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日本のとある街の公園
人がほとんど寝静まり、誰もいなくなった街の公園で一人の少年が青いトカゲのような生き物とベンチに座りながら買ったパンを食べていた。季節は初春で寒いはずなのだが二人は何事もないようにパンを頬張る。
「・・・・・コンビニでパンやおにぎり買うなんて本当に久しぶりだな。」
少年は懐かしむように言う。隣にいる生き物は反対にパクパクと買ったパンとおにぎりを食べている。
「兄貴・・・・ムシャムシャ・・・・・コンビニって場所って・・・・・モグモグ・・・・本当に便利だね!」
「ああ・・・・そうだな。」
少年はそう言いながらパンをかじる。
ヴリトラモンが人間界に来てから既に一日が経っていた。最初は外見をどうするか迷っていたが幸いイグドラシルから受け取った擬態用プログラムで人間の姿に変えることもできたし、ブイモンも普段はデジヴァイスに入り込むという方法が見つかったため周りから疑われる心配がなかった。
しかし、流石に一日目は束とスピリットの在処を見つけることができなかった。それだけにヴリトラモンは今後どうすればいいのかを考えていた。
「早く束さんを見つけなければ・・・・でも、スピリットの反応もないしどうすれば・・・・」
ヴリトラモンは頭を抱えてこれから先の出来事を考えるのであった。
翌日
「・・・・・帰ってきちまったか。」
ヴリトラモンはある一軒家を見る。家には「織斑」と書いてある。
『兄貴、ここは?』
ブイモンはデジヴァイスの中から聞いてくる。
「ここは俺の・・・いや、元の俺の家だ。」
ヴリトラモンは門を開け、玄関へと入っていく。
『勝手に入ってもいいの?』
「ああ、千冬姉はいつも仕事で忙しいからな。多分いないだろうがこっそり入っていくぞ。」
ヴリトラモンはこっそりと玄関を開けて入る。中はシーンとしていて静かだったがあちこちにビール缶やコンビニ弁当のゴミがたくさん入ったゴミ袋が置いてあり、酒臭かった。
「臭いな・・・・昨日千冬姉が誰かと酒でも飲んでいたのか?」
ヴリトラモンは鼻をつまみながらも二階へと上がっていく。
「二、三年ぶり・・・・と言っても俺にとっては十年ぶりくらいか。自分の部屋に入るのは。」
ヴリトラモンは自分の部屋のドアを開ける。中に入ると少し散らかっていたがそこには懐かしい自分の部屋があった。
「ここが俺の部屋だ。」
ヴリトラモンは部屋のドアを閉めるとブイモンをデジヴァイスの中から出す。
「ふう~ここが兄貴の部屋か。」
デジヴァイスの中が窮屈だったのかブイモンは腕を回しながら言う。ヴリトラモンは本棚の中にあるアルバムを取り出す。その中には幼い頃の自分と千冬の写真が多く貼ってあった。
「懐かしいな・・・・この頃が。」
ヴリトラモンは懐かしい写真を見ながら言う。
「俺にも見せてよ、兄貴!」
ブイモンはジャンプしながら言う。
「ほら。」
ヴリトラモンはベッドに座り、ブイモンを膝の上に乗せアルバムを一緒に見る。
「うわあ~!これが昔の兄貴か!」
ブイモンはアルバムを見ながら言う。
「この制服を着ている小さい子供が俺で隣にいるのが千冬姉だ。」
ヴリトラモンは入学式の頃の自分の写真をブイモンに見せるとベッドから離れカーテンを開け、窓から外の風景を見る。
「ねえ兄貴、思ったんだけど兄貴とこの・・・・・千冬って人以外兄貴の家族っていないの?」
ブイモンはアルバムを見ながらヴリトラモンに聞く。ヴリトラモンは窓の方を向いたまま答える。
「ああ、千冬姉はそのことについては一切何も言わなかったからな。」
ヴリトラモンは窓の外を見ながら考える。
(どうするか・・・・・このまま千冬姉と会うにも突然俺が帰ってきたとなると本物かどうか怪しむだろうし隠し通せる自信がない。かと言ってデジモンの存在を信じるどころか俺を偽物と言って警察に突き出すかもしれんしな・・・・)
「兄貴、兄貴。」
ブイモンは部屋のドアが開くのに気がつき声を掛けるがヴリトラモンは答えない。
(でも、俺にとっての十数年間、何も言えないままここから去るのも心残りになるし・・・・・どうしたら・・・・)
「兄貴!」
「ん?」
ヴリトラモンはブイモンの方を振り向く。ブイモンはドアの方を見ていた。
「チビ?」
ヴリトラモンはドアの方を見る。ドアは開いており、一人の女性がヴリトラモンたちを見ていた。長い髪は寝癖なのかボサボサとしていたが見る限り懐かしい顔だった。
「ち・・・・・千冬姉?」
ヴリトラモンは思わず彼女の名を呼んだ。
「千冬姉?じゃあ、この人が兄貴の・・・・!」
言いかけたブイモンの口を慌てて塞ぐ。千冬は数年ぶりに見る弟の姿に唖然としていた。
「い・・・・一夏?本当に一夏なのか?」
千冬はふらつきながらヴリトラモンの方へと近づいて行く。ヴリトラモンは慌ててブイモンを掴み窓を開け外に出ようとする。
「待ってくれ、一夏!」
千冬は慌てて呼び止める。ヴリトラモンは千冬の方を見る。
「やっぱり・・・・・・あの時のことを恨んでいるのか!?お前が誘拐されたときのことを?あの時何も気がつかず助けることができなかった私をそんなに・・・」
「違う!」
自分のことを責めている千冬にヴリトラモンは言う。
「違うんだ・・・・。」
「でもあの時・・・・」
「俺は一夏ではない。」
「え?でも・・・・」
「確かに今の見た目と記憶は織斑一夏だ。でも、本当の姿は全く違う。もう人間でもないんだ・・・・」
ヴリトラモンは拳を握り締めながら言う。
「一夏?」
千冬は声を掛けるが一夏は震えたままだった。
しばらく硬直した後ヴリトラモンは真剣な目で千冬にこれまでのことを話した。
千冬の優勝で用済みになった自分が暴行を加えられたうえに殺されたこと。
デジタルワールドでデジモンとして転生し生きてきたこと。
これまでの戦いのこと。
そして、とある任務で再びこの世界に戻ってきたことを。
最初はヴリトラモンの言っていることを信じられなさそうな顔をしていた千冬ではあったがヴリトラモンは擬態を解き、本来のデジモンの姿へと戻り見せる。その姿に千冬は言葉を失った。
「この通り人間ですらないんだ。記憶は同じでも俺はもう織斑一夏じゃないんだ・・・・・。」
ヴリトラモンは跪く千冬に事実を告げる。千冬は黙ったままだった。
「兄貴・・・・」
ブイモンは心配そうに千冬を見る。
「俺の言えることはこれだけだ。ここに心残りがあったから来たんだ。」
「心・・・・残り?」
「アンタの様子を見ておきたかったんだ。」
「私の?」
「一目でもいいからもう一度千冬姉が俺がいなくなっても大丈夫だったかどうか見ておきたかったんだ。」
「・・・・・・・」
「邪魔をしたな。」
ヴリトラモンは自分の言いたい事を言い終わるとブイモンを担いで部屋を出ようとする。
「・・・・・・すまなかった。」
千冬の一言にヴリトラモンは千冬の方を見る。千冬は顔を上げると顔は涙でぐっしょりと濡れていた。こんな姉の姿を見たのは彼にとっても初めてのことでさすがに驚いた。
「私は・・・・・・後悔していた・・・・あの時、お前の誘拐を知ったあの時から・・・・・」
震えた声のまま千冬はゆっくり大会後の後悔を聞かせた。
第二回モンド・グロッソ決勝戦優勝後の授与式で、いるはずの一夏がいないことに不審に思っていたこと。
誘拐犯の居所を突き止め現場に着いた頃は既に犯人も一夏の姿もなく、長期にわたる捜査の末、打ち切られ絶望し数日間泣き崩れていたこと。
なんとか孤独感を紛らわそうと捜査に協力してくれたドイツ軍に借りを返すために一年ほど教官を務めたが結局何も変わらなかったこと。
その後日本に帰国し、IS学園の教師にならないかと誘いがきたものの立ち直れず今まで酒に溺れていたこと。
ヴリトラモンは黙ってその話を聞き続けた。
「・・・・・本当に馬鹿だった。お前のことをもっと大切にしているなら大会を棄権しても助けに行くべきだったのに・・・・お前をみすみす見殺しにして・・・・・知らないまま優勝するなんて・・・」
「・・・・・・兄貴。」
「・・・・・」
「私は・・・・・・姉失格だ。」
千冬は拳を握り締める。そんな姉の姿にヴリトラモンはブイモンを降ろして近寄る。
「千冬姉。」
ヴリトラモンは千冬の顔を上げさせる。
「一夏・・・・」
「俺ははっきり言って千冬姉のことを恨んでいた。デジタルワールドを旅していた時もそうだった。でも、仲間と出会って、いろいろしていくうちに考えるようになったんだ。俺は千冬姉に守ってもらっていたんだってな。」
「・・・・・」
ヴリトラモンの言葉に千冬は黙る。
「千冬姉もこの女尊男卑の世界に染まって俺のことを見捨てたんだと思っていたんだ。唯一の肉親なのに疑ったりしてごめん。」
「一夏。」
「俺は確かに千冬姉から見ると化け物かもしれない。でも、心は人間織斑一夏のままなんだ。こんな俺でも弟と思ってくれるか?」
ヴリトラモンはしゃがんで千冬のことを見つめる。その目は昔の一夏と変わらないものだった。
「・・・・・・ああ、お前は私の弟だ。私の弟の一夏だ。」
千冬はヴリトラモンのことを抱きしめる。ヴリトラモンも千冬のことを抱きしめた。
「ただいま、千冬姉。」
「お帰り、一夏。」
これによりヴリトラモン、織斑一夏は姉千冬と和解し、ブイモンも加え一緒に暮らすことになったのであった。
実は本来この回でIS学園入学を書くはずでしたが設定困難な部分があったので別の回へと移しました。
この先はIS学園編に入る所ですがセシリア戦までかけるかどうか・・・・・できるだけ頑張りたいと思います。
それではまた次回。