気に入らない方はお戻りください。
フランスのドゥフトモンとの決戦を終えてから早くも数日。
戦いの傷が癒えた一夏たちは次なる強敵七大魔王打倒と束の奪還、そして、自分たちの世界とデジタルワールドを救うために特訓を続けていた。
その一方で荒廃しきっていたデジタルワールドで一人オートバイに似た乗り物を乗り回す者がいた。
「・・・・・ここか。」
マシンから降りたデジモンは荒廃しきった荒野の手を触れてみる。すると彼の手が見えない壁に当たった。
「やっぱり結界を張って生き延びていやがったか。あの老いぼれども。」
彼はそういうとマシンに乗り直し真っ直ぐと進む。するとゲートが開き中へと吸い込まれた。彼はそれでも真っ直ぐとマシンを走らせる。
しばらくすると一筋の光が見えてきた。そこを通り抜けると
「よう、まだくたばっていないとは流石だな。」
「ふん!貴様とてよくここが分かったな。」
真紅の体に複数の翼をもつデジモンが言う。
「まあ、イーターを侵入できないような対策は万全ってところのようだな。現にここに来るまでイーターはここを見向きもしなかった。」
「だがそれも時間の問題だ。奴らは我等デジモン同様に進化を続けている。いずれはここも感づかれるだろう。」
「ところでお主とてただでここに来たわけではあるまい。」
竜のようなデジモンと亀のようなデジモンが聞いてくる。
「ああ、ちょっとアンタらに預けたあれを取りに来たんだ。」
「あれじゃと!?あれは貴様が七大魔王に上がると同時に封印を決めたはずではないのか?」
「やめた。」
「「「「何!?」」」」
四体のデジモンは驚いたように言う。面倒くさそうに愛機「ベヒーモス」から降りてベルゼブモンは言う。
「なんていうか最近あそこにいるのが嫌になったんでな。それに・・・・・」
「デュークモン、あの小僧が死んだことか?」
「いや、連中が俺にとっては気に入らねえことをしたからやめたまでだ。」
「・・・・・人間界か。」
「そんなわけだ。あれは大事に保管しておいてくれてたんだよな?」
「無論。貴様の言う通りに厳重に封印をしておる。しかし、今のお主にその封印を解くだけの力があるのかのう?」
「俺をなめてんじゃねえぜ?四聖獣の神様方がよ!」
彼はそういうと彼らが展開した空間の穴へと飛び込んでいった。穴はすぐに閉じ四体は沈黙した。
「・・・・・・今の奴なら恐らく封印はあの力を取り戻せばかつてデ・リーパーと戦った時の倍以上の強さになるだろう。」
「チンロンモン、それは過大評価し過ぎではないのか?」
「いやいや、スーツェーモン。儂も今の小僧にはそれだけの力が秘められておると思っておるぞ?」
「シェンウーモン、貴様まで・・・・」
四体はそう言いながら彼、ベルゼブモンが戻ってくるのを待った。
???
ベルゼブモンはひたすら続く道を歩き続けていた。そして突然現れる黒い影を次々と二丁のショットガン「ベレンヘーナ」で打ち消していった。それでも影は現れ様々な形へと変えていく。
「・・・・・・・・お前で最後のようだな。」
ベルゼブモンは最後の影を見ながら言う。影は形を変え黒ではあるものの彼のもっとも知っているデジモンへと姿を変える。
「懐かしい面だ。そう言えばやりあったのはスーツェーモンの爺が俺に力を与えた時以来だ。」
黒い騎士は無言でランスを構える。ベルゼブモンは銃をしまい、爪を鋭く尖らせる。
「だがな、奴から感じられる気迫はこんなものじゃねえ。まあ、所詮はコピーだからしゃあねえがな。」
接近戦で岸の攻撃をかわしながらベルゼブモンは重厚な鎧を切り裂く。
「オラ!奴の姿借りてんならもっと俺を楽しませやがれ!」
「・・・・・・・」
黒い騎士は盾から光線を発射するが彼は避けもせず受け止める。煙が晴れるとそこには少し焦げたぐらいの状態で近づいてきていた。
「!?」
「こんなもんか?」
ベルゼブモンは一気に接近し、騎士の体を貫いた。騎士の体は分子状に砕け散り、彼の手には小さな電子機器と玩具の銃があった。
「・・・・・・・・懐かしいもんだな。これを拝むのも。」
彼はそっと銃をとる。あちこちが傷だらけで普通の子供なら捨ててしまうような状態だが彼は大事そうに見ていた。電子機器の方は大切にしまった。
「・・・・・・マコト、お前これ渡してくれた時言ったよな。『これで悪いやつやっつけて』ってよ。まあ、お前もアイももういなくなっちまったから本来ならどうでもいい約束だ。だから、俺は七大魔王になるとき、お前たちとの思いを踏みにじらねえように四聖獣の爺共にコイツを預けてもらった。・・・・・・・・だが、連中が世界が違うとはいえお前たちと同じ人間に手を出すなら話は別だ。どんなに汚ねえ人間ばかりでもお前らのようないい奴らまで見捨てるほど俺は鬼じゃねえ。だからよ・・・・・」
ベルゼブモンは銃を大事そうに握りしめる。
「俺にもう一度あの力をくれ!」
彼が念じるとともにしまったデジヴァイスが光を発しはじめ、玩具の銃は大型化し、右腕と一体化した。そして背中からは黒い翼が生え、広げる。
「・・・・・・・ありがとよ。アイ、マコト。」
そう言うとベルゼブモンは陽電子砲を頭上に向けて撃つ。すると空間に大きな穴が開く。彼は翼を羽ばたかせて飛んでいく。
外では四聖獣たちが微妙な顔をして待っていた。
「本当になりおったぞ。あの姿に。」
「話に聞いていたが先ほどとは比べようにない力だ。」
「すまなかったな、驚かせちまって。」
「い、いや・・・・・気にせんでもよい(不味いのう・・・・これはわし等が予想していたのとは比べようにないぐらい強くなっておる。)。」
シェンウーモンは冷や汗をかきながら答える。
IS学園
「はあ・・・・・」
夜、箒は一夏が寝ているのを確認するとこっそり外に出て敷地内を歩いていた。ここ数日の特訓も思うようにはかどらずパートナーのアグモンの足を引っ張っているような感じで仕方がなかった。
「このままじゃいけないっていうのはわかっているのに・・・・・・でも、やっぱり怖い。あのロイヤルナイツよりも強い相手だと聞くと尚更毎晩恐ろしくて眠れない。私はどうすれば・・・・ん?」
その時箒は気の物陰で誰かが座っているのを確認した。
「あれって・・・・・もしかしてリリモン?」
箒は悟られぬようにそっと様子を見る。今日は特訓が終わっても今日は自分一人でもう少しすると言って一人どこかへと去って行ったのだ。まさかここにいるとはと考えた矢先に彼女は震えた声で独り言を言っていた。
「ライラモン・・・・・・私、やっぱり怖いわ。最近いつも同じ夢ばかり見ている。どうしよう・・・・」
箒は何事かと思い近づいてみた。よく見ると彼女は涙を流して震えながら泣いていたのだ。いつも人一倍気が強く、自分たちのことを手加減なしで相手をし、一夏の頼りになるパートナーだと箒は考えていた。でも、目の前で泣いている彼女はその反対の泣き虫で日頃の気の強さは感じられられず、寧ろ自分たちより弱く感じた。
「・・・・・リ、リリモン?」
「!!!!」
箒に後ろから声をかけるとリリモンは慌てて涙を拭きとって前を向いた。本人はいつもの態度を装っているが顔には泣いた跡が残っていた。
「な、なんだ。箒じゃないの。どうしたの?最近の特訓がきついから眠れなくなっちゃったの?」
「リリモン。」
「ああ、私?ここでなんて言うか・・・・・・・精神を説き済ますための・・・・・えっと・・・・・」
「すまない、実はさっきからお前が泣いているところを見てしまった。」
「・・・・・・・」
箒に言われてリリモンは黙ってしまった。二人は近くのベンチで腰を掛けた。しばらく黙ったままだったがリリモンから先に話した。
「・・・・・昔のことを思い出していたの。」
「昔って一夏とデジタルワールドを旅していた時のことをか?」
「正確には私とイチカ、そしてライラモンとチビちゃんとの旅。」
「一夏から以前聞いたことがある。ライラモンのことについても。ブイモンが本当の姉のように慕っていたというほどだからよっぽど優しい奴だったんだな。」
「ライラモンは昔からそうだったの。私が言いづらいことはいつも代わりに行ってくれるし、私が悲しいことがあってもいつも励ましてくれた。・・・・・・でも・・・・・」
「イーターにやられたのか。」
「そう、私は彼女を助けることすらできなかった。だから強くなりたかった。それで修業をした。でも・・・・」
リリモンはそこまで言うと思わず顔を伏せる。
「最近いつも夢を見るようになったの。私が死ぬ夢を。」
「お前が?」
「ライラモンを死なせてしまったから当然の報いだとは思うけど・・・・・でも・・・・・・やっぱり怖い。」
リリモンは泣きながら言った。これが本来の彼女の姿なのだ。泣き虫でいつも肝心なところで泣いてしまう、一夏とデジタルワールドを旅していたころのままなのだ。箒はそんな彼女をそっと抱きしめて背中をさすっていた。
「・・・・・大切なものをなくして・・・・そして次は自分が死ぬかもしれないと感じて・・・・・・それに比べて私は・・・・・本当はお前が一番苦しんでいたんだな。すまない。」
箒はそっと慰めた。リリモンはそれからしばらく泣き続けた。落ち着くときまでずっと。
・・・・・一時間ぐらい泣いてようやくリリモンは落ち着いた。彼女は恥ずかしい一面を見せてしまったのか少し顔を赤くしていた。
「・・・・なんか、恥ずかしいところを見せちゃったわね。」
「いいさ、私もなんか少し落ち着くことができたし。」
「・・・・そろそろ戻りましょう。明日の特訓に響くといけないし。」
「そうだな。」
二人はゆっくりと寮を目指して歩いて行った。
「・・・・・箒。」
「なんだ?」
「あなた・・・・・イチカのことが好き?」
「・・・・・・ああ、好きだ。」
「・・・・そう。・・・・・だからってイチカは渡さないわよ。」
「もちろん。でも私だって一夏の傍にいたい。だから諦めるつもりはない。」
「ふふふ、あなたといい友達になれそうね。」
リリモンは思わず笑った。箒も思わず笑った。
この日を境に箒とリリモンは仲が良くなり、特訓中でもデジモンと人間という差に問わず競い合うようになっていった。二人は誓った。
この戦いが終わったら一夏に告白してどっちが好きなのか決めてもらうと。
ダークエリア
「・・・・・・ふう。」
ルーチェモンは自分の居城でデビモンたちに音楽を弾かせながら紅茶を味わっていた。そこへ相変わらず無表情のメルキューレモンが体中に包帯を巻いた少女を車椅子で引きながらやってきた。
「おや?エムはもう連れていける状態にまで回復したのですか?」
ルーチェモンは相変わらず生気を感じさせない少女を見ながら言う。エムは相変わらず無表情だが何かブツブツと言っていた。
「ええ、自分で歩くことはできませんが私の依代には十分なぐらいに回復してきました。一時はどうなるかと思いましたけどホッとしましたよ。」
「ホッホッホッ、そうですか。ゲームが本当に楽しみになりましたよ。」
ルーチェモンは笑みを浮かべながら言う。メルキューレモンは愉快そうに話しを続ける。
「後、ダークデュークモン様はデュークモンのクリムゾンモードを超えるために超究極体の進化を試みているようです。」
「ほう。」
「リリスモン様は機嫌が非常に悪いので見ない振りをしました。後、バルバモン様は休眠しているベルフェモン様を使って何かを考えておられますよ?」
「みんな腕がウズウズしているのですよ。・・・・・・・ところで例の物は揃いましたか?」
「・・・・ええ、全てはあなた様のご指示通りです。」
ルーチェモンは楽しげな顔から急に真面目になりメルキューレモンを見た。メルキューレモンも態度を改め、エムを引きながら案内を始める。しばらく歩き続けると二人は居城のはるか地下へと移動していた。そして彼らの目の前には巨大な正十二面体の物体、その隣には特殊な鎖のようなもので固定されている光り輝く球体があった。
「おお、この光輝く物が・・・・・・」
「はい、イーターにより機能が停止していたイグドラシルのコアです。」
メルキューレモンは慎重に一部の拘束を解除する。
『・・・・・』
「お久しぶりですね、イグドラシル。会ったのは十闘士が昔の私を倒した時以来ですかね?」
『・・・・・・』
「ふっ、全ての力を失った状態では話す元気もなくなりましたか。」
ルーチェモンは残念そうに言う。
「しかし、その己の無力感を味わうのももうすぐ終わりです。私は彼らとのゲームを終えた後にあなたを超えた神となる。以前の十闘士たちを圧倒したあの時以上の力を。」
『・・・・・・・ルーチェモン、貴様は再びあの愚かな行為をしようというのか?』
今まで黙っていたイグドラシルのコアはルーチェモンに向かって言う。
「愚か?フッフッフッ、それは違いますよイグドラシル。あの時は十闘士の予想以上の力に敗北しましたが今度はそのようにはいきません。そのために私は生まれ変わった後、長い時をかけてデジタルワールドを裏から見続けていたのです。同じ過ちは繰り返しませんよ?」
『貴様は何もわかっていない。あの少年、織斑一夏に秘められた可能性を。』
「可能性ならわかっていますよ。彼の底知れぬ力、そして未知なる進化もしっかりと見させていただきました。だから私は今度は本気でいかせていただきます。あなたとかつての私と一体化して。」
『我を取り込んだところでデジタルワールドと人間世界をすべて手に入れられると思っているのか?ルーチェモン。・・・・・・いや、アポカリモン。』
「その名前で呼ぶのはやめてもらえませんかね?デジタルワールドの元神イグドラシル。」
そう言うとルーチェモンは再びイグドラシルの拘束を戻し、地下を後にしていったメルキューレモンも後に続く。
「かつての彼女でしたらいかに今の私でも簡単に殲滅できたでしょう。しかし、イーターの浸食を一部でもされてしまったのが運の尽き。今頃彼女の本体は完全にイーターと同化され、ただのバグの塊となっているでしょう。」
彼は暗いダークエリアを唯一照らす不気味な月を見ながら言う。
実はこの会話を静かに聞いていた者がいた。
ルーチェモンの居城から遠く離れた古城
「・・・・・・・やはり、ルーチェモンの正体はアポカリモンの転生した姿だったか・・・・・」
人型の上半身に四足歩行の体を持った吸血鬼デジモンの王グランドラクモンは不気味な光を発する水晶を見ながら言う。彼の隣では側近かメイドなのかレディーデビモンがいた。
「いかがなさるおつもりですか?」
「・・・・・いや、この件に関しては私は関係ない。それに私も奴のゲームというものには興味があるのでね。」
「では。」
「ああ、我々はここから彼と神が選んだ少年の行く末を見守ろうじゃないか。・・・・・・ただし、私たちにも刃を向けてきたときは別だが。」
「存じております。」
レディーデビモンは頭を下げる。
「そう言えばさっきお茶が淹れると言っていたね。せっかくだから一杯もらおうか。あっ、ちなみにローズティーで頼むよ。」
「わかりました、すぐに淹れてきます。」
レディーデビモンはゆっくりとその場を離れていく。
「ルーチェモン、いやアポカリモン。君のなるという神をじっくり見させてもらおうじゃないか。」
次回は茶番回の予定。
それではまた次回。