららないのなら、分かるように行動するだけ。
混沌としているであろう場を確認する為に、慌ててソファーの陰から身を乗り出してみた。
(……おぅふ)
飛び込んできた光景に、クラッと意識が消え掛ける。
予想とは違ったが、状況的には想像通りだった展開に、思わずオーマイゴット、とか洋風に諏訪子さんへの祈りを捧げてみた。
想像通りだったのは、ジェイスが何かしらの魔法を使って相手を昏倒させ、その相手が床へ倒れている事。
予想外だったのは、倒れているのが永琳さんだけではなく、金髪と薄紫の色をした長髪の人物が二人、既に倒れている事。
(永琳さんの知り合いで、薄い金髪に、同じく薄い紫色の長髪のポニーテール……綿月姉妹ですね、分かります)
俺って何でも知ってるなぁ、と、軽く現実逃避しながら、あわあわしている間に、永琳さんも彼女達と同じ様に床へと崩れ落ちていた。
顔だけは何とか上げているものの、今にも昏倒してしまいそうな様子が伺える。
(ってそれどころじゃねぇ!)
我に返って、現状を急いで確認。
倒れているのは永琳さんと、綿月姉妹っぽい人達。
ジェイスは健在で、むしろ問題はそのジェイスが彼女達を昏倒させた可能性が大。
……これは婦女暴行とかに部類されるんだろうか(汗
まぁ、とりあえずは。
「ジェイスさーん! ストップ! ストップでーす!」
この惨状を、これ以上悪化させないよう勤めるのが俺の責任だと思う。
どうにかして被害が広がらないよう、静止を呼びかけたものの……どうやら間に合わなかったようだ。
たった今、最後の力を振り絞っていたと思われる永琳さんの首から、力が抜けた。
幸いにも“ゴンッ”なんて音がせずに済んだのだが、この状況はいただけない。
狙って出来る事ではないとはいえ、月の重要人物を三人も意識不明にさせたのは、一体どんな偶然を重ねたら出来る事なのか。
嫌な事実を直視していると、ジェイスは顔を半分だけこちらに向けて、『何か?』と意思を伝えて来る。
その仕草だけでイケメンオーラが溢れ出ているが、今はそれに構っている暇は無いのである。突っ込み要因、不在なんですよー。
「あの……その人……達、俺の知り合いなんです。……あ、正確にはその最後まで意識を保っていた人が、なんですけどね。……というか、一体なんでこんな事を?」
何か意図があってやった事なのだろうが、その意図が全く掴めない俺としては、是非とも、こうなった原因を尋ねておきたかった。
ちょっと彼に対して怒っているとはいえ、やっぱり相手が相手なだけに強く言えずに、いまいち定まらない言葉遣いになってしまっているのは、仕方の無い事だろう。
そんな俺を察してくれたのか、ジェイスは何故このような行動に出たのかを念話で語りだした。
といっても、長々としたものではなかったのだが。
「つまり、その薄紫色をした髪の女性が、俺を切ろうとする敵意があったからやった、と?」
俺の言葉を肯定として頷きながら、ジェイスはこちらに面と向かって対峙する。
―――流れとしては、こうだ。
ジェイスの策敵範囲に、こちらに敵意を持った人物が一人近づいて来た。
その周囲には二人。
敵意は無いものの、同行する者が居た。
ならば不確定要素はまとめて排除だー、という案を実行したようで。
見事に横たわる三人の偉人、と。
……内心で嫌な汗が止まりませんですですよ。
ただ、いつもならば複数の魔法を同時に使っているようなのだが、永琳さん達の精神掌握があまりに難易度高すぎたらしく、使っていた思考リーディング魔法をカットしてまで、精神切断魔法に力を注いだ結果っぽい。
その理由は想像がつく。
というのも、この魔法を掛けた相手が規格外だったからだろう。
何せ、こちらにうつ伏せで倒れているお方達は約数百万年。永琳さんに至っては最低一億年も生きているらしい、と来た。
MTGにおいて、長年生きてきた者達でも数万年である事を考慮すれば、介入しなければならない思考の幅が段違い―――どころか、もはや別次元の話で、本来一瞬で掛かる筈の魔法が、数分も効果が現れなかったようなのだ。
幸いにして、ゆっくりと近づいて来てくれた事で対処し易かったらしいのだが、あまりに強固な精神防壁だった為に、思考リーディングと精神作用魔法の同時行使をしている余裕が全く無かったが故の、この事態なんだそうだ。
逆に考えると、たった数分で億単位の月日を経験している相手にでも精神を掌握出来るとか、『PWってどんだけー』なんて思ったりもした。いや、この場合はジェイスを評価するべきか。
「とりあえず、彼女達を起こしてもらえませんか?」
まずは事態を進展させねば。
これ以上問題を起こしたら、俺の首が飛びかねない。
こっちの意図は伝わったようだが、やはり先程の理由から、こちらに体を完全に向けて『敵意を持っていたぞ? それでも良いのか』と尋ねられた。
「大丈夫です。何となくその敵意を持たれた理由は予想は出来てるんで、永琳さんから起こしてもらえれば、多分いける筈ですんで」
多分、嫉妬とか地上人だから的な意味で。
心当たりがあるのは、綿月依姫の性格。
八意永琳の教えを勤勉に学び取り、誰よりも生かそうと奮起していた人……だったか。
好意の対象を奪われた、的に思っているのだと予想を立ててみる。
そんな彼女は、月に侵略して来た幻想郷の妖怪を防いだ……というより、ほぼ完封させた功労者の一人。
その戦闘力は無限大。
何かの説明書きで、『必殺ボムが無限にあるようなもの』と表記してあった気がする。
コミック版―――儚月抄、だったか? ―――でもレミリアや咲夜、マリサを片手間で処理し、霊夢との対戦に至っては格の違いを見せ付ける形になった、と言っても過言ではないだろう。
尤も、妖怪退治専門の霊夢にしてみれば、神の依り代たる綿月依姫は、全く真逆な属性を相手にしているようなもので、本編でも『専門が違うからやり難い』と漏らしていたのだが。
何はともあれ、やってしまったのだから、仕方が無い。
これから起こるであろう、胃の痛くなりそうな事態に、全力で回れ右をしたくなりながら、ジェイスに『じゃ、起こしちゃって下さい』的なお願いを言おうとして。
ジェイスの胸から、一筋の閃光が生えているのを見てしまった。